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BTR-80装甲兵員輸送車





1950年代半ば、ソ連軍は「ザヴォーツカェ・イズジェリェ49」の名称で新型装輪式装甲兵員輸送車の開発を計画した。
これは1959年11月に「BTR-60装甲兵員輸送車」として制式採用されたが、同車は2つの独立した変速・操向機がうまくシンクロせずしばしば故障した。
エンジンそのものの信頼性も低く、特に出力不足は深刻であった。

何よりも致命的な欠点は車体後部に配置されたエンジンで、このため兵士たちは下車戦闘する際、最も危険な車体上面から全身を銃火にさらけ出した状態で展開しなければならなかった。
続いて開発されたBTR-70装甲兵員輸送車では、車体側面の第2軸と第3軸の間に乗降用ハッチを設けることでこの問題を解決したが、それ以外では大幅な改良といえる部分は少なかった。

側面ハッチにしても極めて狭く、完全装備の兵士が素早く通り抜けるのは困難であった。
BTR-60およびBTR-70装甲兵員輸送車はアフガニスタン紛争でその弱点が露呈し、ソ連軍はBTR-70装甲兵員輸送車で不充分だった改善点をさらに進めてBTR-60装甲兵員輸送車を全面的に更新するために、1980年代に入ってBTR-80装甲兵員輸送車を開発することとなった。

1980年代初めよりニジニ・ノブゴロドのアルザマス自動車工場で開発が始められ、1986年から生産・配備が開始されたこのBTR-80装甲兵員輸送車は、BTR-60から始まるソ連軍の装輪式装甲兵員輸送車シリーズの集大成ともいえるもので、今日においては自動車化狙撃師団の主装備車両として、ロシア軍の装甲兵員輸送車の主力を担うに至っている。

BTR-80装甲兵員輸送車は現在数々のヴァリエーションが開発されているが、基本型はBTR-60PB装甲兵員輸送車以降の形態を受け継いでおり武装も同じである。
車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、最前部には操縦手席(左側)と車長席(右側)がある。
その後方には小型の砲塔が設けられ、これを操作する砲手席がある。
砲塔には、14.5mm重機関銃KPVTと7.62mm機関銃PKTが同軸に装備されている。

車体後部は兵員室となっており、中央部分に背中合わせで8名分のシートが配置されている。
変速・操向機は独立駆動式のものが採用され、サスペンションも全輪独立したものとなっているが、これはBTR-70装甲兵員輸送車とほぼ同様のシステムとなっている。
車体後部にはウォーター・ジェットが装備されており、約10km/hの速度で水上航行が可能である。
水上航行の際には、スノーケルを左右2本取り付ける必要がある。

BTR-70装甲兵員輸送車からの主な改良点は、まずエンジンが従来のガソリン・エンジン2基搭載という方式から、ディーゼル・エンジン1基式(260hpのKAMAZ-7403、または240hpのYaMZ-238M2)に改められたのが大きい。
これによって生産性・整備性の向上、安全性の向上(ディーゼル燃料はガソリンより燃え難い)、燃費の向上などが実現した。

車体側面の乗降用ハッチも全面改良され、より大型のものに変わっている。
これは2つのパーツに分かれており、上部を開くと下部のハッチが自重で外に倒れてステップになるというもので、兵員の迅速な展開が可能になった。
砲塔にも若干の改良が加えられ、搭載機関銃の仰角が+80度まで増やされており、対空射撃(アフガニスタンにおいては急斜面を見上げての射撃)が可能となった。

砲塔後部には6基の発煙弾発射機902B「トゥーチャ」(黒雲)が装備されており、車内には携帯式対空ミサイル9M36「ストレラ(矢)3」を2基標準装備させている。
また車内居住性を改善するため、兵員室天板をやや膨らませた形状に変えて容積を増している。
NBC防護は車内気圧を高めることで外気の侵入を遮断し、装甲の内側には放射線防護材が封入されている。

この基本型は生産開始後直ちにアフガニスタンに送られており、1986年のソ連軍のアフガニスタン撤退開始時の隊列の中に早くも目撃されている。
その他にヴァリエーションとして砲兵挺進観測車1V118や、通信機増設型NBC偵察車RKhM-4-01、装甲患者輸送車BMM-80等が生産されているが、ソ連崩壊後は海外輸出市場向けのヴァージョンも盛んに開発されている。

代表的なものとしては新型の半埋没型砲塔に、ドイツのマルダー歩兵戦闘車と似たスタイルで30mm機関砲2A72を装備するBTR-80A装甲兵員輸送車、同じ砲塔に14.5mm重機関銃KPVTを装備するBTR-80S装甲兵員輸送車、120mm直射・迫撃両用砲2A60を搭載した2S23「ノーナ(第9音)SVK」自走砲などがある。
また、民間の救難用や荒地踏破用等の各種輸送車もBTR-80装甲兵員輸送車をベースに開発され、輸出市場での売り込みが図られている。


<BTR-80装甲兵員輸送車>

全長:    7.65m
全幅:    2.90m
全高:    2.35m
全備重量: 13.6t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  KAMAZ-7403 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 260hp
最大速度: 90km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 600km
武装:    14.5mm重機関銃KPVT×1 (500発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
装甲厚:   7〜10mm


<参考文献>

・「パンツァー2000年8月号 ソ連・ロシア装甲車史(最終回) BMD・BTR-70/80/90シリーズ」 古是三春 著
 アルゴノート社
・「パンツァー2015年9月号 ロシア/ウクライナ開発の次世代BTRシリーズ」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年12月号 モスクワのクーデターにおけるロシア軍AFV」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年3月号 BTR-80装甲兵車 インアクション」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 ロシア軍車輌 インアクション」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年4月号 マケドニア陸軍のBTR-80装甲兵車」  アルゴノート社
・「パンツァー2011年3月号 BTR-60/70/80装甲兵車」  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社

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