カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車
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カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車
カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車 インド型
カーデン・ロイドMk.VIb機関銃運搬車
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+開発
カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車は、チャーツィーのカーデン・ロイド・トラクターズ社(CLT社)が開発した一連のカーデン・ロイド豆戦車シリーズの集大成ともいえるもので、世界の豆戦車のルーツとなった車両でもある。
前作のカーデン・ロイドMk.V豆戦車を実験機械化部隊の偵察車両として運用したイギリス陸軍は、引き続きCLT社に対して機関銃の運搬を主目的とする小型の装軌式偵察車両の開発を求めた。
これに応じてCLT社はカーデン・ロイドMk.V豆戦車を基に、1927〜28年にけて新型豆戦車「カーデン・ロイドMk.VI」の開発に取り組んだ。
完成したカーデン・ロイドMk.VI豆戦車はイギリス陸軍の試験に供されたが、試験の結果が満足のいくものであったため本車は「カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車」の名称でイギリス陸軍に制式採用され、歩兵部隊に配備するために約300両の生産が発注された。
なお、1928年3月にCLT社は軍需産業大手であるウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社に吸収合併された。
このため、カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車の生産はヴィッカーズ社と王立造兵廠が分担して行うことになった。
ただこのことはカーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車および、これに引き続いて開発されたヴィッカーズ社製機関銃運搬車シリーズのセールスにとって大きな力となった。
小さなベンチャー企業であるCLT社の製品よりも大企業のヴィッカーズ社の製品の方が信用できるし、手厚いサポートも期待できるからである。
その後、カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車はイタリア、フランス、チェコスロヴァキア、日本、中国、カナダ、ベルギー、ポーランド等世界16カ国に輸出され、世界の豆戦車の雛形となった。
本車を原型とする豆戦車としてはイタリアのCV33/CV35快速戦車、フランスのルノーUE装甲運搬車、ソ連のT-27豆戦車、ポーランドのTK-3豆戦車、チェコスロヴァキアのS-I豆戦車等が存在する。
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+構造
カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車は車高の低い2名用の装軌式車両で、カーデン・ロイドMk.IV/Mk.V豆戦車と同一の車体構造、足周りを持っていた。
ただしコスト削減のために上部支持輪が廃止され、代わりにガイドレールで履帯を支えていた。
装甲板の厚さは6〜9mmで、武装は戦闘室内右側に位置する車長兼銃手の前方に銃架を設けて、7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃が1挺装備されていた。
この機関銃は着脱可能で、車外で使用する際には通常車体左側に装備された三脚に装着された。
エンジンは従来のカーデン・ロイド豆戦車シリーズと同様、当時多数生産されており安価に入手・整備が可能であった、アメリカのフォード自動車製の4輪乗用車フォード・モデルTの直列4気筒液冷ガソリン・エンジンを採用していたが、出力が22.5hpに向上したのに伴って路上最大速度が28マイル(45.06km)/hに向上していた。
カーデン・ロイドMk.VIはMk.Vに比べて幾つかの改良が施されていたが、乗員をエンジンの熱から保護するためにエンジンが断熱材のアスベストの張られた箱に収められ、車体前部のディファレンシャル・ハウジングに装甲カバーが装着された。
履帯やサスペンションも改良され、牽引用フックも取り付けられるようになった。
さらに生産の途中からは雑具箱が上部構造物の両側に設けられ、これに伴って車体後部のスペースが拡大された。
1929年には、インド陸軍向けに熱帯地仕様の改良を施したカーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車インド型が開発されたが、このインド型ではラジエイターやファンなどの冷却系が強化された他、車体上面に日差しを遮るためのキャンバスが装備され、車内には断熱材としてアスベストの内張りが施された。
さらに1932年には、砂漠などでの運用を考慮してエンジンを空冷ガソリン・エンジンに換装したカーデン・ロイドMk.VIb機関銃運搬車が開発された。
Mk.VIbはエンジンが換装された以外にも各部に改良が施されており、全周に渡って戦闘室の装甲板の背を高くして防御力の向上が図られていた。
併せて機関銃架も改良されて防盾が付属するようになり、機関銃を車外に降ろして使用できるように戦闘室内に三脚も搭載していた。
またMk.VIで一度廃止された上部支持輪が、Mk.VIbでは片側2個設けられている。
Mk.VIbは1932年中に王立造兵廠で10両が生産され、その内の5両はエジプトのイギリス駐留軍に送られて実用試験が行われた。
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<カーデン・ロイドMk.VI機関銃運搬車>
全長: 2.449m
全幅: 1.693m
全高: 1.212m
全備重量: 1.5t
乗員: 2名
エンジン: フォード・モデルT 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 22.5hp
最大速度: 45.06km/h
航続距離:
武装: 7.7mmヴィッカーズ機関銃×1
装甲厚: 6〜9mm
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<参考文献>
・「パンツァー2007年3月号 日本陸軍が採用した「豆戦車」 ビッカーズ・カーデンロイド(2)」 高橋昇 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2007年5月号 海軍陸戦隊のビッカーズ・カーデンロイドMk.6b装甲車」 高橋昇 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2008年11月号 イギリス陸軍 キャリアー装甲車シリーズ」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年5月号 輸入戦車による日本機甲部隊のあゆみ(4)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年9月号 日本海軍陸戦隊戦車隊(2)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「グランドパワー2013年9月号 ソ連軍軽戦車の系譜(3) 黎明期の豆戦車(1)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年5月号 戦間期のイギリス戦闘車輌」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年7月号 イギリス軍軽装軌車輌 1920〜39」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「なんでこうなった!? 誰が考えた!? 世界の珍兵器大全」 ストロー=クーゲルスタイン 著 KADOKAWA
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「写真集 フィンランド軍戦車発達史 前編」 齋木伸生 著 芬蘭堂
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
・「世界の戦車 完全網羅カタログ」 宝島社
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