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BMP-3歩兵戦闘車





●開発

BMP-3歩兵戦闘車はクルガン機械工場が、1975年頃に試作して不採用に終わったオブイェークト685水陸両用軽戦車の車体をベースに、全く新規に開発した歩兵戦闘車である。
ベースとなったオブイェークト685水陸両用軽戦車は、ソ連軍当局がASU-85空挺自走砲とPT-76水陸両用軽戦車の後継車両として開発を計画したもので、防弾アルミ板製の箱型装甲車体に防弾チタン板で組み立てられた全周旋回式砲塔を持ち、軽戦車用として新たに開発された長砲身の100mmライフル砲2A48を搭載していた。

しかしこの新型軽戦車計画は、当時のブレジネフ政権末期の慢性的な国家財政と国民経済の悪化のため、予算上の問題で暗礁に乗り上げ、ASU-85空挺自走砲の後継としては、BMD-1空挺戦闘車の車体に後装式の120mm直射・迫撃両用砲2A60を搭載した2S9「ノーナ(第9音)S」自走砲が、またPT-76水陸両用軽戦車の後継としては、BMP-1歩兵戦闘車の後継として開発されるべき新BMPで兼用するという政治的判断が下されて、開発が中止された。

そしてオブイェークト685水陸両用軽戦車は改めて、軍当局が別に求めていた新BMP開発のベースとされることになったのである。
そこで改めて軍当局は新BMPの防御力について、少なくとも同じジャンルの歩兵戦闘車であるアメリカのM2ブラッドリーが装備する25mm機関砲に対して、前面装甲が抗堪し得るものであることを要求仕様に盛り込むこととした。

このような背景の下にクルガン機械工場は、A.ニコーノフ技師の統括下でオブイェークト685水陸両用軽戦車をベースとした新BMPオブイェークト688の開発を進め、早くも1979年には最初の試作車を完成させた。
本車は母体となったオブイェークト685の車幅を広げると共に、フラットの形状でありながら高出力のUTD-29ディーゼル・エンジン(420hp)を車体後部機関室に搭載し、この機関室上に搭乗歩兵の乗降用の2本のアクセス路を設けた。

基本車体は母体と同様に防弾アルミ板で構成されていたが、要所には防弾鋼板も追加されており、車体前面の防御力は50mm厚のRHA(均質圧延装甲板)に匹敵するものとされた。
武装は当初、西ドイツのマルダー歩兵戦闘車のものと良く似た平盤なディスク式の全周旋回マウントに、露出した形で30mm機関砲2A42と同軸の7.62mm機関銃PKT、2発組でコンテナごとマウントに搭載された対戦車誘導ミサイル9M113「コンクールス」(競技)、それに装甲カバー入りの30mm自動擲弾発射機AGS-17を装備していた。

1979〜80年にかけて工場におけるプルーフ・グラウンド、並びに軍演習場における実用試験が実施されたが、この武装形態についてはすぐに運用者側から異論が出た。
それは1979年12月に始まったアフガニスタン紛争の戦訓にも基づくものであったが、歩兵やゲリラによるRPG-2/7等の携行対戦車兵器に対抗するには、より命中精度と破壊力の高い火器を搭載することが必要であるということである。

この点で、新たに搭載された30mm自動擲弾発射機AGS-17も完全に要求を満たすものではなく、主武装の30mm機関砲2A42は弾頭が小さい故に炸裂威力が劣るため、堅固な防御構築物等には有効性を発揮し得なかったのである。
またこの2A42機関砲は高発射速度で連続発射した場合、発砲ガスと騒音が乗員に耐え難いほどの苦痛を与えることも、BMP-2歩兵戦闘車の運用経験を踏まえて指摘されていた。

こうした指摘を受けて、新BMPは全く新しい発想の下で武装システムを検討することとなり、伝統的な火器開発都市トゥーラのプリボルツトロイェニヤ設計局が新型低圧ライフル砲と機関砲、それに現代的なFCS(射撃統制システム)を組み合わせた車載武装システムである2K23コンプレクスを開発した。

2K23コンプレクスは自動装填装置付きの100mm低圧ライフル砲2A70、30mm機関砲2A72、7.62mm機関銃PKTを各1門と、レーザー測遠/ミサイル誘導装置、熱線暗視装置付き昼/夜間兼用サイト、対空射撃用サイトおよび弾道コンピューターを組み合わせた武装システムで、当時そして今日においても、戦車以外でこれだけ贅沢なFCSを持つものを開発したケースはロシア以外に無い。

特に、100mm低圧ライフル砲2A70は強力な威力を持つ噴進式榴弾を発射できる他、T-55中戦車の近代化改修型が100mmライフル砲D-10T2Sから発射できるようになった、砲腔内発射式の対戦車誘導ミサイル9M117-1「バスチオン」(砦)と同タイプの対戦車誘導ミサイル9M117-3「バスニャ」も発射することが可能な、歩兵戦闘車用火器としては例の無いものである。

この武装システムは、BMP-2歩兵戦闘車のものとほぼ同様な形状の2名用砲塔に搭載されている。
2K23コンプレクスを搭載したオブイェークト688歩兵戦闘車の試作車は1981年に完成し、以後、工場での試験から順次、軍による運用試験に移行されていった。

そしてこの段階で少なくとも数両の車体が増加試作され、クビンカの戦車装甲科学技術研究所(NIIBT)の実験場およびセヴァストーポリの海軍歩兵基地、ザバイカル軍管区や中央アジア地区の自動車化狙撃師団等に配属され、時間をかけた運用試験が実施された。
そして性能面以外の問題について様々な指摘が現場からなされたが、1987年には政府決定により「BMP-3歩兵戦闘車」として制式採用されるに至ったのである。


●構造

7.14mの全長、3.23mの全幅と、寸法的には戦車並みの大きさを持つBMP-3歩兵戦闘車の防弾アルミ板製車体は、良好な浮航性能と充分な武装システム、さらに乗員・歩兵を収容するスペースを保証しており、特に砲塔の高さを抑えながらも(全高2.30m)、車体高を従来のBMPシリーズに比べて大幅に増やしているため、搭乗歩兵の居住性は向上している。

BMP-3歩兵戦闘車の車体で特徴的なのは、西側の装甲車両には見られない独特な人員配置である。
車体前部中央には燃料タンクと操縦手席、そして左右には車体前部両側に配置された7.62mm機関銃PKTの操作をも担当する、搭乗歩兵のための座席が用意されている。

ボールマウントに装備されたこの7.62mm機関銃は、通常はプラスチック製のカバーが掛けられており、戦闘時にこれが外されるが、機関銃手を兼ねる歩兵は、車体上面の乗降用ハッチ(前開き式)の前に配置された視察用ペリスコープを覗いて、曳光弾の軌跡によって弾着を確認しながら射撃を実施する。
なおこの部分に歩兵が乗車していない場合、前方機関銃はBMD-1空挺戦闘車のように前方に向けて固定され、操縦手のリモコン操作によって前方掃射ができるようになっている。

車体中央部は、バスケット(自動装填装置を収容)付きの全周旋回式砲塔が大きなスペースを占め、その斜め後方両側に1席ずつ、機関室隔壁前に3席の搭乗歩兵用座席が配置されている。
また、後部の3席の間にはステップを兼ねた2席の補助席が設けられており、これによって本車はロシア軍で標準的な7名編制の歩兵分隊以外に、必要に応じて9名までの歩兵を乗せられる。

この部分の車体両側面には、従来のBMPシリーズと同様のガンポートが各2カ所ずつ設置されており、搭乗歩兵はここから携行火器(通常は、7.62mm自動小銃AKMSまたは5.45mm自動小銃AK74S)で車外へ射撃ができる。
つまり7名の歩兵が搭乗したとして、前方機関銃を含めその内の6名が前方および両側面への射撃を行うことができることになる。

なお、砲塔の真後ろの後部隔壁直前中央の座席に配置される歩兵の頭上には、後方視察用のペリスコープがあり(プリズム式で、前を向いたまま後ろを見ることができる)、さらに車体後面の左側乗降ドアにガンポートが設けられていることから、この席に座る歩兵は後方警戒を担当し、必要に応じて後方へ携行火器による射撃を行うものと思われる。

兵員室後部は機関室と、その上部の外部アクセス用デッキがあり、上面および後面に両開き式のハッチ・ドアが配置されている。
いわば二重底式の箱のような構造で一層目がアクセス・デッキ、二層目部分が機関室とされている。
アクセス・デッキから歩兵が乗降する場合は、上面および後面のハッチ・ドアの双方を開放して機関室上面部を通るようになっている。

上面の細長いアクセス・ハッチには、左右共に前部に楕円形の補助ハッチが設けられており、必要に応じて歩兵・乗員がここから車体上面に出たり、対空戦闘の際に歩兵が携帯式対空ミサイル9M36「ストレラ(矢)3」を発射することができる。
この対空ミサイルは通常、車内に1〜2発が搭載される。

機関室部にはUTD-29M液冷ディーゼル・エンジン(出力500hp、極初期型は出力420hpのUTD-29エンジンを搭載)と変速・操向機、右側面部には吸排気関係装置、左側には燃料タンクが配置されている。
浮航時には右側の吸排気関係装置の上面から、カニング・タワー式に吸気ダクトが装着できるようになっている。

UTD-29Mディーゼル・エンジンは、V型シリンダー配置だがその角度が144度に開いた形態で、かなり高さを低く抑えて狭い機関室内に搭載できるようにされている。
戦車用と遜色の無い出力を持つこのエンジンのおかげで、戦闘重量が18.7〜19t程度ながら出力/重量比は25hp/tと、歩兵戦闘車としてはかつて無い大きさとなり、路上最大速度は70km/hとBMP-1/2歩兵戦闘車を大きく上回り、新鋭のT-80戦車並みとなった。

また操向・操縦も、流体トルク・コンヴァーターを導入した変速・操向機のおかげで、BMP-1/2歩兵戦闘車以上にスムーズで容易になっている。
足周りはトーションバー式サスペンションで懸架された片側6個の転輪、3個の上部支持輪と前部誘導輪、後部起動輪から成るオーソドックスなもので、履帯はダブル・ピン式/ゴム・ブッシュ付きの、BMP-1/2歩兵戦闘車やT-64、T-80戦車等と同様なものを採用している。

前部2個、後部1個の転輪にはショック・アブソーバーが付属している。
これらの足周りは、オブイェークト685水陸両用軽戦車のものをほぼそのまま継承したものである。
また浮航時の推進力は、BMP-1/2歩兵戦闘車の履帯の回転によって得るものを止めて、PT-76水陸両用軽戦車やBTR-60〜80装輪式装甲兵員輸送車シリーズと同様の、ウォーター・ジェット式のものとされた。

装甲防御面では前述したように車体前面において、少なくとも25mm機関砲の直射に交戦距離内で耐えられるものを目標としたが、実際に旧ソ連における実験では、30mm機関砲による射距離300mからの射撃に耐えることができたという。
車体前面下部の防弾アルミ板の厚さは45mm程度で、これに浮航時に上部にスライドされる、10mm厚鋼板でできた波切り板が追加される。

前面上部の装甲厚は10〜15mm程度だが、さらに薄鋼板と思われる追加装甲がボルト止めされている。
また本車では車体前部に燃料タンクが配置されているが、これは成形炸薬弾に対する防御のためだという。
つまり燃料タンク内のディーゼル油によって、灼熱した貫徹弾や成形炸薬の金属ジェットのエネルギーを吸収するというものである。

他に、死角となり易い車体後部も事実上の二重装甲構造となっており、武装と乗員を車体中央部に集約させて防御範囲を縮小させる発想を明確にしている。
これは旧ソ連の装甲車両ではあまり考慮されてこなかった点で、明らかにBMP-3歩兵戦闘車の開発において路線転換がされていったことを伺わせる点である。


●武装

BMP-3歩兵戦闘車で他に類を見ないものが、100mm低圧ライフル砲2A70と30mm機関砲2A72を束ねて同軸装備し、レーザー測遠/ミサイル誘導装置1K13-2や熱線暗視装置付き照準・視察装置PPB-1、対空・対地両用照準機TNPT-1、環境センサー(風向・気温等)および弾道コンピューターでこれらをバックアップする、火力システム2K23コンプレクスである。
もちろん2軸砲安定化装置2E52-2も搭載しており、走行間に機関砲を中心に有効弾を目標に発射できる。

これらの各種機材を搭載した砲塔は車長および砲手の2名が搭乗するようになっており、前半部は防弾鋼板の追加装甲を施した二重装甲となっている。
砲塔底部が100mm低圧ライフル砲2A70の自動装填装置(装弾トレイを含む)を搭載したバスケット状になっているのも、本システムの特徴である。
なお、砲塔旋回システムは電動/手動兼用式である。

100mm低圧ライフル砲2A70には噴進式の榴弾3OF32、装弾筒付翼安定徹甲弾3BM25、レーザー誘導式対戦車/対ヘリ兼用ミサイル(9M117-3「バースニャ」(寓話)/9M117M1「アルカーン」(投げ縄))の3種類の弾薬が準備されている。
前2者は計40発、誘導ミサイルが8発搭載されており、うち3OF32榴弾のみがT-72戦車のものと形態が似ている自動装填装置に22発充填されている。

この自動装填装置は鋼製カバーで覆われており、内部の2段式収納庫には上段に弾頭、下段に発射薬莢と分けて配置されており、3OF32榴弾の場合の発射速度は15発/分と比較的速いものとなっている。
また3OF32榴弾以外の弾薬については、手動で砲手がブリーチに装填する。
3OF32榴弾の砲口初速は250m/秒と遅めであるが、弾頭自体が噴進式であるため飛翔中に弾速が上がっていく。

この榴弾の射撃は環境センサーを付属させた弾道コンピューター等でバックアップされており、最大有効射程4,000mの範囲で高い命中精度を発揮できるという。
9M117誘導ミサイルは飛翔速度が960m/秒まで加速され、有効射程100〜4,000mの範囲で90%以上の戦車大標的に対する命中精度を誇っている。
弾頭は強力な成形炸薬で、装甲貫徹力は600mmである。

なお3BM25徹甲弾の諸元は不明であるが、戦車以外の防御力が比較的弱い装甲車両に対処するためのものである。
30mm機関砲2A72は、基本的にBMP-2歩兵戦闘車に搭載された30mm機関砲2A42と同じ火砲で、発射速度が330発/分、弾丸の砲口初速が960m/秒で、本車の場合は対空用途(特にヘリコプター)および軽装甲車両に対処することを目的に搭載されている。

弾薬は曳光榴弾(3UOR6)および通常榴弾(3UOF8)、徹甲弾(3UBR)の3種が用意されており、ベルト給弾式で榴弾と徹甲弾が別々の装弾機に195発(徹甲弾)、305発(榴弾)がそれぞれ充填される。
また防盾左側(100mm低圧ライフル砲の脇)には、同軸で7.62mm機関銃PKTも装備されている。
その他に砲塔前面両側には各3基ずつ、発煙弾発射機902B「トゥーチャ」(黒雲)が装備されている。

このように武装システム面では、当時の最新鋭主力戦車にも劣らないFCSにバックアップされた、歩兵戦闘車としては旧ソ連ではもちろん、西側でも例を見ないくらい贅沢かつ強力なものが搭載されることになった。
しかし新機軸を各所に盛り込んだ車体と共に、この全く目新しい武装システム等が旧ソ連軍内で嫌悪され、装備化が遅れる原因ともなったのである。


●部隊配備と性能向上型の開発

1987年に制式採用されたBMP-3歩兵戦闘車は、しかしながら1989年まで部隊配備されることが無かった。
当時、ゴルバチョフ書記長(後の大統領)の下で進められた「グラースノスチ」(情報公開)等の民主化政策の波の中で、ソ連軍の中堅以下の将校たちが批判の声を上げたこと、そして国家財政の破綻による軍事費削減の流れがその主要な原因であった。

ソ連軍(そして後のロシア軍)へのBMP-3歩兵戦闘車の導入はなかなか進まず、1994年現在でヨーロッパ・ロシア部で60両、シベリア軍管区の自動車化狙撃師団等に100両程度が配備されたに過ぎない状況で推移してきている。
この内、ヨーロッパ・ロシア部に配備されたものの大部分が士官学校等での教育用であるが、1996年以降いくらかがチェチェン共和国との武力紛争に投入され、実戦を経験している。

しかし、BMP-3歩兵戦闘車の運命は1990〜91年の湾岸戦争の発生と、併せて生起したソ連の崩壊という事態の下で大きく変わっていった。
イラク軍のクウェート侵攻に端を発した湾岸戦争は、オイル・マネーをふんだんに持つ周辺諸国に新たな軍備充実への強い志向を生み出し、ここに深刻な国家財政の再建の一助を、兵器や軍事技術の海外輸出で得ようとしたロシアの動きが重ねられることとなったのである。

ロシアは、旧ソ連時代にはひた隠しにした最新の軍事技術や新兵器を惜しげもなく国際武器市場に晒し、BMP-3歩兵戦闘車についても、T-80U戦車やT-90戦車等と共に重点的なキャンペーンが打たれていった。
そして東西を問わず従来の歩兵戦闘車では例が無い、奇抜でかつ強力な武装を持つBMP-3歩兵戦闘車は、驚きを呼ぶと共に深い関心を集めたのである。

特に大きな関心を寄せたのは、湾岸戦争を近くで体験したアラブ首長国連邦(UAE)である。
同国は、イラク軍機甲部隊によるクウェートへの電撃的侵攻と占領に深刻な衝撃を受けた。
そしてその後、「ハイテク戦争」の様相を呈した湾岸戦争の経過を見て、地上防衛戦力の機軸たる機甲戦力の刷新に踏み出すこととしたのである。

財政的に豊かな同国の場合、軍備充実でポイントとなるのは少ない人員をいかに効率的な戦力とするかということである。
その観点からするなら、同国が従来用いてきたアメリカ製のM113のような戦場タクシーというべき装甲兵員輸送車よりも、戦車に準ずる攻撃力を持つBMP-3歩兵戦闘車が2役も3役も兼ねることができる魅力的な装備と見られたようである。

ロシアが輸出市場に提示した販売価格も80万ドル程度と西側最新戦車の1/4程度で、強力な主力戦車と組み合わせて有効な打撃力を持つ機甲部隊を編制するには打ってつけと見られた。
UAEはほどなく、フランス製のルクレール戦車と共にBMP-3歩兵戦闘車を導入することを決定し、1993年から97年にかけて414両を購入した(現在までに448両に達している)。

UAEはBMP-3歩兵戦闘車の導入にあたり、ルクレール戦車との協同行動を容易にするためと、湾岸戦争の教訓から幾つかの改修を製造企業であるクルガン機械工場に要求し、いわば「UAE仕様」のBMP-3歩兵戦闘車が製造された。
目立った改修点は、ルクレール戦車と同様のCATV型の暗視目標探知システムを追加したことで、砲塔左側後部に取り付けられている。

これは夜間のみならず、悪天候や硝煙に包まれた戦場で有効性を発揮する。
また車内および車外とのコミュニケーション・システムは、フランスとアメリカで導入されているトンプソン・システムを採用し、そのため乗員のヘッドホン付きヘルメット等がアメリカ・スタイルとなっている。

ガンポートも、UAE陸軍が採用しているアメリカ製の5.56mm自動小銃M16A2が使用できるものと換装されており、西側スタイルの歩兵と組み合わされた本車は旧ソ連・ロシア製というよりも、UAEオリジナルの車両といった色合いが濃くなっている。
BMP-3歩兵戦闘車は現在のところ、ユーゴスラヴィアに派遣されたUAE陸軍のKFOR部隊でも使用されており、西側社会にとっても馴染みある車両となりつつある。

UAEはさらに防御力向上を求めて、爆発反応装甲追加のためのシステムを競争発注し(フランスのGIAT社とロシアの企業合同体に対して)、結局、オリジナル車体の開発者であるロシアの製品が採用されることになった。
これはT-80UやT-90等の戦車に採用されたものの改良型で、砲塔周囲はほぼ同じ形態を踏襲しながら、車体前部および側面部の装甲コンテナを大きな箱型としたものである。

これは戦車より脆弱な防弾アルミ製車体に損傷を与えないため、ある程度のクリアランスを確保するためと、重量増加による浮航性能の悪化を防ぐために、コンテナ自体に浮力を持たせることを狙っているものである。
併せてUAEは、対戦車ミサイルや擲弾の飛翔をレーダーで捉えて、砲塔周囲に配置した榴散弾入りのミックス型擲弾でこれらを破壊する「アレーナ」(円型競技場)アクティブ防御システムを組み込んだタイプも発注し、すでに数両の引き渡しを受けて運用試験を行っている。

また機動性能向上のために、出力660hpのUTD-32 V型10気筒液冷ディーゼル・エンジンを搭載したBMP-3M歩兵戦闘車の開発を発注し、その試作車は1998年に完成したがこれも採用される見通しである。
BMP-3M歩兵戦闘車は路上最大速度80km/hと、装軌式歩兵戦闘車としては世界最速のスピードを発揮できる。

その他にも、複合装甲を採用した新型砲塔の開発も進められている。
このようにBMP-3歩兵戦闘車の性能向上に向けた改良は、最大のユーザーであるUAEの積極的なイニシアティブの下で推進されているところであるが、こうした動きの影響も広まりクウェートが55両、キプロスが43両を導入した他、韓国陸軍も30両を導入し第90機械化歩兵大隊に装備している。


●派生型

本国ロシアでの採用と配備が進まなかったBMP-3歩兵戦闘車は、輸出市場での一定の成功によって開発コストの回収ができ、その後の派生型開発が着手されることとなった。
まずクルガン機械工場では、各種派生型の展開のための汎用車体単体の販売も行うこととした他、すでにこれを用いた自走対戦車ミサイル・ヴァージョン(9M133「コルネット」、9M123「クリザンテマ」対戦車誘導ミサイル搭載の2種類が提案されている)、長砲身の120mm直射・迫撃両用砲2A80を搭載する2S31「ヴェーナ」(ウィーン)等の自走砲ヴァージョンが完成している。
また意欲的な装甲偵察車BRM-3K「ルィス」(山猫)や、装甲回収車BREM-L「ベグリャンカ」(放浪者)等も完成し、ロシア軍で使用されている。


<BMP-3歩兵戦闘車>

全長:    7.14m
全幅:    3.23m
全高:    2.30m
全備重量: 18.7t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  UTD-29M 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル
最大出力: 500hp
最大速度: 70km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 600km
武装:    100mm低圧ライフル砲2A70×1 (48発)
        80.5口径30mm機関砲2A72×1 (500発)
        7.62mm機関銃PKT×3 (6,000発)
        9K116-3バースニャ対戦車誘導ミサイル・システム
装甲厚:   10〜45mm


<参考文献>

・「パンツァー2000年7月号 ソ連・ロシア装甲車史(12) BMP-2/3シリーズ」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年7月号 世界最強の戦闘兵車BMP-3の開発と機能」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年10月号 BMP-3戦闘兵車の開発と構造」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年7月号 ロシア新時代ICV BMP-3」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年9月号 ロシア製ICV BMP-3」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2008年5月号 BMP-3戦闘兵車 インアクション」  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2006年12月号 歩兵戦闘車 BMP (3)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー

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