フェレット装甲偵察車
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+開発
イギリス戦争省は第2次世界大戦終了後間もない1947年に、当時陸軍が運用していたダイムラー・スカウトカーの後継となる偵察用4輪装甲車の開発を計画し、イギリス国内の複数の自動車メーカーに対して新型偵察用装甲車の設計案の提出を求めた。
そして各社から提出された設計案を比較検討した結果、1948年10月にダイムラー・スカウトカーの開発・生産メーカーである、コヴェントリーのダイムラー社が試作車の製造契約を獲得した。
ダイムラー社は1949年に銃塔の無いタイプ1両と、1名用銃塔付きのタイプ2両の試作車を製作し、戦争省に納入した。
これらの試作車は1950年6月までイギリス陸軍による評価試験に供され、満足のいく性能を示したため戦争省は陸軍への採用を決定し、「FV701」(Fighting
Vehicle 701:戦闘車両701型)の戦闘車両番号と、「フェレット(Ferret:家畜化されたケナガイタチの種名)Mk.1」の型式呼称が与えられた。
フェレット装甲偵察車シリーズの最初の生産型であるMk.1は、ダイムラー・スカウトカーと同じく銃塔を持たないオープントップ式の車両で、武装としてアメリカのブラウニング火器製作所製の7.62mm機関銃L3(M1919)を1挺、ピントルマウントを介して剥き出しで装備していた。
また、車体前部左右の前照灯の上部にそれぞれ3連装の発煙弾発射機を1基ずつ備えており、敵に発見された際に煙幕を展開して車体を隠蔽できるようになっていた。
乗員は機関銃手を兼ねる車長と操縦手の2名で、車内には乗員の自衛用火器として、エンフィールドロックのRSAF(Royal Small Arms
Factory:王立小火器工廠)製の9mmステン短機関銃を2挺携行していた。
フェレットMk.1の4×4の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、完全防水となっていた。
装甲厚は6〜16mmであり、7.62mm弾に対する全周防御を可能としていた。
エンジンは、ダービーのロールズ・ロイス社製のB60 Mk.6A 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(排気量4.26リットル、最大出力129hp/3,750rpm)を搭載し、路上最大速度58マイル(93.34km)/hの高い機動力を発揮した。
続いて生産されたフェレットMk.1/1はMk.1の装甲強化型で、各部の装甲厚がMk.1より増厚されており、オープントップだった車体上面も装甲板で覆われるようになった。
またMk.1/1の天井に固定戦闘室を設け、RSAF製の7.62mm軽機関銃L4(7.7mmブレン軽機関銃の口径をNATO規格に改めたもの)を搭載した3名用のフェレットMk.1/2も生産されている。
後にイギリス陸軍がL4に代えて、7.62mm機関銃L7(ベルギーのFN社製の7.62mm機関銃FN-MAGをRSAFでライセンス生産したもの)を導入したため、フェレットMk.1/2の武装もL7に変更されている。
フェレットMk.1シリーズに続いて登場したMk.2はフェレット装甲偵察車の標準的なタイプで、6×6型のFV603「サラセン」(Saracen:サラセン人)装甲兵員輸送車用に開発された1名用銃塔を車体上面に搭載するようになった。
銃塔の最大装甲厚は16mmで、武装は銃塔前面に7.62mm機関銃L3を1挺装備していた。
銃塔の操作は車長が担当するようになっており、乗員はフェレットMk.1と同じく車長と操縦手の2名であった。
フェレット装甲偵察車シリーズの生産は1952〜71年にかけて行われ、後期型では国産のヴィジラント対戦車ミサイルやスウィングファイア対戦車ミサイルの搭載も可能となった。
イギリス陸軍ではピーク時に、およそ1,500両のフェレット装甲偵察車シリーズが警備任務や偵察任務に就いており、一部は1990年代まで現役に残っていた。
各型合計で4,409両が生産されたフェレット装甲偵察車シリーズは、イギリス本国以外に西ヨーロッパや中東、アフリカ諸国など世界50カ国(他国からの供与や個人輸入も含む)で採用され、半分の25カ国では現在も運用が続けられている。
その具体的な国名と採用数については、下表の通りである。
現在運用中の国 |
過去に運用していた国 |
国 名 |
採用数 |
国 名 |
採用数 |
アブダビ |
65 |
オーストラリア |
265 |
バーレーン |
8 |
ビアフラ |
1 |
ブルキナファソ |
30 |
カナダ |
124 |
ブルネイ |
不明 |
フィンランド |
不明 |
カメルーン |
15 |
フランス |
200 |
中央アフリカ |
8 |
ガーナ |
30 |
ガンビア |
8 |
香港 |
不明 |
インドネシア |
55 |
イラン |
50 |
ジャマイカ |
15 |
イラク |
20 |
ヨルダン |
180 |
レバノン |
5 |
ケニア |
12 |
リビア |
15 |
インド |
320 |
マレーシア |
92 |
マダガスカル |
10 |
ビルマ |
45 |
マラウイ |
不明 |
ニュージーランド |
9 |
ネパール |
40 |
オランダ |
7 |
ナイジェリア |
40 |
北イエメン |
不明 |
オマーン |
15 |
ポルトガル |
32 |
パキスタン |
90 |
ローデシア/ジンバブエ |
10 |
カタール |
10 |
サウジアラビア |
30 |
セントクリストファー・ネイヴィス |
3 |
ソマリア |
18 |
スーダン |
40〜50 |
南アフリカ |
231 |
ウガンダ |
15 |
南イエメン |
15 |
ウクライナ |
1 |
スリランカ |
42 |
ザンビア |
28 |
イギリス |
約1,500 |
日本 |
1 |
ザイール |
30 |
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+構造
フェレット装甲偵察車の最初の生産型であるMk.1は、ダイムラー・ スカウトカーと多くの設計特徴を共有しており、ダイムラー社が、第2次大戦中に6,626両生産されてベストセラーとなったダイムラー・スカウトカーの基本設計をベースに、これをブラッシュアップする形でフェレット装甲偵察車の開発を行ったことが伺える。
特に、中央ディファレンシャルが車輪のスリップによる駆動力の損失を排除するH型ドライブトレインと、平行ドライブシャフトにより、従来の装輪式装甲車と比べて車両の高さを大幅に低減することができた。
ダイムラー・スカウトカーと同様に、フェレットのサスペンションは一対のトランスバースリンクとシングル・コイルスプリングで構成され、車輪は等速ジョイントによって駆動されたが、フェレットは伝達トルク負荷を軽減する遊星減速機の恩恵を受けた。
フェレットのパワープラントは、ロールズ・ロイス社製のB60 直列6気筒液冷ガソリン・エンジンが、流体カップリングによって予約選択式の遊星歯車式変速・操向機(前進5段/後進5段)に接続されていた。
フェレットMk.1のエンジンは標準回転速度3,300rpmで116hp、最大回転速度3,750rpmで129hpの出力を発揮した。
ダイムラー・スカウトカーに比べて出力/重量比が向上したことにより、フェレットはホイールベースが長くなり(ダイムラー・スカウトカーの1.98mに対して2.29m)、大型の9.00×16ランフラット・タイヤの装着により荒地での速度と機動性が向上した。
フェレットの乗員室は、モノコック構造であったダイムラー・スカウトカーと異なりシャシーの上に直接取り付けられており、容積が広く居住性が良好であったが、反面、モノコック構造のダイムラー・スカウトカーに比べてかなり騒音が大きかったという。
フェレットの車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で装甲厚は6〜16mmとなっており、7.62mm弾に対する全周防御を可能としていた。
フェレットMk.1は乗員の視界を確保することを優先したため、ダイムラー・スカウトカーと同じく乗員室はオープントップとなっており、車体上面から降り注ぐ榴弾の破片などに対しては無防備であった。
このため各部の装甲厚をMk.1より増厚し、オープントップだった車体上面を装甲板で覆った改良型のフェレットMk.1/1が開発された。
さらに、フェレットMk.2では車体上面に1名用の全周旋回式銃塔を装備するようになり、これがフェレット装甲偵察車の標準的なスタイルとなった。
フェレット・シリーズは最初期のMk.1から最終型のMk.5に至るまで、車体前部左右の前照灯の上部にそれぞれ3連装の発煙弾発射機を1基ずつ備えており、敵に発見された際に煙幕を展開して車体を隠蔽できるようになっていた。
またフェレットの車内には、乗員の自衛用火器として国産の9mm短機関銃を人数分携行していたが、これは初期には第2次大戦中に開発されたRSAF製のステン短機関銃が用いられ、後に、ダゲナムのスターリング火器製作所が1953年に開発したL2短機関銃に更新されていった。
前述のようにフェレットは各型合計で4,409両生産されるベストセラー装甲車となったが、これは本車が偵察用に徹したシンプルで低価格な設計であったことと、ジープ並みにコンパクトなサイズで運用し易かったためである。
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+派生型
前述のように、フェレット装甲偵察車シリーズには銃塔を備えたタイプと銃塔を持たないタイプがあり、他にも対戦車ミサイルの発射機を備えた威力偵察タイプなど様々な派生型が存在する。
試験的に製作されたタイプを含めると、フェレットの派生型の種類はおそらく60を超えると推測される。
以下、フェレットの主要な派生型について列記する。
●Mk.1(FV701)
銃塔を持たないオープントップタイプで、連絡・伝令任務に使用される車両。
●Mk.1/1
Mk.1よりも重装甲で、車体天井部分も装甲板で塞がれている。
●Mk.1/2
Mk.1/1の天井に固定戦闘室を設け、7.62mm軽機関銃L4を搭載(後にL7に換装)した派生型で、乗員は3名。
●Mk.2
FV603サラセン装甲兵員輸送車用に開発された7.62mm機関銃L3装備の1名用銃塔を、車体上面に搭載したタイプの初期型。
●Mk.2/1〜Mk.2/5
Mk.2に対して装甲強化の小改良を施したタイプ。
●Mk.2/6(FV703)
威力偵察用に、ヴィジラント対戦車ミサイルの発射機を銃塔の左右に1基ずつ装備したタイプ、イギリス陸軍とアブダビ陸軍で運用された。
ヴィジラント対戦車ミサイルは、ウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社が1956年に開発した第1世代の有線誘導式対戦車ミサイルである。
因みに、呼称の「ヴィジラント」(VIGILANT)は英語で「用心深い」ことを意味する単語と、「Visually Guided Infantry
Light Anti-Tank missile:携行型可視光軽対戦車ミサイル」の頭字語を掛けている。
ヴィジラント対戦車ミサイルは重量6kgの成形炸薬弾頭を備え、ミサイルの最大飛翔速度155.6m/秒、有効射程200〜1,375mで、550mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を穿孔することが可能であった。
●Mk.2/7(FV701)
ヴィジラント対戦車ミサイルの退役に伴い、Mk 2/6からミサイル発射機を撤去したタイプ。
●Mk.4(FV711)
Mk 2のサスペンションを強化し、浮き式の遮蔽板(Flotation screen)を設けたタイプ。
●Mk.5(FV712)
Mk.4の改良型で、幅広薄型の砲塔にスウィングファイア対戦車ミサイルの発射機と7.62mm機関銃L7を搭載したタイプ。
スウィングファイア対戦車ミサイルはヒートンチャペルのフェアリー航空機産業と、ウェストミンスターの英国航空機(現BAEシステムズ社)が1960年代に共同開発した第1世代の有線誘導式対戦車ミサイルである。
因みに「スウィングファイア」(Swingfire:曲がる炎)の呼称は、射撃後に照準機が指示する方向へ90度の方向転換が可能であることから名付けられている。
これにより、射撃・操作手が発射母機から離れたより有利な位置に潜伏して誘導できるため、操作手の生残性を向上させることができる。
スウィングファイア対戦車ミサイルは重量7kgの成形炸薬弾頭を備え、ミサイルの最大飛翔速度185m/秒、有効射程150〜4,000mで、800mm厚のRHAを穿孔することが可能である。
フェレットMk.5の砲塔は、上部の左右に起倒式の連装ミサイル発射機を1基ずつ内蔵しており、砲塔前面の中央に7.62mm機関銃を装備している。
●フェレット80
FV601サラディン戦闘偵察車やFV603サラセン装甲兵員輸送車の製造元である、ロンドンのアルヴィス社が1982年に自己資金で開発したフェレット装甲偵察車の改良型で、非可動状態のモックアップが1両のみ製作された。
新設計の防弾アルミ製の車体には、ピーターボロのパーキンス発動機製のT6液冷ディーゼル・エンジン(出力155hp)が搭載されていたが、多くのコンポーネントがフェレットMk.4およびMk.5から流用されていた。
砲塔はフェレットMk.2〜Mk.4に用いられたサラセンと同様の機関銃塔か、ベルビディアのヘリオ社製のFVT900砲塔を選択できた。
サラセン用の銃塔には7.62mm機関銃L37(L7の派生型)、FVT900砲塔にはスイスのエリコン社製の85口径20mm機関砲KAAと、7.62mm機関銃が同軸装備された。
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<フェレットMk.2装甲偵察車>
全長: 3.70m
全幅: 1.91m
全高: 1.88m
全備重量: 3.7t
乗員: 2名
エンジン: ロールズ・ロイスB60 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 129hp/3,750rpm
最大速度: 93.34km/h
航続距離: 306km
武装: 7.62mm機関銃L3A3またはL3A4×1
装甲厚: 6〜16mm
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<参考文献>
・「パンツァー2005年1月号 イギリス陸軍のフェレット/フォックス装甲偵察車」 遠野士郎 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年4月号 イギリス陸軍 フェレット・シリーズ」 斎藤世志見 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年11月号 冷戦期のイギリス装輪AFV」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年12月号 イギリス機甲部隊発達史」 城島健二 著 アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2011〜2012」 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「グランドパワー2021年1月号 フィンランド軍の戦闘車輌(4)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版
・「世界の戦車パーフェクトBOOK 決定版」 コスミック出版
・「世界の最新装輪装甲車カタログ」 三修社
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」 三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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