●開発 BRDM-2装甲偵察車は、ゴーリキー自動車工場(GAZ)が1962年に開発に着手したBRDM-1装甲偵察車の改良型で、1963年から生産が開始され1966年に西側が初めて存在を確認している。 本車の設計を担当したのは、V.A.デドコフ技師である。 BRDM-1装甲偵察車がBTR-40装甲兵員輸送車の車体をベースに開発されたのに対して、BRDM-2装甲偵察車の車体は全く新規に設計されている。 BRDM-1装甲偵察車からの最も大きな変更点はエンジンが車体後部に移されたことで、それによって、車体前部から中央部にかけて広々とした戦闘区画を設けることができた。 これは、車体中央部に14.5mm重機関銃KPVTと7.62mm機関銃PKTを同軸装備する円錐形砲塔を搭載する必要があったからである。 この砲塔は、自動車化狙撃師団の主力装甲兵員輸送車として1966年から生産が開始されたBTR-60PB装甲兵員輸送車にも用いられたもので、装甲兵員輸送車の歩兵戦闘車化へのはしりとなった装備であった。 搭載する14.5mm重機関銃KPVTは第2次世界大戦中の14.5mm対戦車銃RTDの流れを汲むもので、当初は重戦車の対空機関銃または、大口径主砲を使うまでもない軽装甲車両に対する射撃用に開発されたものだが、1950年代より連装対空銃架に装備されたり、試作装甲兵員輸送車等の搭載火器として試用され始めていた。 しかしこのBRDM-2装甲偵察車に搭載されたことにより、こうした軽快な装甲車両にこそマッチする火器であることが証明されたのである。 現在は、ある程度の重装甲を施すようになった歩兵戦闘車等に対しては力不足な面もあるが、1991年の湾岸戦争地上戦では、イラク軍が装備するBRDM-2装甲偵察車またはBTR-60PB装甲兵員輸送車から発射された14.5mm弾により、アメリカ軍のM2ブラッドリー歩兵戦闘車の砲塔が貫徹されるなど、未だに有効な威力を持つことも確認されている。 また重量がBRDM-1装甲偵察車の5.6tから7tに増大したのに対応し、93hpから140hpに大幅に出力を強化したGAZ-41 V型8気筒液冷ガソリン・エンジンを搭載している。 また燃料搭載量も150リットルから290リットルに増やされ、路上航続距離は750kmに大幅に延伸されている。 BRDM-1装甲偵察車から引き継いだ機能としては、前輪と後輪の間に左右2個ずつ設けられている不整地走行用補助輪がある。 これは普段は車体側面に収納されており、必要に応じて降ろしてチェイン駆動するというユニークな機構である。 しかし、この構造のために本車は側面ハッチを設けることができず、乗降は上面ハッチに限られる。 とはいえ、逆に考えればそのおかげで車体を完全密閉構造にすることができ、化学防護車として優れた性能を持つことになったともいえる。 また本車はBRDM-1装甲偵察車と同じく浮航能力を備えており、車体後部のウォーター・ジェットにより水上を10km/hの速度で航行することができる。 乗員は操縦手、車長、砲塔銃手、下車偵察要員の4名である。 本車は各自動車化狙撃師団に28両が装備された他、偵察大隊に12両、各戦車連隊に4両が配属される定数配分となっていた。 BRDM-2装甲偵察車は1989年までに2万両以上が生産され、その内約4,500両が輸出された。 そして今なお8,000両以上がロシアや東欧諸国を始め中南米、アフリカ、アジア、中近東など世界30カ国で使用されており、国際紛争や内乱のあるところに必ず姿を見せている。 |
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●派生型 小回りの利く車体と使い勝手の良い戦闘区画のおかげで、BRDM-2装甲偵察車には豊富な派生型がある。 BRDM-2RKhは対NBC偵察車で、各種センサーやサンプル採取装置、警告用の標識旗設置装置、警告用信号弾発射装置などを備えている。 搭載している火器によって、2種類が確認されている。 BRDM-2Uは、砲塔を外した指揮通信型である。 高出力の無線装置と外装型の発電機を備え、主として連隊および大隊指揮所のための観測任務に就く。 やはり2種類あることが確認されており、ルーフが開閉するか否かで区別される。 また対戦車型と対空型は、BRDM-2装甲偵察車の重要な派生型である。 対戦車型には9P122、9P124、9P133、9P137、9P148などのタイプが存在する。 9P122は、有線誘導方式の9M14マリュートカ対戦車ミサイル(NATOコードネーム:AT-3サガー)の6連装発射機を搭載したタイプで、9P124は無線誘導方式の3M11対戦車ミサイル(NATOコードネーム:AT-2スワッター)の4連装発射機を搭載したタイプ、9P133は9M14-2マリュートカ対戦車ミサイル(NATOコードネーム:AT-3CサガーC)の6連装発射機を搭載したタイプである。 いずれの車両も砲塔を撤去してミサイル発射機を車内に格納(側面の窓も塞がれている)し、助手席には照準/誘導装置をマウントしている。 9P137は、半自動誘導式の9M113コンクールス対戦車ミサイル(NATOコードネーム:AT-5スパンドレル)の5連装発射機を搭載したタイプで、「BRDM-3」とも呼ばれる。 ミサイル発射機は外部旋回式で、9M113ミサイルの搭載数は14発である。 9P148は9P137の改良型で、やはり「BRDM-3」と呼ばれる。 外部固定式の5連装ミサイル発射機を搭載しており、9M113コンクールス対戦車ミサイルおよび9M111ファゴット対戦車ミサイル(NATOコードネーム:AT-4スピゴット)を発射できる。 ミサイルの搭載数は9M113ミサイル10発か、9M113ミサイル6発と9M111ミサイル8発の組み合わせになる。 対空型(9P31)は、9M31ストレラ1対空ミサイル(NATOコードネーム:SA-9ガスキン)をコンテナごと4発装着できる360度旋回可能な発射機を搭載し、連隊司令部周辺空域の防空用としてZSU-23-4シルカ対空自走砲を補完する。 ミサイル発射機の基部には大きな防弾ガラス付き窓のある射手席が設けられており、光学照準機が装備されている。 予備弾は2発で、車体側面にコンテナごとマウントされている。 再装填時間は、およそ5分と伝えられている。 しかしながら現在は、9M37ストレラ10対空ミサイル(NATOコードネーム:SA-13ゴーファー)をコンテナごと4発装着できる旋回発射機を搭載したMT-LB装軌式装甲輸送・牽引車が後継車種となっているため、スクラップ処分されるもの以外は別の車種に変更されているか、外国に売却されていると思われる。 また、最近旧ソ連製兵器のアップグレード・ヴァージョンの開発に熱心なポーランドが作り出したのが、BRDM-2装甲偵察車の改良型であるモデル97である。 モデル97の最大の改良点は小型で使い難かった砲塔の改良で、これまでとは比べ物にならない車体幅いっぱいの大きな砲塔が搭載されている。 ただ高さは低く抑えられているので、被発見性はそれほど悪化していないと思われる。 武装は砲塔前面に12.7mm重機関銃NSVTが装備されている他、砲塔上面には9M111/9M113対戦車ミサイルの発射機が装備されている。 砲塔周囲や車体前部には各種センサーが取り付けられており、視察・観察能力が大きく向上し、戦闘動作もかなりやり易くなったはずである。 この辺は旧ソ連製兵器の欠点だったが、ポーランドの改良でどの程度性能が向上したか興味深いものがある。 |
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<BRDM-2装甲偵察車> 全長: 5.75m 全幅: 2.35m 全高: 2.31m 全備重量: 7.0t 乗員: 4名 エンジン: GAZ-41 V型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 140hp/3,400rpm 最大速度: 100km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 750km 武装: 14.5mm重機関銃KPVT×1 (500発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 5〜14mm |
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<BRDM-2モデル97装甲偵察車> 全長: 6.32m 全幅: 2.35m 全高: 2.31m 全備重量: 7.57t 乗員: 4名 エンジン: イヴェコ 液冷ディーゼル 最大出力: 165hp 最大速度: 95km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 500km 武装: 12.7mm重機関銃NSVT×1 9M111ファゴット/9M113コンクールス対戦車ミサイル発射機×1 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2000年3月号 ソ連・ロシア装甲車史(8) BRDMの登場」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年6月号 旧ソ連の隠れた名車 BRDMシリーズ」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年3月号 BRDM-2装甲偵察車シリーズ」 田村尚也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年7月号 セルビア陸軍のBRDM-2改修装甲車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「世界の軍用4WD図鑑PART2」 スコラ |
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