+開発と構造
「ブッフェル」(Buffel:アフリカーンス語で水牛を意味する)装甲車は、プレトリアのアームスコー社(南アフリカ兵器公社)が開発した、耐地雷性能に優れる4×4型装輪式のAPC(装甲兵員輸送車)である。
南アフリカ軍は1966年以降、ナミビアの独立を要求する南西アフリカ人民機構(SWAPO)との戦闘状態に入っていた。
さらに1975年にアンゴラが独立してからは、ナミビアを経由してアンゴラ内戦中のアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)を支援したり、陸・空軍を侵攻させたりして、直接・間接の両面における軍事介入を行っていた(南アフリカ国境戦争)。
南アフリカ軍の侵攻に対して、アンゴラ軍やキューバ軍は対戦車地雷による待ち伏せ攻撃を多用したため、これらによる車両と兵員の損失を防ぐため、高い耐地雷性能を持つ新型装輪式装甲車の開発が要求された。
しかし当時の南アフリカは、一から新規に装甲車を開発するには技術力が不足しており、また開発期間を短縮することも求められたため、西ドイツ(当時)のダイムラー・ベンツ社製のウニモグ多用途トラックをベースに開発を進めることになった。
ブッフェル装甲車の試作車は1970年代半ばに完成し、試験の結果が良好だったため1978年から南アフリカ陸軍への配備が開始され、シリーズ合計で2,400両以上が生産された。
本車は非常にユニークな車体デザインを採用しており、車体の前部にエンジンが置かれ、その上の左側に1名用の独立した操縦室、右側にスペアタイヤが配置されている。
操縦室に助手席が存在しないこのデザインは、イギリスのAT105サクソン装甲車や、FS100シンバ装甲車とよく似ている。
操縦室は大きな防弾ガラス入りの窓で三方を囲まれており、視界は良好である。
駆動系には、ウニモグ416/162多用途トラックのものが流用されている。
エンジンは、ダイムラー・ベンツ社製のメルツェーデス・ベンツ OM352 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(125hp/2,800rpm)を、ジャーミストンのADE(Atlantis
Diesel Engines)社でライセンス生産したものが搭載されている。
一方変速・操向機は、やはりウニモグ416/162用のものをADE社でライセンス生産した、前進8段/後進4段の手動変速・操向機を採用している。
車体の後部はオープントップ式の兵員室となっており、背中合わせに左右に各5名ずつ、合計10名の完全武装歩兵を収容することができる。
それぞれの兵員には独立した座席と4点式のシートベルトが用意されており、地雷を踏んだ際の負傷を最小限に抑えるよう考慮されている。
前述のように兵員室の上面はオープンだが、上面の前端から後端まで中央に丈夫なバーが渡されており、車両が転倒した際に乗員を保護するようになっている。
また兵員室の後部には、着脱式のトランクスペースが設けられている。
兵員室には乗降用のドアは無く、側面装甲板全体を外側に倒すか、側面に2個設けられている足掛けを伝って昇り降りするしかない。
兵員室の下面装甲板はV字型に尖っており、地雷の爆風を左右に逃がしてダメージを減少させるように考慮されている。
また南アフリカ製装甲車の常として、100リットルの飲料水タンクを内蔵している。
兵員室上部には2基のピントルマウントが設けられており、それぞれに防盾付きの7.62mm機関銃FN-MAGを装備することができる他、兵員室の側面装甲板の上端には、搭乗兵員が射撃を行うための切り欠きが左右に各5個ずつ設けられている。
ブッフェル装甲車は、その奇抜な設計故に居住性に問題があり、長時間の兵員搭乗には向かないため、南アフリカ陸軍ではすでに、より洗練された設計のマンバ装甲車や、キャスパー装甲車に更新されているが、空軍などでは基地警備などに使用し続けている。
南アフリカ軍から退役したブッフェル装甲車シリーズは、ナミビアやウガンダ、スリランカに売却された。
スリランカに売却されたブッフェル装甲車は、2009年まで続いたスリランカ内戦において活躍している。
|
+派生型
●ブッフェル
オリジナル初期型。
調達コストは1970年代当時で5万9,660ドルと、極めて安価であった。
●ブッフェルMk.I
エンジンとバンパーを改良。
●ブッフェルMk.II A/B
兵員室に屋根と後部乗降ドアを設け、側面と後部に防弾ガラスをはめ込んだ大型の窓を設置。
側面の2枚の窓には各2個ずつ、搭乗兵員が射撃を行うためのガンポートが設けられている。
耐地雷能力も強化されており、タイヤ下でのTM57対戦車地雷2個の、車体下で1個の爆発に耐えられる。
なおブッフェルMk.IIは新規生産ではなく、Mk.Iを改造して製造された。
Mk.IIにはA型とB型の2種類が存在するが、駆動系でドラムブレーキを使用しているのがA型、ディスクブレーキを使用しているのがB型である。
●ログ・ブッフェル(Log Buffel)
補給用の物資運搬車両。
●モッフェル(Moffel)
大型の荷物を積載可能なように、オープン式の荷台を搭載した型。
●ブルドッグ
SAMIL 20軍用トラックをベースに製造された型で、ブッフェルとは逆の車体前部右側に操縦室がある。
「SAMIL」(South African MILitary:南アフリカ陸軍)軍用トラックシリーズは、同軍の標準的な兵站輸送車両としてアームスコー社が開発したものである。
SAMIL 20は20フィートのコンテナを輸送するタイプで、最初の生産型であるMk.Iは西ドイツのドイッツ社製の、F6L913F 直列6気筒空冷ディーゼル・エンジン(124hp/2,650rpm)を搭載していたが、改良型のMk.IIではダイムラー・ベンツ社製の、OM353
直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(129hp/2,800rpm)に換装されている。
●ライノ
ブルドッグの改良型で、操縦室が後部の兵員室と一体化されている。
ちなみに「ライノ」(Rhino)は、アフリカーンス語で「サイ」を意味する。
●ユニコーン
スリランカでライセンス生産されている、ブッフェルの初期型仕様。
●ユニブッフェル
スリランカでライセンス生産されているブッフェルMk.Iで、インドのタタ自動車製のエンジンを搭載。
|