KSAM「天馬」(チョンマ)対空ミサイル・システム |
●開発 KSAM「天馬」(チョンマ)対空ミサイル・システムは、韓国が初めて国内開発した短距離対空ミサイル・システムである。 KSAMの開発の中心になったのは三星電子(現・三星タレス社)で、1989年7月に開発に着手している。 しかし韓国はそれまで対空ミサイル・システムを国内開発した経験が無かったため、開発を円滑に進めるためにフランスのトムソンCSF社(現タレス社)の技術協力を受けることになった。 韓国は同時期に大宇重工業(現・斗山インフラコア社)が中心となって、30mm対空機関砲を装備するK30「飛虎」(ビホ)対空自走砲の開発を進めており、KSAMと共に近距離防空網を構成することを予定していた。 KSAMの開発は1997年に完了し、翌98年10月には試作車2両が公開されたが、車体は国産のKIFV歩兵戦闘車のものをベースに前後に延長したものが用いられており、転輪数も1個増えて片側6個となっていた。 トムソンCSF社の技術支援で開発されたためか、武装システムは同社製のクロタルNG対空ミサイル・システムにそっくりで、全周旋回式ターレットの左右に対空ミサイルの4連装発射機を1基ずつ装備し、ターレットの前方に円形の追尾レーダー、後方に横長四角形の捜索レーダーを搭載していた。 KSAMは1999年に第1ロットとして48両が発注されたのを皮切りに2009年までに合計144両が生産され、韓国陸軍に引き渡された。 |
●構造 前述のようにKSAMの車体は開発・運用コストを低減させるため、韓国陸軍に広く普及している国産のKIFV歩兵戦闘車の車体を開発ベースとしている。 車体の具体的なサイズは不明であるが、同時期に開発されたK30対空自走砲の車体と外見がそっくりなことからサイズもほぼ同じではないかと推測される。 ちなみにK30対空自走砲の車体サイズは全長6.77m、全幅3.30mとなっている。 車内に搭載されているパワーパックもK30対空自走砲と同じものを用いていると思われるが、K30対空自走砲のパワーパックはドイツのMAN社製のD2840L V型10気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力520hp)を斗山インフラコア社でライセンス生産したものと、アメリカのジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ社製のHMPT-500-EC自動変速機(前進3段/後進1段)をS&Tダイナミクス社でライセンス生産したHMPT-500-EK自動変速機を組み合わせている。 前述のようにKSAMは全周旋回式ターレットの前方に円形のKuバンド追尾レーダー、後方に横長四角形のSバンド捜索レーダーを搭載している。 捜索レーダーの最大捜索距離は20kmで、8つの目標を自動追尾することができる。 追尾レーダーの最大追尾距離は16kmで、FLIR(前方監視赤外線装置)の最大探知距離は15kmである。 使用される対空ミサイルの最大有効射程は10kmで最大飛翔速度はマッハ2.6、ホバリング中のヘリコプターからマッハ2.0の航空機まで迎撃することが可能である。 弾頭部にはレーザー近接信管を備えており、12kgの高性能指向性炸薬が充填されている。 KSAMは開発当初、対空ミサイルの誘導方式として発射された後UTDC(間欠指令)で目標に向かい、赤外線画像シーカーで空中ロックオンするLOAL(発射後ロックオン)方式を採用する予定であった。 これは陸上自衛隊の81式短距離地対空誘導弾(短SAM)が採用している誘導方式で、一度目標をロックオンしてしまえば後は対空ミサイルが自動的に目標を追尾するため、素早く次の目標に対処できるという利点があった。 ただしこの誘導方式を採用した場合ミサイルが大型化するという欠点もあり、KSAMは4発しか対空ミサイルを搭載できなかった。 しかし韓国陸軍はKSAMに対空ミサイルを8発搭載することを要求したため、ミサイルを小型化するために誘導方式はCLOS(指令照準線一致方式)を採用することになった。 この方式はミサイルを小型軽量化することができる利点がある反面、目標到達までミサイルを誘導し続けなければならない欠点がある。 |
<KSAM「天馬」(チョンマ)対空ミサイル・システム> 全長: 全幅: 全高: 全備重量: 25.0t 乗員: 4名 エンジン: MAN-斗山 D2840L 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル 最大出力: 520hp 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 対空ミサイル4連装発射機×2 (8発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2011年5月号 韓国の新鋭対空車輌 30mm自走高射機関砲K30飛虎と自走対空ミサイル天馬」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年12月号 韓国陸軍の編成と装備」 竹内修/SSN688/柘植優介 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年1月号 国軍の日パレードにおける韓国軍の国産車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年1月号 国軍パレードにおける韓国軍車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年7月号 韓国々軍記念日の展示訓練」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年1月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2007年1月号 韓国の兵器展示会 ディフェンス・アジア2006」 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2010年4月号 韓国軍の戦闘車輌」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |