ダナ152mm自走榴弾砲は、チェコスロヴァキア(現スロヴァキア)のZTS社が1970年代後期に開発に着手した、当時としては珍しい装輪式の自走砲である。 このような珍しい自走砲が開発されたのはチェコスロヴァキア軍が作戦の必要上、非常に高い機動力を持った自走砲兵機材を要求したことによる。 西側が本車の存在を初めて確認したのは1980年で、量産開始も同年からと見られる。 ダナ自走榴弾砲は1981年からチェコスロヴァキア軍への配備が開始され、南部ボヘミアのタボールに駐屯する第9戦車師団所属のキエフ砲兵大隊が最初の装備部隊となった。 本車は、輸出用と合わせて1994年までに750両以上が生産されたといわれる。 ダナ自走榴弾砲のベース車体となったのは、チェコのタトラ社が開発したT815 8×8トラックである。 T815トラックは、OT-64装甲兵員輸送車のベース車体となった同社製のT813 8×8トラックの発達改良型で、長距離、大型輸送用として定評があり軍用トラックとしても多用されている他、RM-70自走多連装ロケット・システムのベース車体としても採用されている。 ダナ自走榴弾砲の車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という一般的なものである。 各部分とも圧延防弾鋼板の溶接構造で、小火器弾と榴弾の破片に耐える程度の装甲防御力を持ち、完全密閉構造でNBC防護能力を有している。 操縦室内には右側に操縦手、左側に車長が位置し、前面の防弾ガラス製の2枚のウィンドウ・スクリーンには、ヴィジョン・ブロック付きの装甲シャッターがそれぞれ取り付けられている。 また、この装甲シャッターの両脇と車体の左右側面にはガンポートが備えられている。 操縦室の左側面後部と後面にはルーヴァーが設けられており、恐らくAPU(補助動力装置)が収められているものと思われる。 ダナ自走榴弾砲は重心を下げる必要性から砲塔の搭載位置を非常に低くしたため、主砲の旋回の妨げにならないように前部の操縦室は地面をなめるように低く、また後部の機関室も平低に造られており非常に特徴的である。 砲塔は、中心部の主砲と左右の乗員区画が完全に分離しているクレフト型で車体幅一杯の大きさがあり、左側区画の前部に砲手と装填手、右側区画の後部に砲弾の信管設定などを行う弾薬手が位置している。 砲手席の上部には円筒形の装甲ドームでカバーされたパノラマ照準機、前面にはスライド開閉式小窓を持った直接照準機が備えられている。 また弾薬手席の上部には、対空用の12.7mm重機関銃DShKを装備したキューポラが設けられている。 砲塔の旋回角は225度となっており全周旋回はできないが、実用上さほど問題とはならないだろう。 主砲は旧ソ連製の152mm榴弾砲D-20を改修した37口径152mm榴弾砲で、砲身先端には大きな単作動式の砲口制退機が取り付けられており、元来は砲身の上にあった駐退復座機は下側に移されている。 主砲の俯仰角は−4〜+70度で、通常榴弾(EOF D-20、重量43.5kg)を用いた場合砲口初速693m/秒、最大射程は18,700mである。 また最新のベースブリード榴弾を用いると、最大射程は28,230mに達する。 ダナ自走榴弾砲で最も特筆すべきことは、砲塔に油圧式完全自動装填装置を装備していることであろう。 クレフト型砲塔の左側後部に装薬筒、右側前部に砲弾が、自動装填装置のチェイン駆動されるケースにセットされて収容されている。 閉鎖機開放、排莢、装填、閉鎖は完全に自動化され、装填手は初弾発射時の閉鎖機開放や自動装填装置の故障、信管の調整に備えているだけである。 砲身上部に取り付けられたチェイン駆動のラマーによる給弾は、砲身がどの角度にあっても行うことが可能で発射速度は5発/分、30発の持続射撃を7分で完了することが可能である。 砲塔内の携行弾数は砲弾と装薬それぞれ60発ずつで榴弾の他、対戦車用のHEAT弾も用意されている。 また砲塔の他にも車体の各所には弾薬収納ボックスが設けられており、総数70〜90発の弾薬を搭載可能とカタログ・データにはある。 射撃時に車体を安定させるために、車体の左右側面と後面には車体固定用の油圧駆動のジャッキ・アームが装備されている。 発射準備にはほとんど時間が掛からず停止から第1弾の射撃までは2分、射撃停止から移動まではわずか1分しか掛からないとされる。 もっともこれは、ジャッキング無しでの所要時間と思われる。 車体後部の機関室には、タトラ社製の2-939-34 V型12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力345hp)と、前進5段/後進1段の手動変速機を組み合わせたパワーパックが搭載されている。 ダナ自走榴弾砲の戦闘重量が29.25tであるため、出力/重量比は11.79hp/tと同級の装軌式自走砲より低めであるが、本車は装輪式車両であるため最大速度は路上で80km/hと非常に高速で、航続距離も路上で650kmある。 またタイアには空気圧調整装置を持ち、不整地行動能力も高い。 さすがに装軌式車両には劣るだろうが、高速性能と大きい航続距離はそれを補って余りある魅力だろう。 ダナ自走榴弾砲はチェコ、スロヴァキア軍で使用されている他、ポーランド、リビアにも輸出されており、現在チェコ軍に273両、スロヴァキア軍に135両、ポーランド軍に111両、リビア軍に80両が配備されている。 またZTS社はダナ自走榴弾砲の開発後、本車の主砲を53口径152mm榴弾砲に換装し新型弾薬を用いるオンダヴァ自走榴弾砲の開発に着手したが、結局これは試作のみに終わった。 |
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<ダナ152mm自走榴弾砲> 全長: 11.156m 車体長: 8.87m 全幅: 3.00m 全高: 2.85m 全備重量: 29.25t 乗員: 5名 エンジン: タトラ2-939-34 V型12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 345hp 最大速度: 80km/h 航続距離: 650km 武装: 37口径152mm榴弾砲×1 (60発) 12.7mm重機関銃DShK×1 (300発) 装甲厚: 最大12.7mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2012年12月号 チェコスロバキアのDANA自走砲車」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2022年3月号 特集 装輪自走砲の今」 荒木雅也/毒島刀也 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年7月号 世界のトレンド?装輪式自走砲」 大山勝美 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年8月号 チェコ/スロバキア陸軍のDANA 152mm自走砲」 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年8月号 ヴェールを脱いだ装輪155mmりゅう弾砲」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年8月号 チェコ陸軍のDANA 152mm自走砲車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年3月号 兵器展示会におけるチェコ軍AFV」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2004年11月号 装輪式15cm自走砲 ZTS DANA & ZUZANA」 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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