オチキスH35/H38/H39軽戦車
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+概要
オチキスH35軽戦車は元々、フランス陸軍が1933年8月に開始した新型軽戦車整備計画に沿って、サン・ドニのオチキス社が歩兵部隊用軽戦車として開発を始めたものである。
フランス陸軍は歩兵科と騎兵科では区分は別となっており、同じような車両を採用しても横の繋がりは全く無く、扱いは別となっていた。
このような兵科ごとの縄張り争いはフランス以外の軍隊でも見られ、日本陸軍では騎兵科の戦車を「装甲車」と呼び、アメリカ陸軍でも騎兵科の戦車を「戦闘車」と呼んで歩兵科の戦車と区別していた。
フランス陸軍の新型軽戦車はルノー社とオチキス社の競争試作となり、オチキス社製の車両はモックアップ段階では評判が良かったがエンジンの出力不足や、サスペンションの欠陥ならびに重量配分の不備による軟弱地での機動性の悪さが指摘され、本命であった歩兵戦車としては不合格となってしまった。
しかし騎兵監部は歩兵戦車としては採用されなかったオチキス社製の車両を、新たに改修を施して騎兵戦車として採用することを決め、1934年に最初の試作車が完成した。
翌35年には「H35軽戦車」(Char léger Modèle 1935H)として制式化が決まり、1936年4月27日に200両の受注を受けて生産が開始された。
H35軽戦車は車体を構成する装甲板に大幅に鋳造方式を採用し、継ぎ目をなるべく少なくするように努力しており、車体の構造強度を向上させるのに成功している。
またこちらも鋳造製のAPX社(Atelier de Construction de Puteaux:ピュトー工廠)製APX-R砲塔は、1名用の小型のもので、同社製の21口径37mm戦車砲SA18
1門と、MAC社(Manufacture d'armes de Châtellerault:シャテルロー造兵廠)製の7.5mm機関銃M1931
1挺を防盾に同軸装備していた。
H35軽戦車のサスペンション・システムは、先に開発されたルノー社製騎兵戦車の影響を多大に受けており、車体両側に3本の水平コイル・スプリングと、3組のシザーズ型ベルクランクを連結した構成となっており、操向機はクリーブランド式差動歯車システムが導入されており、起動輪は前部に置かれていた。
エンジンは、オチキス社製のM1935 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(排気量3,480cc、最大出力75hp)を搭載していた。
H35軽戦車の生産は1939年9月まで続けられ、625両が完成している。
H35軽戦車の機動性能は、改修を施した後でも年月を経るに従って不足気味となってきたため、1938年には搭載エンジンを強力なものに換装したH38軽戦車が登場している。
新たに搭載されたオチキス社製のM1938 直列6気筒液冷ガソリン・エンジンは、排気量が5,976ccに増大しており最大出力120hpを発揮した。
これによりH38軽戦車の路上最大速度は、H35軽戦車の27.3km/hから35.5km/hに向上している。
H38軽戦車は1,080両が生産されており、オチキス社製騎兵戦車では最も多く製造されている。
また、H38軽戦車ではエンジンの換装によって機関室の外観が大きく変化しているので、H35軽戦車との識別は比較的容易である(H35軽戦車の機関室が後部に向かって下がっていたのに対し、H38軽戦車の機関室は上面が平らで後部まで高くなっていた)。
1939年にはH38軽戦車の主砲を、より強力なAPX社製の33口径37mm戦車砲SA38に換装したH39軽戦車が登場している。
このH39軽戦車は当初、小隊長車として優先的に配備が進められた。
1940年5月10日にはドイツ軍のフランス侵攻が開始されてしまったため、H39軽戦車の生産数は770両に留まっている。
これらオチキス社製騎兵戦車は主に騎兵科の軽機械化師団や騎兵師団へ配備されたが、結局歩兵科の機甲師団にも相当数が配備されている。
車体前面の装甲厚が34mmと当時の軽戦車としてはかなり厚い装甲を持っており、運用が巧みならば機関銃や機関砲搭載のドイツI号/II号戦車はもちろん、まだ装甲の薄かったIII号/IV号戦車や、チェコ製軽戦車などにもかなりの損失を与える能力があったはずなのだが、まずい運用と戦車兵の士気の低さ、それに乗員がわずか2名という要素が絡む戦闘能力上の欠陥で、力を発揮することができなかった。
1940年6月22日のフランス降伏後、これらオチキス社製騎兵戦車は相当数がドイツ軍に接収された。
ドイツ軍は装備をドイツ軍仕様に改めた上で二線級戦車として使用した他、自走砲等にも改造し東部戦線と地中海周辺の戦場に投入している。
またオチキス社製騎兵戦車はフランス義勇軍でも使用されており、戦後も1956年までイスラエル軍で使用された車両もあった。
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<H35軽戦車>
全長: 4.215m
全幅: 1.853m
全高: 2.134m
全備重量: 10.6t
乗員: 2名
エンジン: オチキスM1935 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 75hp/2,800rpm
最大速度: 27.3km/h
航続距離: 240km
武装: 21口径37mm戦車砲SA18×1 (81発)
7.5mm機関銃M1931×1 (1,500発)
装甲厚: 12~45mm
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<H38軽戦車>
全長: 4.215m
全幅: 1.853m
全高: 2.134m
全備重量: 12.0t
乗員: 2名
エンジン: オチキスM1938 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 120hp/2,800rpm
最大速度: 35.5km/h
航続距離: 150km
武装: 21口径37mm戦車砲SA18×1 (81発)
7.5mm機関銃M1931×1 (1,500発)
装甲厚: 12~45mm
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<H39軽戦車>
全長: 4.215m
全幅: 1.853m
全高: 2.134m
全備重量: 12.0t
乗員: 2名
エンジン: オチキスM1938 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 120hp/2,800rpm
最大速度: 35.5km/h
航続距離: 150km
武装: 33口径37mm戦車砲SA38×1 (81発)
7.5mm機関銃M1931×1 (1,500発)
装甲厚: 12~45mm
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兵器諸元(オチキスH35軽戦車)
兵器諸元(オチキスH39軽戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2014年9月号 フランス歩兵戦車 オチキスH35/H39」 オイゲン・フラットフィールド 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2010年8月号 フランス軍軽戦車 ルノーR35とオチキスH35/39 (2)」 吉田直也 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2014年11月号 歴代戦車砲ベストテン」 荒木雅也/久米幸雄/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年1月号 1940年におけるフランス戦車」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年3月号 ドイツ軍が使用した捕獲車輌」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年4月号 大戦初期のフランス戦車」 斎木伸生 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2000年5月号 フランス軍軽戦車
ルノーR35/オチキスH35~39」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「グランドパワー2017年12月号 ドイツ軍捕獲戦闘車輌」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次~第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「世界の戦車
1915~1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「ビジュアルガイド WWII戦車(1)
電撃戦」 川畑英毅 著 コーエー
・「戦車名鑑 1939~45」 コーエー
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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