KV-85重戦車
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+概要
ソ連軍は、1943年1月に鹵獲したドイツ軍のティーガーI戦車を詳細に研究した結果、従来の76.2mm戦車砲搭載のT-34中戦車やKV-1重戦車では対抗するのが難しいという結論に達した。
これにより戦車工業人民委員部(NKTP)は1943年4月初め、Zh.Ya.コーチン技師を長とするチェリャビンスク・キーロフ工場の第2特別設計局(SKB-2)に対し、ティーガーI戦車より強力な主砲と装甲を有し、機動性にも優れる新型重戦車の早急な開発を命じた。
この新型重戦車はイォーシフ・スターリン首相のイニシャルを採って「IS」と名付けられ、主砲にはスヴェルドロフスク(現エカテリンブルク)の第9砲兵工場(1942年にウラル重機械工場(UZTM)から分離独立)で開発された85mm戦車砲D-5T、またはゴーリキー(現ニジニ・ノヴゴロド)の第92スターリン砲兵工場にある中央砲兵設計局(TsAKB)で開発された85mm戦車砲S-18を搭載することとなった。
また1943年5月8日付のNKTP通達で、このIS重戦車登場までの繋ぎの措置としてKV-1S重戦車にこの85mm戦車砲を搭載するよう発令された。
これを受けてSKB-2は、1943年8月に2種類の重戦車の研究開発を並行してスタートさせた。
N.L.ドゥホフ技師の設計チームは、新しい85mm戦車砲が大きな変更無しでKV-1S重戦車に搭載可能かどうかを見るために実験を開始した。
少なくとも1両の試作車が完成したものの、主砲に対して砲塔が余りに小さ過ぎることがすぐに判明した。
一方別の設計チームは、KV-1S重戦車の車体にIS重戦車用に開発された新型砲塔を搭載した。
IS重戦車の砲塔は、砲塔リング径がKV-1S重戦車の砲塔より大きいためそのまま搭載することはできず、この対処としてKV-1S重戦車の戦闘室の左右側面に張り出し部を設け、砲塔リングの直径を増やすことで搭載を可能とした。
これらの85mm戦車砲を搭載した、IS重戦車およびKV重戦車の試作車は1943年7月中に完成した。
結局搭載砲については反動制御方式に優れ、実用性が高いと見られた第9工場設計局の85mm戦車砲D-5Tが採用されることとなり、これを搭載するIS重戦車は「IS-85」、KV重戦車は「KV-85」と称されるようになった。
ただし85mm戦車砲D-5Tがこれらの新型戦車に採用された背景には、第9工場設計局のF.F.ペトロフ主任技師とSKB-2のコーチン主任技師が親しい関係にあったことが大きく影響したともいわれている。
鹵獲したティーガーI戦車への実射試験に立ち会ったコーチンが、IS重戦車の主砲を85mm高射砲52K(M1939)をベースに開発することになった事実を逸早くペトロフに知らせていたため、D-5Tの開発はTsAKBの85mm戦車砲S-18に大きく先行することができたのである。
KV-85重戦車の試作車はIS-85重戦車およびISU-152重突撃砲の試作車と共に、1943年7月31日にモスクワのクレムリン宮殿でスターリンの前に展示された。
そして同年8月8日にはスターリンと共にV.モロトフ外務人民委員、L.ベリヤ内務人民委員、K.ヴォロシーロフ元帥らの側近、V.マールィシェフ戦車工業人民委員、フェドレンコソ連軍機甲総局総監ら列席の下、3車種の実用試験が行われた。
スターリンはこれら新型戦車がいたく気に入り、実用試験で信頼性を完全なものとした上で前線に1日も早く投入できるよう開発者たちに命じた。
1943年8月を通して行われた実用試験の中で、IS重戦車のパワートレイン並びにサスペンション関係に改善の余地があることが認められたが、同年9月4日付の最高司令部命令第4043号によりKV-85重戦車、IS-85重戦車、ISU-152重突撃砲の量産とソ連軍への装備開始が発令されることとなった。
KV-85重戦車の生産は1943年9月中に開始され、同年11月いっぱいまでにかけて130両が完成した。
本車を装備して第7、第11、第15、第29の各親衛突破重戦車連隊(各21両)が編制され、1943年から戦線に投入されてドイツ軍と砲火を交えた。
KV-85重戦車の主砲に採用された51.6口径85mm戦車砲D-5Tは、55.2口径85mm高射砲52Kを基に第9工場設計局が開発したもので、弾薬は高射砲と共通のものを用いその弾道特性も全く同様のものであった。
またKV-85重戦車では無線通信機が車長席に近い砲塔に移動したため、後期生産型では車体前方機関銃が固定装備となり前方機関銃手が乗員から外されて、乗員はKV-1S重戦車の5名から4名に減っている。
KV-85重戦車は、KV重戦車シリーズの中では最もバランスの取れた戦闘能力を持っていたが、ドイツ軍のティーガーI戦車やパンター戦車と正面切って戦うにはやや力不足であった。
戦力化を急ぐために急遽装備された高射砲ベースの85mm戦車砲D-5Tは対装甲威力が低く、射距離500〜600m以内でなければティーガーIやパンターの前面装甲に対し有効打を与えることができず、逆にこの射距離に入る前に、装甲厚が削られたKV-1S重戦車の車体を持つKV-85は容易に撃破されてしまったのである。
KV-85重戦車で編制された独立突破重戦車連隊はドイツ軍との戦闘でかなりの損失を被ったが、生き残った車両は終戦まで戦い抜いたといわれる。
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<KV-85重戦車>
全長: 8.49m
車体長: 6.75m
全幅: 3.25m
全高: 2.53m
全備重量: 46.0t
乗員: 4名
エンジン: V-2-KS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/1,900rpm
最大速度: 35.4km/h
航続距離: 251km
武装: 51.6口径85mm戦車砲D-5T×1 (71発)
7.62mm機関銃DT×3 (3,276発)
装甲厚: 30〜110mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「世界の戦車イラストレイテッド10 KV-1 & KV-2重戦車
1939〜1945」 スティーヴン・ザロガ/ジム・キニア 共
著 大日本絵画
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「パンツァー2017年1月号 KV重戦車シリーズ -そのバリエーション-」 柏村幸二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年2月号 AFV比較論 ティーガーI vs KV-85」 小野山康弘 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年1月号 KV重戦車シリーズ -その開発と構造-」 橘哲嗣 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年5月号 KV重戦車とそのバリエーション」 白井和弘 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2012年2月号 KV重戦車シリーズ(2)」 斎木伸生 著 ガリレオ出版
・「第2次大戦
ソビエト軍戦車
Vol.2 重戦車/自走砲」 高田裕久 著 ガリレオ出版
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(上)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1)
第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年9月号 ソ連軍重戦車(2)」 古是三春 著 デルタ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「図解・ソ連戦車軍団」 斎木伸生 著 並木書房
・「大祖国戦争のソ連戦車」 古是三春 著 カマド
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