HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走ロケット・システム自走ロケット・システム(ソヴィエト/ロシア)>9K58スメルチ自走多連装ロケット・システム

9K58スメルチ自走多連装ロケット・システム





ロシアがアメリカのMLRSよりも射程・破壊力の大きな兵器だと宣伝しているのが、9K58「スメルチ」(Smerch:竜巻)自走多連装ロケット・システムである。
本システムの開発は1970年代終わりに開始され、ロケット兵器の設計に定評のあるスプラブ設計局が主契約者となり、モトロビフカ製作所で車体と付属パーツが製作された。

1983年に試作型が完成し、1987年から実戦配備が開始されている。
9K58スメルチは、9K57ウラガーンと組み合わせて運用される長射程多連装ロケット・システムとして位置付けられており、ヨーロッパ・ロシア部で105両が配備されている。
それらの車両は、チェチェン紛争やコーカサス地方でのイスラム原理主義勢力との戦闘に投入されている。

スメルチはソ連崩壊後は積極的に輸出が図られており、クウェートとアラブ首長国連邦が発注し、インドも購入するといわれる。
スメルチの構造は至ってシンプルで、伝統的なロシアのトラック搭載ロケット弾発射機を大型化しただけである。
自走発射機は「9A52」と称され、強力な機動性能を持つミンスク自動車工場(MAZ)製のMAZ-543M 8×8トラックをベースに製作されている。

トラックは前部に乗員用コンパートメント、その後ろにエンジンが配されており、チューブ状をしたロケット弾発射機はこのトラックの後部荷台に12連装で装備されている。
発射機は左右に各30度ずつ旋回可能で、仰角は+55度までかけられる。
スメルチの特徴は、MLRSのM26ロケット弾(直径227mm)よりサイズの大きい9M55ロケット弾(直径300mm)を発射する能力にある。

9M55ロケット弾は、内蔵式の飛翔制御システム(弾道安定はロケット弾を回転させるスピン安定方式だが、ブースターの燃焼中の機体の縦方向と横方向の姿勢制御をガス噴射装置によって行い、ロケット弾の軌道を修正できる)により、従来の無誘導ロケット弾よりも集中して着弾させることができ、命中精度が3倍ほど向上しているという。
また、この9M55ロケット弾の最大射程はMLRSのM26ロケット弾の約2倍(70km)に達する。

さらに、最近開発された射程延伸型では最大射程は90kmに達するといわれる。
12発のロケット弾の発射に要する時間は、40秒ほどである。
発射後の再装填は、クレーンを装備する専用の次弾装填・輸送車両9T234(やはりMAZ-543M 8×8トラックがベース)が行うが、作業には30分以上かかるという。
9M55ロケット弾のサイズは重量800〜810kg、全長7.6m、弾頭重量233〜258kgである。

ロケット弾の大きさに幅があるのは、用途別に使い分けできる3種類の基本タイプがあるためである。
9M55Kロケット弾は移動中の機械化部隊や歩兵部隊、あるいは非装甲の飛行場施設などの攻撃用で、9N235破片弾頭型子弾を72個搭載する。
9N235子弾は長さ26.2cm、直径6.5cm、重量1.8kgの破片弾子で、非装甲目標用と対人用の大きさの異なる2種類の破片を散布する構造になっている。

9M55Fロケット弾は射撃位置にあるミサイル部隊や防空部隊、あるいは敵の司令部などの軽装甲目標攻撃用で、重量92.5kgの高性能爆薬を内蔵した榴弾である。
9M55K1ロケット弾は戦車や装甲車などの装甲車両攻撃用で、モチーフ3M対装甲用成形炸薬型子弾5発を収容する。

モチーフ3M子弾はロケット弾本体から放出されるとパラシュートを展開して降下し、装備する赤外線シーカーで目標を捜索し、発見すると炸薬に点火し攻撃する。
なお各子弾には作戦後の事故を防ぐため、発射してから2分後に自爆する時限装置が組み込まれている。
さらに型式名称は不明であるが、燃料気化爆弾タイプもあるとされている。

ロケット弾の発射に際しては、弾道コンピューターにバックアップされた射撃統制システムを用いる。
このため多連装発射機でありながら、正確・稠密な弾幕の展開が可能となっている。
その上スメルチには、集中大量運用のためのコントロール・システムが用意されている。
このシステムは各部隊指揮官を統合するもので、短波および超短波の無線装置を用いて統制する。
以上のようにスメルチは、多連装ロケット弾発射機として非常に安くて使い易いシステムである。


<9K58スメルチ自走多連装ロケット・システム>

全長:    12.40m
全幅:    3.10m
全高:    3.10m
全備重量: 43.7t
乗員:    4名
エンジン:  D12A-525A 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 525hp/2,100rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 850km
武装:    12連装300mmロケット弾発射機×1 (12発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2002年4月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(3)」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年6月号 混沌のロシアAFV」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(下)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー

関連商品

HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走ロケット・システム自走ロケット・システム(ソヴィエト/ロシア)>9K58スメルチ自走多連装ロケット・システム