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It.Psv.90マークスマン対空自走砲


T-55AMマークスマン対空自走砲



レオパルト2A4マークスマン対空自走砲



「マークスマン」(Marksman:射撃の名手)対空自走砲は、1980年代にイギリス陸軍がチーフテン戦車の車体をベースとする新型対空自走砲の調達を計画した際に、これに応募するためにマルコーニ電子システム社が自社資金で開発した対空自走砲である。
この計画には、王立造兵廠とフランスのトムソンCSF社が共同開発した「セイバー」(Sabre:サーベル)対空自走砲も応募しており、各1両の試作車が製作されてイギリス陸軍による試験に供された。

マークスマンの最大の特徴は、従来の対空自走砲のように車体と砲塔を全て含めてシステムとして完結するのではなく、対空機関砲やレーダーといった武装システムのみを砲塔内に全て詰め込んで完結させ、車体については既存の戦車車体を流用できるようにした点である。
砲塔の左右に装備されたスイスのエリコン社製の90口径35mm対空機関砲KDAは、APDS(装弾筒付徹甲弾、重量380g)で1,385m/秒という高初速、発射速度も1門当たり550発/分と高率を誇っている。

弾薬は対空用にHEI(焼夷榴弾、重量535g)、SAPHEI(半徹甲焼夷榴弾、重量550g)、対地用にAPDSがある。
砲口初速はAPDS以外、1,175m/秒である。
対空用の最大有効射程は約4,000mで弾薬には近接信管が内蔵されておらず、直撃により目標を撃破する。
射撃は通常、20〜40発のバースト射撃が行われる。
砲塔下のコンテナ式弾倉にはHEI 230発、APDS 20発の合計250発の弾薬が収納されている。

砲塔後部にはディッシュ型のシリーズ400起倒式レーダーを1基装備しており、これが捜索レーダーと追尾レーダーを兼ねている。
マークスマンのレーダー性能は捜索距離12km、追尾距離10kmとなっている。
またバックアップ用として2軸が安定化された光学照準サイトを2基装備しており、8kmまで計測可能なレーザー測遠機も組み込まれている。

このサイトはバックアップ用としてだけではなく、レーダーと独立して捜索・追尾用に使用することも可能で、マークスマンはレーダーと光学照準サイトで最大3目標の同時追尾が可能となっている。
砲塔内の武装システムを機能させるために、マークスマンはAPU(補助動力装置)を装備している。
このAPUはディーゼル・エンジンで、砲塔後部に搭載されている。

しかし結局、イギリス陸軍はセイバーとマークスマンのいずれも採用すること無く、新型対空自走砲計画は中止された。
これは当時、牽引型のレイピア対空ミサイル・システムをアメリカ製のM548貨物輸送車の車体後部に搭載した自走型レイピアの導入をイギリス陸軍が進めていたためで、防空任務は自走型レイピアに任せれば新たに対空自走砲を導入する必要は無いと判断されたのである。

その後もマルコーニ社はヴィッカーズMk.3戦車やチャレンジャー戦車など様々な車体にマークスマン砲塔を搭載した試作車を製作してイギリス陸軍や海外に対して売り込みを図ったが、なかなか商談が成立しなかった。
しかしそんな中、自国陸軍が運用している旧式なソ連製のZSU-57-2対空自走砲の後継車両の調達を計画していたフィンランド政府が、比較的安価で高性能な対空自走砲としてマークスマンに目を付けた。

フィンランド政府は当時陸軍が運用していたソ連製のT-55AM戦車の車体への搭載を目的として、マルコーニ社に対して所定の砲塔リング径に改めることを条件として1988年12月にマークスマン砲塔システム7基を発注し、製作された砲塔は1991年10月から引き渡しが開始された。
しかし1992年に不具合が発見されたため1993〜94年にかけて改修が行われ、1996年から実戦配備が開始された。

「It.Psv.90 Marksman」(Ilmatorjuntapanssarivaunu 90 Marksman:90式対空戦車マークスマン)として制式化されたフィンランド陸軍のマークスマンは、前述のように当初T-55AM戦車の車体に搭載されて運用されていたが、後にフィンランド陸軍がドイツから中古のレオパルト2A4戦車を導入したため、現在はレオパルト2A4戦車の車体に載せ替えて運用が続けられている。

レオパルト2A4車体へのマークスマン砲塔の移設作業は2015年に開始され、2016年からレオパルト2A4車体のマークスマンの部隊配備が開始されている。
なおマークスマン対空自走砲の実戦配備に伴って、フィンランド陸軍のZSU-57-2対空自走砲は2006年までに全車が退役している。


<T-55AMマークスマン対空自走砲>

全長:    
車体長:   6.45m
全幅:    3.526m
全高:    
全備重量: 41.0t
乗員:    3名
エンジン:  V-55U 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 620hp/2,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 500km
武装:    90口径35mm対空機関砲KDA×2 (500発)
装甲厚:


<レオパルト2A4マークスマン対空自走砲>

全長:    9.30m
車体長:   7.722m
全幅:    3.70m
全高:    4.82m
全備重量: 49.0t
乗員:    3名
エンジン:  MTU MB873Ka-501 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp/2,600rpm
最大速度: 72km/h
航続距離: 550km
武装:    90口径35mm対空機関砲KDA×2 (500発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 対空自走砲の歴史と現状」 坂本雅之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 イギリスの対空戦車」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 戦車車体改造の対空自走砲」  アルゴノート社
・「パンツァー2020年2月号 LEOPARD2 MARKSMAN」  アルゴノート社
・「パンツァー2000年3月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート51 スカイスイーパー 対空自走砲」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年10月号 フィンランド軍の戦闘車輌(1)」 齋木伸生 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2016年7月号 チャレンジャー主力戦車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2014年10月号 チーフテン主力戦車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社


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