BTR-90(GAZ-5923)はロシア陸軍の最新鋭の装輪式IFVで、1994年に初めて公開された。 本車の開発にはゴーリキー自動車工場(GAZ)、アルザマス自動車工場(AAZ)等が参加しており、主要な試作作業は後者で行われた。 BTR-90歩兵戦闘車の開発目的はBTR-80装甲兵員輸送車シリーズの後継というよりは、強力な装輪式装甲車両の導入を希望する中東諸国などのユーザーによる採用を狙ったものである。 BTR-80装甲兵員輸送車までの装輪式APCより一回り大きな車体を持ち、80.5口径30mm機関砲2A42と7.62mm機関銃PKTを同軸に装備する、BMP-2歩兵戦闘車とほぼ同様の2名用砲塔を搭載するBTR-90歩兵戦闘車は、ロシア陸軍のBMP-3歩兵戦闘車や、アメリカ陸軍のM2ブラッドリー歩兵戦闘車のような装軌式IFVよりも手頃な装輪式IFVとしての位置付けを持っており、財政面や運用面で装軌式車両の採用を躊躇する諸国には魅力のあるものである。 BTR-90歩兵戦闘車の車体は、BTR-80装甲兵員輸送車と比べると全体的にすっきりしたラインをしている。 車体下部がV字型になっているのは、車体下で炸裂した地雷の爆風を横に逃がすことで被害を減少させる工夫である。 エンジンは、BTR-80装甲兵員輸送車の約2倍の510hpの出力を持つV型10気筒液冷ディーゼル・エンジンが搭載されている。 車体後部の兵員室には、10名の完全装備の歩兵を収容することができる。 兵員の乗降はBTR-80装甲兵員輸送車と同様、車体左右側面のハッチか車体上部のハッチから行われる。 装甲防御力については車体と砲塔の前面にて、14.5mm重機関銃弾の直撃に耐えることができるレベルと発表されている。 また基本武装の他にユーザーの財布加減に合わせて、半自動誘導式対戦車ミサイル9M111「ファゴット」/9M113「コンクールス」(競技)や、リモコン操作式で砲塔後部に取り付けられる30mm自動擲弾発射機AGS-17、果てはコンピューター完全制御式のFCS(射撃統制システム)などを搭載できるようになっており、ロシア製の装輪式装甲車両としてはかつて無い贅沢な装備・機材の搭載が可能となっている。 最近では、9M117-3「バスニャ」対戦車ミサイルを発射可能な100mm低圧ライフル砲2A70を30mm機関砲2A72と同軸に装備する、BMP-3歩兵戦闘車と同様の砲塔を搭載するヴァージョンも公開されている。 BTR-90歩兵戦闘車はロシア陸軍では本格的に装備している様子は無く、輸出も成約は無いようだが、やがてBMP-3歩兵戦闘車のように幾つかの採用・装備国が現れるものと思われる。 |
<BTR-90歩兵戦闘車> 全長: 7.64m 全幅: 3.20m 全高: 2.975m 全備重量: 17.2t 乗員: 3名 兵員: 10名 エンジン: 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル 最大出力: 510hp 最大速度: 91km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 700km 武装: 80.5口径30mm機関砲2A42×1 (500発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 30mm自動擲弾発射機AGS-17×1 (400発) 9M111ファゴット/9M113コンクールス対戦車ミサイル発射機×1 (4発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2000年8月号 ソ連・ロシア装甲車史(最終回) BMD・BTR-70/80/90シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2015年9月号 ロシア/ウクライナ開発の次世代BTRシリーズ」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年3月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(2)」 小野山康弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年6月号 ロシア軍車輌 インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年7月号 ロシア軍AFV インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2015年5月号 世界の現用装輪装甲車輌」 平田辰 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年6月号 最近のロシアAFV」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年11月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |