BM-21「グラド」(Grad:雹)自走多連装ロケット・システムは、それまで運用していたBM-14自走多連装ロケット・システムの後継として1960年代初期に開発されたもので、冷戦時代の旧ソ連軍を代表する多連装ロケット兵器である。 1963年に導入された本システムのルーツは1941年7月13日、侵攻したドイツ軍に向けて初めて砲火を開いたBM-13-16自走多連装ロケット・システムである。 ソ連軍は第2次世界大戦でBM-13-16、BM-8シリーズ、BM-31-12などの自走多連装ロケット・システムを使用したが、これらはソ連軍兵士たちから「カチューシャ」の愛称で呼ばれ、敵であるドイツ軍兵士たちからは「スターリンのオルガン」と呼ばれて恐れられた。 このカチューシャ・ロケットの成功によりソ連軍は戦後も引き続き、多連装ロケット兵器を砲兵装備の要として重視してきた。 BM-21自走多連装ロケット・システムは、122mm高性能榴弾ロケットM-21-OFまたはDB-1Bを40連で装填し、5〜20.5kmの射程で弾幕射撃を行うことができる。 車台は、広く旧ソ連軍で使用されていたウラル375D 6×6トラックのものである。 6両で1個中隊を構成するが、この1個中隊の斉射で600m×950mの範囲を240発のロケット弾でカバーすることができる。 発射重量66.5kg(弾頭重量18.4kg)の122mmロケット弾を1両当たり1分以内に40発連射することができるが、これは弾頭重量だけでも736kgに達し、2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲を用いて同一時間に同じ重量の榴弾を投射するためには、4両による全力射撃が必要である。 つまり1両のBM-21で152mm自走榴弾砲1個中隊に匹敵し、6両から成る1個中隊では1個連隊分の152mm自走榴弾砲と同等となるのである。 ここに、多連装ロケット兵器の強みがある。 また榴弾以外に煙幕弾、焼夷弾、化学弾、対戦車地雷、対人地雷等を投射することもできる。 BM-21は東欧諸国やアフリカ、アジア、中南米の当時のソ連友好国に広く供与された。 1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)ではエジプト軍とシリア軍がBM-21を使用し、その後イスラエル軍も捕獲して使用している。 BM-21の派生型としては車台を軽量なGAZ-66 4×4トラックに変更し、12連装のランチャーを持つ空挺部隊用のBM-21V、ZIL-131 6×6トラックを車台とし36連装のランチャーを持つBM-21B、ウラル4320 6×6トラックを車台とし50連装のランチャーを持つ9A51「プリマ」などがある。 |
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<BM-21グラド自走多連装ロケット・システム> 全長: 7.35m 全幅: 2.40m 全高: 3.09m 全備重量: 13.7t 乗員: 5名 エンジン: ZIL-375 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 180hp/3,200rpm 最大速度: 75km/h 航続距離: 450km 武装: 40連装122mmロケット弾発射機×1 (40発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2022年7月号 挫折した電撃戦 ロシア・ウクライナ戦争の行方」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年4月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(3)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年4月号 アメリカ/ポーランド合同演習 ビクトリー・ストライク2000」 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年6月号 混沌のロシアAFV」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年9月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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