「CV9040」(Combat Vehicle 9040:9040型戦闘車両)は、スウェーデン陸軍が1980年代から90年代の前半にかけて開発した最新鋭のIFV(歩兵戦闘車)である。 開発は1984年に開始され車体はヘグルンド&セーネル社(現BAEシステムズ・ヘグルンド社)、主砲と砲塔はボフォース社(現BAEシステムズ・ボフォース社)が担当し、スウェーデン造兵廠が全体の調整を行った。 5両の試作車を使用した実用試験の結果、1991年3月に「Strf.9040」(Stridsfordon 9040:スウェーデン語で9040型戦闘車両)の名称でスウェーデン陸軍に制式採用された。 最初の生産型がスウェーデン陸軍に引き渡されたのは1993年11月で、派生型も含め2002年までに600両が生産されている。 CV9040歩兵戦闘車の車体は圧延防弾鋼板を使用した全溶接構造で低平な箱型をしており、またパワーパックを収めている車体上面前部をなだらかに傾斜させており、これが低い車高と相まって車体前面の避弾経始を非常に良好なものにしている。 CV9040歩兵戦闘車は全周に渡って14.5mm重機関銃弾に対する抗堪性を有しているが、前面装甲は23mm機関砲弾の直撃にも耐えられると推測されている。 またさらなる防御力の強化が必要な場合には、車体の前/側面に増加装甲を取り付けることも可能になっている。 CV9040歩兵戦闘車の車内レイアウトは車体前部左側が操縦室、前部右側がパワーパックを収めた機関室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が兵員室となっており、砲塔は車体中心線から200mm左側にオフセットして搭載されている。 操縦手席の上部には3基のペリスコープが備えられ、中央部のものは夜間走行時に熱線暗視装置に交換することもできる。 兵員室内には左右にバケットタイプのシートが備えられ、向かい合わせに4名ずつ計8名の完全武装歩兵を収容できる。 これは、最近のIFVとしては多い方である。 この兵員数は、スウェーデン陸軍が戦力発揮のために必要だと考えた1個分隊の定数である。 兵員室の後面には右開き式のドアが設けられており、兵員の乗降はここから行うようになっている。 また兵員室の上面には左側に3枚、右側に2枚のハッチが設けられており、兵員はここから身を乗り出して射撃を行うことができる。 CV9040歩兵戦闘車の砲塔は車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で前後に長い多角形をしており、車体同様避弾経始の良好な傾斜面で構成されている。 砲塔内には右側に砲手、左側に車長が位置し、車長用キューポラには全周を視察できるように6基のペリスコープが装備され、前方のものにはワイパーと装甲シャッターが取り付けられている。 砲手用には、装甲シャッターの付いたUTAAS(Universal Tank and Anti-Aircraft System:対戦車/対空統合システム)照準機が搭載されている。 この装置は射撃統制コンピューターと連動したレーザー測遠機や熱線映像装置を内蔵したもので、昼/夜間を問わず照準することができるものである。 なお砲塔の旋回や砲の俯仰は電気油圧による動力駆動式であるが、緊急時にはハンドルを用いて手動で操作することも可能になっている。 CV9040歩兵戦闘車の主武装はボフォース社製の70口径40mm機関砲L/70Bで、砲の俯仰角は−8〜+35度となっている。 これは、現用のIFVの機関砲としては世界でも最大のものである。 発射速度は単発で60発/分、連射モードで300発/分となっており、地上目標に対する最大有効射程は2,000m、対空目標に対しては4,000mとされている。 使用弾種には装甲目標用のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、対空用のPFHE(近接信管付榴弾)Mk.2、非装甲目標用のHE(榴弾)などの他、対地/対空両用の3P(Prefragmented Programmable Proximity Fused High Explosive:時限信管付榴弾)がある。 この内APFSDSは射距離2,000mで厚さ120mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹する威力があり、現用のほぼ全てのIFVと、1970年代前半までに開発された各国のMBTを機関砲弾のみで撃破できるという。 副武装としては40mm機関砲と同軸に7.62mm機関銃Ksp.m/39(2004年末からKsp.58Cに変更)が装備されており、砲塔左右側面には各6基ずつの発煙弾発射機、砲塔上面後部には2基の71mm照明弾発射機が搭載されている。 CV9040歩兵戦闘車のパワーパックはスカニア社製のDSI14 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力550hp)と、イギリスのパーキンズ社製のX-300-5Nトルク・コンヴァーター付き自動変速機(前進4段/後進2段)から構成されている。 パワーパックを機関室から取り外すのに13分、完全に交換するのは30分で完了するというから、良好なメインテナンス性は一応確保されている。 CV9040歩兵戦闘車の戦闘重量が22.8tなので出力/重量比は24.12hp/tとなり、現用のIFVではかなり高い部類に入る。 エンジン部を覆っている装甲フードの下は、冷却用の空気が循環している。 これはエンジンの冷却システムというより、エンジンの放熱を抑え車体の熱放射率を低くするための工夫で、敵の赤外線探知への対応である。 転輪は、アメリカのM2ブラッドリー歩兵戦闘車やイギリスのFV510ウォーリア歩兵戦闘車が片側6個なのに対して、CV9040歩兵戦闘車は片側7個と多いがこれは履帯の接地長を稼ぐことができ、積雪地での運用には効果を発揮する。 履帯は533mm幅のUDLPT157履帯が採用されており、履帯の自動張度調整システムも備えている。 ウォーリア歩兵戦闘車の履帯幅は460mmなので、かなり幅広な履帯が使用されていることが分かる。 |
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●派生型 ノルウェイ、スイス、フィンランドに採用され、ベストセラーになりつつあるのがCV9030歩兵戦闘車である。 原型のCV9040歩兵戦闘車の特徴の1つはその主武装の大口径機関砲だったが、CV9030歩兵戦闘車では主武装を変更して、アメリカのボーイング社製の30mm機関砲ブッシュマスターIIに1ランク下げている。 ただしCV9040歩兵戦闘車には装備されていない対戦車武装として、フランスのMBDA社製のエリクス対戦車ミサイルの発射機が装備可能となっている。 またCV9040歩兵戦闘車の派生型の1つとして、ヘグルンド社がフランスのGIAT社(現ネクスター社)と共同で開発したのがCV90105TML軽戦車である。 これはCV9040歩兵戦闘車の火力支援・戦車駆逐車型で、GIAT社がフランス陸軍のAMX-10RC戦闘偵察車の近代化改修用に開発した105TML砲塔を搭載している。 主砲は44口径105mm低反動ライフル砲CN-105-G2で、戦後第2世代MBT並みの火力を持つ。 ユニークなのが、対空型のCV9040「カミーリアン」(Chameleon:カメレオン)対空自走砲である。 CV9040歩兵戦闘車と武装は変わらないものの、フランスのトムソンCSF社(現タレス社)製のガーファウトTRS2620捜索レーダー、コンピューターなど高度な対空射撃機材が搭載されている。 なお40mm機関砲は威力はあるものの、発射速度が若干劣るので主に3P弾を使用する。 AMOS 120mm自走迫撃砲はスウェーデンとフィンランドが共同開発した火力支援車両で、40mm機関砲塔に代えて25口径120mm迫撃砲を連装で装備する全周旋回式砲塔を搭載している。 砲は迫撃砲といっても後装式で射程も長く、半自動装填装置を装備している上に連装なので24発/分と非常に高い発射速度を発揮できる。 これらの他にも装甲回収車、装甲指揮車、装甲観測車などの派生型が開発されている。 |
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<CV9040歩兵戦闘車> 全長: 6.471m 全幅: 3.192m 全高: 2.50m 全備重量: 22.8t 乗員: 3名 兵員: 8名 エンジン: スカニアDSI14 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 550hp/2,200rpm 最大速度: 70km/h 航続距離: 300km 武装: 70口径40mm機関砲L/70B×1 (238発) 7.62mm機関銃Ksp.m/39またはKsp.58C×1 (3,000発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2004年8月号 輸出商品として注目されているCV90装甲車シリーズ」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年9月号 CV-90戦闘兵車シリーズ」 佐藤慎ノ亮/市川眞作 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年9月号 AFV比較論 CV9040/89式装甲戦闘車」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年8月号 CV9040戦闘兵車のファミリー車輌」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年7月号 スウェーデンのCV9040戦闘兵車」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年7月号 北欧諸国で多用されるCV-90シリーズ戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2013年9月号 CV90歩兵戦闘車」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「10式戦車と次世代大型戦闘車」 ジャパン・ミリタリー・レビュー ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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