FV4333ストーマー装甲兵員輸送車 |
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+CVR(T)の開発
イギリス戦争省は1960年に、1956年からコヴェントリーのアルヴィス社で量産が開始された6×6型の、FV601「サラディン」(Saladin:サラセンの王で十字軍をさんざん悩ませたことで知られる)戦闘偵察車の後継となる車両についての要求仕様をまとめたが、その内容は偵察を主任務とするが単に偵察に留まらず、ある程度の歩兵支援能力を備え、対戦車戦闘能力も持たせるという一種の多目的戦闘車両とされた。 これに対して、クライストチャーチに置かれた「FVRDE」(Fighting Vehicles Research and Development Establishment:戦闘車両研究開発局)は、「AVR」(Armored Vehicle Reconnaissance:偵察用装甲車両)というプランを提示した。 これは、半埋没式の砲塔に75mm戦車砲を装備する重量13.5tの装軌式の車両であり、砲塔の旋回範囲は左右各90度ずつで、操縦手を含む3名の乗員全員が砲塔内に位置することになっていた。 エンジンについては、当時開発が進められていたFV433「アボット」(Abbot:大司教)105mm自走榴弾砲への採用が検討されていた2種類のエンジンのいずれか、(ダービーのロールズ・ロイス社製のK60 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(240hp/3,750hp)か、同社製のB81 直列8気筒液冷ガソリン・エンジン(185hp/3,750rpm))を採用する予定であった。 また当時の流行に従って車体後部左右に、ヒートンチャペルのフェアリー航空機産業と、ウェストミンスターの英国航空機(現BAEシステムズ社)が共同開発した、「スウィングファイア」(Swingfire:曲がる炎)対戦車ミサイルの起倒式5連装発射機を、前方へ向けて装備することになっていた。 さらに、本車に105mm榴弾砲を装備して砲兵部隊に配備することも検討されたらしい。 1961年、戦争省はAVRと同様の任務に用いる装輪式車両の開発も計画するが、FVRDEはこれに対してやはりAVRと同様、75mm戦車砲とスウィングファイア対戦車ミサイルを装備する重量13.6tの車両のプランを提示した。 戦争省はこれらの両プランを比較検討したが、装軌式、装輪式、それぞれに特有の長所と短所があることから、単純な比較はできないとしてサラディン戦闘偵察車の後継車両の開発計画そのものを、一旦白紙とすることを決定した。 1964年春、戦争省は改めて軽量装甲車両の開発計画「CVR」(Combat Vehicle Reconnaissance:戦闘偵察車両)を立案するが、大変興味深いことにCVR計画では、装軌式と装輪式の2つの仕様の車両を並行して開発することとされていた。 そして開発・生産・運用に掛かるコストの低減のため、CVRシリーズの車両は全て共通のエンジンを搭載することになっていた。 さらに重量を始めとする車両規模についても、当時のイギリス軍の最新鋭輸送機であるAW.660「アーゴシー」(Argosy:大型船)中型輸送機や、開発中であったHS.780「アンドーヴァー」(Andover:イングランド南部の町名)中型輸送機の積載規格に適合させることとなった。 これら2つのプランは装軌式が「CVR(T)」、装輪式が「CVR(W)」(”T”はTracked:装軌式、”W”はWheeled:装輪式の頭文字)と呼称され、全幅を可能な限り抑制し、重量は基本的に6.5〜7.7t程度とすること。 高い機動力と全周からの軽火器の攻撃に対する抗堪性、および24時間の連続戦闘に乗員が耐えられるだけの居住性の確保。 そして空中からのパラシュートによる投下を考慮し、さらに車体の延長などにより、対戦車戦闘から兵員輸送までの任務に対応できる発展型を製作できることとされた。 このうち装輪式のCVR(W)は、後にFV721「フォックス」(Fox:キツネ)装甲偵察車として制式化されることになるが、この時「可能な限りの全幅の抑制」に関しては、「2.1m程度」という数値が挙げられていた。 これは、東南アジア地域のゴム農園内での本車の運用を想定した結果であり、イギリスは当時、相次ぐ植民地の喪失に悩んでいたのだが、それでもそうした地域への武力介入の意志を放棄せず、このような車両の製作を計画していたのである。 1964年8月、FVRDEは新型装軌式車両CVR(T)の構想を具体化するために、「TV15000」(Test Vehicle 15000)と呼ばれる実験車体を製作し、主に走行性能についての試験を開始した。 15000とは本車の重量15,000ポンド(6.804t)を表し、砲塔を搭載してはいなかったが、防弾アルミ製の装甲板やその構成などは、後のFV101「スコーピオン」(Scorpion:サソリ)軽戦車とほぼ同じものとなっていた。 なお前述のようにCVR(T)/CVR(W)は当初、アボット自走榴弾砲と同じロールズ・ロイス社製のエンジンを搭載する予定であったが、後にコヴェントリーのジャギュア自動車製の、J60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(190hp/4,750rpm)に変更された。 TV15000は、サスペンション機構を油気圧方式とすることで走行性能の向上を期待したが、複雑で重量を食うこの機構は本車との相性があまり良好とはいえなかった。 しかし、履帯を従来の鋼製より一割ほど軽量なアルミ合金製のものに換えたところ、最大速度が鋼製履帯装着時の30マイル(48.28km)/hから48マイル(77.25km)/hにまで、劇的ともいえる向上を示した。 1965年8月、FVRDEはさらに2つの実験用車框を製作した。 1つは車体の前半部分のみの固定式で、エンジンと冷却機構の作動状況の確認に使用された。 もう1つは、エンジンから履帯までを装着した「MTR」(Mobile Test Rig)と呼称される走行実験用で、サスペンション機構はトーションバー(捩り棒)方式となり、変速・操向機も、それまで別体であった変速機と操向機が一体化されていた。 MTRには当初は砲塔が搭載されていなかったが、後にはそれも搭載され、これが実質的にスコーピオン軽戦車の原型となった。 これを受けイギリス国防省(1964年に戦争省から改組)は、1967年9月にCVR(T)の生産担当企業を決定するための入札を行った。 落札したのはFV601サラディン戦闘偵察車、FV603サラセン装甲兵員輸送車などの開発と生産を担当したアルヴィス社で、まず17両の試作車を製作する契約が締結された。 CVR(T)の試作第1号車は1969年1月23日に完成したが、多くの場合、新型AFVの開発は予定の日程を多少なりとも超過してしまうものだが、試作第1号車の竣工は予定の期日通りだったので、本車の開発がスムーズに進行したことを伺わせる。 1969年9月、国防省は本車に「FV101」(Fighting Vehicle 101:戦闘車両101型)の戦闘車両番号と、「スコーピオンMk.1」の型式呼称を与えると共に、その存在を正式に公表した。 残りの16両の試作車も1970年の中頃までには完成し、同年5月に国防省はスコーピオン軽戦車をイギリス陸軍に制式採用すると共に、アルヴィス社と量産に関する契約を交わした。 また同年10月にはベルギー国防省が、自国陸軍向けとしてスコーピオン軽戦車を含むCVR(T)シリーズ701両を発注し、同時にベルギー国内でのライセンス生産についての協議が始められた。 スコーピオン軽戦車のイギリス陸軍向けの量産は1971年に開始され、生産型第1号車は1972年初めに完成して直ちにイギリス陸軍に納入された。 またベルギー陸軍向けの生産車は、1973年2月から納入が開始された。 こうしてスコーピオン軽戦車の量産が進められる一方で、そのファミリー車両の開発もアルヴィス社で進められた。 スコーピオン軽戦車のファミリー車両は、FV102「ストライカー」(Striker)自走対戦車ミサイル、FV103「スパータン」(Spartan:スパルタ人)装甲兵員輸送車、FV104「サマリタン」(Samaritan:サマリア人)装甲救急車、FV105「スルタン」(Sultan:イスラム教国の君主号の1つ)装甲指揮車、FV106「サムソン」(Samson:旧約聖書に登場する大力の勇士)装甲回収車、FV107「シミター」(Scimitar:三日月刀)装甲偵察車など多岐に渡っており、イギリス陸軍におけるCVR(T)シリーズの採用数は3,000両を超えている。 |
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+FV4333ストーマーの開発と生産
CVR(T)シリーズは軽便な装軌式車両で、様々な用途に使用できる汎用性が評価されたが、その一方で車体サイズが小柄過ぎて、居住性や車台としての安定性に問題があることが欠点として指摘されるようになった。 このためアルヴィス社は自己資金で、CVR(T)をより大型化、近代化した改良型の開発を開始した。 1978年にはAPC(装甲兵員輸送車)型の試作車が完成し、FV4333「ストーマー」(Stormer:大暴れする人、怒鳴り散らす人)の呼称が与えられた。 同じCVR(T)シリーズのAPCであるFV103スパータンとFV4333ストーマーの最大の違いは、狭い車内容積を改善するために転輪を片側5個から6個に増やして、車体長を延長した点である。 またこのことにより、ストーマーは他のCVR(T)シリーズに比べて車台としての安定性と汎用性が高められ、APC以外にも工兵車両や架橋車両などの、各種派生型のベース車台に用いることが容易になった。 1980年代初頭にアメリカ陸軍と海兵隊は、緊急派遣部隊が装備する新型戦闘車両として、「LAV」(Light Armoured Vehicle:軽装甲車両)計画をスタートさせた。 この際の要求は、C-130中型輸送機やCH-53大型ヘリコプターで空輸でき、高い信頼性を有し、路上最大速度は50マイル(80.47km)/h以上、路上航続距離は400マイル(644km)以上、7.62mm機関銃弾に対する耐弾性を備え、NBC防御力を持つなどというものであった。 この計画に対して8社から仕様書が提出され、その内3社が実車の製作契約を結んだ。 この内の1社であるカナダのジェネラル・モータース・オブ・カナダ(GMカナダ)社は、当時カナダ陸軍より旧式化したリンクス装甲偵察車の後継車両の開発を要求されており、スイスのモヴァーク社からライセンス生産権を取得していた8×8型のピラーニャ装甲車を原型として、各部に改良を加えた車両の開発を進めており、これをLAV計画に提案した。 また、アメリカのキャディラック・ゲージ社は4×4型のV-150装甲車と6×6型のV-300装甲車を提案し、アルヴィス社は装軌式のストーマー装甲車を提案した。 この時アルヴィス社が提案したストーマーは、スイスのエリコン社製の85口径20mm機関砲KAAと7.62mm機関銃を同軸に装備する、ベルヴェディールのヘリオ社製のFVT900 1名用砲塔を搭載したIFV(歩兵戦闘車)型で、大型砲塔を搭載していながら、車体後部の兵員室内に8名の完全武装歩兵を収容することができた。 ストーマーIFVの試作車は3両発注され、1981年に最初の試作車が完成している。 しかしストーマーIFV、ピラーニャ改良型、LAV-150、LAV-300の4車種による性能比較試験を実施した結果、アメリカ海兵隊(陸軍は予算難によりLAV計画から途中撤退)は1982年9月に、GMカナダ社が提案したピラーニャ改良型をLAV計画の勝者に決定し、残念ながらストーマーIFVは落選した。 一方、1981年にマレーシア国防省は自国陸軍向けにストーマー・シリーズを導入することを決定し、アルヴィス社に対して25両を発注した。 この25両の内13両は基本型であるAPC型で、残りの12両は、アメリカ軍のLAV計画に提案されたのと同じIFV型であり、1983年から引き渡しが開始された。 ただしこのIFV型を、LAV計画に提案されたタイプとは異なっていたとする資料もある。 それによると、マレーシア国防省が発注したストーマーIFVは、エリコン社製の87口径25mm機関砲KBA-B02と7.62mm機関銃を同軸に装備する、西ドイツのティッセン・ヘンシェル社製のTH-1 2名用砲塔を搭載したタイプであったという。 ストーマー・シリーズは当初、本家イギリス陸軍では採用されなかったがやがて、同陸軍が運用する自走型レイピア対空ミサイル・システムの後継車両を模索していた、イギリス国防省の目に留まった。 国防省は自走型レイピアの後継として、ベルファストのショート・ブラザーズ社が開発を進めていた「スターストリーク」(Starstreak:星芒)対空ミサイルの旋回式ターレットを搭載する自走発射機を、イギリス陸軍に導入することを計画していたが、この自走発射機のベース車台として1986年夏にストーマーを選定したのである。 なおスターストリークは、イギリス軍では「HVM」(High Velocity Missile:高速ミサイル)と呼ばれる。 イギリス国防省はアルヴィス社に対して、ストーマーHVM自走発射機の開発と156両の生産を発注したが、超高速ミサイルという新しいコンセプトを採用したスターストリークの開発は難航し、1995年からようやくイギリス陸軍への引き渡しが開始され、実戦部隊への配備は1997年から行われた。 また1990年10月にイギリス国防省はアルヴィス社に対して、地雷敷設車型のストーマーVLSMS(Vehicle-Launched Scatterable Mine System:車両散布式地雷システム)の開発と、29両の生産を発注している。 ストーマーVLSMSは、ストーマーAPCの車体後部に設けられている兵員室部分をオープンの平床に改装し、アメリカのアライアント・テックシステムズ社製の「ヴォルケーノ」(Volcano:火山)VLSMSの派生型である、「シールダー」(Shielder:盾)VLSMSを搭載した地雷敷設システムである。 ストーマーVLSMSは1995年に開発が完了し、1999年からイギリス陸軍への配備が開始されたが、2014年には運用が停止されている。 一方、オマーン国防省は自国陸軍の近代化を図るため、1993年にイギリスからチャレンジャー2戦車を導入することを決定した。 そして同年に、リーズのヴィッカーズ・ディフェンス・システムズ社に18両のチャレンジャー2戦車を発注した際に、併せてアルヴィス社に対して、4両のACV(装甲指揮車)型のストーマーを発注した。 ストーマーACVはFV105スルタンと同様、ストーマーAPCの後部兵員室部分を嵩上げして指揮官用の作戦室に改装し、地図板の設置、無線装備の強化等を図った車両である。 また、1990年代後期にインドネシア国防省は自国陸軍の装備強化を図るため、アルヴィス社に対して合計40両のストーマー・シリーズを発注し、1997〜99年にかけてインドネシア陸軍に引き渡された。 その内訳は基本型であるストーマーAPC以外に、車体後面に2基の駐鋤を装備し、車体上部にクレーン、車内にウィンチを搭載した装甲回収車型や、車体上面に折り畳み式の橋体を搭載した装甲架橋車型などの派生型も含まれていた。 また2022年には、ロシアによる軍事侵攻を受けていたウクライナに対し、イギリス政府が自国陸軍のストーマーHVMの内6両を寄贈する意思を表明し、同年中に引き渡しが完了している。 |
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+攻撃力
FV4333ストーマーの基本型であるストーマーAPCは、FV103スパータンと同じく兵員輸送用の車両であるため、武装は自衛用の機関銃1挺しか装備していない。 ストーマーAPCの武装は、車長用のNo.16視察用キューポラの左側にあたる車体上面に、7.62mm機関銃を1挺装備している。 この機関銃は車内からの操作で射撃を行うことができるようになっているため、車長が射撃時に敵から狙撃されるリスクを回避できる。 車内には、7.62mm機関銃弾が3,000発搭載される。 一方、歩兵戦闘車型であるストーマーIFVは前述のように、85口径20mm機関砲KAAをFVT900 1名用砲塔に搭載したタイプ、87口径25mm機関砲KBA-B02をTH-1 2名用砲塔に搭載したタイプなどが存在する。 KAAは20×128mmの弾薬を使用し、砲口初速1,050m/秒、発射速度1,000発/分の性能を持つ。 一方、KBA-B02は25×137mmの弾薬を使用し、砲口初速1,100m/秒、発射速度600発/分の性能を持つ。 また後述のように、ストーマーの新しい派生型として戦闘偵察車型のストーマー30が開発されているが、この車両はアメリカのアライアント・テックシステムズ社製の80.3口径30mm機関砲Mk.44ブッシュマスターII 1門と、ヒューズ・エアクラフト社製のBGM-71 TOW対戦車ミサイル発射機2基を装備する2名用砲塔を搭載している。 Mk.44「ブッシュマスター(Bushmaster:中南米に生息する大型の毒ヘビ)II」は、30×173mmの弾薬を使用し、砲口初速1,080m/秒、発射速度200発/分、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用した場合、戦後第2世代MBT(主力戦車)の前面装甲を貫徹可能である。 一方、BGM-71 「TOW」(Tube-launched Optically-tracked Wire-to-command-Link:チューブ発射-光学追尾-有線誘導)は、1970年に開発され、西側諸国で最も広く使用されている対戦車ミサイルの1つである。 TOW対戦車ミサイルは、SACLOS(Semi-Automatic Command to Line Of Sight:半自動指令照準線一致)誘導方式の第2世代対戦車ミサイルで、最大飛翔速度179m/秒、有効射程65〜3,750m、新型のTOW2ミサイルは5.9kgの成形炸薬弾頭を備え、900mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を穿孔可能である。 |
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+防御力
FV4333ストーマーは、同じくアルヴィス社が開発した前作のサラディン戦闘偵察車と同様、車体・砲塔共に圧延装甲板の溶接構造となっているが、軽量化を図るために装甲材質がサラディンの防弾鋼板から、防弾アルミ板に変更されている。 ストーマーに用いられた防弾アルミ板は、アメリカのM113装甲兵員輸送車シリーズなどに用いられている7039防弾アルミ板に、特殊な熱処理を施して剛性を強化したE74S防弾アルミ板である。 その組成の詳細は不明な点があるが、アルミニウムを主体とする亜鉛とマグネシウムの合金であり、現在「超々ジュラルミン」と呼ばれるものとほぼ同じと考えて良い。 防弾能力を同一とする場合、一般的にアルミ板は鋼板の2.8倍の厚さを必要とする。 これは、ストーマーのような小型車両では内部容積にあまり良い影響を及ぼさないが、断面積が大きい分、接合部の強度の確保が容易になるという利点がある。 本車の防弾能力は前面が旧ソ連製の14.5mm重機関銃弾の、他の面は7.62mm機関銃弾の直射に耐える。 試験では1.5mの至近距離に着弾した105mm榴弾の炸裂に耐え、また地雷の爆発では、走行装置は激しく損傷したものの、車内には全く被害が及ばなかった。 前述のように、ストーマーの車体は防弾アルミ板の溶接構造となっているが、車体前端部のみは防弾アルミの鋳造製となっている。 ストーマーの基本型であるストーマーAPCの車内レイアウトは、車体最前部に変速・操向機を配し、その後方右側が機関室、左側が操縦室となっている。 操縦手の後方には車長、その右側に無線手が位置する。 車体最後部は、8名の完全武装歩兵を収容できる兵員室となっている。 ストーマーのNBC防御機構は、兵員室内に設置するようになっている。 なお本車は、外気温が−30℃〜+50℃の範囲であれば支障なく活動できる。 車体上面前部には、エンジンと変速・操向機用のアクセスパネルや吸排気グリルが設けられており、エンジンの反対側の車体前部左側に、操縦手席と操縦手用ハッチが設けられている。 操縦手用ハッチの前方には、操縦手用の広角ペリスコープが1基装備されているが、夜間操縦の際にはこれを、レイソムのピルキントン光電子工学製のパッシブ式暗視ペリスコープに交換する。 また車体上面前部の左右両側には、4連装の66mm発煙弾発射機が各1基ずつ装着されており、不意に敵の戦闘車両と遭遇した際に煙幕を展開して車両を隠蔽することができる。 車体上面の後半部分は前方右側に無線手用ハッチ、前方左側に車長用のNo.16視察キューポラが設けられているが、車長用キューポラの周囲には全周に向けて8基のペリスコープが装備されている。 無線手用ハッチと車長用キューポラの後方には、搭乗兵員用に左右に開く大型ハッチが設けられている。 兵員室の側面には各兵員用に視察用ペリスコープが用意されているが、車内から携行火器を射撃するためのガンポートは設けられていない。 兵員室への通常の出入りは、車体後面に設けられた右開き式の乗降用ドアを用いて行われる。 車体右側面には、上部中央からエンジン排気管が後方へ向けて導設されている。 反対の車体左側面には大型の雑具箱が取り付けられており、車体左右側面にはそれ以外にも空きスペースに斧やスコップなどの工具類が備えられている。 車体後面には両端の上部に小さな丸い赤色の反射板が、下端中央には牽引具取付金具が装備され、その下にイギリス軍伝統の車間距離確認用の白い縦線が描かれている。 |
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+機動力
前述のようにCVR(T)シリーズの車両は当初、ジャギュア自動車製のJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジンを搭載していた。 このJ60エンジンは、イギリス製の自動車用ガソリン・エンジンとしては卓越した高性能エンジンであったが、最大出力190hp/4,750rpmと、他のCVR(T)シリーズより大型化して重量が増大したFV4333ストーマーにとってはややアンダーパワーであった。 また、ガソリン・エンジンは被弾時に火災が発生する危険性が高いため、当時他国のAFVはディーゼル・エンジンが主流になりつつあった。 このため、ストーマーのエンジンはより高出力のディーゼル・エンジンを搭載することになり、検討の結果ピーターバラのパーキンズ発動機製の、T6.3544 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが採用された。 T6.3544エンジンの諸元は総排気量5,795cc、圧縮比16:1、最大出力250hp/2,800rpmとなっている。 一方、ストーマーの変速・操向機は、他のCVR(T)シリーズに採用されているコヴェントリーのSCG社(Self-Changing Gears:自動変速ギア会社)製のTN15半自動変速・操向機(前進7段/後進7段)を基に、ハダースフィールドのDBE社(David Brown Engineering:デイヴィッド・ブラウン工業)が開発した、T300半自動変速・操向機(前進7段/後進7段)が搭載されている。 T300変速・操向機は、基本的な概念はTN15変速・操向機と同一であるが、全体的にアップグレードされたコンポーネントを使用した新しい設計となっており、より大重量の車両にも対応できるようになっている。 一方、ストーマーの足周りは前方の起動輪、後方の誘導輪と片側6個の中直径転輪を組み合わせており、開発当初は他のCVR(T)シリーズと同じく上部支持輪は装備していなかったが、後の生産型では片側2個の上部支持輪を新設している。 転輪は防弾アルミの鋳造製で、外周にゴム縁が付いた複列式のものが用いられている。 第1転輪と第6転輪には油圧式のショック・アブソーバーが取り付けられており、サスペンションの上下動幅は上に約100mm、下に約200mmとなっている。 起動輪の外周部は、歯の部分を除いてポリウレタン製のカバーに覆われており、誘導輪の外周にもゴム縁が付いている。 履帯は、マンガン鋼製のシングルピン/シングルブロック型のもので、走行寿命は約5,000kmとなっている。 これは、結合ピンに樹脂製のブッシュが取り付けられているライブピン式で、踏面にゴムパッドが付いている。 これらの特徴は、履帯と転輪類との摩擦の減少と騒音の低減に効果的であり、ストーマーの機動時の騒音は、ディーゼル・エンジンを搭載したトラックと同等程度である。 なお前述のようにCVR(T)シリーズは、開発当初は油気圧式サスペンションを採用する予定だったのが、調達コストの低減を図るために、生産型ではより安価なトーションバー式サスペンションに変更された。 しかし足周りを工夫することで摩擦を減少させ、高性能ディーゼル・エンジン、軽量な車体を組み合わせたことで、ストーマーは路上最大速度50マイル/h、路上航続距離400マイルという、装軌式車両としては異例の高い機動性能を発揮する。 さらに本車は浮航能力も備えており、浮航スクリーンを展張するなど簡単な事前準備を行えば、河川を水上渡渉することが可能である。 水上での推進力は履帯の回転で得るようになっているため、航行速度は3.6マイル(5.79km)/hと遅いが、追加のプロペラ・キットを取り付ければ、7マイル(11.27km)/hの速度で水上航行することができる。 |
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+派生型
FV4333ストーマーは装軌式車両として手頃なサイズであるため、20mm機関砲、25mm機関砲などを装備するIFV、76mm戦車砲、90mm戦車砲やHOT、TOW、ミラン対戦車ミサイルなどを搭載する戦闘車両、81mm迫撃砲、120mm迫撃砲などを搭載した自走砲の他、回収車、指揮車、工兵車両、救急車など様々な派生型が提案されている。 以下、実用化された主要な派生型を列記する。 ●ストーマーHVM対空ミサイル・システム 前述のように、イギリス陸軍が運用していた自走型レイピア対空ミサイル・システムが旧式化したため、その後継として開発された自走型対空ミサイル・システムである。 ショート・ブラザーズ社が開発したスターストリーク対空ミサイル(イギリス軍呼称:HVM)を、左右に4発ずつ合計8発装備する旋回式ターレットをストーマーの車体上面に搭載しており、ターレットの中央部にはパッシブ赤外線サイトが装備されている。 車体には独立したミサイル射手用の光学サイトが装備されており、車内に予備ミサイル12発を収容している。 射手は照準機で目標を捕捉し、ジョイスティックを操作して視界内の目標に照準を合わせてロックオンすることになる。 発射されたミサイルはレーザー・ビームを捉え、それに乗って(つまりライディングして)目標に向かっていく。 ミサイルの先端は、3本のダーツ状の飛翔物が剥き出しで取り付けられている。 俗称「スティング」(Sting:針・毒牙)と呼ばれるこのダーツは長さ396mm、直径22mm、重量900gの小さいものだが、内部にジャイロや遅延信管、レーザー・レシーバー、そして450gの高性能炸薬による弾頭までが収められており、さながらミサイルの縮小版である。 ミサイルが目標に接近しモーターの燃焼が治まると、この3本のダーツが分離し目標に命中する仕組みである。 それぞれのダーツには推進装置は装備されておらず、切り離された後の慣性で飛翔するようになっている。 ●ストーマー自走対空システム ストーマー自走対空システムは、アメリカ海兵隊が運用しているLAV-AD自走対空システムと同様のコンセプトで、アメリカのジェネラル・エレクトリック(GE)社製の76.6口径25mm5砲身ガトリング砲GAU-12/Uと、FIM-92スティンガー対空ミサイルの4連装発射機2基を、GE社製のブレイザー防空砲塔(2名用)に搭載したハイブリッド防空システムである。 25mmガトリング砲GAU-12/Uの発射速度は1,800発/分、有効射程は2,000m以上である。 アメリカ陸軍のM163対空自走砲が装備する、GE社製の75.9口径20mm6砲身ヴァルカン砲M168よりはるかに強力で、塹壕の制圧などの対地攻撃にも絶大な破壊力を発揮する。 FIM-92スティンガー対空ミサイルは、アメリカのレイセオン社が開発した赤外線追尾方式の対空ミサイルで、発射重量9.9kg、最大有効射程は4,000m以上である。 ミサイルは発射機内の即用弾8発の他に、車体内に予備弾8発が収容される。 ストーマー自走対空システムは1980年代後期に、前述の25mmガトリング砲GAU-12/Uを装備するタイプと、より大口径の76.6口径30mm4砲身ガトリング砲GAU-13/Aを装備するタイプの試作車が製作され、イギリス軍や海外への売り込みが行われたが、結局採用する国は現れなかった。 ●ストーマーVLSMS地雷敷設システム 前述のように、1990年10月にイギリス国防省がアルヴィス社に対して開発と29両の生産を発注した、対人・対戦車地雷の敷設システムである。 ストーマーAPCの車体後部に設けられている兵員室部分をオープンの平床に改装し、アライアント・テックシステムズ社製のヴォルケーノVLSMSの派生型である、シールダーVLSMSを搭載している。 このシステムでは、複数の対人地雷および対戦車地雷を収納した、予め包装された地雷キャニスターを使用し、キャニスターから地雷が排出されると広範囲に地雷が散布される。 ストーマーVLSMSの主な使用目的は、様々な状況下で大規模な地雷原を迅速に設置する能力を、運用部隊に提供することである。 このシステムが作り出す地雷原は、前進する部隊の側面防御や、側面警備や遮蔽任務で航空部隊や地上部隊と協力して運用するのに適している。 ストーマーVLSMSは1995年に開発が完了し、1999年からイギリス陸軍への配備が開始されたが、2014年には運用が停止されている。 ●ストーマー30戦闘偵察車 ストーマー30戦闘偵察車は、ストーマーの車体を基に開発された装軌式偵察車両である。 この車両はストーマーの車体上面に、アライアント・テックシステムズ社製の80.3口径30mm機関砲Mk.44ブッシュマスターIIと、7.62mm機関銃を同軸装備する2名用砲塔を搭載したもので、さらにオプションとして砲塔の左右側面に、ヒューズ・エアクラフト社製のBGM-71 TOW対戦車ミサイルの発射機を装備できる。 砲塔は360度旋回でき、武装の俯仰角は−45〜+60度となっている。 この車両は比較的軽量で小柄なため、イギリス空軍で用いられているアメリカ製のC-130中型輸送機で空輸できる。 また、多くの西側諸国で運用されているCH-53E大型ヘリコプターで吊り下げ輸送することも可能である。 ストーマー30は試作車の完成後、イギリス軍や海外へ向けて売り込みが図られたが、今のところ採用した国は現れていないようである。 |
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<FV4333ストーマー装甲兵員輸送車> 全長: 5.27m 全幅: 2.764m 全高: 2.27m 全備重量: 12.7t 乗員: 3名 兵員: 8名 エンジン: パーキンズT6.3544 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 250hp/2,800rpm 最大速度: 80.47km/h(浮航 5.79km/h) 航続距離: 644km 武装: 7.62mm機関銃L37A2×1 (3,000発) 装甲厚: |
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<ストーマー30戦闘偵察車> 全長: 5.251m 全幅: 2.69m 全高: 2.495m 全備重量: 13.0t 乗員: 3名 エンジン: カミンズ6B-275 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 250hp/2,600rpm 最大速度: 80.47km/h(浮航 5.79km/h) 航続距離: 400km 武装: 80.3口径30mm機関砲Mk.44ブッシュマスターII×1 (180発) 7.62mm機関銃L94A1×1 (700発) BGM-71 TOW対戦車ミサイル発射機×2 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2012年6月号 ロンドン・オリンピックに参加する対空ミサイル スターストリーク」 大竹勝美 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年9月号 対空ミサイル スターストリーク」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年6月号 ICV化されたAPC」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2018〜2019」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「ヴィジュアル大全 火砲・投射兵器」 マイケル・E・ハスキュー 著 原書房 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK 決定版」 コスミック出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「ザ・タンクブック 世界の戦車カタログ」 グラフィック社 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「新版 ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |