軽トラクター
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+概要
第1次世界大戦後にドイツ軍が最初に開発した本格的な戦車が、「軽トラクター」(Leichtertraktor)と「重トラクター」(Großtraktor)と呼ばれる車両である。
これらは「軽戦車」と「重戦車」を表す秘匿呼称であり、1919年6月に連合国との間で締結されたヴェルサイユ条約によってドイツが戦車の開発を禁止されたため、この条約に違反して戦車開発を行っていることを隠すために農業用機械に偽装したのである。
重トラクターの開発に続いて1929年にドイツ陸軍兵器局は、歩兵支援および対戦車戦闘が可能な新型軽戦車の開発を、エッセンのクルップ社とデュッセルドルフのラインメタル社に命じた。
この要求は1928年に自動車兵監部より出された、1930年に軽戦車17両を装備する軽戦車中隊を新編するという要求に基づくもので、この中隊が装備する新型軽戦車を「軽トラクター」の秘匿呼称で開発することになったのである。
そして1930年5月には軽トラクターの最初の試作車が完成したが、この試作車は武装や砲塔を備えていない貨物運搬車の形で完成しており、ソ連のカザン試験場に船で送られて走行試験が行われた。
続いて武装を装備した本格的な試作車2両ずつが両社に発注され、ラインメタル社では1両を全周旋回式砲塔を装備した戦車型、残る1両を火砲搭載用の台座を備える自走砲型として製作した。
戦車型の砲塔には45口径3.7cm戦車砲KwKと、ラインメタル社製の7.92mmドライゼ液冷重機関銃(型式は不明)が同軸に装備されており、砲の俯仰角は-10~+25度となっていた。
一方、自走砲型には同じ3.7cm戦車砲KwKが限定旋回式に搭載され、砲の俯仰角は-10~+30度となっていた。
この3.7cm戦車砲KwKの詳細は不明であるが、おそらくラインメタル社製の45口径3.7cm対戦車砲PaK36を戦車砲に改修したものではないかと推測される。
3.7cm対戦車砲PaK36が制式化されたのは再軍備宣言後の1936年であるが、実際にははるか以前の1928年末から「TaK28」の呼称で部隊配備が開始されていたからである。
ラインメタル社が製作した軽トラクターの試作車は、戦車型の場合全長4.21m、全高3.0m、戦闘重量9.5tで乗員は4名となっていた。
車体は箱型をしており、その左右に走行装置が取り付けられていた。
車体と砲塔は軟鋼製で、装甲厚は8~14mmとなっていた。
面白いのは車内レイアウトで、通常の戦車では車体後部に搭載されるエンジンが車体前部に配置され、車体後部が戦闘室となっており上部に砲塔が搭載されていた。
第1次世界大戦中にドイツ軍が開発したLK.I軽戦車やLK.II軽戦車が同じ車内レイアウトを採用していたので、その流れを汲んだのかも知れない。
足周りは小直径の転輪が多数並べられたもので、転輪は2個ずつペアとなっていたがどんなサスペンション機構が採用されていたかは不明である。
転輪は片側12個で誘導輪は前部、起動輪は後部に配置されていた。
上部には、支持輪が片側2個取り付けられていた。
走行装置の側面は装甲スカートで保護されており、いかにも古臭い設計であった。
搭載されたエンジンは、ベルリン・マリーエンフェルデのダイムラー・ベンツ社製のM36 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力100hp)で、路上最大速度は30km/hであった。
なお戦車型の試作車は、ヒトラー政権誕生後の1934年になってようやく完成している。
一方、クルップ社の2両の試作車は1931年と32年に完成したが、ラインメタル社の試作車より若干小柄にまとめられており全長4.18m、全高2.13m、戦闘重量7.9tで乗員は3名となっていた。
2両とも全周旋回式砲塔に3.7cm戦車砲KwKと、7.92mmドライゼ液冷重機関銃を同軸に装備する戦車型として完成したが、サスペンションはそれぞれ異なる構造のものが用いられていた。
軽トラクターは当初の予定では289両の生産型を発注する計画であったが、試作車を用いた試験の結果両社とも兵器局の要求性能を満足させることができなかったため、生産型の発注は行われなかった。
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<軽トラクター ラインメタル社製試作車>
全長: 4.21m
全幅: 2.26m
全高: 3.0m
全備重量: 9.5t
乗員: 4名
エンジン: ダイムラー・ベンツM36 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 100hp
最大速度: 30km/h
航続距離: 137km
武装: 45口径3.7cm戦車砲KwK×1 (150発)
7.92mmドライゼ重機関銃×1 (3,000発)
装甲厚: 8~14mm
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<軽トラクター クルップ社製試作車>
全長: 4.18m
全幅: 2.37m
全高: 2.13m
全備重量: 7.9t
乗員: 3名
エンジン: ダイムラー・ベンツM36 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 100hp
最大速度:
航続距離:
武装: 45口径3.7cm戦車砲KwK×1 (150発)
7.92mmドライゼ重機関銃×1 (3,000発)
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2004年7月号 NbFzと大戦前のドイツ戦車開発」 稲田美秋 著 アルゴノート社
・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.1 AFV:1939~43」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年1月号 ドイツIII号戦車(1)」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2005年11月号 ドイツII号軽戦車」 大村晴 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車
1915~1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
・「戦車ものしり大百科 ドイツ戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
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