カエサル155mm自走榴弾砲は、GIAT社(2006年にネクスター社に改組)が自己資金で開発した装輪式の155mm自走榴弾砲である。 ちなみに名称の「カエサル」(CAESAR)は、「トラック搭載式砲兵システム」(Camion Equipé d'un Système d'Artillerie)の略語と、古代ローマの英雄「ガイウス・ユリウス・カエサル」(Gaius Julius Caesar)の名前を掛けたものである。 カエサル自走榴弾砲は1994年に試作車が完成し、続いて1998年に先行生産型が製作された。 カエサル自走榴弾砲のベース車体は、試作車や先行生産型ではドイツのダイムラー・ベンツ社(現ダイムラー社)製のウニモグU2450L 6×6トラックが用いられていたが、90年代後期にU2450Lトラックの生産が終了したため、カエサル自走榴弾砲の生産型はベース車体がルノー・トラック・ディフェンス社製のシェルパ5 6×6トラックに変更されている。 カエサル自走榴弾砲は6×6トラックの車体前部にエアコンを備えた密閉式の装甲キャブを設け、車体後部に剥き出しの状態でGIAT社製の52口径155mm榴弾砲を限定旋回式に搭載している。 この砲は牽引式の40口径155mm榴弾砲TR-F1を長砲身化したもので、最大射程はベースブリード榴弾を使用した場合42km、ロケット補助榴弾では50km以上に達する。 ただし顧客のニーズに応じて主砲をより短砲身の39口径または45口径の155mm榴弾砲に換装することも可能で、オプションで装甲キャブにNBC防護システムを装着することも可能である。 主砲にはフリック式の装弾ラマーが取り付けられており、発射速度はバースト射撃で3発/15秒、持続射撃で6発/分となっている。 砲の旋回角は左右各15度ずつ、俯仰角は-3~+66度となっている。 射界が狭いのは軽量な装輪式車体に長大な155mm榴弾砲を搭載したためで、装軌式自走砲に比べると射撃プラットフォームとしての安定性ではどうしても劣る。 射撃時には車体後部に装備されている油圧式の大型駐鋤を下ろして、車体を固定するようになっている。 FCS(射撃統制システム)はフランス陸軍が保有する装軌式のAU-F1TA 155mm自走榴弾砲と同じく、タレス社製のアトラスC4Iシステムが搭載されている。 アトラスC4IシステムはCS2002-G弾道コンピューターを中心とする統合型FCSで、データリンク・システムやナビゲイション・システム等も完備している。 車体中央部は砲弾・装薬18発の収納スペースとなっており、左右に各2個ずつ弾薬ラックが設けられている。 このラックは前のものが10発、後ろのものが8発の弾薬を収納できるようになっており、車体右側面には弾薬の積み下ろしの際に使用する折り畳み式のプラットフォームが設けられている。 カエサル自走榴弾砲を装軌式の155mm自走榴弾砲と比較した場合、製造・運用コストは装輪式の本車の方がかなり安い。 またカエサルのベース車体は様々な中・大型トラックを用いることができるため、専用車体を用いるシステムに比べて柔軟な運用を行うことができる。 装軌式の155mm自走榴弾砲は戦闘重量が30tを超えるものも多いが、カエサルは戦闘重量が17.7tとかなり軽量であるためC-130中型輸送機やCH-53大型ヘリコプターによる空輸が可能である。 次にカエサル自走榴弾砲を牽引式の155mm榴弾砲と比較した場合、牽引砲では運用を行うのに10名弱の人員が必要だがカエサルは半分の5名で運用できるようになっており、緊急時には3名での運用も可能となっている。 またカエサルが陣地への布陣・撤去に要する時間はわずか60秒で、牽引砲に比べて生残性が大きく向上する。 GIAT社は当初、製造・運用コストが高い装軌式自走砲を導入できない途上国向けの商品としてカエサル自走榴弾砲の開発を始めたようだが、本車は装軌式自走砲に比べて軽量で空輸性に優れることから、海外に派遣する緊急展開部隊向けの装備として先進国の軍隊からも注目されることとなった。 フランス陸軍は2000年9月20日に評価試験用として5両のカエサル自走榴弾砲をGIAT社に発注し、これらは2003年6月に引き渡された。 評価試験を実施した結果、フランス陸軍は2004年12月に牽引式155mm榴弾砲TR-F1の更新用として72両のカエサルの採用を決定した。 2008年7月にはカエサルの生産型第1号車がフランス陸軍に引き渡され、同年末までに計8両が納入された。 またタイ陸軍も2006年4月に6両のカエサル自走榴弾砲を発注しており、2010年までに引き渡されて現在評価試験を兼ねた運用が行われている。 またGIAT社は2006年7月に中東の某国(後にサウジアラビアであることが判明)より80両(内4両はオプション)のカエサル自走榴弾砲を受注したことを発表しており、この内最初の2両はフランスで生産し残りの78両はサウジアラビアでライセンス生産を行う予定になっている。 |
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<カエサル155mm自走榴弾砲 先行生産型> 全長: 9.95m 全幅: 2.55m 全高: 3.65m 全備重量: 17.4t 乗員: 5名 エンジン: ダイムラー・ベンツOM366LA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 240hp/2,600rpm 最大速度: 110km/h 航続距離: 600km 武装: 52口径155mm榴弾砲×1 (18発) 装甲厚: |
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<カエサル155mm自走榴弾砲 生産型> 全長: 10.00m 全幅: 2.55m 全高: 3.70m 全備重量: 17.7t 乗員: 5名 エンジン: ルノーMD-7 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 265hp/2,300rpm 最大速度: 96km/h 航続距離: 600km 武装: 52口径155mm榴弾砲×1 (18発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2022年3月号 特集 装輪自走砲の今」 荒木雅也/毒島刀也 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年3月号 デンマーク軍の装輪155mm自走砲 CAESAR 8×8」 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年7月号 世界のトレンド?装輪式自走砲」 大山勝美 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年10月号 カエザール155mm自走砲架」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年8月号 ヴェールを脱いだ装輪155mmりゅう弾砲」 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年5月号 フランス陸軍の現用戦闘車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年4月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年12月号 サトリに登場した注目車輌」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2010年6月号 アフガニスタンの各国軍 2009」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2004年9月号 EUROSATORY 2004」 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 |
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