●BTR-50P装甲兵員輸送車 BTR-50装甲兵員輸送車は、チェリャビンスク・トラクター工場が1954年にPT-76水陸両用軽戦車をベースに開発した、ソ連陸軍初の実用装軌式装甲兵員輸送車である。 最初の型であるBTR-50P(オブイェークト750)装甲兵員輸送車は、PT-76水陸両用軽戦車の戦闘室にあたる部分にオープントップ式の兵員室を設け、固有の乗員2名(操縦手、車長)の他に20名の兵員を搭乗させることができた。 操縦手席は車体前部中央に位置し、その左側に視察装置付きの車長席が配置されている。 本車は、不整地や河川障害等を戦車部隊と共に踏破できるソ連軍で初めての本格的な装甲兵員輸送車として、制式採用後直ちに大量生産が行われ、1950年代に機甲師団の機械化歩兵連隊から優先的に装備されていった。 BTR-50装甲兵員輸送車シリーズの生産は1972〜73年頃まで続けられ、総生産数は約6,500両に達している。 また精鋭部隊として戦後育成に力が入れられた海軍歩兵にも装備されたが、使用者側からはあまり好評ではなかったようである。 というのは、PT-76水陸両用軽戦車の基本構造を変更せずに兵員輸送車としたため、車体後部には大きな機関室が存在しており、兵員の乗降は車体上部から行わざるを得ず、その上、背の高い舟型車体の壁のような側面は、兵員がよじ登って搭乗するのに不便だったからである。 こうしたことからBTR-50装甲兵員輸送車シリーズは、ソ連本国ではBMP-1歩兵戦闘車が就役すると通常型はすぐにリタイアさせられ、東欧諸国や中東などの友好諸国への供与兵器とされた。 供与された先では82mm無反動砲B-10を搭載したり、各種の装備が追加されて使用されている。 実戦への初投入は、1960年代から本車の供与を受けていたエジプト軍が行っており、1973年の第4次中東戦争におけるスエズ運河渡渉作戦でコマンド部隊が使用し、初期の作戦成功に貢献している。 |
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●BTR-50PA装甲兵員輸送車 BTR-50PA装甲兵員輸送車は1956年から少数が生産されたタイプで、車長用キューポラにピントル・マウントを設け14.5mm重機関銃KPVTを搭載したものである。 この重機関銃は対地・対空両用で360度旋回、俯仰角は−3度30分〜+85度となっていた。 本車は、ヴェトナム人民軍でも使用されている。 |
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●ZSU-ZTPU-2/ZSU-ZTPU-4対空自走砲 ZSU-ZTPU-2対空自走砲は、戦車部隊に同伴して対空援護ができる自走砲として、BTR-50P装甲兵員輸送車に14.5mm重機関銃KPVTを連装装備する対空マウントを搭載した試作車である。 他に、14.5mm重機関銃KPVTを4連装で装備する対空マウントを搭載したZSU-ZTPU-4対空自走砲も試作されたが、どちらも制式採用と量産には至らなかった。 これらは、後に開発されたZSU-23-4シルカ対空自走砲の先駆けといえる。 |
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●BTR-50PK装甲兵員輸送車 BTR-50PK装甲兵員輸送車は1958年から量産されたタイプで、核戦争対応型である。 オープントップ式の兵員室を止めて密閉式とし、対放射線防護システムPAZを搭載している。 また操縦手用の赤外線暗視装置TVN-2Bも備え、ソ連軍戦車部隊の標準に合わせている。 |
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●BTR-50PN/BTR-50PU装甲指揮車 BTR-50PN装甲指揮車は、1958年から量産された司令部・指揮官用装甲車である。 操縦手の左側に加えて、右側にも外部視察装置付きのキューポラを設けている。 無線通信機も通常のR-113に加えて、上級司令部通信用の2KVr/sを搭載している。 さらに、通信機を多数搭載した無線指揮型のBTR-50PU装甲指揮車も作られた。 これら指揮・通信タイプは、各種搭載機器を積み替えて1972年にも新型が登場し(BTR-50PUM装甲指揮車等)、同種車両が少ないため今日でも使用されているようである。 |
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<BTR-50P装甲兵員輸送車> 全長: 7.07m 全幅: 3.14m 全高: 2.03m 全備重量: 14.2t 乗員: 2名 兵員: 20名 エンジン: V-6V 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/1,800rpm 最大速度: 44.6km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 110km 武装: 7.62mm機関銃SGMBまたはPKT×1 (1,250発) 装甲厚: 6〜10mm |
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<BTR-50PK装甲兵員輸送車> 全長: 7.08m 全幅: 3.14m 全高: 1.97m 全備重量: 14.2t 乗員: 2名 兵員: 20名 エンジン: V-6V 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/1,800rpm 最大速度: 44.6km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 260km 武装: 7.62mm機関銃SGMBまたはPKT×1 (1,250発) 装甲厚: 6〜10mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2012年2月号 第四次中東戦争で捕獲されたロシア製車輌」 箙公一 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年3月号 ソ連・ロシア装甲車史(8) BRDMの登場」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年7月号 ロシア BTR-50装甲兵車シリーズ」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年2月号 フィンランド陸軍AFVの30年」 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年1月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年3月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(3)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年4月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(4)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年12月号 フィンランド軍の戦闘車輌(3)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 |
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