E-10駆逐戦車
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+Eゼーリエの開発
第2次世界大戦前から、ドイツにおける様々な戦車開発の中核となっていたドイツ陸軍兵器局第6課は、1943年初めに兵器局参事官ハインリヒ・エルンスト・クニープカンプ工学博士を長とする研究課の手により、それまでの戦車開発で習得した多くのノウハウを基に、全く新たな発想に基づく新型戦車シリーズの基本アウトラインをまとめ上げた。
この新型戦車は、「Eゼーリエ(シリーズ)」(ちなみに”E”は、ドイツ語で「開発」を表すEntwicklungの頭文字を採ったものである)と呼ばれるもので、各種コンポーネントを共通化することにより生産コストの低減を図る一方で、搭載砲が大口径化することに伴い戦闘室の容積が減少する傾向に対処すべく、車体後方に設けられた機関室にエンジンや変速・操向機をパワーパックとして一体化して収め、さらにトーションバー(捩り棒)に代わる新しい外装式サスペンションを導入することがその骨子となっていた。
この計画に基づいてアドラー社、KHD社、ヴェーザー精錬所、アルグス社の各社が本格的な開発と試作車の製作、生産を担当することになった。
クルップ社やダイムラー・ベンツ社といった戦車開発に多くのノウハウを持つメーカーが選ばれず、戦車開発の経験が無いこれら各社が選ばれたのは、従来からの戦車生産や改良型の開発に遅延をきたすことを避ける意味合いもあったと思われる。
このEゼーリエは1944年に生産される戦車の後継として位置付けられており、重量10~15t級のE-10駆逐戦車、25~30t級のE-25駆逐戦車、パンター戦車の後継となる50t級のE-50中戦車、ティーガーII戦車の後継となる75~80t級のE-75重戦車、そして130~140t級のE-100重戦車の5種類の開発が計画されたが、いすれも途中で開発が中止されたり試作車の製作途中で終戦を迎えている。
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+E-10駆逐戦車
E-10駆逐戦車は重量10tクラスの軽装甲車両で、装甲兵員輸送車、軽駆逐戦車、武器運搬車として使用する予定であった。
本車の開発は、クレックナー・フンボルト・ドイツ(KHD)社のウルム工場(1936年に吸収合併した旧マギルス社)が担当した。
KHD社は当時、オーストリアのシュタイアー・ダイムラー・プフ社が開発したRSO(Raupenschlepper Ost:東部用装軌式牽引車)トラクターの生産に携わっていたに過ぎず、戦車の生産にはわずかな知識しか持ち合わせてはいなかった。
E-10駆逐戦車の開発責任者は、社長のハッセルグルーバーであった。
E-10駆逐戦車の外観は、チェコ・プラハのBMM社が新型38(t)戦車をベースに開発したヘッツァー駆逐戦車に類似しており、車体上部に非常に低姿勢な密閉式の固定戦闘室を設け、ヘッツァー駆逐戦車と同じく戦闘室前部に、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の48口径7.5cm対戦車砲PaK39を限定旋回式に装備していた。
車体の装甲厚は前面上部が60mm、前面下部が30mm、その他の部分は20mmとなっており、乗員は車長、砲手、操縦手の3名となっていた。
サスペンションは、転輪装着アームの基部にコイル・スプリング(螺旋ばね)を内蔵するという方式を採っており、片側4個の転輪がオーバーラップ式に取り付けられていた。
また本車は機械的にサスペンションアームを操作することによって、全高を1.76mから1.40m(地上間隙は0.40m)まで低くすることが可能という機構を導入していた。
エンジンと変速・操向機はパワーパックとして一体化されて車体後部の機関室に収められ、後部に設けられた起動輪を駆動するようになっていた。
変速・操向機は、ZF社(Zahnradfabrik Friedrichshafen:フリードリヒスハーフェン歯車製作所)で新たに開発された電気式変速・操向機が採用された。
エンジンについては、フリードリヒスハーフェンのマイバッハ発動機製作所が当時開発中であった、HL100 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力400hp)を搭載する予定が立てられていたが、HL100エンジンの開発は技術的な問題から中止され、燃料噴射装置を装備したカールスルーエのアルグス社製の空冷ガソリン・エンジン(出力600hp)が用いられることになった。
しかしこのエンジンも開発に手間取っていたために、最終的にはベルリンのアルケット社(Altmärkische Kettenwerke:アルトマルク履帯製作所)で開発が進められていたエンジン(詳細は全く不明だが、500hpの出力を有していたといわれている)が搭載される運びとなった。
しかし、ヘッツァー駆逐戦車の発展型として同時期に開発が進められていた38D駆逐戦車の方が実現性が高いと判断されたため、E-10駆逐戦車の開発は1945年1月末に中止されてしまった。
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<E-10駆逐戦車>
全長: 6.91m
全幅: 2.86m
全高: 1.76m
全備重量: 15~25t
乗員: 3名
エンジン: マイバッハHL100 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 400hp
最大速度: 65~70km/h
航続距離:
武装: 48口径7.5cm対戦車砲PaK39×1
装甲厚: 20~60mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2003年8月号 超重戦車マウス/E100」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年8月号 ドイツ計画戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
・「戦車ものしり大百科 ドイツ戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
・「特殊戦闘車両」 W.J.シュピールベルガー 著 大日本絵画
・「軽駆逐戦車」 W.J.シュピールベルガー 著 大日本絵画
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