FV4034チャレンジャー2戦車 |
|||||
+開発
1980年代半ばのイギリス陸軍は、イランの政変に伴いMBT-80に代わって急遽次期MBTとして採用されたチャレンジャー戦車(原型はイラン陸軍向けのシール・イラン2戦車)を、旧式化したチーフテン戦車と並行して運用していたが、仮想敵であったソ連軍が125mm滑腔砲を装備し複合装甲を備えるT-64、T-72戦車を毎年3,000両前後という大量生産を進めていると推測されたため、イギリス国防省は陸軍が保有するMBTの能力向上の必要性を認識するようになった。 そこで国防省が企画したMBTの能力向上プランが、CHIP/CHARM計画である。 CHIP(チーフテン/チャレンジャー改良計画)は、チーフテン/チャレンジャー戦車の欠点とされていたFCS(射撃統制システム)と人間工学的な配慮を欠いた砲塔内レイアウト、そして各機材の近代化を中核とする改良計画で、一方CHARM(チーフテン/チャレンジャー武装計画)は、チーフテン/チャレンジャー戦車が装備する120mmライフル砲の改良を目的としていた。 またこの流れと時を同じくして、国防省の装備方針委員会は旧式化したチーフテン戦車の後継として、西ドイツのレオパルト2戦車やアメリカのM1A1エイブラムズ戦車などの海外製第3世代MBTを導入することを提言した。 その背景にはこれらの戦車がいずれも120mm滑腔砲を搭載し、NATO内での弾薬供給がイギリス独自の120mmライフル砲よりもはるかに容易いという利点もあったものと思われる。 しかし国防省内には、技術継承や国内の雇用面などを考慮して海外製MBTの導入に否定的な人物も存在した。 装備局長であったサー・リチャード・ヴィンセント将軍は、王立造兵廠からチャレンジャー戦車の生産を引き継いだヴィッカーズ・ディフェンス・システムズ(VDS)社のニューカッスル工場を1986年11月に訪れて、同社が輸出向けに開発したヴィッカーズMk.7戦車の砲塔を、改良型チャレンジャー戦車の車体と組み合わせた新型MBTをイギリス陸軍向けに開発するよう提言した。 そしてVDS社はこの提言に従って、新型MBT「チャレンジャー2」の開発を自社資金で開始した。 1987年3月30日にVDS社はチャレンジャー2戦車の基本案を提出し、国防省では既存のチーフテン/チャレンジャー戦車にCHIP/CHARM改修を実施して就役寿命を延長するか、チャレンジャー2戦車を新規生産するかを巡って検討が重ねられた。 そして最終的に1988年12月、国防省はチャレンジャー2戦車をイギリス陸軍の次期MBTとして採用することを承認し、「FV4034」の開発番号を与えて試作車9両の製作契約が結ばれた。 また、この契約と時を同じくして前述した海外からのMBT導入提言に従い、チーフテンMk.10戦車とチャレンジャー戦車、M1A1戦車、レオパルト2A4戦車、ヴィッカーズMk.7/2戦車(ヴィッカーズMk.7戦車の砲塔をレオパルト2A4戦車の車体と組み合わせたもの)による性能比較試験が実施された。 その詳細は明らかにはされていないが、多分に政治的な駆け引きとコスト面での問題があったものと思われ、最終的に国防省はチャレンジャー2戦車をイギリス陸軍の次期MBTとして採用することになる。 1989年8月にはチャレンジャー2戦車の設計が完了し、1990年2月から試作車の製作が開始された。 この内7両はVDS社のリーズ工場、2両はニューカッスル工場で作業が進められ、加えてさらに1基の砲塔がリーズ工場で製作された。 そして9月30日までには9両の試作車全てが完成し、10月から走行試験や射撃試験などが開始され、年末まで継続して実施された。 そして試験終了までに、9両合わせての総走行距離は不整地走行を含めて20,400kmに達し、主砲の実弾射撃は11,600発を数えている。 なおこの試作車9両V1〜V9(”V”はVickersの頭文字)には、それぞれ06SP87〜06SP95の車両登録番号が与えられている。 チャレンジャー2戦車の車体はチャレンジャー戦車のものと酷似していたが、合計156カ所に及ぶ改良が各部に盛り込まれていたという。 その内訳は電気系統が37カ所、エンジンが33カ所、変速・操向機と最終減速機がそれぞれ11カ所ずつ、その他武装などが64カ所となっていた。 試作車による試験は滞りなく完了したようで、1991年6月に国防省はチャレンジャー2戦車のイギリス陸軍への制式採用を決定し、127両のチャレンジャー2戦車とその操縦訓練戦車(CDTT)13両の調達契約を5億2,000万ポンドで締結した。 なおチャレンジャー2戦車の制式化に伴い、従来のチャレンジャー戦車は”1”の接尾記号を付けて「チャレンジャー1」と呼ばれることになった。 1994年7月にはチャレンジャー2戦車の生産型第1号車が工場をロールアウトしたが、これに先立つ1993年にはCDTTがイギリス陸軍に引き渡されている。 この生産型第1号車の完成と時を同じくして、国防省は259両のチャレンジャー2戦車と9両のCDTTをVDS社に追加発注した。 ただしチャレンジャー2戦車の当初の導入予定数は、チャレンジャー1戦車をわずかに上回る426両が考えられていたが、後にその計画から40両を減らす下方修正が行われ、結局386両で生産を終了することになった。 チャレンジャー2戦車は当初、チーフテン戦車やチャレンジャー1戦車と並行して運用が行われたが、間もなくチーフテン戦車は全車が退役し、さらに国防省は東西冷戦の終結や政府の財政難などの理由で、チャレンジャー1戦車をイギリス陸軍から順次退役させることを1998年7月25日付で通達した。 チャレンジャー1戦車の退役は同年から開始され、2000年代初めにはイギリス陸軍から姿を消した。 いずれにせよ、386両が生産されたチャレンジャー2戦車の最終号車は2002年4月17日にイギリス陸軍に引き渡されて調達を完了した。 なお、チャレンジャー2戦車386両とCDTT 22両の調達に掛かった総費用は、23億ポンドといわれている。 |
|||||
+部隊配備
チャレンジャー2戦車の試作車と初期生産車は、まず新型戦車や装甲車両の各種試験を担当するボーヴィントンのATDU(機甲試験・開発ユニット)に配備された。 また、チャレンジャー2戦車の配備が考えられていた戦車連隊から人員が派遣され、ATDUの手で転換訓練も実施されている。 そして、この試験などで判明した様々な問題はVDS社に伝えられ、生産を進めながら改修が実施されることになった。 続いて本格的な転換訓練を実施するために、ボーヴィントンに展開しているRAC(王立機甲軍団)傘下のD&MS(操縦・整備学校)に対して配備が進められ、最初の実戦部隊として選ばれたのはドイツのファリングボステルに展開していた第7機甲旅団傘下の王立スコットランド竜騎兵連隊であった。 同連隊には1994年3月(1月末とする資料も)よりチャレンジャー2戦車の引き渡しが開始され、同年6月30日に38両の配備を完了した。 なおこの38型編制の内訳は、3両を装備する小隊3個と3両装備の本部中隊で1個中隊を編み、3個中隊で連隊を編制して連隊本部に2両を配するというものである。 チャレンジャー2戦車を初めて配備された王立スコットランド竜騎兵連隊は、装備を完了した1994年6月30日にバーゲン射撃場の第9区画で引き渡しのセレモニーを行い、1個小隊3両が機動展示を実施したのに加えて、1両が1,500mと2,300mに置かれた8個の目標に対して実弾射撃を行い、40秒で全ての目標に対して命中弾を与えて展示射撃を成功裏に終えた。 さらに同年8月からは、B中隊が12両のチャレンジャー2戦車と共にATDUでのISRD(運用信頼性デモンストレイション)に供され、ボーヴィントンとラルワースの射撃学校で所定の課目試験を実施した。 試験は12月まで続けられ総走行日84日間、総走行距離5,040km、120mm戦車砲弾2,850発、7.62mm機関銃弾84,000発の射撃を記録した。 しかし命中精度と信頼性の低さにより、ISRDの合格は果たせずに終わった。 続いて1998年末〜99年初めにかけて、第2王立戦車連隊へのチャレンジャー2戦車の配備が進められた。 2008年度におけるチャレンジャー2装備部隊は、王立スコットランド竜騎兵連隊、女王軽騎兵連隊、王立竜騎兵連隊、国王軽騎兵連隊、第2王立戦車連隊で、王立スコットランド竜騎兵連隊と女王軽騎兵連隊は58型編制が採られ、他の3個連隊は43型もしくは38型編制となっている。 |
|||||
+近代化改修
イギリス陸軍に引き渡されたチャレンジャー2戦車は、戦闘能力の向上を目的とした改良が段階的に実施された。 まず最初に着手したのは新型のAPU(補助動力装置)の導入であり、2000年に「APU2000」の呼称で検討に着手し、翌2001年末にVDS社と総額270万ポンドで新型APUの開発と、試作品4基および生産品66基のAPU2000製作に関する契約が結ばれて、本格的な作業が開始された。 2003年6月からAPU2000の試作品が順次イギリス陸軍に引き渡され、2004年10月より生産品の引き渡しが始まってすでにAPU2000への換装は終了している。 続いて2003年に、アメリカのジェネラル・ダイナミクス社との間に2,500万ポンドでPBISA(プラットフォーム戦場情報アプリケイション)の開発契約が結ばれた。 この機材はチャレンジャー2戦車のみならず、ウォーリア歩兵戦闘車とシミター装甲偵察車との間もディジタル方式で戦場状況を伝達することで、総合的な戦闘能力の向上を図ったものであり、チャレンジャー2戦車では車長席にINS(慣性航法装置)やディジタル・コンピューター、そしてINSやPBISAから送られる情報を表示するディスプレイが追加装備され、さらに操縦手席にもディスプレイが追加され情報を共有する。 ディスプレイには各車両の位置や敵の潜在可能性、弾薬および燃料残量などのデータが表示され、現在の状況を瞬時に見て取ることができる。 詳細は不明だが2007年10月には、335両のチャレンジャー2戦車と80両のCHARRV(チャレンジャー修理・回収車)に対するPBISAシステム一式の搭載が完了した。 さらに2003年末にはスミス・エアロスペース社に対してチャレンジャー2戦車向けとして、LNS(地上航法装置)336基が予備部品と兵站支援を含んで約1,000万ポンドで生産発注された。 これは前述のPBISAのアップデートといわれるが、詳細は不明である。 ただしその呼称からして、INSの精度などが改良されたものと思われる。 同じく2003年末にイギリス国防省はROディフェンス社に対し、SOTDP(120mm滑腔砲技術試験車計画)の呼称で総経費400万ポンドを上限とする条件付きで、チャレンジャー2戦車の主砲を120mm滑腔砲に換装した試験車両の製作を発注した。 といっても、実際の選択肢はドイツのラインメタル社製の120mm滑腔砲L44もしくはL55しか無かった。 そこでラインメタル社から55口径120mm滑腔砲L55一式を購入して、車両登録番号62KK62のチャレンジャー2戦車を用いて試験車両が製作され、2005年半ばよりドイツにある同社の射撃試験場において射撃試験が実施された。 試験の詳細に関しては明らかにされていないが、ラインメタル社製のDM53 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)など数種類の120mm弾薬が試験に供されたという。 そして2006年初めからはイギリス国内での射撃試験が進められ、成功裏に試験を終了したといわれる。 なお、試験車両に搭載された120mm滑腔砲は「L55ハイブリッド」と呼ばれるタイプで、オリジナルの55口径120mmライフル砲L30A1の砲架とサーマル・スリーブ、排煙機、MRS(砲口照合装置)がそのまま用いられていた。 このため車両登録番号が確認できない場合は、試験車両と通常のチャレンジャー2戦車を判別するのは非常に難しい。 チャレンジャー2戦車の主砲を120mm滑腔砲に換装することが計画された理由は、NATO各国の戦後第3世代MBTがいずれも120mm滑腔砲を主砲に採用しており、有事の際に弾薬の互換性が無い120mmライフル砲を装備するチャレンジャー2戦車が、弾薬補給に支障が出る事態になることが想定されたからである。 120mmライフル砲の弾薬はイギリスのみでしか生産しておらず、しかも2000年代半ばにはAPFSDSの生産を終了することが予定されていた。 しかしイギリス政府の財政難により、チャレンジャー2戦車の120mm滑腔砲への換装は予算がなかなか承認されず、結局2011年にイギリス国防省はチャレンジャー2戦車の主砲換装を行わず、そのまま120mmライフル砲の運用を続けるという方針を決定した。 その具体的な理由は明らかではないが、120mmライフル砲はAPFSDSよりも最大射程が長く、装甲/非装甲目標の両方に有効なHESH(粘着榴弾)を発射できるという利点がある。 イギリス陸軍は昔からHESHを好んで使用することから、これが120mmライフル砲を運用続行する理由の1つかもしれない。 しかし最近になって後述するチャレンジャー3計画が策定されたことにより、将来的にはチャレンジャー2戦車は120mm滑腔砲を装備することになりそうである。 |
|||||
+チャレンジャー2E戦車
チャレンジャー2戦車に搭載されているCV12-1200TCA V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)は、現在はピーターボロのパーキンス発動機が生産とアフターサービスを手掛けているが、元々はダービーのロールズ・ロイス社がチーフテン戦車の後継MBT用に開発したエンジンで、当初は1,500hpの出力を発揮することを目指していた。 しかし結局CV12エンジンの出力は1,200hpで頭打ちとなり、これを採用したチャレンジャー1戦車は路上最大速度56km/hと戦後第3世代MBTとしてはかなり鈍足な車両となってしまった。 その後もイギリス国内のエンジンメーカーは、CV12エンジンを上回る出力の戦車用エンジンを開発できなかったため、やむを得ず後継MBTであるチャレンジャー2戦車も引き続きCV12エンジンを採用することになったが、相変わらず機動力の低さに悩まされ、これが本車の輸出に成功しない大きな原因の1つにもなってしまった。 この問題を改めるべく開発されたのが、改良型のチャレンジャー2E戦車である。 接尾記号の”E”はExport(輸出)の頭文字を採ったものであり、当初から輸出を前提に開発が進められたことは明らかである。 チャレンジャー2戦車の開発時からメーカーのVDS社はCV12エンジンの出力不足を認識していたが、イギリス国防省が国産エンジンの採用にこだわったため、海外製のより強力なエンジンを導入する選択肢は採れなかった。 しかし、輸出専用のMBTならば国産エンジンの採用にこだわる必要は無いことから、VDS社はチャレンジャー2戦車の部隊配備が開始された1994年から、本車に海外製エンジンを導入して機動力を強化する研究を開始し、最終的にドイツのMTU社(Motoren und Turbinen Union:発動機およびタービン連合企業)製のMT883Ka-501A V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,500hp)を採用することになった。 このエンジンは、レオパルト2戦車シリーズに搭載されている同社製のMB873Ka-501 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンと同じ出力を発揮するが重量は600kgも軽く、排気量もMB873エンジンの47.6リットルに対して、MT883エンジンは27.4リットルと大幅に小さく燃費効率が大きく向上している。 このエンジン換装に併せて、変速・操向機もドイツのレンク社製のHSWL295自動変速・操向機(前進5段/後進5段)に変更されることになった。 このMT883エンジンとHSWL295変速・操向機の組み合わせは「ユーロ・パワーパック」と名付けられており、現在最も高性能な重MBT用パワーパックという評価を受けているものである。 この機関系の換装と合わせ、チャレンジャー2E戦車は熱帯地方での運用を考慮してラジエイターと冷却ファンが大型化され、機関室上面前後に設けられていた吸/排気グリルに代えて2枚の吸気用大型グリルが装着され、車台後面に同じく2枚の大型排気グリルが新設された。 この吸/排気レイアウトは、オマーン陸軍向けの熱帯地仕様のチャレンジャー2戦車で導入された改良点をそのまま踏襲している。 このことからチャレンジャー2E戦車は、特に中東やアフリカ諸国への輸出を意識して開発されたMBTであることがよく分かる。 砲塔後面に外気吸入筒を装着することで、チャレンジャー2E戦車の渡渉深度はチャレンジャー2戦車の1.07mから2mへと増大した。 なお、渡渉の際には機関室内に2基の排水ポンプを装着する必要があり、吸気筒と合わせて追加キットの形で用意されている。 加えて操縦室内のレイアウトも改められ、それまでの機械式計器に代えて多機能ディスプレイが導入され、エンジンの作動状況と車長席のBMS(戦場統制システム)からの情報を表示することも可能である。 さらに、チャレンジャー2戦車では古臭いレバー方式であった操縦装置が、他の西側第3世代MBTと同じくハンドル方式に換わり初心者でも操縦し易くなった。 また油気圧式サスペンションも、改良型に改められている。 これらの改良によりチャレンジャー2E戦車の路上最大速度は72km/hへと増大して、他の戦後第3世代MBTと肩を並べられるようになった。 さらに全天候下での戦闘能力向上を目的に、車長用キューポラにはフランスのSAGEM社が開発した熱映像式のMVS580昼/夜間照準機が、同様に砲手席にもSAGEM社製でジャイロ式安定装置を備えたSAVAN15熱映像式昼/夜間照準機が追加された。 また車長席にはBMSが装備され、主砲の弾薬も新規に開発されたL28 APFSDSとL18装薬が導入されたが、輸出を前提としているために劣化ウラン弾芯は用いられていない。 これまた外観からは分からないが、車体と砲塔の装甲板には暗視装置などでの視認性を低下させる新素材が用いられているという。 さらに生産コストの低減と期間短縮も図られているというが、その詳細は明らかにされていない。 チャレンジャー2E戦車のサイドスカートは当初、チャレンジャー2戦車の試作車で用いられたチャレンジャー1戦車に酷似するタイプのサイドスカートを装着していたが、これには最前部のスカートに乗降用のステップとなる長方形の切り欠きが追加されていた。 その後サイドスカートは、チャレンジャー2戦車の生産型で採用された下端が波型に成形されたタイプに換装されている。 このサイドスカートの換装に前後してチャレンジャー2E戦車の車体左側面に2枚、右側面には左側面と同じものを前後に3枚並べた吸/排気グリルが新設された。 これも、オマーン陸軍向けのチャレンジャー2戦車に導入された改良点を逆輸入の形で踏襲している。 これらの改良によりチャレンジャー2E戦車の戦闘能力は大きく向上したものの、現在までにイギリスの売り込みに応じた国は存在せず、未だ試作段階に留まっている。 その大きな理由の1つは主砲がイギリス独自の120mmライフル砲であるため、弾薬供給をイギリスに頼らなければならないという不便さがネックになっていると思われる。 またイギリス政府が2015年に、チャレンジャー2戦車以後のMBTの国内開発を行わないという方針を打ち出したため、今後の改良も望めずアフターサービスにも不安があるという点も大きいだろう。 |
|||||
+チャレンジャー3戦車
イギリス国防省は当初、2025年までチャレンジャー2戦車の運用を継続することを考えていたが、その後段階的な改良を加えながら本車の就役寿命を延長するよう度々方針を変更している。 チャレンジャー2戦車の開発・生産メーカーであるVDS社は、2002年にアルヴィス社に売却されてアルヴィス・ヴィッカーズ社に改組され、2004年にはジェネラル・ダイナミクス社に一旦買収されたが、これを阻止するためさらにBAEシステムズ社に買収されて、伝統ある「ヴィッカーズ」の名前は消え去ることになった。 こうしてイギリスで唯一の戦車メーカーとなったBAEシステムズ社であったが、同社は今後戦車の新規注文が期待できないとして戦車製造部門のリストラを行うことを決め、2009年に戦車の新規製造ラインを閉鎖した。 これによりイギリスは戦車を国内開発することが不可能となってしまったため、国防省は2015年にチャレンジャー2戦車以後はイギリス陸軍向けのMBTの国内開発を行わず、海外製MBTを導入する方針であることを表明した。 チャレンジャー2戦車の寿命延長計画は最初にCSP(チャレンジャー2能力維持計画)が策定されたが、2014年にはこれに代わって新たにLEP(チャレンジャー2現役延長計画)が策定され、2016年10月16日にBAEシステムズ社とラインメタル社の2社がLEPの主契約者として最終選定され、契約額6億5,000万ポンドで次の開発フェイズに進むことが決まった。 その後2019年7月にこの2社が合弁して、LEPの開発・実施を担当する合弁企業ラインメタル・BAEシステムズ・ランド(RBSL)社が設立された。 しかし、LEP改修の実施には10年近い歳月が掛かると推測されており、その間は旧式化したチャレンジャー2戦車を現状のまま使い続けなければならない。 このギャップを埋めるために海外製MBTを導入することも検討する必要があるとされ、M1A2 SEPV3戦車、レオパルト2A7戦車、韓国のK2「黒豹」戦車、日本の10式戦車、イスラエルのメルカヴァMk.4戦車など幾つかの候補車が提示された。 そして検討の結果イギリス国防省は、海外製MBTの導入ではなくチャレンジャー2LEPを次のステップに進めることを決定した。 2021年5月7日に国防省とRBSL社との間で、「チャレンジャー3」の呼称でチャレンジャー2戦車を近代化改修する契約が締結された。 契約額は8億ポンドで、改修対象となるチャレンジャー2戦車は148両とされた。 チャレンジャー3戦車の最も大きな改修項目は現用の55口径120mmライフル砲L30A1を、ラインメタル社製の55口径120mm滑腔砲L55A1に換装することである。 チャレンジャー2戦車の主砲をラインメタル社製の120mm滑腔砲に換装する計画は、前述のようにROディフェンス社との間で締結されたSOTDPが存在したが、これはイギリス政府の財政難のため予算がなかなか承認されず、結局実施されずに終わっている。 しかし、今回はイギリス政府もチャレンジャー2戦車の改修に本腰を入れているため、今度こそ120mm滑腔砲への換装が実現すると思われる。 チャレンジャー3戦車の改修の目玉はこの主砲の換装であるが、他にシステムのオープンアーキテクチャ化、車長用昼/夜間サイトの更新、車長用独立サイトの追加、APS(アクティブ防御システム)の追加等の防御力強化、APUの強化なども実施される。 RBSL社はテルフォードの工場に2,000万ポンドの設備投資を行っており、現在の計画ではチャレンジャー3戦車は2027年に初期作戦能力を獲得し、2030年に完全作戦能力を獲得することになっている。 RACには現在3個の常備戦車連隊(女王軽騎兵連隊、国王軽騎兵連隊、王立戦車連隊)と1個訓練予備戦車連隊(エセックス義勇農騎兵連隊)があるが、常備戦車連隊1個が現在開発中のエイジャックス歩兵戦闘車を主装備とする機甲歩兵連隊に編制替えされる計画であることから、チャレンジャー3戦車に改修されるのは常備2個連隊(各56両)+訓練予備連隊(36両)で148両ということになるようである。 |
|||||
+海外輸出
他の戦車と同様に、イギリスは外貨獲得のためチャレンジャー2戦車の販路を海外に求めたが、1990年代初めには世界標準ともいえるレオパルト2戦車と、それには及ばないもののM1A1/A2戦車が戦後第3世代MBTの輸出市場で大きなシェアを占めていたため、見た目が前作のチャレンジャー1戦車と酷似したチャレンジャー2戦車に魅力を感じる国は無く、しかも主砲がイギリス独自の120mmライフル砲ということも手伝い、いずれの国も全く興味を示さなかった。 その中で唯一例外といえるのが中東のオマーンで、1993年に18両のチャレンジャー2戦車と2両のCDTTを発注し、1995年に全車が引き渡された。 加えて1997年に20両のチャレンジャー2戦車を追加発注して、2000年に引き渡しを終え合計38両のチャレンジャー2戦車を装備することになった。 このオマーン向けチャレンジャー2戦車は、外気温が52℃以上の熱帯地でもエンジンが1,200hpの定格出力を発揮できることが求められたため、機関室周りが大きく変更されているのが特徴である。 エンジンと変速・操向機はオリジナルと変わらないが、ラジエイターとその冷却ファンが拡大され、この変更に併せて空気吸入グリルが大型化されたもの2枚に換わり、加えて車台後面に同じく2枚の大型グリルを新設して、上方から吸気して後面から排出するというレイアウトに改められた。 そしてこのレイアウトは、後に輸出向けとして開発されたチャレンジャー2E戦車に導入されることになる。 変化はこれだけではなく、砂漠地帯での運用を考慮したオマーンからの要求に従い、チャレンジャー2戦車で新規採用されたダブルピン式の履帯に代えてチャレンジャー1戦車のシングルピン式履帯が踏襲された。 このため起動輪は、チャレンジャー1戦車のものが流用されている。 また車体の左右側面に装着されていたワイアーは姿を消し、左側面に牽引用A形フレームバーが、後部にその牽引ブラケットがそれぞれ装着された。 さらに左側面前後2枚、右側面後方に左側と同じものを前後に3枚装着した、吸/排気用グリルが新設されたことも変化の1つである。 装填手用ハッチに装備する機関銃は7.62mm機関銃L37A2から、オマーン陸軍MBTの標準装備であるアメリカのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2に換装され、砲塔内にはマゼランGPS(衛星測位システム)を標準装備とし、車体色はいかにも砂漠地帯らしくサンドイエローをベースにタンとグリーンの帯状迷彩が施されて、第1戦車連隊に集中配備されている。 |
|||||
+車台の構造
チャレンジャー2戦車は砲塔こそチャレンジャー1戦車とは全く異なるものの、両車は車体についてはほとんど同じように見える。 しかし、実際にはチャレンジャー2戦車はほとんどの部分が新規に設計し直されており、チャレンジャー1戦車との外観の共用性はわずか3%に過ぎない。 チャレンジャー2戦車の車台前面には左右にフック掛け、下部中央にアイプレートが溶接されているが、フック掛けはチャレンジャー1戦車の場合、車台前面装甲板に直接溶接されていたのだが、チャレンジャー2戦車では台座と一体で鋳造され、これを溶接するスタイルに改められ、その位置も若干上方に移されている。 さらに右にオフセットして目的不明の円筒形張り出しが装着され、上端部5カ所に手摺りが溶接されている。 これは、偽装網などの装着を考慮したものであろう。 加えて左右に設けられている誘導輪の基部も、上部に角形のブロックを追加した形で鋳造されたものが用いられている。 ただし9両が製作された試作車では、前述の手摺りは装着されていない。 チャレンジャー2戦車の車台の装甲は、チャレンジャー1戦車と同じく前面が複合装甲板、側/後面が圧延防弾装甲板の溶接構造となっている。 インターネットで出所不明なチャレンジャー2戦車の断面図が流布し、この図で車台前面を圧延防弾装甲板と記述しているので、車台前面は複合装甲ではないと考える研究者も存在するようである。 チャレンジャー2戦車は湾岸戦争時のチャレンジャー1戦車と同様、車台前面に「ドーチェスター1アーマー」と呼ばれるERA(爆発反応装甲)ブロックをびっしりと装着していることから、これをチャレンジャー1/2戦車の車台前面が通常装甲である根拠とする研究者も存在する。 2007年5月にイギリス国防省は、2006年8月にイラクのアマラで活動していたイギリス陸軍のチャレンジャー2戦車が、旧ソ連製のRPG-29携帯式対戦車無反動砲による攻撃を受け、車台前面に装着されていたERAと車台前面装甲板を貫かれて3名の乗員が負傷(操縦手は両足切断の重傷)していた事を発表した。 RPG-29はRPGシリーズの最新型でERA対策として弾頭が二重構造になっており、先端部の小型弾頭でERAを排除してから後方のメイン弾頭で敵戦車の装甲板を穿孔する。 車台前面が複合装甲であればRPGのような成形炸薬弾で簡単に貫かれることは考え難いので、チャレンジャー2戦車の車台前面が通常装甲であるという説の信憑性が高まったように思われる。 チャレンジャー2戦車について解説している文献の多くが車台前面を複合装甲と記述しているが、それによるとチャレンジャー2戦車に用いられている複合装甲は、チャレンジャー1戦車に用いられていた「ドーチェスター・アーマー」(別名:チョーバム・アーマー)の改良型である「ドーチェスター2アーマー」と呼ばれるものである。 ドーチェスター2アーマーの詳細な構造については不明であるが、ドーチェスター・アーマーと同じく圧延防弾鋼板の空間装甲の内部に、金属製のマトリックスに格納されたハニカム構造のセラミック板を多数敷き詰めた構造になっていると思われる。 セラミックはユゴニオ弾性限界が非常に大きく、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイルの成形炸薬弾頭が発生させる超高圧・高熱のジェット噴流に対して非常に高い防御力を発揮する。 またセラミック自体が極めて固い物質であるため、徹甲弾などの運動エネルギー(KE)弾に対しても通常の装甲板より高い防御力を発揮する。 レオパルト2戦車や10式戦車などが採用しているタイプの複合装甲の場合、ハニカム構造のセラミック板を圧縮応力を加えた状態でチタン合金のマトリックスで拘束しているが、それに比べると非拘束セラミックタイプのドーチェスター2アーマーはKE弾が命中した際にセラミック板が割れ易く、KE弾に対する防御力は劣るといわれる。 なお、チャレンジャー2戦車の車台前面の装甲厚はチャレンジャー1戦車と同程度で、150mm前後ではないかと推測されている。 チーフテン戦車の車台前面装甲厚が190mmと判明しているので、もしチャレンジャー2戦車の車台前面が通常装甲であれば、チーフテン戦車より防御力が劣っていることになる。 チャレンジャー2戦車の操縦手用ハッチのレイアウトはチャレンジャー1戦車と変わらないが、ハッチ自体はやはり開閉が重かったらしく、装甲板2枚を用いてはるかに薄い中空構造に仕上げられている。 車台前部の操縦室内には2基の12Vバッテリーが収められ、APUと結合することで操縦装置や前照灯などに電力を供給している。 車台後面は、チャレンジャー1戦車と同じく避弾経始を考慮して大きく後方に傾斜させられているが、各部に変化も散見できる。 まずチャレンジャー1戦車では生産後に導入された左右の起倒式燃料タンクが、チャレンジャー2戦車では生産時より標準装備とされ、チャレンジャー1戦車で上部中央に配されていた主砲のトラヴェリング・クランプは機関室の上面に移動した。 そして上部中央には右に救急箱を上面に装着した雑具箱、その左に細い金属棒の先端に後方に続く車両の存在を確認する後退灯と、テントや偽装網の装着に用いる細紐を巻き付けたリール2個が、ラックに収める形で装着されている。 さらに右上部には、チャレンジャー1戦車には無かった車内との連絡に供する電話機を収めた装甲箱が装着されているのが目立つ。 また燃料タンクの起倒式ラックの下方に、牽引用のAフレームバーを備えるのはチャレンジャー1戦車と変わらないが、それぞれ2本ずつが溶接されている予備履帯のラック形状も異なっている。 さらにその下方の牽引基部は形状が一新され、左右に補強板を備え中央のアイプレートが上下に可動する、見るからに頑丈なものが用いられている。 ただしこの部分は生産型からの変更であり、試作車9両は燃料タンクのラックは備えるものの、その間にはチャレンジャー1戦車と同じトラヴェリング・クランプが装着され、牽引基部も同車から流用されていた。 車台後面の左右端に尾灯を備えるのもチャレンジャー1戦車と同じだが、尾灯は丸形から角形に改められ、その基部も全く独自のものが用いられている。 なお試作車では、チャレンジャー1戦車と同様に左側の尾灯上に救急箱を載せていたが、これは生産型では中央に位置を変えている。 さらに右側の尾灯部分は車台後面に角形の装甲板を溶接した上で、尾灯をボルトで固定するという左右非対称のスタイルが採られていることも見逃せない変化である。 車台前部の中央部に、後方に体を傾けたリクライニング方式で操縦手席が設けられているのはチャレンジャー1戦車と同じだが、前方2カ所にワイパーと洗浄液噴出口を備えるペリスコープは新型のAFV223-00に換わり、夜間戦闘に際しては光量増幅式のペリスコープに換装するが、その呼称については不明である。 また操縦装置はチャレンジャー1戦車と同じく、2本の操向レバーを操作する古臭い方式が踏襲されており、西側の戦後第3世代MBTとしては珍しい。 |
|||||
+上部車体の構造
チャレンジャー2戦車の上部車体は、チャレンジャー1戦車と同様に操縦室の前方左右が盛り上がった山形の空間装甲が採られ、これは車体後面まで続きその内部に燃料タンクが収められているが、タンク自体は新型に換わりその容量も1,592リットルと200リットルほど減少した。 ただし、チャレンジャー2戦車は車体後面に着脱式の175リットル容量の外部燃料タンクを2個標準装備しているので、これを加えると燃料搭載量は1,942リットルとなりチャレンジャー1戦車を上回っている。 またチャレンジャー2戦車は燃料タンクの形状変更に伴い、上面に設けられた左右それぞれ4カ所の燃料注入口の位置も変化している。 また車体側面装甲板は前方部分に複合装甲が用いられ、左右に牽引用のワイアーが装着されていることもチャレンジャー1戦車と変わらないが、前後合わせて10カ所に当時開発が進められていた、改良型の増加装甲を装着するためのナットが鋳込まれた三角形の台座が溶接されている。 またワイアーの装着位置が少々前方に移動していることも、チャレンジャー1戦車との相違点である。 車体の左右側面には4分割されたサイドスカートを装着するが、試作車ではチャレンジャー1戦車に酷似するが新規製作のものが用いられており、細部には変化も見られる。 さらに試作第4号車以降は、サイドスカートに開口された乗降用の切り欠きがそれまでの3枚目の1孔から、1枚目に1孔を、3枚目に2孔を開口するというスタイルに改められていた。 そしてチャレンジャー2戦車の生産型では、レオパルト2戦車に酷似した下端が波型のサイドスカートに改められたが、これは訓練などに際してスカート内部に泥が詰まり難いように配慮したものと思われる。 なおチャレンジャー2戦車は、海外派遣時には湾岸戦争時のチャレンジャー1戦車のように、サイドスカートに増加装甲を装着することが決められている。 この増加装甲は、サイドスカートの中央部に7個の複合装甲を用いた中空の装甲箱を装着し、さらにその前、後方に圧延防弾鋼板を用いた中空の装甲箱を装着するというものである。 チャレンジャー2戦車の試作車9両では、チャレンジャー1戦車の前部フェンダーを前照灯や消火器などを含めてそのまま踏襲していたが、生産型では上面に補強リブ4本がモールドされた専用の前部フェンダーに換わり、フェンダー後方の前照灯は姿を消し、消火器の外側には方向指示灯が新設された。 そして前照灯はどうなったかというと、試作弟2号車から跳弾板直後の左右に前照灯1基ずつが設けられており、生産型ではこのスタイルを踏襲している。 そして生産型では右側前照灯の外側に、円形の警笛が設けられたことも変化の1つである。 また左右の起倒式バックミラーは、チャレンジャー1戦車から流用された数少ない部品と思われる。 |
|||||
+機関室の構造
前述のようにチャレンジャー2戦車のエンジンは、ロールズ・ロイス社で開発されその後パーキンス発動機の手で生産が進められた、「コンドー」(Condor:コンドル)CV12-1200TCA No.3 Mk.6A V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されている。 このエンジンは、チャレンジャー1戦車に搭載されたCV12-1200TCA No.3 Mk.4Aエンジンの改良型である。 Mk.6Aエンジンの出力は1,200hp/2,300rpmでMk.4Aエンジンと同じだが、エンジンの調節装置がMk.4AのVICS(ヴィッカーズ統合調整装置)から、ディジタル方式を用いたDASCU(ディジタル・エンジン制御装置)に換わり、エンジンの出力に合わせたきめ細かい燃料噴射など、自動的に最適の状態とすることで総合的なエンジンの運転能率向上が図られている。 一方チャレンジャー2戦車の変速・操向機は、チャレンジャー1戦車の派生型であるCHARRVに導入された、ハダースフィールドのDBE社(David Brown Engineering:デイヴィッド・ブラウン工業)製のTN54 No.2 Mk.1自動変速・操向機(前進6段/後進2段)が採用されている。 このTN54 No.2 Mk.1自動変速・操向機は、チャレンジャー1戦車に用いられた同社製のTN37 Mk.2自動変速・操向機(前進4段/後進3段)の改良型であり、信頼性と動力伝達効率が向上している。 ただしエンジンと変速・操向機の組み合わせ以外、例えばラジエイターと冷却ファン、各種補器類から構成されるパワーパックはチャレンジャー1戦車からそのまま流用されており、APUもチャレンジャー1戦車の生産途中から導入された、パーキンス社製の4.108 直列4気筒液冷ディーゼル・エンジン(45hp/3,600rpm)が踏襲されている。 機関室上面のレイアウトはチャレンジャー1戦車と変わらないが、前後に配された吸/排気グリルや上面装甲板は新規設計とされ、さらに左右に設けられた排気口もチャレンジャー1戦車と異なる形状に改められている。 |
|||||
+足周りの構造
チャレンジャー2戦車の足周りは、車体と同じくチャレンジャー1戦車のものに酷似しているが、この部分も全てが専用の新型に改められている。 また履帯は、履帯メーカーとして世界的に定評のあるドイツのディール社と、スタンホープのウィリアム・クック・ディフェンス(WCD)社の競争試作の形が採られ、最終的にWCD社が勝者として選択された。 この履帯は幅600mmの「TR60DP」という型式で、ダブルピン式の鋳造製履帯であり表面の左右に着脱式のゴムパッドが装着されている。 ディール社がチャレンジャー2戦車用に試作した履帯も同様の形式であったが、いずれの履帯も装着時の連結枚数などは不明である。 チャレンジャー2戦車の試作車が完成した当初は、チャレンジャー1戦車のものに似た鋳造製のシングルピン式履帯が用いられていたが、後にこのTR60DP履帯に換装され、生産型は最初からこの新型履帯が装着された。 チャレンジャー2戦車のサスペンションは、チャレンジャー1戦車と同じくサリー州チョーバムのMVEE(軍用車両工学技術施設)と、バースのホルストマン・ディフェンス・システムズ(HDS)社が共同開発した油気圧式サスペンションが採用されているが、上下トラベル量が45cmに拡大した新型のものに換装されている。 チャレンジャー2戦車の転輪は試作車と初期の生産車では、新規製作でチャレンジャー1戦車のものに酷似したタイプが用いられていたが、生産中にハブ周囲に15個の小孔を開けた新型転輪が登場した。 両者のサイズは同一であり一部のチャレンジャー2戦車はストックの都合で、初期型の転輪とこの新型転輪を混装している例も確認できる。 |
|||||
+砲塔の構造
チャレンジャー2戦車の砲塔は、VDS社が輸出向けに開発したヴィッカーズMk.7戦車の砲塔をベースに、近代的な改良を加えたものである。 チャレンジャー1戦車の砲塔とは形状が大きく異なっているものの、前面は複合装甲で側面と後面は圧延防弾装甲板が用いられ、側面は装甲を二重にした空間装甲、砲塔後部を主砲弾薬を収めるバスルとし、その後方にNBC防護装置を収めるというレイアウトはそのまま踏襲されている。 ただし、砲塔の側/後面にはチャレンジャー1戦車の雑具ラックに代えて、大きな開閉式雑具箱が装着されたため、チャレンジャー2戦車の砲塔はさらに長い矩形砲塔となった。 砲塔内の乗員配置はチャレンジャー1戦車と基本的に同じで、右前部に砲手が、その後方に車長が配され、主砲を挟んでその中間位置にあたる左側に装填手が位置している。 この内部配置に伴い右前部の砲手席上部には、レイソムのピルキントン光電子工学(現タレス社)製でジャイロ式安定機構が組み込まれた、4HzのNd-YAG式レーザー測遠機と、倍率3倍と10倍の切り替えが可能な熱映像式No.1 Mk.5照準ペリスコープが一体式の形で設けられ、おそらくこの部分にMRSに照射するレーザー光のレンズ部分も収められているものと思われる。 なおレーザー測遠機の有効照射距離は200〜10,000mで、最大距離での誤差は±5mといわれる。 チャレンジャー1戦車の場合は、主照準機材の上方に装甲ガードを装着しているだけだったが、チャレンジャー2戦車では鋳造製の装甲カバーで全てが覆われ、必要に応じて前面に装着された右開き式の装甲蓋を開いて照準が行われる。 なおこの照準装置は、左右に各7度ずつ振ることが可能な構造が採られているという。 さらにその左側にも固定式ペリスコープが配されているが、この型式に関しては明らかにされていない。 加えて照準機材が破損した場合の補助照準機として、主砲の右側にGAS(砲手補助照準機)と呼ばれる直接照準機が装着されているが、これまた型式名や倍率、視野角などは不明である。 砲手席の後方に位置する車長席には、全周旋回式で周囲に固定式のペリスコープ8基を備える車長用キューポラが装着されているが、これも新規設計で型式名は不明である。 車長用キューポラの前方には全周旋回式でジャイロ式の安定装置が組み込まれ、倍率4倍と11.5倍の切り替えが可能なSAGEM社製のVS580-10照準機が設けられている。 照準機は装甲箱に収められ、使用に際しては前面に装着された観音開き式の装甲蓋が開かれる。 この照準機からの情報は車長席のディスプレイに表示されるが、併せて砲手席の照準機からの情報も表示され、必要に応じて車長が主砲の操作を行うことが可能なオーバーライド機構が組み込まれている。 装填手席の上方には小判型の後ろ開き式ハッチが設けられ、チャレンジャー1戦車では車長用キューポラに装着されていた機関銃マウントに代わり、装填手用ハッチの前方に全周旋回式の機関銃マウントが設けられた。 また機関銃マウントの前方には、全周旋回が可能な装填手用のペリスコープが設けられているが、これまた型式は明らかにされていない。 さらに砲塔内には操縦室と同様に24Vのバッテリー2基が収められており、砲塔内の電子機材や安定装置などに電力を供給している。 チャレンジャー1戦車の場合は砲塔前面装甲板の中央に大きな切り欠きを設けて主砲を収めていたが、チャレンジャー2戦車では圧延防弾装甲板を溶接した防盾を介して主砲が収められている。 主砲防盾の前面装甲厚は200mm程度と思われ、左側に同軸機関銃の、右側に予備の直接照準機の開口部がそれぞれ設けられているが、直接照準機の開口部は上開き式の装甲蓋が用意され、戦闘時以外は閉じられてレンズ部分を保護している。 砲塔後部のバスル左側には後述する無線機が収められ、円形の切り欠きを設けてアンテナ基部を収めている。 加えて、最後部に配された雑具箱の右端にもアンテナ基部が装着されている。 ただしこれはイギリス陸軍のチャレンジャー2戦車の中でも、砲戦車と呼ばれるタイプの場合である。 イギリス陸軍ではチャレンジャー2戦車を砲戦車、統制戦車、指揮戦車の3タイプに分類して運用しており、砲塔内に2種類の異なる無線機を搭載している。 まず砲戦車だが、これは各車間の連絡用としてクランズマンVRC353 VHF/FM無線機2基が搭載されているが、この無線装備が一般的なものである。 また統制戦車には、中隊間における連絡を目的として2基のVRC353 VHF/FM無線機に加えて、より送受信距離が長いクランズマンVRC321 HF無線機1基が追加され、中隊本部に配されている。 この無線装備はそのまま指揮戦車にも踏襲されたが、こちらは連隊間の連絡に供され連隊本部に配されている。 この無線機の追加装備により、統制戦車および指揮戦車では車長用キューポラの右隣にアンテナ基部が新設されている。 なおこれらの無線機はいずれも、音声をディジタル変換して送受信するCSSH(クランズマン保全音声ハーネス機構)が組み込まれており、傍受されても会話の内容が不明な秘話通話を可能としている。 さらに、砲塔内と操縦室の乗員に対してはCTTS(乗員温度調節装置)が標準装備されているが、その実態に関しては不明である。 砲塔後部の左右と後部は空間装甲を兼ねた雑具箱とされ、左右の雑具箱には前開き式の装甲パネル、後部の雑具箱には左側のみに下開き式の装甲パネルが装着されている。 チャレンジャー2戦車は現役のMBTであるためかなりの部分が機密扱いとされており、砲塔内の配置などは後部に主砲弾薬庫とNBC防護装置を備えるということ以外は全く不明である。 |
|||||
+武装の構造
チャレンジャー2戦車の主砲である55口径120mmライフル砲L30A1は、前述のCHARM計画でチーフテン/チャレンジャー戦車の新たな主砲として王立造兵廠ノッティンガム工場の手で1989年に開発された、120mmライフル砲XL30E4を制式化したものである。 前述のようにCHARM計画は元々、旧式化したチーフテン/チャレンジャー戦車の主砲威力を向上させる目的で、新しい主砲と弾薬を開発するプロジェクトであった。 しかし、新たにチャレンジャー2戦車を生産することが決まったため、チーフテン/チャレンジャー戦車の主砲強化は見送られ、CHARM計画で開発された主砲や弾薬はチャレンジャー2戦車に導入されることになった。 120mmライフル砲L30A1の初速や射程、装甲貫徹力などは公表されていないが、常識的に考えてチャレンジャー1戦車に搭載された55口径120mmライフル砲L11A7を上回るものと思われる。 L30A1の砲身は、旧ソ連で発展した鋼の精錬技術であるエレクトロスラグ溶解法で製造されており、従来の戦車砲に比べて強度が向上している。 また砲腔内には命数の増大を図ってクローム鋼を用いたインナーが収められ、加えてチャレンジャー1戦車では布製だったサーマル・スリーブが、周囲に補強用の窪みをモールドした樹脂製に換わり、砲身中央の排煙機と砲身先端のMRSも新型に変更されている。 主砲の俯仰角は−10〜+20度で、主砲防盾の左側に7.62mm機関銃を同軸装備している。 チャレンジャー1戦車は同軸機関銃として7.62mm機関銃L8A2(ベルギーのFN社製の7.62mm機関銃FN-MAGを、王立小火器工廠でライセンス生産したL7A2の派生型)を装備していたが、チャレンジャー2戦車ではアメリカのヒューズ社(現ボーイング社)製の7.62mmチェインガンEX-34を、王立小火器工廠でライセンス生産したL94A1に換装されている。 チェインガンは、電動モーターでボルトに連結したチェインを駆動させて連射する仕組みになっている機関銃で、たとえ不発弾があっても強制的に排莢を行うため、通常の機関銃に比べて連射不能になるリスクが低いという特徴を持つ。 一方装填手用ハッチ前方の機関銃マウントには、チャレンジャー1戦車と同じく7.62mm機関銃L37A2(やはりL7A2の派生型)を装着している。 チャレンジャー2戦車はイギリス陸軍のMBTとして初めて、チェルムスフォードのGECマルコーニ社(現BAEシステムズ社)が開発したMIL-STD(軍用標準仕様)-1553データバスが導入され、これを中核として完全電気駆動式の砲安定装置とジェネラル・ダイナミクス・カナダ社が開発し、M1A1戦車に搭載されたディジタル・コンピューターを組み込んだFCSの改良型と電気的に結合することで、静止目標は無論のこと移動目標に対しても高い命中精度を得ているといわれる。 加えて2003〜04年にかけての改修により、新たに開発されたボウマンC4I JOCS(統合作戦統制システム)と電子的に結合されて機能するBMSをCHARRVに先駆けて導入し、周囲の状況を車長席に設けられたディスプレイに表示することで、相対的な戦闘能力の向上も図られている。 チャレンジャー2戦車の主砲弾種はタングステン弾芯のL23A1 APFSDS、劣化ウラン弾芯のL27A1 APFSDS、L31A7 HESH、L34A2 WP(煙幕弾)、L29A1 DS(装弾筒付徹甲弾訓練弾)で、装薬はL18A1が用いられる。 また2014年からL23A1はL27A1への完全更新が進められており、すでに更新作業は完了している。 この更新に伴い通常の主砲弾薬搭載数はL27A1が33発、L31A7が13発、そしてL34A2が3発の合計49発が標準とされ、チャレンジャー1戦車の52発から3発減じているが、これも人間工学的改良によるものなのであろう。 またこの数字はチャレンジャー2戦車の砲戦車タイプの場合で、無線機を追加装備した統制戦車と指揮戦車では主砲弾薬搭載数が8発減らされて、41発となるようである。 副武装の7.62mm機関銃弾の搭載数については不明であるが、チャレンジャー1戦車の4,600発を上回ることは無いと思われる。 なお前作のチャレンジャー1戦車では、2番目の生産型であるMk.2からTOGS(熱映像視察・砲手照準機)が砲塔右前部に装備されるようになり、後に改修によって全てのチャレンジャー1戦車がTOGSを装備するようになった。 このTOGSは、夜間や視界の悪い状況下において敵車両や兵士が放出する熱を感知して映像化することで、砲手席と車長席のディスプレイにその情報を送り、コンピューターを介してFCSにも情報データを送って射撃の一助とする装置であるが、チャレンジャー1戦車はTOGSの装備位置が主砲と離れていたため走行時の振動などでどうしても軸線が狂い、主砲の命中精度が低下する原因となったといわれている。 このTOGSはチャレンジャー2戦車にも受け継がれているが、本車では改良型でより精度と信頼性の向上が図られたTOGSIIが用いられ、その装備位置も主砲防盾と一体化されて主砲の上部に配されたため、軸線の調整をほとんど必要としなくなっている。 TOGSIIの開口部の前面には右開き式の装甲蓋が装着されており、戦闘時以外は閉じられてレンズ部分を保護している。 |
|||||
<チャレンジャー2戦車> 全長: 11.55m 車体長: 8.327m 全幅: 3.52m 全高: 2.49m 全備重量: 62.5t 乗員: 4名 エンジン: パーキンス・コンドーCV12-1200TCA No.3 Mk.6A 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディー ゼル 最大出力: 1,200hp/2,300rpm 最大速度: 56km/h 航続距離: 450km 武装: 55口径120mmライフル砲L30A1×1 (49発) 7.62mm機関銃L94A1×1 (4,600発) 7.62mm機関銃L37A2×1 装甲: 複合装甲 |
|||||
<チャレンジャー2E戦車> 全長: 11.55m 車体長: 8.327m 全幅: 3.52m 全高: 2.49m 全備重量: 62.5t 乗員: 4名 エンジン: MTU MT883Ka-501A 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,500hp/2,700rpm 最大速度: 72km/h 航続距離: 550km 武装: 55口径120mmライフル砲L30A1×1 (49発) 7.62mm機関銃L94A1×1 (4,600発) 7.62mm機関銃L37A2×1 装甲: 複合装甲 |
|||||
<参考文献> ・「パンツァー2017年1月号 チャレンジャー2現役延長計画 BAE対ラインメタルに」 家持晴夫 著 アルゴノート 社 ・「パンツァー2012年4月号 チャレンジャー2戦車 開発過程・構造とその将来」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年2月号 トピックス チャレンジャー・シリーズの最新型チャレンジャー2E」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年10月号 チャレンジャー1 & 2戦車の現状と変化」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年8月号 イギリス戦車 100年目の右往左往」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年3月号 チャレンジャー2戦車」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート11 第二次大戦後のイギリスMBT」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2016年7月号 チャレンジャー主力戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 |
|||||
関連商品 | |||||
ヘンロン 1/16 イギリス軍 チャレンジャー2戦車 RC 7.0ver 2.4GHz ラジコン 3908-1 | |||||
HJKLMM 1/16 イギリス軍 チャレンジャーII戦車 2.4GHz ラジコン Professional Edition H-00066 | |||||
ライフィールドモデル 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2 TES戦車用 エッチングパーツセット 2001 | |||||
ライフィールドモデル 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2 TES メガトロン戦車 プラモデル 5039 | |||||
ライフィールドモデル 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2戦車 連結組立可動式履帯付き プラモデル 5062 | |||||
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.274 イギリス陸軍 チャレンジャー2戦車 イラク戦仕様 35274 | |||||
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.277 イギリス陸軍 チャレンジャー2戦車用 エッチングパーツセット 35277 | |||||
タミヤ 1/48 ミリタリーミニチュアシリーズ No.101 イギリス陸軍 チャレンジャー2戦車 イラク戦仕様 32601 | |||||
トランペッター 1/35 イギリス軍 チャレンジャーII戦車 プラモデル 00308 | |||||
トランペッター 1/72 イギリス軍 チャレンジャーII戦車 コソボ プラモデル 07216 | |||||
備後三原しまなみ 1/35 イギリス陸軍 チャレンジャー2戦車 完成品 236 | |||||
ボイジャーモデル 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2戦車 グリル (タミヤ用) PEA222 | |||||
ボイジャーモデル 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2戦車 アップグレードセット (ライフィールド 5062用) PE351093 | |||||
パンツァーアート 1/35 イギリス軍 チャレンジャー2戦車 予備転輪 RE35-070 | |||||
ドラゴン 1/72 チャレンジャーII戦車 バタス カナダ 完成品 60035 | |||||
ドラゴン 1/72 チャレンジャーII戦車 増加装甲仕様 コソボ2000 完成品 60045 | |||||
AFM イギリス軍 チャレンジャー2戦車 組み立てブロック 1441ブロック M0094P | |||||
AFM イギリス軍 チャレンジャー2戦車 組み立てブロック 508ブロック M0084P | |||||
Cobi イギリス軍 チャレンジャーII戦車 組み立てブロック 625ブロック 2614 | |||||
ギガント イギリス軍 チャレンジャー2戦車 長袖Tシャツ | |||||
ギガント イギリス軍 チャレンジャー2戦車 半袖Tシャツ |