BMD-1空挺戦闘車をベースに、より多くの兵員を運搬できる空挺部隊用の装甲兵員輸送車として1974年までに開発され、生産が始まったのがこのBTR-D空挺兵員輸送車である。 本車の開発と生産は、BMD-1空挺戦闘車と同じくボルゴグラード・トラクター工場が担当している。 BTR-D空挺兵員輸送車が開発された目的は、BMD-1空挺戦闘車と混成使用することによりパラシュート降下後の空挺部隊を完全に機械化して、他の地上部隊並みの機動能力を与えることであった。 西側でBTR-D空挺兵員輸送車の存在が知られるようになったのは、1980年代の半ば頃からである。 本車はBMD-1空挺戦闘車の砲塔を取り払い、戦闘室スペースを全て兵員室としたもので、戦闘室部分は元の車体より上面がやや立ち上げてあり車体長も約48cmほど延長されていて、それに伴って転輪がBMD-1空挺戦闘車の片側5個から片側6個に増やされている。 車体前端の両側にはクラッペが設けられ、ここから7.62mm機関銃PKTを出して車内より射撃することができる。 その他に、各部に取り付けてあるピントル・マウントに30mm自動擲弾発射機AGS-17を搭載することもできる。 また燃料噴射式煙幕発生装置TDAの他、発煙弾発射機902B「トゥーチャ」(Tucha:黒雲)を4基装備している。 重量8tのやや狭い車内には車長、操縦手、車体銃手の他に最大10名の空挺隊員を搭乗させることができる(通常は8名程度)。 空挺隊員の内の4名は、車体左右側面に2カ所ずつ設けられたガンポートから携行火器を発射できる。 BTR-D空挺兵員輸送車はBMD-1空挺戦闘車を補完して人員輸送にあたる他、23mm対空機関砲のような比較的軽量な機材の牽引にも使用される。 また本車は単純な形状故に各種火器や装備のプラットフォームとして利用し易いため、ヴァリエーションも豊富に見られる。 例えば、空挺部隊用の機動対戦車兵器として9M111/9M113半自動誘導式対戦車ミサイルを4発搭載したBTR-RD自走対戦車ミサイル、9M36「ストレラ(Strela:矢)3」低空域用対空ミサイル6発を装備したBTR-ZD対空ミサイル・システム、2連装23mm対空機関砲ZU-23-2を砲架ごと搭載した対空自走砲(型式名不詳)、砲兵隊用挺進観測車1V119、空挺部隊司令部用車両BMD-1KShなどがある。 BTR-D空挺兵員輸送車は現在でもウクライナ陸軍とロシア陸軍の空挺師団で使用されており、ユーゴスラヴィア地方の平和維持任務のために派遣されているウクライナ軍部隊の中にも装備されている。 |
<BTR-D空挺兵員輸送車> 全長: 5.885m 全幅: 2.63m 全高: 1.67m 全備重量: 8.0t 乗員: 3名 兵員: 10名 エンジン: 5D20 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/2,600rpm 最大速度: 61km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 500km 武装: 7.62mm機関銃PKT×2 (2,000発) 装甲厚: 6〜16mm |
<参考文献> ・「パンツァー2000年8月号 ソ連・ロシア装甲車史(最終回) BMD・BTR-70/80/90シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年10月号 ソ連空挺戦闘車輌の系譜」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年9月号 旧領の紛争地におけるロシア軍」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |