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ディンゴ装甲車


●ディンゴ1装甲車




ドイツ陸軍は冷戦終結後にNATOの一員として国外でのPKO活動を行うようになったが、従来運用してきたルクス装甲車やフクス装甲車等の装輪式装甲車は車体が大柄で小回りが利かず、市街地におけるPKO任務では使い勝手が悪かった。
またこれらの車両は1970年代に開発されたものですでに旧式化していたため、ドイツ陸軍は低強度紛争地域でのPKO任務に使用する軽便な装輪式装甲車を新たに調達する方針を決定した。

この計画は「APCV」(All Protection Carrier Vehicle:全面防弾輸送車両)と名付けられ、ドイツ国内のメーカーに開発が打診された。
このAPCV計画に応募するためにKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社が開発した4×4型の装輪式装甲車が、「ディンゴ」(Dingo:オーストラリアで野生化した赤茶色の毛がふさふさした犬)である。

KMW社のAPCVは戦闘重量6.2tのAPCV1と戦闘重量8.8tのAPCV2の2つのタイプが試作され、評価試験の結果APCV2がディンゴ装甲車のベースとなった。
ディンゴ装甲車の開発に当たっては地域紛争に使えるモジュール式の全面防弾車体、多用途な任務への適応性、C-130輸送機による被空輸能力、低いライフサイクル・コストなどが要求された。

こうした要求を短期間で実現するため、ディンゴ装甲車は世界一のクロスカントリー性能を誇る、ダイムラー・ベンツ社(現ダイムラー社)製のウニモグ4輪駆動汎用トラック(U100LあるいはU1550L)のシャシーを流用する形で開発された。
新たに開発された装甲ボディは車体前部のエンジンを保護する装甲ボンネット、車体中央部の装甲乗員室、車体後部の装甲貨物室、そして車体下の大きな底面装甲カバーから構成されている。

この装甲カバーは一種のデフレクターで、たとえ対戦車地雷が真下で炸裂しても爆発エネルギーを両側に逸らし、車内の乗員を保護する機能を持っている。
装甲乗員室の防弾性能は、基本的に7.62mm機関銃弾や155mm榴弾の破片の直撃に耐え得るレベルで、必要に応じて増加装甲プレートを装着することもできる。

乗員室内の配置は前部左側に操縦手席、前部右側に車長席、後部に2〜4名分の搭乗スペースが確保されており、敵の早期発見、監視のため乗用車並みの大型フロントガラスや、窓付きの4枚のドアが取り付けられている。
ディンゴ装甲車は装備品も充実しており、NBC防護装置、空調システム、タイア空気圧中央制御システム、後方監視カメラ、外部通信システムを備えている。

ディンゴ装甲車のパワーパックは、ダイムラー・ベンツ社製のOM366LA 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(排気量6,000cc、出力230hp)と、8段変速の自動変速機の組み合わせとなっている。
このパワーパックによりディンゴ装甲車は路上最大速度100km/h、路上航続距離1,000kmの高い機動性能を発揮するが、搭載量に関しては乗員を含めて1.2tとやや小さいのが欠点である。


●ディンゴ2装甲車




ディンゴ装甲車はドイツ陸軍からは採用されたものの、KMW社が当初想定していた輸出市場では、前述のような搭載能力の不足などから受注を得ることはできなかった。
このためKMW社はウニモグU5000のシャシーを流用して搭載能力を向上させ、併せて装甲防御力も強化したディンゴ2装甲車を開発することとなり、2000年に初めて公開している。
なおディンゴ2装甲車が開発されたことにより、従来のディンゴ装甲車は「ディンゴ1」と呼ばれるようになった。

ディンゴ2装甲車の車体上面にはKMW社製のペリスコープ付きのFLW100武装ステイションが装備されており、車内からの遠隔操作により7.62mm機関銃MG3などの射撃を行うことが可能である。
またディンゴ2装甲車は全長5.45m、搭載量3.5tの短車体型と、全長6.08m、搭載量4.0tの長車体型の2タイプが開発されており、前者では乗員5名、後者では乗員8名が搭乗可能である。

なおベース車体が変化したため、ディンゴ2装甲車はエンジンや変速機なども新型に更新されており、パワーパックはダイムラー・ベンツ社製のOM924LA 直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(排気量4,800cc、出力218hp)と、8段変速のトルク変換機付き自動変速機の組み合わせとなっている。
この新型パワーパックにより、車体が大型化したディンゴ2装甲車でも機動性能はディンゴ1装甲車とほとんど変わらない。

路上最大速度95km/h、路上航続距離1,000kmを維持している他、NBC防護装置も同様に標準で装備している。
ディンゴ2装甲車の外見上の特徴は、フロントグリルがディンゴ1装甲車では中央で分割された2枚タイプだったのに対して、ディンゴ2装甲車では全面1枚の形状となっていることや、ディンゴ1装甲車では乗員室側面に乗降用の大型ステップが設けられていたが、ディンゴ2装甲車では雑具箱が増設されたために、その雑具箱に小ステップが左右各2つずつになった点などである。

また2005年には、車体後部の貨物室も従来のキャンバス・トップではなく、乗員室と同様の装甲板で覆われた改良型が開発され、現在導入されている車体はこの装甲貨物室タイプとなっている。
ディンゴ2装甲車は2004年にドイツ陸軍と国境警備隊が導入したのを皮切りにオーストリア、ベルギー、チェコ、ルクセンブルク、ノルウェイが採用を決めており、ディンゴ1装甲車がドイツ本国にしか採用されなかったのと比べると運用国は6カ国に広がっている。

ディンゴ装甲車シリーズは現在ドイツがディンゴ1を147両、ディンゴ2を516両の計663両、ベルギーがディンゴ2を220両、ルクセンブルクがディンゴ2を48両、オーストリアがディンゴ2を35両、チェコがディンゴ2を21両、ノルウェイがディンゴ2を20両運用しており、さらにベルギーはオプション契約で132両の導入契約をKMW社と結んでいる。
また最近ではNBC偵察型のディンゴ装甲車もオーストリアの要求で開発されており、その他にもKMW社のプライヴェート・ヴェンチャーとして、回収車型のディンゴ装甲車の開発も行われている。

この回収車型はディンゴ2装甲車の車体を延長して6×6型に改修し、車体後部の兵員室と貨物室を撤去して10tウィンチを搭載したもので、乗員が3名に減少している代わりに車体重量は17.5tに増加している。
武装は乗員室の上部にピントルマウントを設けて機関銃を装備するか、代わりに武装ステイションを搭載することもできる。

なお、2011年9月にイギリスのロンドンで開催された兵器展示会「DSEI2011」(Defence Security and Equipment International 2011)において、ディンゴ装甲車シリーズの最新型というべきディンゴ2HD装甲車が公開されている。
このタイプは基本的にはディンゴ2装甲車の派生型だが、「HD」(Heavy-Duty:過酷な使用に耐え得る)の名前が示すとおり搭載量のさらなる向上が図られており、搭載量は7.0t、戦闘重量は14.5tにまで増加している。

そしてこの重量増加による機動性能の低下を防ぐために、エンジンは300hpへと出力向上が図られた新型に換装されている。
このディンゴ2HD装甲車は現時点では採用されていないが、既存のディンゴ装甲車シリーズとコンポーネントの互換性があることから、将来、ディンゴ装甲車を運用する国の中から採用国が現れるかも知れない。


<ディンゴ1装甲車>

全長:    5.45m
全幅:    2.30m
全高:    2.35m
全備重量: 8.8t
乗員:    1名
兵員:    4名
エンジン:  ダイムラー・ベンツOM366LA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 230hp/2,600rpm
最大速度: 100km/h
航続距離: 1,000km
武装:    7.62mm機関銃MG3または12.7mm重機関銃M2×1
装甲厚:


<ディンゴ2装甲車 短車体型>

全長:    5.45m
全幅:    2.39m
全高:    2.55m
全備重量: 11.9t
乗員:    1名
兵員:    4名
エンジン:  ダイムラー・ベンツOM924LA 4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 218hp/2,200rpm
最大速度: 95km/h
航続距離: 1,000km
武装:    7.62mm機関銃MG3または12.7mm重機関銃M2×1
装甲厚:


<ディンゴ2装甲車 長車体型>

全長:    6.08m
全幅:    2.39m
全高:    2.55m
全備重量: 12.5t
乗員:    1名
兵員:    7名
エンジン:  ダイムラー・ベンツOM924LA 4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 218hp/2,200rpm
最大速度: 95km/h
航続距離: 1,000km
武装:    7.62mm機関銃MG3または12.7mm重機関銃M2×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2006年12月号 ヨーロッパ随一の戦車メーカー クラウス・マッファイ・ヴェクマン」 林磐男 著
 アルゴノート社
・「パンツァー2012年1月号 鎧を着たウニモグ ディンゴ装甲警備車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年7月号 変化する世界情勢と最近のAFV」 林磐男 著  アルゴノート社
・「パンツァー2005年12月号 アフガン国軍とNATO多国籍軍のAFV」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年2月号 DSEi2001の装輪戦闘車」 二木巌 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年1月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2005年3月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2004年9月号 EUROSATORY 2004」  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「世界の最新装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」  三修社
・「世界の戦車完全図鑑」  コスミック出版
・「世界の軍用4WD図鑑PART2」  スコラ

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