「天馬号」/「天馬虎」(チョンマホ)戦車 |
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北朝鮮は1970年代後半からソ連よりT-62中戦車およびT-62M中戦車を導入すると共に、1980年代にソ連からT-62中戦車の生産設備一式を譲り受けてライセンス生産を開始し、自国で生産したタイプに「天馬号」または「天馬虎」(朝鮮語での発音はどちらも「チョンマホ」)の名称を与えている。 北朝鮮軍は2013年の時点で約4,000両の戦車を保有しており、その中核をT-62中戦車系列が占めていると見られている。 2000年代に入ってから北朝鮮軍は「暴風号」(ポップンホ)や「先軍号」(ソングンホ)といった新型MBTを実戦化したため、現在は天馬号の新規生産はほとんど無く、既存車両の近代化改修を行っていると考えられている。 いずれにしても天馬号は、シリーズを通じて基本的に転輪は片側5個、主砲は旧ソ連製の55口径115mm滑腔砲U-5TS、赤外線投光機によるアクティブ暗視装置、というT-62中戦車オリジナルのままの構成であると思われる。 T-62中戦車の輸入/ライセンス生産型である天馬1号をベースとして、北朝鮮軍は数次に渡って独自の近代化改修を実施しており、現在までに天馬号シリーズは天馬1号〜5号の5種類のヴァリエーションが確認されている。 ☆天馬1号 ソ連から輸入されたT-62中戦車並びにT-62M中戦車と、北朝鮮国内でライセンス生産されたT-62中戦車に与えられた名称である。 北朝鮮軍独自の仕様として、対空機関銃はオリジナルの12.7mm重機関銃DShKMから14.5mm重機関銃KPVTに強化されている。 なお、天馬1号には北朝鮮国内で独自に開発されたエンジンが搭載されているらしいが、このエンジンが期待した性能を発揮できなかったためやむを得ず、天馬1号はオリジナルのT-62中戦車に比べて車体各部の装甲厚を薄くすることで軽量化を図り、機動性を確保しているともいわれる。 また、北朝鮮がソ連から輸入したT-62M中戦車は「天馬1号M」と呼称されており、天馬1号との違いは車体と砲塔の前面に簡易複合装甲が導入されている点と、ディジタル弾道計算機をリンクした総合FCS(射撃統制システム)「ヴォルナー」(Volna:波)を搭載し、主砲の基部にKTD-1レーザー測遠機を装備している点である。 ☆天馬2号 天馬1号Mと同様に主砲の基部にKTD-1レーザー測遠機を装備し、ディジタル弾道計算機をリンクした「ヴォルナー」総合FCSを導入、さらにエンジンをT-72戦車と同系列のV-46-5M V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力750hp)に強化したタイプ。 ☆天馬3号 主に防御力の向上に主眼を置いた改良を図ったタイプで、砲塔側面にERA(爆発反応装甲)、車体側面にサイドスカート、砲塔に4連装発煙弾発射機4基を装備している。 ☆天馬4号 天馬3号の防御力向上改良型であり、砲塔前面にモジュール式の付加装甲を装備している。 また砲塔を従来の半球形の鋳造製のものから、北朝鮮で新たに設計された前後に長く、やや低い溶接構造のものに換装している。 ☆天馬5号 2010年と2012年の軍事パレードに登場した最新型で、天馬3号の防御力向上改良型である。 サイドスカートの前半分にERAを装備している。 砲塔は天馬4号とは異なり、従来と同じ半球形の鋳造製のものを搭載しているが、前面に暴風号に似た楔形の付加装甲を装備し、5連装発煙弾発射機2基を装備している。 車体前面にも付加装甲を装着し、砲塔前面下部と車体前面下部には成形炸薬弾対策のゴムスカートが装備されている。 また履帯には、道路を傷付けないようにゴムパッドを装着している。 |
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<天馬号> 全長: 9.35m 車体長: 6.63m 全幅: 3.52m 全高: 2.40m 全備重量: 40.0t 乗員: 4名 エンジン: V-46-5M 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 750hp/2,000rpm 最大速度: 50km/h 航続距離: 450km 武装: 55口径115mm滑腔砲U-5TS×1 14.5mm重機関銃KPVT×1 7.62mm機関銃PKT×1 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「パンツァー2018年12月号 平壌軍事パレードに登場した北朝鮮軍車輌」 宮永忠将 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年9月号 北朝鮮地上軍の最近の装備」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2023年3月号 ソ連軍主力戦車 T-62 (2)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「世界の戦車 完全網羅カタログ」 宝島社 ・「完全保存版 世界の戦車図鑑」 宝島社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「決定版 世界の戦車FILE」 学研 |