登場当初、西側の歩兵用装甲車両に見られぬ重武装ぶりで注目を集めたBMP-1歩兵戦闘車だったが、用兵者であるソ連軍はその73mm低圧滑腔砲2A28「グロム」(雷鳴)と、対戦車誘導ミサイル9M14M「マリュートカ」(赤ん坊)の組み合わせが1970年代に入って陳腐化しつつあることを感じていた。 第1の問題は73mm低圧滑腔砲の命中精度が低く、対戦車目的の戦闘は元より歩兵の下車戦闘を援護する上での能力が不足しているという点である。 元々73mm低圧滑腔砲2A28は擲弾発射機の発達型に過ぎず、安定翼を展開して飛翔するPG-9擲弾は横風の影響を受け易く、射距離500m前後から急速に命中率が低下する。 射距離1,000mでは戦車クラスの固定目標に対して50%程度の命中率しかなく、重機関銃の有効射程外(1,500m前後)から敵陣地に対して制圧射撃を加えるには力不足だった。 アフガニスタンにおける実戦でも、分散して待ち伏せするムジャヒディン(回教徒ゲリラ)に対して73mm低圧滑腔砲は有効な反撃ができず、むしろ30mm自動擲弾発射機AGS-17や30mm機関砲の方が効果的に対処できた。 第2の問題はマリュートカ対戦車ミサイルが第1世代の有線目視誘導式で、飛翔速度が遅く(最大有効射程の3,000mを飛翔させるのに約10数秒かかる)、車両を停止させて発射することに戦闘上不安があったことである。 発射時に車両の位置を発見され、ミサイルの飛翔中に高初速の自動火器などで反撃を受けることは充分に考えられることである。 そこで1970年代に入りBMP-1歩兵戦闘車をベースに、チェリャビンスク・トラクター工場並びにクルガン自動車工場において、武装改良型BMPの試作開発が進められた。 開発の主眼は、命中精度面が改善された武装システムの採用である。 これは73mm低圧滑腔砲の改良、新たな高初速機関砲の採用、旧式のマリュートカ対戦車ミサイルを、新型の半自動誘導式の9M111/9M113対戦車ミサイル(9M111「ファゴット」対戦車ミサイルで最大有効射程2,000m、9M113「コンクールス」(競技)対戦車ミサイルで4,000m。いずれも照準点に目標を捉えていれば、スティック等で手動操作しなくても半分自動的に誘導が行われる。西側のTOW対戦車ミサイルと同等の性能を持つ)へ更新する、などの方向で具体化された。 チェリャビンスク・トラクター工場では、2つのタイプの車両が試作された。 第1のものが、1972年から開発が始められた「オブイェークト768」である。 これはBMP-1歩兵戦闘車の武装を9M111/9M113対戦車ミサイルと、長砲身タイプの73mm低圧滑腔砲「ザルニッツァ」(稲妻)に変更したものである。 第2のものは大型の2名用砲塔に、新たに開発された長砲身の30mm機関砲2A42と9M111/9M113対戦車ミサイルを搭載するもので、「オブイェークト769」と呼ばれる。 一方、クルガン自動車工場では3種の試作車が製作された。 その内、1972年から開発が始められたオブイェークト680と、1974年から開発が始められたオブイェークト675が30mm機関砲を搭載するタイプ(前者が小型砲塔に短砲身の2A38機関砲を持ち、後者はオブイェークト769とほぼ同様の2名用砲塔に2A42機関砲と9M111/9M113対戦車ミサイルを持つ)で、1977年に試作されたオブイェークト681が従来のBMP-1歩兵戦闘車と同様の1名用砲塔に、長砲身型73mm低圧滑腔砲ザルニッツァと9M111/9M113対戦車ミサイルを組み合わせた武装を持っていた(ただしこちらは主砲の2軸安定化装置を装備している)。 これらの車両を用いて試験が実施され、結果としてアフガニスタン紛争さなかの1980年にオブイェークト675が「BMP-2歩兵戦闘車」として制式採用された。 BMP-2歩兵戦闘車の最大の特徴は、30mm機関砲2A42と7.62mm機関銃PKT、それに9M111/9M113対戦車ミサイルの発射機を装備する大型の2名用砲塔で、ここに本来的意味の車長と砲手が配置される。 この砲塔にはT-72戦車が装備するものとほぼ同様の、水平・垂直方向の制御が可能な砲安定化装置2E36-5が装備されている。 また照準装置も、改善された昼/夜間兼用の1P3-3およびBPK-1-42となった。 30mm機関砲2A42は榴弾、硬芯徹甲弾(タングステン弾芯)を発射でき、対陣地、軽装甲車両、ヘリコプターなどに対して有効で、戦車の側面装甲への射撃でも効果を期待できる。 9M111/9M113対戦車ミサイルの発射機は砲塔上面に装着され、砲塔内に2発、兵員室内に2発の計4発のミサイルを搭載している。 その他に対空自衛用として、携帯式対空ミサイル9M36「ストレラ(矢)3」を兵員室内に2発搭載している。 大型の2名用砲塔を搭載したために車内の人員配置が変更され、兵員搭乗スペースを砲塔の前後に分けて前部に1席、後部に6席を設けており、BMP-1歩兵戦闘車より搭乗兵員が1名減っている。 BMP-1歩兵戦闘車ではどっち付かずであった操縦手席後ろの席には、搭乗歩兵のうち分隊支援火器である7.62mm軽機関銃PKMの銃手、または分隊長が搭乗することになった。 そのため車体左側面に、この席に対応するPKM用のガンポートが設けられた。 煙幕展開装置関係では、従来のTDA(排気マフラー内に燃料を噴射して煙幕展開する装置)に加え、発煙弾発射機902B「トゥーチャ」(黒雲)を砲塔両側に3基ずつ装備している。 さらに一番最初に量産されたヴァージョンでは、操縦手席と並んだ兵員搭乗席にリモコン操作式の7.62mm機関銃PKTを装備したピントルマウントが付けられていたが、後の型では廃止された。 足周り、操縦装置その他は当初より成功したBMP-1歩兵戦闘車のものを引き継ぎ、UTD-20S1 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力300hp)を搭載し、T-72戦車と同等の路上最大速度65km/hを発揮できる。 BMP-2歩兵戦闘車は以後、1990年代を通して量産された。 アフガニスタン紛争の中期〜終盤にかけて前線に投入され、対ゲリラ戦に活躍した。 特に、対ヘリコプター防御を考慮して高角度の仰角を取ることが可能な30mm機関砲は、高地地区でのゲリラの待ち伏せ戦術への反撃に大変有効だった。 そのため、ゲリラが好んで狙った輸送トラックのコンボイ・エスコートにも活躍した。 このように、武装や各種機器関係ではかなり実力が向上したIFVになったBMP-2歩兵戦闘車だが、アフガニスタンでの戦闘経験からその弱装甲が最大の欠陥であることが判明した。 これは、ムジャヒディン側がRPG-7のような携帯式対戦車兵器を多用していたのはもちろんのこと、中国から供与された12.7mm DShKや14.5mm KPV等の重機関銃(いずれもソ連製のコピー)が、BMPシリーズの側面装甲などを近距離から簡単に貫徹するという深刻な事態に直面したためである。 この事態を受けて装甲強化タイプであるBMP-2D歩兵戦闘車が1982年に登場し、以後改修工場で既存のBMP-2歩兵戦闘車にも増加装甲の装着が行われた。 増加装甲は砲塔前半部と車体側面に、やや空間を開けて鋼板をボルト止めする形式で行われ、サイドスカートも丈の長い薄鋼板製のものに取り替えられた(従来のものはアルミプレス板製)。 このため、履帯駆動による浮航性能は失われることになった。 またアフガニスタン現地では、砲塔の周囲にさらに高いメッシュや薄鋼板のフェンスのようなものを取り付ける等、RPG-7による攻撃を意識した防御措置が採られているケースが多かった。 その他にアフガニスタンで使用されたタイプを中心に、砲塔後部に30mm自動擲弾発射機AGS-17を取り付けたものも製作された。 これは有効射程が400m程度の小型擲弾発射機であるが、手榴弾程度の爆発威力のある擲弾を次々に敵に撃ち込めるため対ゲリラ戦には大変有効な装備で、アフガニスタン派遣部隊では珍重がられていた。 BMP-1とBMP-2は西側諸国との陸上戦闘を想定した、核戦争下でも戦闘行動可能なIFVとして開発されたが、実際はアフガニスタンなどの古典的な地上戦闘、それも正規軍対非正規軍の戦いに投入されていったのである。 そこではBMPによる対戦車戦闘など無く専ら待ち伏せするゲリラへの対処や、ゲリラ拠点に対する歩兵攻撃の支援といったものが主な任務であった。 そして相変わらず問題になったのはソ連軍戦車や装甲車両の伝統的弱点、すなわち搭乗歩兵の兵員室が狭く長時間の搭乗が耐え難いものであることであった。 また簡易な携帯式対戦車兵器を多用し、あらゆる場所から攻撃してくるゲリラに対しては乗車戦闘など考えられないことであった。 ソ連軍歩兵たちはBMP-2歩兵戦闘車の兵員室への搭乗を嫌い、ほとんどの場合車体上面に座って搭乗した。 そしてゲリラ側の攻撃を受けると、直ちに飛び降りて携行火器で反撃した。 まるで第2次世界大戦時に戦車の手摺にしがみ付いて随伴したソ連軍歩兵のようなもので、IFVの意味が無い。 しかしながらソ連軍歩兵たちにとってBMP-2歩兵戦闘車は、アフガニスタンでの対ゲリラ戦においてはMBTより手軽で、柔軟な火力発揮の可能な力強い助っ人であったことは間違いなく、Mi-24ハインド攻撃ヘリコプターと共に有力な支援兵器としての地位は確固としたものだった。 BMP-2およびBMP-2D歩兵戦闘車は現在も、ロシア軍戦車師団や自動車化狙撃師団の歩兵大隊の主力IFVであり、東欧諸国などでも装備されている。 |
|||||
<オブイェークト768歩兵戦闘車> 全長: 7.295m 全幅: 3.14m 全高: 2.40m 全備重量: 13.6t 乗員: 3名 兵員: 7名 エンジン: UTD-20 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 300hp/2,000rpm 最大速度: 65km/h(浮航 7km/h) 航続距離: 500km 武装: 73mm低圧滑腔砲ザルニッツァ×1 12.7mm重機関銃NSVT×1 9M111/9M113対戦車ミサイル発射機×1 (4発) 装甲厚: 6〜13mm |
|||||
<オブイェークト680歩兵戦闘車> 全長: 6.735m 全幅: 2.94m 全高: 2.45m 全備重量: 13.0t 乗員: 3名 兵員: 7名 エンジン: UTD-20 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 300hp/2,000rpm 最大速度: 65km/h(浮航 7km/h) 航続距離: 500km 武装: 30mm機関砲2A38×1 7.62mm機関銃PKT×2 装甲厚: 6〜13mm |
|||||
<BMP-2歩兵戦闘車> 全長: 6.735m 全幅: 3.15m 全高: 2.059m 全備重量: 14.0t 乗員: 3名 兵員: 7名 エンジン: UTD-20S1 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 300hp/2,600rpm 最大速度: 65km/h(浮航 7km/h) 航続距離: 600km 武装: 80.5口径30mm機関砲2A42×1 (500発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 9M111/9M113対戦車ミサイル発射機×1 (4発) 装甲厚: 6〜26mm |
|||||
<参考文献> ・「パンツァー2000年7月号 ソ連・ロシア装甲車史(12) BMP-2/3シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年5月号 防禦力強化が進む最近の戦闘兵車」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年3月号 BMP-1/2戦闘兵車の開発と発展」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年3月号 衝撃の歩兵戦闘車 BMP」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年3月号 BMP-1/2戦闘兵車 インアクション」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2006年11月号 歩兵戦闘車 BMP (2)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著 学研 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
|||||
関連商品 |