Mk.V戦車
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+概要
1917年6月のメッシーヌ戦から実戦投入されたMk.IV戦車は、初期の菱形戦車シリーズに実戦から得られた戦訓を盛り込んだ最初の本格的量産型であり、同年11〜12月の第1次カンブレー会戦で大活躍したが、4名の操作員を要する非効率的な変速・操向機や、エンジン出力の低さなど菱形戦車の根本的な欠点は改善されていなかったため走行系統のトラブルが多発し、ほとんど無傷のままドイツ軍に鹵獲されてしまう車両が続出した。
ドイツ軍は鹵獲したMk.IV戦車の武装を、自軍のA7V突撃戦車と同じく26口径5.7cmゾコル加農砲と7.92mm機関銃MG08に換装し、車体に大きな鉄十字のマーキングを施して「鹵獲IV号戦車」(Beute-Panzerkampfwagen
IV)の呼称を与え、自軍の装備として使用した。
ドイツ軍はA7V突撃戦車の不足を補うために、連合軍から鹵獲した戦車のみを装備する戦車部隊を1917年末に編制したが、その数は7個中隊にも及んでいる。
イギリス陸軍は菱形戦車の走行系統を根本的に改善することを検討し、1917年春頃から数種類の新しい動力装置の試験を開始した。
試験の結果、ダイムラー社やブリティッシュ・ウェスティングハウス社が開発した電気駆動機構が優れた性能を発揮することが確認されたが、電気駆動機構は複雑で高価なシステムだったため、イギリス陸軍はより安価で堅実なウィルソン遊星歯車式変速・操向機を採用することを決めた。
この変速・操向機は、菱形戦車の設計者であるRNAS(Royal Naval Air Service:イギリス海軍航空隊)のW.G.ウィルソン海軍少佐が設計したもので、イギリス陸軍は彼にMk.IV戦車をベースに、この変速・操向機を組み込んだ新型戦車の設計を依頼した。
Mk.V戦車の設計は1917年10月に着手され、同年12月からソルトリーのMARCW社(Metropolitan Amalgamated Railway
Carriage and Wagon:メトロポリタン合同客車・貨車製作所)で生産が開始された。
Mk.V戦車は1918年5月から部隊配備が開始され、同年11月に第1次世界大戦が終結するまでに400両が生産された。
従来の菱形戦車と同様に、Mk.V戦車にも6ポンド(57mm)戦車砲を装備する雄型と7.7mm機関銃装備の雌型が存在し、雄型と雌型は1:1の割合で生産された。
Mk.V戦車は従来の菱形戦車に比べて機動力、防御力、視察性など多岐に渡って性能が向上していた。
変速・操向機は従来の4名で操作するものから、1名で操作できるウィルソン遊星歯車式変速・操向機に変更され、エンジンもショアハム・バイ・シーのリカード社が菱形戦車用に開発した、高出力の直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力150hp)が搭載された。
Mk.V戦車はMk.IV戦車より戦闘重量が約1t増加したが、こうした走行系統の改良によって路上最大速度はMk.IV戦車の3.7マイル(5.95km)/hから、4.6マイル(7.4km)/hへと逆に向上している。
また燃料タンクの容量がMk.IV戦車の318リットルから423リットルに増加したため、路上航続距離もMk.IV戦車の35マイル(56km)から45マイル(72km)へと大きく向上している。
Mk.V戦車では車体上面後部に車長用の大型キューポラが設置され、全方向へ優れた視界を得ることができるようになった。
また車長用キューポラに設けられたフラップを通じて、不整地脱出用の角材の履帯への取り付け/取り外しを車内から行うことができるようになった。
Mk.V戦車の履帯は、前期生産分の200両では20.5インチ(520.7mm)幅のものが使用されたが、後期生産分の200両については、接地圧の減少を図って26.5インチ(673.1mm)幅の幅広履帯に換装されている。
変速・操向機の変更に伴って、初期の菱形戦車で車体後部に設けられていた大型の操舵用車輪が廃止されたため、Mk.V戦車では車体後部にも機関銃マウントを装備することが可能となった。
Mk.V戦車の派生型としては、雌型のスポンソンを雄型の6ポンド戦車砲を装備したものに交換した雌雄型戦車、スポンソンの代わりに車体側面にスライドドアを装備した装甲兵員輸送車、超壕能力を向上させるために車体を前後に切断して、中央に延長部を挿入したMk.V*戦車やMk.V**戦車が開発されている。
また中戦車Mk.D計画の試験用に、「スネイク」(Snake:ヘビ)変形履帯を装着した実験用Mk.V戦車も製作された。
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<Mk.V戦車 雄型>
全長: 8.05m
全幅: 3.95m
全高: 2.63m
全備重量: 29.5t
乗員: 8名
エンジン: リカード 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/1,250rpm
最大速度: 7.4km/h
航続距離: 72km
武装: 23口径6ポンド戦車砲×2 (332発)
7.7mmオチキスM1914重機関銃×3〜4 (6,272発)
装甲厚: 8〜16mm
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<Mk.V戦車 雌型>
全長: 8.05m
全幅: 3.32m
全高: 2.63m
全備重量: 28.5t
乗員: 8名
エンジン: リカード 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/1,250rpm
最大速度: 7.4km/h
航続距離: 72km
武装: 7.7mmヴィッカーズ重機関銃×4 (16,200発)
7.7mmオチキスM1914重機関銃×1〜2
装甲厚: 8〜16mm
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兵器諸元(Mk.V戦車 雄型)
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<参考文献>
・「パンツァー2014年10月号 第一次大戦の戦車総覧 初登場した地上戦の主役達」 荒木雅也 著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2011年1月号 陸戦に新時代をもたらした菱形戦車Mk.I〜VIII (3)」 箙公一 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年1月号 鋼鉄の怪物 イギリスの菱型戦車インアクション」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2020年3月号 第1次大戦のイギリス軍戦車」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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