BTR-MD「ラクーシュカ」(Rakushka:貝殻)空挺兵員輸送車は、ロシア陸軍が旧式化したBTR-D空挺兵員輸送車の後継として開発した空挺部隊用の装甲兵員輸送車である。 本車の開発は、一連のBMD空挺戦闘車シリーズの開発を担当したヴォルゴグラード・トラクター工場(VTZ)設計局が手掛けており、「オブイェークト955」の試作名称で2009年から開発がスタートしている。 2013年から部隊への引き渡しが開始されたBTR-MD空挺兵員輸送車は、VTZ設計局が1990年代後期に開発し、2004年からロシア陸軍への配備が進められているBMD-4空挺戦闘車のコンポーネントが多く流用されており、開発・運用に掛かるコストの低減が図られている。 BTR-MD空挺兵員輸送車のサスペンションは油気圧方式が採用されており、サスペンションを上下させて車高を変更することが可能である。 パラシュート降下する際には、着地時の衝撃によるサスペンションの破損を防ぐために、油気圧式サスペンションのアームを畳むことによって車底と転輪接地部を水平にして投下される。 本車はBMD-4空挺戦闘車と同様に乗員を乗せたまま空中投下が可能であり、BTR-D空挺兵員輸送車に比べて車体が大型化されたためペイロードは2tに達しており、固有の3名の乗員の他に12名の兵員を搭載することが可能になっている。 BTR-MD空挺兵員輸送車の車体は防弾アルミ板の全溶接構造で、車内レイアウトは車体前部が車長、操縦手、車体銃手が搭乗する操縦室、車体中央部が12名の完全武装歩兵を収容する兵員室、車体後部がエンジンや変速機を収めた機関室となっている。 操縦室/兵員室部分は天井が一段高くなっているが、これは乗員の居住性を重視したためと思われる。 旧ソ連時代に開発されたAFVは被弾確率、被発見率を低減するために極力低姿勢なスタイルにデザインされたものが多かったが、最近のロシア製AFVは居住性を重視して天井が高くなっているものが増えている。 兵員室の上面には2枚の四角い横開き式のハッチが設けられており、兵員室の後面にも上開き式の横長のハッチが設けられている。 BTR-MD空挺兵員輸送車の武装は、操縦室上面左側に設けられた車長用ハッチに7.62mm機関銃PKTを1挺装備している他、車体前面右端にも固定式に7.62mm機関銃PKTを1挺装備している。 車長用ハッチの7.62mm機関銃は、車内からの遠隔操作によって射撃を行うことが可能である。 足周りは片側5個の転輪と片側4個の上部支持輪、後方の起動輪、前方の誘導輪で構成されている。 エンジンは、BMD-4空挺戦闘車と同じ2V-06-2 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力450hp)を搭載しており、路上最大速度70km/h、路上航続距離500kmの機動性能を発揮する。 また本車は浮航性能を備えており、車体後部に設けられたウォーター・ジェットにより水上を10km/hの速度で航行することが可能である。 なお、BMD-4空挺戦闘車に装甲材質の改良やエンジンの強化などの改良を施したBMD-4M空挺戦闘車が登場したのに伴い、BTR-MD空挺兵員輸送車のベース車体をBMD-4M空挺戦闘車に変更したBTR-MDM「ラクーシュカM」空挺兵員輸送車が開発されており、2015年から部隊配備が開始されている。 BTR-MDM空挺兵員輸送車では、エンジンがBMP-3歩兵戦闘車と同じUTD-29M V型10気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力500hp)に強化されており、出力/重量比が向上している。 |
<BTR-MD空挺兵員輸送車> 全長: 6.10m 全幅: 3.10m 全高: 2.50m 全備重量: 13.2t 乗員: 3名 兵員: 12名 エンジン: 2V-06-2 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 450hp 最大速度: 70km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 500km 武装: 7.62mm機関銃PKT×2 (2,000発) 装甲厚: |
<BTR-MDM空挺兵員輸送車> 全長: 6.10m 全幅: 3.10m 全高: 2.50m 全備重量: 13.2t 乗員: 3名 兵員: 12名 エンジン: UTD-29M V型10気筒液冷ディーゼル 最大出力: 500hp 最大速度: 70km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 500km 武装: 7.62mm機関銃PKT×2 (2,000発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2017年8月号 ロシア空挺部隊のニューカマー BMD-4M & BTR-MDM」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年9月号 ロシア軍空挺隊の歴史と現状」 小泉悠 著 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 |