●BTR-152装甲兵員輸送車 BTR-152装甲兵員輸送車は、ソ連軍が第2次世界大戦後に開発した初めての本格的な装甲兵員輸送車である。 本車は、ZIS-151不整地踏破用6輪駆動トラックをベースにスターリン名称自動車工場(ZIS)が開発したもので、1950年にBTR-40装甲兵員輸送車とほぼ同時に制式採用されて量産に入った。 BTR-152装甲兵員輸送車は半装軌式ではないものの、第2次世界大戦中にアメリカから供与されたM2/M3ハーフトラックや、ドイツ軍のSd.Kfz.251などの半装軌式装甲兵員輸送車のレイアウトを参考にしており、車体デザインにその影響が濃厚に見られる。 本車が半装軌式にならなかったのは、当時のソ連軍では自動車化狙撃師団の車両に、生産・整備の両面でコストがアップする半装軌式装甲兵員輸送車など装備し得ないと考えられたからである。 車体後部の兵員室はオープントップ式で、前部ピントル・マウントには通常7.62mm機関銃SGMTを搭載する(稀に12.7mm重機関銃DShKを搭載しているケースがある)。 操縦手、車長の他の搭乗兵員は17名で、これはソ連軍歩兵部隊のほぼ2個分隊にあたる。 本車が初めて実戦に投入されたのは、BTR-40装甲兵員輸送車と同様に1956年のハンガリー動乱の際である。 また1968年春のワルシャワ条約機構軍によるプラハ侵攻の際も、多数がソ連軍部隊によって使用されていた。 本車は自動車化狙撃師団の主要装備として、その後BTR-60装甲兵員輸送車シリーズが登場しても使用が継続され、結局軍の正式装備から外されたのは1993年である。 その間アフリカや中東諸国等にも大量に供与され、各国軍隊でまだまだ現役で働いている姿が見られる。 ★BTR-152A対空自走砲 BTR-152A対空自走砲は、BTR-152装甲兵員輸送車の兵員室前部にBTR-40A対空自走砲と同様の、14.5mm重機関銃KPVTを連装で装備するZTPU-2対空銃架を搭載したタイプである。 このZTPU-2対空銃架は全周旋回が可能で、14.5mm重機関銃の俯仰角は−3度20分〜+91度となっていた。 14.5mm重機関銃2門合わせての発射速度は、170発/分である。 BTR-152A対空自走砲はBTR-40A対空自走砲と同じく、1960年代に入ってヴェトナム人民軍に供与されホーチミン・ルート防衛に活躍した。 ★BTR-152B装甲指揮車 BTR-152B装甲指揮車はBTR-152装甲兵員輸送車をベースに開発された砲兵部隊の指揮車両で、車体前部にウィンチを搭載しており、CTIS(中央タイア空気圧調整システム)も装備していた。 ★BTR-152D対空自走砲 BTR-152D対空自走砲は、BTR-152装甲兵員輸送車の兵員室前部に14.5mm重機関銃KPVTを4連装で装備するZTPU-4対空銃架を搭載したタイプである。 本車は試作車が製作されたのみで、制式採用はされなかった。 |
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●BTR-152V装甲兵員輸送車 BTR-152V装甲兵員輸送車は、ベース車台をZIL-157不整地踏破用6輪駆動トラックに変更したBTR-152装甲兵員輸送車の改良型である。 本車は車体前部にウィンチを搭載しており、CTISを装備していた。 ★BTR-152E対空自走砲 BTR-152E対空自走砲は、BTR-152A対空自走砲のベース車台をBTR-152V装甲兵員輸送車に変更したタイプである。 ★BTR-152S装甲指揮車 BTR-152S装甲指揮車は、BTR-152V装甲兵員輸送車をベースに開発された指揮官用の車両である。 ★BTR-152K装甲兵員輸送車 BTR-152K装甲兵員輸送車は、1959年から生産が開始されたBTR-152V装甲兵員輸送車の改良型で、核戦争に対応するためにオープントップ式の兵員室を止め、上面にハッチ付きの装甲を施したものである。 車内での居住性を確保するために、搭乗兵員数は13名に減らされている。 無線機を積んだタイプは指揮官用となった他、装甲救急車等各種支援車両に改造された。 |
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●BTR-152V1装甲兵員輸送車 BTR-152V1装甲兵員輸送車はBTR-152V装甲兵員輸送車に暗視装置を搭載した改良型で、CTISも新型のものに変更されている。 ★BTR-152U装甲指揮車 BTR-152U装甲指揮車は、BTR-152V1装甲兵員輸送車をベースに開発された指揮官用の車両である。 本車は試作車が製作されたのみで、制式採用はされなかった。 ★BTR-152V2装甲兵員輸送車 BTR-152V2装甲兵員輸送車は、BTR-152装甲兵員輸送車をBTR-152V1装甲兵員輸送車に準ずる仕様に改修したものである。 本車は試作車が製作されたのみで、制式採用はされなかった。 |
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●その他の派生型 ★BTR-E-152V装甲兵員輸送車 BTR-E-152V装甲兵員輸送車は、走破性能を改善するためにBTR-152V装甲兵員輸送車の第2車軸を前方に移動させた実験車両である。 本車は試作車が製作されたのみで、量産は行われなかった。 ★BTR-152 TCM-20対空自走砲 BTR-152 TCM-20対空自走砲は、第3次中東戦争(6日戦争)でシリア軍やエジプト軍から鹵獲したBTR-152装甲兵員輸送車に、フランスのイスパノ・スイザ社製の20mm対空機関砲HS404を連装で装備するTCM-20砲塔を搭載したイスラエル軍の対空車両である。 ★BTR-152装甲回収車 BTR-152装甲回収車は、第3次中東戦争でシリア軍やエジプト軍から鹵獲したBTR-152装甲兵員輸送車に、イスラエル軍がクレーンを装備して回収車両としたもので、後に南レバノン軍に供与された。 ★56式装甲兵員輸送車 56式装甲兵員輸送車は、BTR-152装甲兵員輸送車を中国がライセンス生産したものである。 |
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<BTR-152装甲兵員輸送車> 全長: 6.55m 全幅: 2.32m 全高: 2.36m 全備重量: 8.95t 乗員: 2名 兵員: 17名 エンジン: ZIS-123 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 110hp/3,000rpm 最大速度: 75km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 600km 武装: 7.62mm機関銃SGMT×1 (1,250発) 装甲厚: 4〜13.5mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2000年2月号 ソ連・ロシア装甲車史(7) 大戦後から50年代まで」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年2月号 第四次中東戦争で捕獲されたロシア製車輌」 箙公一 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年3月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(3)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(下)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 |
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