16式機動戦闘車
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16式機動戦闘車 試作車
16式機動戦闘車 生産型
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+開発
16式機動戦闘車(略称:16MCV(Maneuver Combat Vehicle))は、陸上自衛隊初の本格的な火力支援用の装輪式装甲車である。
本車の開発の中心となったのは、防衛省技術研究本部(Technical Research and Development Institute:TRDI)の、陸上装備研究所(神奈川県相模原市)である。
なお本車は開発時には、単に「機動戦闘車」と呼ばれていた。
機動戦闘車の試作・生産の主契約者は、これまで陸上自衛隊の全ての装輪式装甲車の開発に携わってきた小松製作所ではなく、戦車開発を専門に手掛けてきた三菱重工業が指名されている。
この理由については様々な憶測があるが、本車が対戦車戦闘用の車両であることから、戦車開発の経験が豊富な三菱が選ばれたとも考えられる。
三菱重工業は機動戦闘車の車体部の開発を担当し、車体を構成する防弾鋼板は三菱長崎機工が開発した。
機動戦闘車の開発には他にも多くの国内メーカーが携わっており、主砲を日本製鋼所、FCS(射撃統制装置)を三菱電機と日本電気、弾道計算機を横河電機、視察照準用の光学機器をニコンとトプコン、画像処理関係を富士フイルム、砲安定装置を多摩川精機が担当している。
機動戦闘車は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ以降の世界情勢を念頭に、2004年に策定された防衛計画の大綱を基準に開発された新ジャンルのAFVである。
2006年に作られた政策評価書では本車の運用に関して、「機甲科部隊に装備し、多様な事態への対処において、空輸性や路上機動性などに優れた機動力をもって迅速に展開すると共に、中距離域での直接照準射撃により、軽戦車を含む敵装甲戦闘車両などを撃破するために使用する」と定めていた。
そして、この時に最初の所要経費として26億円を計上し、開発終了時期は2013年度、開発総費用としては171億円を予定していた。
翌2007年の政策評価書では、機動戦闘車の配備先を機甲部隊ではなく戦闘部隊とし、開発総費用を173億円に修正、試験の終了時期も2015年に延長している。
本車の本格的な開発は2007年度に開始されており、当初は部門ごとの基礎開発であったが、2009年度からシステム開発に移行し、砲塔部および車体部の試作が始まっている。
翌2010年度には試作に移り、同年度中に試作(その1)として砲塔部(架台に搭載された射撃試験用)と、車体部(エンジンや変速・操向機の無い振動試験用)がそれぞれ1基ずつ製作されている。
そして、2011年度には試作(その2)としてFCSや照準装置、駆動装置などが組み込まれた砲塔部(その2)と、エンジンや変速・操向機などを搭載した車体部(その2)が改めて1基ずつ製作され、車体部には前年に製作された試作砲が搭載されて、射撃時および走行時の安定性などが試験されている。
2012年には試作(その3)として砲塔システム、車体システム、試験用砲架が改めて新造され、2013年には試作(その4)として4両の試作車が製作され、その内の第1号車が10月9日に報道陣に公開された。
2014年度からは試作車4両を用いて実用試験が実施され、試験の結果が良好であったため、2016年度に「16式機動戦闘車」として制式化が行われ、陸上自衛隊への採用が決定した。
16式機動戦闘車の年次調達数は下表の通りで、2024年度までに合計240両が生産された。
16式機動戦闘車の調達数 |
予算計上年度 |
調達数 |
2016年度 |
36両 |
2017年度 |
33両 |
2018年度 |
18両 |
2019年度 |
22両 |
2020年度 |
33両 |
2021年度 |
22両 |
2022年度 |
33両 |
2023年度 |
24両 |
2024年度 |
19両 |
合 計 |
240両 |
本車の調達価格は1両約7億2千万円で、同クラスの火力支援用装甲車であるイタリアのB1チェンタウロ戦闘偵察車、南アフリカのローイカット戦闘偵察車、アメリカのストライカーMGSなどが1両5億円程度なのに比べると、やや割高である。
16式機動戦闘車はまず、新たに創設された即応機動連隊に優先的に配備が進められることになっており、その後に本州と四国に配備されている、全ての戦車を本車で置き換えることが予定されている。
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+攻撃力
16式機動戦闘車の主砲は、74式戦車の主砲であるイギリスの王立造兵廠製の51口径105mmライフル砲L7をベースに、日本製鋼所が新たに開発した52口径105mm低反動ライフル砲である。
主砲射撃時の反動を吸収するため、砲身先端には多孔式の砲口制退機が装着されている。
砲弾は74式戦車の主砲と同じく、93式105mmAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と、91式105mmHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)を使用することが可能である(共にダイキン工業製)。
16式機動戦闘車の主砲弾薬搭載数については不明であるが、チェンタウロ戦闘偵察車が砲塔内に16発、車体内に24発の計40発の主砲弾薬を搭載していることから、本車もそれに近い数を搭載できると推測される。
16式機動戦闘車の副武装は、74式戦車以降の陸自MBTと同じく、主砲と同軸に住友重機械工業製の74式車載7.62mm機関銃を1挺、砲塔上面にアメリカのブラウニング火器製作所製の、12.7mm重機関銃M2(住友によるライセンス生産型)を1挺装備している。
16式機動戦闘車のFCSについては詳細が明らかにされていないが、陸上自衛隊の最新MBTである10式戦車のFCSと互換性を持たせた、高度なものが搭載されていると推測されている。
16式機動戦闘車の試作車を見る限り、車長や砲手用のサイトは10式戦車のものと形状がよく似ており、砲塔最後部に設けられている環境センサーも、同じフランスのタレス社製のものが採用されている。
なお試作車を用いた射撃試験において、16式機動戦闘車は砲塔を横に向けた状態で走行間射撃を行っていた。
このことからも、本車が高度なFCSを備えていることは明らかといえよう。
16式機動戦闘車の乗員は4名で、車長、砲手、装填手の3名が砲塔内、操縦手が車体前部右側の操縦室内に位置する。
開発当初は90式戦車や10式戦車のように、主砲弾薬の自動装填装置を導入して、装填手を省くことも検討されたということだが、コストとの兼ね合いで自動装填装置の採用は見送られている。
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+防御力
16式機動戦闘車の車体と砲塔は、共に圧延防弾鋼板の全溶接構造になっているが、その防御力に関しては一切明らかにされていない。
ちなみに、チェンタウロ戦闘偵察車は車体前面で20mm機関砲弾の直撃、それ以外の部分で12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられるとされており、本車もそれと同程度の防御力は備えていると推測される。
16式機動戦闘車の砲塔の形状は10式戦車の砲塔によく似ており、砲塔前面には楔形の空間装甲が採用されている。
また砲塔側面にも空間装甲が導入されており、通常このスペースは雑具箱として使用される。
これらの空間装甲は、容易に着脱できるようにモジュール式の構造になっており、こういうところも10式戦車の砲塔と同様である。
また16式機動戦闘車の車体の前面と側面には、基本装甲の上に防弾鋼板と思われるモジュール式の増加装甲板がボルト止めされている。
このように車体と砲塔の増加装甲をモジュール式にしているのは、10式戦車と同様に必要に応じて、より防御力の高い増加装甲を取り付けられるように設計したためではないかと推測される。
ただし、TRDIが2013年10月9日に16式機動戦闘車の試作第1号車を報道陣に公開した際には、TRDI側は陸上自衛隊から増加装甲の開発要求は無かったと説明している。
また最近は、歩兵の使用する携帯式対戦車兵器に対抗するために、海外ではAFVに成形炸薬弾対策の格子装甲(スラット・アーマー)を装着する例が増えているが、これについてもTRDI側は、16式機動戦闘車に装備する予定は無いと説明している。
TRDIは2009年度予算で16式機動戦闘車の耐弾試験用に、カールグスタフ84mm対戦車無反動砲を購入していることから、本車の成形炸薬弾に対する防御力にはそれなりの自信を持っているのかも知れない。
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+機動力
16式機動戦闘車のパワーパックは、三菱重工業製の4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力570hp)と、トルク変換機付きの自動変速・操向機を組み合わせており、戦闘重量が26.0tなので、出力/重量比は21.9hp/tという高い値である。
パワーパックは車体前部左側の機関室に収容され、機関室の側面には排気口とラジエイター・グリルが、上面には吸気口が設けられている。
16式機動戦闘車のサスペンションは、三菱とダイキン工業が共同開発した油気圧式サスペンションが採用されており、全輪が独立懸架されている。
同じ8輪装甲車である96式装輪装甲車と同様、駆動方式は8×8と8×4を選択できるようになっていると推測されており、最近の装輪式装甲車では必須の装備となっている、CTIS(タイヤ空気圧中央制御装置)も備えていると思われる。
車体の方向転換は前2軸が操向して行うようになっており、操縦手にはパワーステアリング付きの円形の操向ハンドルが用意されている。
16式機動戦闘車のタイヤについては、ブリヂストン社製のL302ランフラット・タイヤ(395/85R20)を装着している。
本車は試作段階では、フランスのミシュラン社製のランフラット・タイヤの導入が検討されていたが、最終的に生産型では国産品の採用に落ち着いた。
これらの足周りによって16式機動戦闘車は、路上最大速度100km/hという高い機動性能を発揮する。
本車の航続距離については明らかにされていないが、チェンタウロ戦闘偵察車の路上航続距離が800kmであることから、それに近い値ではないかと推測される。
10式戦車の路上最大速度は70km/h、路上航続距離は300km程度といわれているので、路上での機動性能の高さが16式機動戦闘車の最大の長所といえるであろう。
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<16式機動戦闘車>
全長: 8.45m
全幅: 2.98m
全高: 2.87m
全備重量: 26.0t
乗員: 4名
エンジン: 三菱 4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 570hp/2,100rpm
最大速度: 100km/h
航続距離:
武装: 52口径105mm低反動ライフル砲×1
12.7mm重機関銃M2×1
74式車載7.62mm機関銃×1
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2017年12月号 姿を現した機動戦闘車量産型」 伊藤洋平/荒木雅也/藤井岳 共著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2013年12月号 陸自のニューカマー・機動戦闘車のディテール」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 現在計画中の陸自装輪戦闘車輌」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年11月号 特集 16式機動戦闘車」 柘植優介/藤井岳 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年11月号 特集 16式機動戦闘車」 毒島刀也/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年11月号 16式機動戦闘車 ディテール集」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2015年2月号 機動戦闘車 vs ストライカーMGS」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年7月号 機動戦闘車の有用性を探る」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年11月号 陸上自衛隊 機動戦闘車デビュー」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート47 機動戦闘車と世界の装輪戦車」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート68 16式機動戦闘車」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「グランドパワー2013年12月号 陸自機動戦闘車 試作車公開」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2018年1月号 16式機動戦闘車 生産型」 ガリレオ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
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