FV214コンカラー重戦車
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+概要
第2次世界大戦終了直後の1945年9月7日に、ドイツの首都ベルリンにおいて連合軍代表部隊の合同記念軍事パレードが挙行されたが、このパレードに参加したソ連軍のIS-3重戦車を目にした西側の将軍たちは、強い衝撃を受けた。
IS-3重戦車は、ソ連がIS-2重戦車の後継として開発した新鋭重戦車で、1945年5月から部隊への引き渡しが開始されたばかりであった。
IS-3重戦車の最大の特徴は、車体と砲塔のデザインに避弾経始が徹底的に考慮されていたことで、最大装甲厚がIS-2重戦車の倍近い220mmに達していたにも関わらず、戦闘重量はほぼ同じ46tに収められていた。
主砲は、IS-2重戦車と同じく43口径122mm戦車砲D-25Tを装備していたが、この砲は、第2次大戦で米英軍戦車が苦戦したドイツ軍のパンター戦車や、ティーガー戦車を遠距離から撃破できる威力を持っていた。
この軍事パレード以降、IS-3重戦車の脅威は西側軍事筋の脳裏にくっきりと焼き付けられ、アメリカやイギリスは、この戦車に対抗するための新型重戦車の開発に狂奔することになる。
イギリス陸軍は、IS-3重戦車に対抗できる重戦車を早急に開発するために、1946年から開発が開始されていたFV200系、すなわち第2次大戦末期にその開発が始まった、いわゆる「汎用戦車」(Universal
Tank)の流れを汲む車体を利用して開発する方針を採った。
しかし、イギリスは60tを超える重量の重戦車に関しては、無砲塔型のトータス重突撃戦車ぐらいしか過去に開発の経験が無かったため、FV200系の車体に、王立造兵廠製の66.7口径20ポンド(83.4mm)戦車砲Mk.IIを装備する、センチュリオンMk.III中戦車の砲塔を組み合わせた、FV221「カーナーヴォン」(Caernarvon:ウェールズ北西部グウィネズ州の州都)重戦車をまず暫定型として生産し、運用経験を積むこととなった。
カーナーヴォン重戦車は10両が生産されることになり、1952年4月に第1号車が完成している。
完成したカーナーヴォン重戦車は、西ドイツに駐留するイギリス陸軍のBAOR(British Army of the Rhine:ライン派遣軍団)や、王立装甲軍団試験センター等に数両ずつが分配されて試験運用に供せられ、実際の重戦車の運用技術が開発されていった。
一方、新型重戦車の本命として生産が予定されていたのが、FV214「コンカラー」(Conqueror:征服者)重戦車である。
本車は、カーナーヴォン重戦車と同型の車体に新型のFCS(射撃統制装置)と、同じく新型で強力な55口径(60口径とする説もある)120mm戦車砲L1を搭載する重戦車であった。
当時のイギリス陸軍の主力MBTであった、センチュリオン中戦車が装備する20ポンド戦車砲や、アメリカ陸軍の主力MBTであったパットン戦車シリーズが装備する90mm戦車砲に比べると、コンカラー重戦車に搭載された120mm戦車砲は、当時の西側MBTの主砲としては異例の大口径であったが、IS-3重戦車を遠距離から撃破するにはこのクラスの砲が必要だったのである。
しかし当時、イギリスには適当な大口径高初速砲の手持ちが無かったため、アメリカが第2次大戦中に開発した60口径120mm高射砲M1を原型として、王立造兵廠で開発されたのがこの120mm戦車砲L1である。
なお、アメリカがIS-3重戦車に対抗して開発した、M103戦車が装備していた60口径120mm戦車砲M58も、同様に120mm高射砲M1を原型としている。
120mm戦車砲L1は、砲身のほぼ中央に排煙機が装備されており、閉鎖機は水平鎖栓式で、その開放は電動で行われるようになっていた。
弾薬は収納性と装填手の負担を考慮して、砲弾と薬莢を分割した分離薬莢式だったが、コンカラー重戦車の場合はあくまで直接照準射撃が基本のため、中口径の榴弾砲のように発射装薬量の変更はできなかった。
油圧式駐退機は2本が装備されており、発砲時の最大後座長は約46cmであった。
砲弾は装甲目標用のAPDS(装弾筒付徹甲弾)と、HESH(粘着榴弾)の2種類が搭載されたが、120mm砲用の砲弾も薬莢もかなり大きいため、大柄なコンカラー重戦車でもわずかに35発しか搭載できなかった。
このため非装甲目標専用のHE(榴弾)ではなく、装甲目標と非装甲目標のどちらにも有効なHESHが選ばれたわけである。
主砲の俯仰は動力制御だったが、非常時には手動での操砲も可能であった。
コンカラー重戦車で面白いのは、俯仰装置をロックする安全装置が装備されていた点である。
これは、走行時に長く重い砲身が振動を起こして、基部の俯仰用ギアが破損するのを防止するため、走行速度が2.5km/h以上になると、俯仰装置を自動的にロックするものであった。
しかし、この安全装置のせいでコンカラー重戦車は、低速で機動しながらの目標追尾ができないという問題を抱えることにもなった。
また、コンカラー重戦車にはこれまでに無かった新機軸として、巨大な撃ち殻薬莢を自動的に車外に排出する、車外自動排莢システムが装備されていた。
これは発砲後に、砲尾から排出された撃ち殻薬莢が排莢シュート内に落下すると、チェインで駆動するホルダーがそれを砲塔右側面の排莢ポートまで運んで、車外に押し出すという構造のものであった。
これは確かに画期的なシステムであったが、反面、複雑な機構のためにトラブルが多かったようである。
またコンカラー重戦車は開発当初、砲塔内に自動装填装置を装備することを予定していた。
これは、重い120mm砲弾と薬莢を人力で装填するのは負担が大きいことと、発射速度の向上を狙ってのことだったが、結局これは開発途中で廃止されることになり、それに伴う設計変更に手間取ったこともあってコンカラー重戦車の開発は遅れ、先行生産型が完成したのは1955年に入ってからであった。
IS-3重戦車の実用化に10年ほど遅れてしまい、すでにソ連では発展型のT-10重戦車が実戦化している有り様で、本車は登場した時から時代遅れとなってしまった。
コンカラー重戦車の副武装は、砲架右側に主砲同軸機関銃として、アメリカのブラウニング火器製作所製の7.62mm機関銃M1919A4を1挺、車長用キューポラにも対空用に7.62mm機関銃M1919A4を1挺装備しており、後者は車内からの俯仰操作と射撃も可能であった。
なお、7.62mm機関銃弾の標準搭載数は7,500発となっていた。
コンカラー重戦車の構造で最も注目すべきなのが、「FCT」(Fire Control Turret:射撃統制ターレット)と呼ばれる、特別な構造を持つ車長用キューポラである。
動力によって砲塔とは全く別個に旋回できるこのFCTは、砲塔上面後部中央、砲尾後方の1段高い位置に設けられており、内部には車長が着席した。
双眼式の接眼部を備えた倍率6倍のペリスコープが車長用主照準機で、左側の接眼部の中に砲手用照準機と同じ距離目盛が表示され、車長と砲手の距離目盛は、サーボ機構によって完全に連動するようになっていた。
またFCTを左右に貫いて、基線長1,245mmの合致式測遠機が装備されていた。
車長用主照準機とこの合致式測遠機は連動しており、車長用主照準機で目標を捉えた時には測遠機にも同じ目標が捉えられているので、上下にスプリットされた測遠機内の像を合致させて距離を計測し、そのデータを受け取った照準操作システムは、車長のスイッチ操作で砲塔が目標に向けて旋回を開始する。
一方、FCTは目標に正対して動力制御される。
砲塔とFCTが目標の方向を向くと、車長用主照準機の右側の接眼部の中に照準環が表示される。
この像は砲手用照準機から送られてきているもので、必要に応じて照準環を基にした微修正も行える。
当然がら、最終的な発砲は車長および砲手のどちらでも行うことができる。
このようにコンカラー重戦車は、当時としては随一といえる高度なFCSを装備していたが、その理由はイギリス陸軍が考案した本車の運用形態にあった。
イギリス陸軍は、センチュリオン中戦車を主力として装備する戦車連隊に、少数のコンカラー重戦車を遠距離火力支援用として配備するという運用形態を考え、それを実施した。
前面に出て戦うセンチュリオン部隊に対してコンカラーは、センチュリオン部隊を攻撃してくる敵戦車を後方の隠蔽陣地から、じっくりと正確に狙って遠距離で撃破する。
そのためには、直接照準とはいえ正確なFCSが必要だったのである。
コンカラー重戦車が走行間の照準と射撃を不可能にする、俯仰装置をロックする安全装置や、車外自動排莢システムを完備していたのも、この本車の運用形態のためである。
なお、砲塔上面には中央後方に位置するFCTの他、その手前右側に砲手用ハッチ、左側に装填手用ハッチが並列に装備されていた。
このことからも分かるように、砲塔乗員は車長、砲手、装填手の3名であった。
コンカラー重戦車の砲塔は防弾鋼の鋳造構造で、IS-3重戦車が装備する122mm戦車砲に対抗するために、装甲厚は前面で8インチ(203.2mm)、側面で3インチ(76.2mm)と相当に厚いものだった。
車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、装甲厚は前面が5インチ(127mm)、側面が2インチ(50.8mm)、後面が1インチ(25.4mm)、下面が3/4インチ(19.05mm)となっていた。
これはIS-3重戦車に匹敵する装甲厚だが、避弾経始はIS-3重戦車の方が優れていた。
操縦手席はイギリス戦車らしく車体前部の右側にあり、操縦手席の左側の空間は主砲弾薬庫となっていた。
砲塔リングの直径をできるだけ大きく取るため、砲塔位置の左右には履帯の上にまでリングが張り出していた。
足周りは第2次大戦時のチャーチル歩兵戦車のように、車体のサイズに比べて小さな転輪が多数取り付けられていた。
この転輪は、ちょうどアメリカのM4中戦車のVVSS(垂直渦巻スプリング・サスペンション)のように、2個で1組のサスペンション・ボギーを構成しており、計4組(転輪8個分)のボギーの上にはそれぞれ1個ずつ、また車体前部の誘導輪の後ろに1個、それに車体後部の起動輪の前に1個の、計6カ所に上部支持輪が取り付けられていたが、通常はサイドスカートに隠れて見えない。
コンカラー重戦車が低速の戦車であることは、この足周りの構造からも一目瞭然である。
コンカラー重戦車に搭載された、ダービーのロールズ・ロイス社製のM120 V型12気筒液冷ガソリン・エンジンは、センチュリオン中戦車に搭載された、同社製の「ミーティア」(Meteor:流星)
V型12気筒液冷ガソリン・エンジンと同系列のものである。
最大出力は810hp/2,800rpmと、ミーティア系列らしいなかなかの高出力だが、コンカラー重戦車は戦闘重量が約65tもあったため、最大速度は路上で21.3マイル(34.28km)/hを出すのがやっとだった。
なお燃料は、機関室左右に設けられたタンクに合計約1,000リットルを搭載することができた。
コンカラー重戦車は、Mk.IとMk.IIの2型式が生産された。
しかし両者にはあまり大きな差は無く、マイナーチェンジの域を出なかった。
主な相違点はまず、コンカラーMk.Iに搭載された120mm戦車砲L1A1では、砲身中央部に平衡錘が装備されていたが、これがコンカラーMk.IIに搭載された120mm戦車砲L1A2では、その外側に排煙機が装着された。
それからコンカラーMk.Iでは、操縦手席前方に3基のペリスコープが装備されていたが、コンカラーMk.IIでは大型広角のペリスコープ1基に変更されている。
またコンカラーMk.IIには、砲塔後部に車外搭載物収納用ラックが増設されていた。
コンカラー重戦車は、カーナーヴォン重戦車から改修された7両も含めて、1959年半ばまでに156両が生産され、その多くはIS-3重戦車との対決を見据えて、西ドイツ駐留のBAORに配属された。
だが幸運にも、BAORのコンカラー重戦車はついに1度も戦火を見ること無く、1966年に全て退役した。
その後コンカラー重戦車は、一部がイギリス本国で試験車両や特殊車両に改造されたが、多くは実弾射撃の標的にされてしまったようである。
多数のセンチュリオン中戦車の背後から、少数のコンカラー重戦車が狙撃的射撃を行なって、遠距離で敵戦車を撃破するという運用コンセプトは確かに実用的ではあったが、異なる2種類のMBTを運用し続けるのは無駄が多かったのも事実である。
このため、センチュリオン中戦車とコンカラー重戦車を1車種で統合できる本格的なMBTを、「FV4201」の開発番号で開発することになり、FV4201の試作車が完成した1959年にコンカラー重戦車の生産は打ち切られた。
「チーフテン」(Chieftain:族長、酋長)の呼称で、1963年5月から量産が開始されたこの新型MBTは、コンカラー重戦車が装備する120mm戦車砲L1を凌ぐ威力を持つ55口径120mm戦車砲L11を搭載し、最大速度も路上で30マイル(48.28km)/hとコンカラー重戦車を大きく上回っており、センチュリオン中戦車とコンカラー重戦車を1車種で統合する、イギリス陸軍初の本格的なMBTとなったのである。
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<コンカラーMk.II重戦車>
全長: 11.582m
車体長: 7.721m
全幅: 3.987m
全高: 3.353m
全備重量: 66.044t
乗員: 4名
エンジン: ロールズ・ロイスM120 No.2 Mk.1A 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 810hp/2,800rpm
最大速度: 34.28km/h
航続距離: 153km
武装: 55口径120mmライフル砲L1A2×1 (35発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (7,500発)
装甲厚: 19.05〜203.2mm
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兵器諸元(コンカラーMk.II重戦車)
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<参考文献>
・「第2次大戦 米英軍戦闘兵器カタログ Vol.2 火砲/ロケット兵器」 稲田美秋/箙浩一 共著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年1月号 イギリス軍重戦車
コンカラー」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2015年8月号 FV214コンカラー重戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年10月号 ソ連軍重戦車(3)」 古是三春 著 デルタ出版
・「世界の戦車(2)
第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「パンツァー2016年6月号 誌上対決シリーズ コンカラー vs T-10重戦車」 加賀屋太郎 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年12月号 イギリス最後の重戦車 コンカラー」 白石光 著 アルゴノート社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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