●開発 K21歩兵戦闘車は、韓国陸軍がKIFV歩兵戦闘車の後継として開発した国産のIFVである。 韓国陸軍が1980年代から運用してきたKIFV歩兵戦闘車は、アメリカのFMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)がM113装甲兵員輸送車をベースに開発したAIFV歩兵戦闘車に韓国独自の改良を加えたものであったが、原型が1950年代末に開発された車両であるため全体的に旧式化していた。 またKIFV歩兵戦闘車は主武装が12.7mm重機関銃M2のみと貧弱で、仮想敵である北朝鮮軍が装備していると推測される旧ソ連製のBMP-1歩兵戦闘車に対抗するのが困難であった。 このため韓国政府は1999年12月に「NIFV」(Next Infantry Fighting Vehicle:次期歩兵戦闘車)計画の下、攻撃力、防御力、機動力の全ての面でKIFV歩兵戦闘車を凌駕する新型IFVの開発を910億ウォンの予算を投じて開始した。 試作車3両が作られたK21歩兵戦闘車は2007年6月末に生産型が公表された後、2008年10月30日に量産契約が結ばれ、2009年11月30日に生産型第1号車が韓国陸軍に納入された。 K21歩兵戦闘車の生産予定数は900〜1,000両といわれており、現在KIFV歩兵戦闘車に代えて部隊配備が進められている。 |
●構造 K21歩兵戦闘車は車体・砲塔とも防弾アルミ板の全溶接構造となっており、前/側面の主要部にはガラス繊維、セラミック素材などを特殊処理した積層複合装甲がボルト止めされている。 K21歩兵戦闘車の装甲防御力は公表されていないが、韓国陸軍が公開した映像では前面装甲は旧ソ連製のBMP-3歩兵戦闘車が装備する30mm機関砲の徹甲弾に耐えられるようで、側面装甲は14.5mm徹甲弾、上面装甲は155mm榴弾砲の弾片に耐えられるといわれている。 K21歩兵戦闘車の車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が兵員室という一般的なもので、操縦室内には左側に操縦手が位置し、右側にはパワーパックが収められている。 砲塔は2名用で内部には右側に砲手、左側に車長が位置する。 兵員室内には9名の完全武装歩兵を収容することができ、車体後面に備えられたランプ式ドアから乗降を行うようになっている。 K21歩兵戦闘車は砲塔前面に、主武装の70口径40mm機関砲K40を装備している。 この機関砲は国産といわれているが、CV9040歩兵戦闘車の主武装に採用されているスウェーデンのボフォース社製の70口径40mm機関砲40/70Baのライセンス生産版に、韓国独自の改良を加えたもののようである。 機関砲は単射、2発、4発、8発のバースト射撃、連射のモードを選択でき、発射速度は単射で60発/分、連射で300発/分となっている。 使用弾種は砲口初速1,480m/秒のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、砲口初速1,025m/秒のHE(榴弾)、対地/対空両用の3P(Prefragmented Programmable Proximity Fused High Explosive:時限信管付榴弾)等がある。 この内APFSDSは射距離1,000mで厚さ150mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹する威力があり、現用のほぼ全てのIFVと、1970年代前半までに開発された各国のMBTを機関砲弾のみで撃破できるという。 K21歩兵戦闘車の砲塔は全周旋回が可能で機関砲は2軸が安定化されており、俯仰角は−7〜+45度となっている。 副武装は、機関砲の右側に7.62mm機関銃が同軸装備されている。 また砲塔の左側面には、対戦車ミサイルの連装発射機が装備されている。 この対戦車ミサイルは韓国国産といわれているが、その詳細は明らかにされていない。 韓国はすでにロシア製の9K115メチス(NATOコードネーム:AT-7サクソルン)対戦車ミサイルをライセンス生産しているが、K21歩兵戦闘車向けにはより高性能で射ちっ放し能力のある、イスラエル製のスパイク対戦車ミサイルを参考に開発されたといわれている。 K21歩兵戦闘車のFCS(射撃統制システム)は、ディジタル式コンピューターを横風センサーと連動させた高度なものが搭載されている。 砲塔前部左側には車長用の旋回式展望サイト、前部右側には砲手用の固定式潜望サイトが設けられている。 車長用サイトはK1A1戦車にも装備されている、サムスン・タレス社製のKCPS(Korean Commander's Panoramic Sight)のようである。 このサイトは、焦点距離288×4の熱線映像装置が内蔵されている。 砲手用サイトもK1A1戦車と同じもので、アメリカのレイセオン社の製品をライセンス生産したKGPS(Korean Gunner's Panoramic Sight)と呼ばれる昼/夜間兼用サイトである。 このサイトは2軸が安定化されており、熱線映像装置、アイセーフ型レーザー測遠機、昼間用TVカメラが内蔵されている。 K21歩兵戦闘車のパワーパックは、斗山インフラコア社製のD2840LXE V型10気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力750hp)と、アメリカのジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ社製のHMPT500-4EK自動変速機の組み合わせである。 足周りは片側6個の転輪と3個の上部支持輪、前部起動輪、後部誘導輪の組み合わせとなっており、サスペンションは斗山モトロール社製の油気圧式サスペンションが採用されている。 K21歩兵戦闘車の特筆すべき装備として、水上浮航用に車体側面に膨張式のフロートを装備したことが挙げられる。 しかしAFVの水上浮航には過去から事故も多く、その有効性はやや疑問視されている。 他国の最新IFVが防御力強化に伴う重量増加とバランス変動により浮航能力を諦めている中で、K21歩兵戦闘車のフロート装備は特異な取り組みといえる。 |
<K21歩兵戦闘車> 全長: 6.846m 全幅: 3.50m 全高: 3.027m 全備重量: 25.0t 乗員: 3名 兵員: 9名 エンジン: 斗山 D2840LXE V型10気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 750hp 最大速度: 70km/h(浮航 7km/h) 航続距離: 450km 武装: 70口径40mm機関砲K40×1 7.62mm機関銃M60×1 対戦車ミサイル連装発射機×1 装甲: 複合装甲 |
<参考文献> ・「パンツァー2014年12月号 韓国陸軍の編成と装備」 竹内修/SSN688/柘植優介 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年8月号 K1戦車シリーズと韓国MBTの今後」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年1月号 国軍の日パレードにおける韓国軍の国産車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年5月号 韓国の新型戦闘兵車 K21」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年1月号 国軍パレードにおける韓国軍車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 今月のトピックス」 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年8月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年3月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年1月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年7/8月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート25 世界の戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「10式戦車と次世代大型戦闘車」 ジャパン・ミリタリー・レビュー ・「世界の戦車完全図鑑」 コスミック出版 |