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K1戦車


●K1戦車




K1戦車(88戦車)は、韓国が初めて国産開発したMBTである。
本車の開発が決定されたのは1970年代末であるが、本格的な戦車開発の経験が無い韓国のメーカーのみでMBTを新規開発するのは困難だったため、政治的関係が深く戦車開発の経験が豊富なアメリカの兵器メーカーに助けを借りることになった。
韓国側は1979年にアメリカの兵器メーカーに対して提案を募り、それに対して数社が応募した。

これらの応募の中から、1980年にクライスラー社の子会社であるクライスラー・ディフェンス社(1982年にジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ社に改組)が選ばれた。
新型MBTは、「XK1」あるいは「ROKIT」(Republic of Korea Indigenous Tank:韓国国産戦車)などと呼ばれた。
XK1戦車の開発はクライスラー・ディフェンス社と韓国側との共同作業となったが、基本条件の決定や装備の選定は韓国側が行い、それを現実化していく設計作業はクライスラー・ディフェンス社が中心となって行った。

1983年にXK1戦車の第1次試作車2両が完成し、11月にメリーランド州アバディーンのアメリカ軍装甲試験場に送られて走行性能、耐久性、信頼性等の各種試験が行われた。
同年12月には第2次試作車2両が完成し、1984年2月にアバディーン試験場に送られ火力性能試験が行われた。
1984年中には現代車両(1985年に現代精工に吸収合併され、2002年に現代ロテム社に改組)で早くも生産に着手され、1985年にK1戦車の最初の生産車がロールアウトしている。

ただし一般への公開は長期間に渡って制限され、1987年9月になってようやく「88戦車」(パルパル・チョンチャ)としての命名式典が行われ秘密のヴェールを脱いだ。
K1戦車は1986〜88年にかけて第1生産ロットの205両が生産され、その後も1989〜91年に第2生産ロット310両、1992〜94年に第3生産ロット305両、1995〜97年に第4生産ロット207両が生産されて合計1,027両が完成しており、韓国陸軍と海兵隊の戦車大隊に配備されている。

K1戦車の外観はアメリカのM1エイブラムズ戦車とよく似ているが、これはクライスラー・ディフェンス社がM1戦車の開発メーカーでもあるため、K1戦車は多くの部分にM1戦車の設計が採り入れられているので当然の結果といえよう。
ただK1戦車はM1戦車と外観は似ているものの、全体的なサイズはM1戦車よりやや小柄にまとめられている。

これはアメリカに比べて起伏が激しく道路が狭い朝鮮半島の地理条件に適合させたためで、内部もアメリカ人より小柄な韓国人の体格に合わせている。
K1戦車の車体は空間装甲を多用した圧延防弾鋼板の溶接構造で、車体前面上部には複合装甲が採用されており操縦手席は車体前部右側にある。

砲塔も車体と同じく圧延防弾鋼板の溶接構造で前面と側面前部には複合装甲が採用されており、砲塔内には右側前方に砲手席、その後ろに車長席があり、主砲を挟んで左側には装填手席がある。
砲塔上面には右側に車長用ハッチ、左側に装填手用ハッチがそれぞれ設けられている。
主砲は、アメリカのM60戦車に搭載されているヴィッカーズL7系の51口径105mmライフル砲M68のライセンス生産型であるKM68A1が採用されている。

車長用には、水平・垂直の2軸が安定化された倍率3/10倍切り替え式の独立型パノラマ・サイトが装備されている。
これにより、砲手が目標を照準中に車長が次の目標を捜索・照準するハンター・キラー的運用が可能となっている。
砲手用にはレーザー測遠機、熱線暗視装置が組み込まれた昼/夜間兼用サイトが装備されている。

こちらのサイトも2軸が安定化されており昼間用は等倍と10倍の切り替え式、夜間用が3倍と10倍の切り替え式となっている。
弾道コンピューターはディジタル式で、風向センサーと連動する高度なものが搭載されている。
副武装は主砲同軸と装填手用ハッチ前方に7.62mm機関銃M60Dが1挺ずつ、車長用ハッチ前方に12.7mm重機関銃K6が1挺装備されている。

エンジンはドイツのMTU社製のMB871Ka-501 4ストロークV型8気筒多燃料液冷ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)が搭載されており、2基のターボチャージャーによって過給されている。
変速機は、同じくドイツのZF社製のLSG3000変速機が搭載されている。
これはトルク・コンヴァーター式の自動変速機で、前進4段/後進2段の変速が可能である。

サスペンションはハイブリッドタイプで片側6個の複列式転輪のうち前2個と一番後ろの転輪が油気圧式、残りの3個の転輪がトーションバーで懸架されている。
これによってK1戦車は+3度〜−7度の前後姿勢制御ができ、低い砲塔に起因する仰角の不足をカバーできるようになっている。

この他には車内に冬季用のヒーターや自動火災探知・消火装置、NBC防護装置を備えており、韓国軍のMBTとしては最も充実した装備を誇る。
K1戦車の派生型には同一の車体を持つAVLB(Armored Vehicle Launched Bridge:戦車橋)と、ドイツのMaK社と共同開発したARV(Armoured Recovery Vehicle:戦車回収車)がある。

またマレーシア陸軍の次期MBT選定試験に参加するため、レーザー警報装置と熱帯地向けの空調装置を追加装備したK1M戦車が開発され、210両の採用が提案されたがマレーシア陸軍は高価過ぎるとして採用せず、次期MBTにはより安価なポーランド製のPT-91M「ペンデカー」(Pendekar:マレー語で「武道の達人」の意味)戦車を採用することになった。


●K1A1戦車




アメリカのM1戦車がドイツのラインメタル社製の120mm滑腔砲Rh120を原型とする44口径120mm滑腔砲M256を搭載して火力強化を図ったのと同様に、韓国軍もK1戦車に120mm滑腔砲を搭載して火力強化を図ることを計画し、M256のライセンス生産型である44口径120mm滑腔砲KM256を搭載するK1A1戦車の開発が1990年代に開始された。

K1A1戦車は1996年に試作車が完成し、1999年から生産が開始されて2010年までに484両が完成している。
また今後、現用のK1戦車は少なくとも一部がこのA1仕様に改修されてゆくものと考えられている。
K1A1戦車は主砲火力だけでなく複合装甲の防御力も強化されており、戦闘重量がK1戦車の51.1tから54.5tに増大している。

ただし車内の容積には変化が無いため、主砲弾薬の搭載数はK1戦車の47発から実用上最低限の水準だと考えられる32発へと減少している。
現在K1戦車の後継として55口径120mm滑腔砲を装備し、1,500hp級の国産ディーゼル・エンジンを搭載するK2「黒豹」(フクピョ)戦車の開発が進められているが、開発過程でトラブルが発生しているため早期の実戦配備は難しい状況であり、当面はK1戦車シリーズが韓国軍の主力MBTであり続けると推測されている。


<K1戦車>

全長:    9.67m
車体長:   7.47m
全幅:    3.59m
全高:    2.25m
全備重量: 51.1t
乗員:    4名
エンジン:  MTU MB871Ka-501 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,200hp/2,600rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    51口径105mmライフル砲KM68A1×1 (47発)
        12.7mm重機関銃K6×1 (2,000発)
        7.62mm機関銃M60D×2 (8,600発)
装甲:    複合装甲


<K1A1戦車>

全長:    9.71m
車体長:   7.47m
全幅:    3.59m
全高:    2.25m
全備重量: 54.5t
乗員:    4名
エンジン:  MTU MB871Ka-501 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,200hp/2,600rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    44口径120mm滑腔砲KM256×1 (32発)
        12.7mm重機関銃K6×1 (2,000発)
        7.62mm機関銃M60D×2 (8,600発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2013年8月号 韓国初の国産MBT K1戦車シリーズ」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年10月号 韓流AFVの意外な実力」 竹内修/布留川司 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 K1戦車シリーズと韓国MBTの今後」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 韓国陸軍 K1戦車の開発と発展」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年6月号 韓国K1戦車 vs 90式戦車」 齋木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2020年6月号 韓国戦車の傾向と現実」 宮永忠将 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年1月号 韓国陸軍のスピアヘッド K1A1 MBT」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2007年2月号 K1A1戦車のディテール」  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー

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