「ディーコン」（Deacon：助祭）6ポンド対戦車自走砲は、イギリス陸軍が第2次世界大戦中に開発した数少ない対戦車自走砲の1つである。
本車はアメリカ陸軍が、M3ハーフトラックの兵員室に36口径75mm加農砲M1897A4を搭載したM3 75mm対戦車自走砲を開発したのを参考に開発が決定されたもので、北アフリカ戦線で使用する機動対戦車砲として1942年に実用化された。

装輪式車両は装軌式車両に比較して安価である反面、不整地での機動性能が大きく低下するのが欠点であるが、北アフリカの戦場は平坦で広大な地形のため装輪式車両でも相応の活躍ができた。
そのためイギリス陸軍は1942年に装輪式の対戦車自走砲を数種類開発しているが、その中で量産されたのは本車だけである。

ディーコン対戦車自走砲は、ベース車体にサウソールのAEC社（Associated Equipment Company：関連機器会社）製のマタドール4×4トラックを用い、荷台に牽引式の43口径6ポンド対戦車砲Mk.ＩＩまたは、50口径6ポンド対戦車砲Mk.IVの揺架から上を搭載していた。
砲の前面と左右側面および操縦手が搭乗する乗員室には、乗員を防護するため10mm厚の装甲板が取り付けられた。

荷台に搭載された6ポンド（57mm）対戦車砲は左右に旋回させることが可能だったが、前方の乗員室が邪魔で射界が制限されるのが欠点であった。
本車は扱い易い車両ではあったが全高が高く隠蔽が困難で、さらに装軌式車両に随伴するほどの機動性は無かった。

ディーコン対戦車自走砲は1942年中に総計175両が生産され、対戦車部隊の機動性を向上させる目的で、北アフリカにあったイギリス陸軍機甲師団の対戦車連隊に1個中隊ずつ配属された。
本車は北アフリカ戦の後半から実戦に参加したが、1943年春に同作戦終了と共に第一線から外され、トルコに売却された。