試製五式四十七粍自走砲 ホル
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+開発
太平洋戦争において日本軍の戦車はアメリカ軍のM3軽戦車やM4中戦車との戦闘で苦しめられたが、その戦訓として強力な対戦車能力を持つ車両を1両でも多く実戦配備する必要性を認識した。
しかし、国力の乏しい日本には強力な戦車を大量生産することは不可能だったため、製造コストの安い既存の車両に強力な対戦車能力を持たせることが模索された。
戦争後半になると、同盟国のドイツから様々な兵器の技術情報がもたらされるようになったが、その中にはヘッツァー駆逐戦車の情報が含まれていた。
ヘッツァー駆逐戦車は、すでに旧式化していたチェコ製の38(t)戦車の車台をベースとし、車体上部を取り払って代わりに固定戦闘室を設け、強力な48口径7.5cm対戦車砲PaK39を限定旋回式に装備した軽便な駆逐戦車で、製造コストが安いため、同様に国力の乏しいドイツでも大量生産することが可能であった。
日本陸軍はこのヘッツァー駆逐戦車に注目し、同様のコンセプトで既存の九五式軽戦車(ハ号車)の車台をベースとした軽自走砲を開発し、大量生産することを計画した。
この軽自走砲は、「◎甲砲119」の計画呼称で戦争末期の1945年2月から開発が開始されたが、「ホル車」の秘匿呼称が与えられた本車は基本的にハ号車の車体上部を取り払って、代わりに傾斜した装甲板で囲まれた固定戦闘室を設け、47mm対戦車砲を限定旋回式に装備したものであった。
ホル車の設計は車体を第四陸軍技術研究所、主砲を大阪造兵廠が担当した。
1945年4月には車体の設計が完了し相模造兵廠で試作車1両が製作され、同年6月末に試作車に大阪造兵廠で製作された主砲が搭載された。
ホル車は試作車1両のみが完成したというのが一般的な説であるが、神戸製鋼所の社史には本車を50両生産したという記述が見られる。
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+攻撃力
ホル車の主砲として装備された試製四十七粍(短)戦車砲は、九七式中戦車改(新砲塔チハ車)や一式中戦車(チヘ車)の主砲として装備された一式四十七粍戦車砲をベースに、試製五式軽戦車(ケホ車)に搭載するために開発された低反動型の戦車砲であり、軽戦車に搭載できるよう射撃時の反動を抑える代わりに若干砲口初速が低下していた。
試製四十七粍(短)戦車砲の開発が開始されたのは1942年9月で、予定では同年12月に完成するはずだったが、陸軍が主力である中戦車およびその搭載火砲の開発を優先したため試製四十七粍(短)戦車砲の開発は大幅に遅れ、戦争末期の1945年3月にようやく完成したとも、終戦までに完成しなかったともいわれている。
同様の理由でケホ車自体も大幅に開発が遅れ、1942年に開発が計画されたものの試作車が完成したのは1945年になってからであった。
試製四十七粍(短)戦車砲の詳細な性能については不明であるが、砲口初速が一式四十七粍戦車砲の810m/秒から740m/秒に低下しているので、装甲貫徹力も若干低下しているものと思われる。
ちなみに一式四十七粍戦車砲の装甲貫徹力は一式徹甲弾を用いた場合、射距離500mで65mm、1,000mで50mmとなっていた。
ホル車は副武装の機関銃などは装備しておらず、敵歩兵の肉薄攻撃に対する防御は考慮されていなかった。
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+防御力
ホル車の車体上部には、ドイツのヘッツァー駆逐戦車に倣って背の低い固定戦闘室が設けられたが、ヘッツァー駆逐戦車の戦闘室が完全密閉式だったのに対し、ホル車の戦闘室は後方の一部がオープントップとなっていた。
これは主砲の射撃時に発生する発射ガスをここから逃がすと共に、弾薬の供給も行えるように考慮した結果である。
ホル車の戦闘室は避弾経始を考慮して傾斜した装甲板で構成されており、前面の装甲厚は30mmあったため、M3軽戦車が装備する37mm戦車砲にぎりぎり抗堪することができたのではないかと思われる。
一方、車体下部も前面の装甲厚が戦闘室と同じく30mmに強化されており、ベースとなったハ号車に比べると装甲防御力は大幅に向上していた。
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+機動力
ホル車のサスペンションは、ベースとなったハ号車と同じくシーソー式サスペンションを用いていたようだが、ホル車は装甲を強化した影響で重量がハ号車より約1t増加したため、接地圧を下げるために履帯は幅が100mm広い350mm幅のものが用いられた。
また、ハ号車の履帯ガイドが複列式転輪の中央を通るようになっていたのに対し、ホル車の履帯ガイドは転輪を両側から挟む方式に変更されていた。
起動輪についてもハ号車が通常の歯付きのタイプだったのに対し、ホル車の起動輪はソ連のT-34中戦車のように内側で履帯ガイドと噛み合うタイプに改められていた。
エンジンについては、ホル車はハ号車と同じ三菱重工業製のA6120VDe 直列6気筒空冷ディーゼル・エンジン(出力120hp)を搭載していた。
この足周りによって、ホル車はハ号車と同じく路上最大速度40km/hの機動性能を発揮したという。
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<試製五式四十七粍自走砲>
全長: 5.10m
全幅: 2.27m
全高: 1.82m
全備重量: 8.5t
乗員: 3名
エンジン: 三菱A6120VDe 4ストローク直列6気筒空冷ディーゼル
最大出力: 120hp/1,800rpm
最大速度: 40km/h
航続距離:
武装: 試製48口径47mm(短)戦車砲×1
装甲厚: 6〜30mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「パンツァー2010年12月号 日本陸軍 九五式軽戦車」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2008年11月号 日本陸軍の対戦車自走砲」 高橋昇 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年9月号 特集 九五式軽戦車」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「日本軍戦闘車両大全 装軌および装甲車両のすべて」 大日本絵画
・「帝国陸海軍の戦闘用車両」 デルタ出版
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