L3軽戦車
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+概要
イタリア陸軍は、フランスのルノーFT軽戦車のコピー生産型であるフィアット3000突撃戦車の生産を1923年から開始し戦車戦力を整備していったが、原型が第1次世界大戦中に設計された戦車であるためこの頃にはすでに旧式化してしまっていた。
しかし大戦後の緊縮財政によって軍事費が大幅に削減された上、ルノーFT軽戦車をコピー生産した程度では新しい国産戦車を独自に開発するだけの技術的蓄積も得られてはいなかった。
そこでイタリア陸軍は1929年に、イギリスのヴィッカーズ・アームストロング社から4両のカーデン・ロイドMk.VI豆戦車を購入すると共に、そのライセンス生産権も獲得して国産化を図ることとなった。
まずカーデン・ロイドMk.VI豆戦車をベースとして、イタリア独自のアレンジを加えた車両が1929年に製作され、「CV29」(Carro Veloce
29:29式快速戦車)の呼称で1929〜30年にかけてフィアット・アンサルド社で21両生産された。
CV29快速戦車は原型となったカーデン・ロイドMk.VI豆戦車と酷似していたが、接地圧を低減するために履帯は幅広のものが用いられ、武装もイタリア製の6.5mmフィアットM14液冷機関銃に変更されていた。
しかしCV29快速戦車は耐弾試験の結果、車体側面の6mm厚の装甲板が約30mの距離から発射されたドイツ製のマウザー7.92mm小銃の尖頭徹甲弾により貫徹されることが判明したため、CV29快速戦車の装甲を全体的に強化しエンジンもイタリア製のものに換装した車両が製作されることになった。
イタリア陸軍による試験の結果、本車は1933年に「CV33」(Carro Veloce 33:33式快速戦車)として制式採用され、1,300両が発注されて生産が開始された。
CV33快速戦車は原型のカーデン・ロイドMk.VI豆戦車と同様に砲塔は装備しておらず、車体中央部に設けられた固定式戦闘室に車長兼銃手と操縦手が左右に並んで搭乗した。
武装は、戦闘室前部左側に6.5mm機関銃を1挺装備していた。
装甲厚は車体前面が14mm、側/後面が8mm、上/下面が6mmとなっていた。
車体後部の機関室にはフィアット社製のCV3-005 直列4気筒液冷ガソリン・エンジン(出力43hp)を搭載しており、戦闘重量3.2tと非常に軽量なため路上最大速度42km/hの機動性能を発揮できた。
足周りは起動輪を前部、誘導輪を後部に配しており、転輪は片側5個で誘導輪の前には履帯の張度調整用ローラーを2個装備していた。
CV33快速戦車は、試作車と極初期の生産車ではCV29快速戦車と同様に戦闘室前部左側に液冷式の6.5mmフィアットM14機関銃を装備していたが、戦場での給水の問題からすぐに空冷式の6.5mmフィアットM14機関銃に換装され、履帯の張度調整用ローラーも1個に減らされており、これがCV33快速戦車 セリエI(第1シリーズ)の代表的な姿となった。
1934年に生産が開始されたCV33快速戦車 セリエII(第2シリーズ)では、武装が2連装の8mmフィアットM35もしくはブレダM38機関銃に強化され、後にセリエIの一部の車両も大規模整備やオーバーホールの折などに同様の改良を施された。
セリエIでは機関室の上部に3脚銃架を搭載しており、必要に応じて機関銃を車体から外して運用することも考慮されていたが、セリエIIでは機関銃が2連装となったため車外運用のための銃架は搭載されなくなった。
1935年には細部設計をより量産向けに改め、戦闘室と上部構造をCV33快速戦車の溶接からリベット接合に変更したCV35快速戦車が登場した。
これは当時のイタリアの溶接技術が低く、溶接部分の強度が不足していたためである。
さらに1938年には設計の合理化によってより量産性を高めると共にサスペンションや履帯を改良し、武装を13.2mmブレダM31重機関銃1挺に換装したCV38快速戦車の生産が開始された。
また戦車の型式を明確にするため、本シリーズの生産中にイタリア陸軍は戦車の呼称変更を行い、3t級の戦車であることを示すためCV33はCV3/33、CV35はCV3/35、CV38はCV3/38となった。
さらに1930年代末には、より大規模な戦車の型式と制式番号の整理に伴う変更で本シリーズは従来の快速戦車から軽戦車に分類変更され、新たに「L3」(”L”はLeggero=”軽い”の頭文字)のシリーズ制式番号が付与されて、各型式は改めてL3/33、L3/35、L3/38と表されることになった。
L3軽戦車シリーズは1931〜39年にかけて各型合計で約2,000〜2,500両が生産され、イタリア陸軍のみならずスペイン、オーストリア、ハンガリー、ブルガリア、アルバニア、中国、アフガニスタン、イラク、ボリビア等に輸出された。
L3軽戦車シリーズは1935〜36年のイタリアのアビシニア(エチオピア)侵攻に投入された他、スペイン内戦にも参加して反乱軍を支援したが、ソ連義勇軍のT-26軽戦車やBT-5快速戦車には全く歯が立たなかった。
イタリアが第2次世界大戦に参戦した1940年6月の時点では、L3軽戦車シリーズはイタリア陸軍の戦車全体の75%を占めその後も各戦線で使用されたが、武装も装甲も貧弱なL3軽戦車シリーズは連合軍戦車に対して全く歯が立たなかった。
このため増加装甲を装着した装甲強化型や、スイスのゾーロトゥルン社製の46.3口径20mm対戦車銃S-18を装備する武装強化型が現地改修で製作された。
しかしあまりに小さくまとまり過ぎた設計のため、他国の戦車の進化に対抗するほど武装や装甲を大幅に強化することはできず、1943年7月の連合軍のシチリア島上陸の頃になると、専ら国内の治安活動等の二線級任務に使用されていた。
1943年9月8日にイタリアが連合軍に降伏すると、L3軽戦車シリーズはイタリアに駐留していたドイツ軍に接収され、対パルチザン戦や弾薬運搬、軽火砲の牽引等に用いられた。
L3軽戦車シリーズの派生型としては指揮型のL3r(”r”はRadio=”無線”の頭文字)、火焔放射型のL3Lf(”Lf”はLanciafiamme=”火焔放射機”の略)、架橋型のL3Gettapontoが製作された他、回収型や駆逐戦車型も試作されている。
L3r指揮戦車は中隊や大隊の指揮車両として使用するため、機関銃と銃架を撤去して無線機と地図机を搭載したもので、戦闘室の上に大きな半円形ループアンテナを縦に装着していたので識別は容易である。
L3Lf火焔放射戦車はL3/35軽戦車の2挺の8mm機関銃のうち左側の1挺を撤去し、その位置に火焔放射機を取り付けたもので、車体後方には500リットルの放射用燃料と圧縮ガスを搭載した装甲トレイラーを牽引していた。
圧縮ガスには爆発事故の危険性を考慮して不活性の炭酸ガスが使用されたが、前線での補給の便を考慮して野戦用コンプレッサーで普通の空気を圧縮して利用することもできるようになっていた。
トレイラーの装甲厚は前/後面が16mm、側面が8mm、上/下面が6mmとなっていた。
火焔放射機の射程は、70〜90mであったといわれる。
またL3Lf火焔放射戦車には、車体後部に燃料タンクと圧縮ガス容器を搭載したL3/38軽戦車ベースの後期型も存在した。
放射用燃料の搭載量は60リットルと大幅に減少したが、圧縮ガス容器が火焔放射機の近くになって圧力のロスが減り、射程が100〜110mに延伸された。
L3Gettaponto突撃橋はL3軽戦車の車体前部に仮設橋を装着したもので、仮設橋はワイアーによって上下操作やリリースができた。
以前は本車は試作のみで終わったといわれていたが、実際には極少数が実戦で使用されたようである。
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<CV29快速戦車>
全長: 2.29m
全幅: 1.70m
全高: 1.22m
全備重量: 1.73t
乗員: 2名
エンジン: フォード・モデルT 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 20hp/1,400rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 80km
武装: 6.5mmフィアットM14機関銃×1
装甲厚: 4〜9mm
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<L3/33軽戦車 セリエI>
全長: 3.20m
全幅: 1.40m
全高: 1.28m
全備重量: 3.2t
乗員: 2名
エンジン: フィアットSPA CV3-005 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 43hp/2,400rpm
最大速度: 42km/h
航続距離: 120km
武装: 6.5mmフィアットM14機関銃×1 (3,800発)
装甲厚: 6〜14mm
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<L3/33軽戦車 セリエII>
全長: 3.20m
全幅: 1.40m
全高: 1.28m
全備重量: 3.2t
乗員: 2名
エンジン: フィアットSPA CV3-005 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 43hp/2,400rpm
最大速度: 42km/h
航続距離: 120km
武装: 8mmフィアットM35機関銃×2 (2,320発)、または8mmブレダM38機関銃×2 (1,896発)
装甲厚: 6〜14mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2020年9月号 博物館の九五式軽戦車とイタリア軍戦車」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「第2次大戦 イタリア軍用車輌」 嶋田魁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年4月号 イタリア陸軍(1) イタリア軍の軍用車輌」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「パンツァー2001年11月号 第2次大戦のイタリア軍戦車(2) L3系軽戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年3月号 第2次大戦のイタリア軍戦車(4) 火炎放射戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年5月号 イタリア戦車 その誕生と苦難の歩み」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年9月号 北アフリカにおけるイタリア軍AFV」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年7月号 イタリアのCV33/35軽戦車」 三崎道夫 著 アルゴノート社
・「パンツァー2011年3月号 CV33/L3軽戦車シリーズ」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2021年1月号 イタリア軍写真集(1)」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2021年3月号 イタリア軍写真集(2)」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2021年5月号 イタリア軍写真集(3)」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「ビジュアルガイド WWII戦車(1)
電撃戦」 川畑英毅 著 コーエー
・「戦車名鑑
1939〜45」 コーエー
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