B1「チェンタウロ」(Centauro:ケンタウロス、ギリシャ神話の半人半馬の怪物)は、威力偵察用にオート・メラーラ社とイヴェコ社が共同開発した8輪駆動の大型装輪式装甲車である。 車体と砲塔はいずれも圧延防弾鋼板の全溶接構造となっており、避弾経始を考慮して全体が鋭角な傾斜面で構成されている。 車内レイアウトは車体前部左側が操縦手席で、前部右側がパワーパックを収容する機関室となっている。 車体後部は戦闘室となっており、105mm戦車砲を装備する大型の3名用砲塔やその弾薬を搭載している。 チェンタウロ戦闘偵察車の車体サイズは車体全長が7.40m、全幅が3.05mとなっている。 陸上自衛隊の87式偵察警戒車の車体全長が5.525m、74式戦車の車体全長が6.70mであるから、いかに本車が大きいかが分かる。 ただしチェンタウロ戦闘偵察車の戦闘重量は25tで、74式戦車よりも13tも軽い。 重量差の大半が、装甲防御力の違いである。 ここが装甲車が戦車と区別される最大の要素であり、欠点の1つに数えられている。 チェンタウロ戦闘偵察車の場合、その防弾能力は前面装甲が20mm機関砲弾の直撃、その他の部分が12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられる程度となっている。 仮に、敵の105mm砲弾の直撃に耐えられる装甲を付けようとすれば40t級の車体になってしまい、肝心のスピードや航続力を失うことになる。 しかし、地域紛争では不規則な市街戦や護衛・警戒任務中の遭遇戦が大半で、大平原の機動戦などほとんど無いのが現実であろう。 つまり、近距離での戦闘(武装勢力の待ち伏せ攻撃による)である。 この場合、RPGなどの携帯式対戦車兵器に対する防弾能力を身に付けないと乗員の被害は避けられない。 そこでメーカーは、2種類の増着タイプの装甲パッケージをオプションとしている。 その1つが、イギリス製のローマー装甲システムである。 これはERA(爆発反応装甲)で、23種類の形をした装甲タイルを車体や砲塔に取り付けるものである。 世界中の武装ゲリラが使用している、旧ソ連製のRPG-7携帯式対戦車ロケットの直撃から完全に守る能力があるといわれている。 もう1つは、厚さ25mmの防弾装甲板を砲塔の周りに取り付けたパッシブ装甲である。 チェンタウロ戦闘偵察車の長所は、脆弱な装甲を充分補強できるキャパシティの大きさにあるといえよう。 強力なエンジンの搭載により、最大3tもの装甲パッケージなどを車体に追加しても機動性能は低下しないのである。 パワーパックはイヴェコ社製のモデル8260 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力520hp)と、ドイツのZF社製の5HP-1500自動変速機(前進5段/後進2段)の組み合わせである。 この組み合わせによってチェンタウロ戦闘偵察車は路上最大速度105km/h以上、路上航続距離800kmの機動性能を発揮する。 チェンタウロ戦闘偵察車の足周りに関して面白いのは、H型と呼ばれる8個のタイアへの動力伝達機構である。 これは普通の自動車のように、車体の中央を走る1本のプロペラシャフトによって前後2本の車軸を駆動するのでなく、2本のプロペラシャフトを車体の左右からH型に伸ばして左右のタイアを個別に駆動する方式である。 従って、8個のタイアにはそれぞれ対応するディファレンシャル・ギアが備えられている。 サスペンションはアメリカのマクファーソン社製の油気圧式サスペンションで、8輪独立懸架となっている。 垂直方向のトラベル長は310mmと大きく、車体の最低地上高は417mmある。 駆動方式に関しては8輪駆動(8×8)だけでなく、後ろの6輪で走行する6輪駆動(6×6)も選択できる。 またタイアの操向は前方の4輪が向きを変える4輪操向と、6輪操向(前方の4輪と最後部の2輪)を必要に応じて切り替えられる。 どのような場合に駆動方式と操向方式を選択して組み合わせるのかといえば、道路上での高速走行と不整地の踏破の場合にその使い分けが最大のパフォーマンスを発揮する。 例えば道路上を高速走行する場合は、6輪駆動と4輪操向の組み合わせがベストである。 なぜなら、8輪駆動では8個のタイアにパワーを浪費するだけでスピードは上がらない。 燃料を浪費し、タイアが摩耗するだけである。 長距離移動であれば、4輪駆動の方がなお良いであろう。 反対に不整地では大きな接地面積(低い接地圧)と駆動力が必要となるので、8輪駆動と6輪操向の組み合わせが適している。 さらにチェンタウロ戦闘偵察車にはタイアの空気圧調整機構が備えられているので、これを使えば不整地ではタイアの空気圧を下げて接地面積を広げ、道路上ではタイアの空気圧を上げて路面との摩擦を低下させることができる。 このようにチェンタウロ戦闘偵察車は単に装輪式装甲車としてスピードが速いだけでなく、駆動・操向方式の切り替え機構や空気圧調整機構を持つ高級な足周りによって、不整地での踏破力も戦車に近付いているのである。 また本車は8輪装甲車であるため、仮に頑丈なランフラット・タイア(14.00×20)を地雷で2個吹き飛ばされても走行を続けることが可能であり、4輪や6輪の装甲車に比べて足周りのダメージに強いのも特長である。 車体左後部には牽引力10tのウィンチが取り付けられており、泥濘地で動けなくなっても自力で脱出できるようになっている。 次にチェンタウロ戦闘偵察車を象徴するのが、戦車級の大型3名用砲塔(右に砲手、装填手、左に車長)に搭載された105mm戦車砲である。 これはオート・メラーラ社製の52口径105mmライフル砲で、レオパルト1戦車と同じ徹甲弾を発射することができる。 105mm砲弾の搭載数は砲塔内に14発、戦闘室に26発の計40発となっているが、戦闘室に搭載している105mm砲弾26発を下ろせば完全武装歩兵4名を収容することができ、兵員輸送車としての運用も可能である。 これも、チェンタウロ戦闘偵察車の大きな運用能力の1つといえる。 FCS(射撃統制システム)はC1アリエテ戦車と同系の高級システムで、車長と砲手それぞれに独立した夜間暗視サイト(視察・照準装置)が設けられている。 レーザー測遠機やセンサーも装備されているので、夜間悪天候という劣悪な環境においても一発必中が狙える。 |
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<B1チェンタウロ戦闘偵察車> 全長: 8.555m 車体長: 7.85m 全幅: 3.05m 全高: 2.71m 全備重量: 25.0t 乗員: 4名 エンジン: イヴェコ8260 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 520hp/2,300rpm 最大速度: 105km/h 航続距離: 800km 武装: 52口径105mm低反動ライフル砲×1 (40発) 7.62mm機関銃MG42/59×2 (4,000発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2006年12月号 陸上自衛隊において機動砲は戦車を代替できるか(1)」 荒木雅也 著 アルゴノ ート社 ・「パンツァー2003年2月号 AFV比較論 AMX-10RC & チェンタウロ」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年6月号 現在注目されている低反動砲」 佐藤慎ノ亮 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年5月号 チェンタウロ戦闘偵察車」 佐藤慎ノ亮 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年8月号 チェンタウロ戦闘偵察車 インアクション」 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年1月号 装輪式偵察/戦車駆逐車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年4月号 装輪戦車の系譜」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート68 16式機動戦闘車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著 学研 ・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |
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