バイオニクス歩兵戦闘車は最近、東南アジアの貿易・金融センターとして着実に力を付けてきたシンガポールが開発した歩兵戦闘車である。 シンガポール陸軍の要求により1991年から、シンガポール・テクノロジーズ・キネテックス社が開発を開始した。 最初の試作車は、1995~96年頃に完成したといわれている。 1997年から生産が開始され、現在シンガポール陸軍への配備が進められている。 バイオニクス歩兵戦闘車の生産数は、派生型を含め少なくとも500両に達すると思われる。 なお、1999年9月にイギリスのサレー州チャートセイで開かれた国際防衛システム・装備展示会において初めて海外で公開されており、すでにチェコに対する売り込みを行っているという。 バイオニクス歩兵戦闘車の車体と砲塔は圧延防弾鋼板の溶接構造で、車体は低平な箱型をした一般的なデザインとなっており、全体的なイメージはスウェーデンのCV90歩兵戦闘車に似ている。 防御力も一般的なレベルと思われるが、必要に応じて増加装甲板をボルト止めできる。 さらに、ドイツのIBD社(Ingenieurbüro Deisenroth:ダイゼンロス工業)製の爆発反応装甲を装着することもできる。 車内のレイアウトは一般的なもので車体前部右側に操縦室、前部左側に機関室が位置し、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が兵員室となっている。 パワーパックは、アメリカのデトロイト・ディーゼル社製の6V-92TA V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力475hp)と、ジェネラル・ダイナミクス・ディフェンス・システムズ社製のHMPT-500-3EC自動変速機(前進3段/後進1段)の組み合わせで、ルーヴァーは車体右側上面にある。 路上最大速度は70km/hで10秒で32km/hまで加速することができ、機動性は他国の歩兵戦闘車と比べても遜色は無い。 また歩兵戦闘車としては珍しく、油気圧式サスペンションを採用しているのも特筆できよう。 バイオニクス歩兵戦闘車には、「バイオニクス25」と「バイオニクス40/50」の2種類のタイプが存在する。 バイオニクス25歩兵戦闘車は左側に車長、右側に砲手が位置する大型の2名用全周旋回式砲塔を搭載している。 主武装としてアメリカのM2ブラッドリー歩兵戦闘車と同じく、ボーイング社製の87口径25mm機関砲M242ブッシュマスターを装備しており、俯仰角は-10~+60度である。 それ以外の武装は、同軸の7.62mm機関銃および砲塔上面の対空用7.62mm機関銃、砲塔両側面にある3連装の76mm発煙弾発射機SDS-93である。 他国の歩兵戦闘車とは異なり、対戦車ミサイルは装備していない。 なお車体後部の兵員室には7名の歩兵が搭乗でき、兵員室の上部左右には7.62mm機関銃を装備できるピントル・マウントが備えられている。 バイオニクス40/50歩兵戦闘車は大型の2名用砲塔の代わりに、シンガポール製の40/50 1名用動力旋回式キューポラに40mm自動擲弾発射機40AGLと、同軸の12.7mm重機関銃M2を装備したもので、旋回角は左右110度、俯仰角は-8~+45度である。 このタイプでは、車体後部の兵員室に9名の歩兵を搭乗させることができる。 バイオニクス歩兵戦闘車の派生型にはRWS小型銃塔搭載型、装甲回収車、架橋車両がある。 |
<バイオニクス25歩兵戦闘車> 全長: 5.90m 全幅: 2.70m 全高: 2.60m 全備重量: 23.0t 乗員: 3名 兵員: 7名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-92TA 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 475hp/2,400rpm 最大速度: 70km/h 航続距離: 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 7.62mm機関銃GPMG×2 装甲厚: |
<バイオニクス40/50歩兵戦闘車> 全長: 5.90m 全幅: 2.70m 全高: 2.60m 全備重量: 21.5t 乗員: 2名 兵員: 9名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-92TA 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 475hp/2,400rpm 最大速度: 70km/h 航続距離: 武装: 40mm自動擲弾発射機40AGL×1 12.7mm重機関銃M2×1 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2011年4月号 新興国の有力AFV-シンガポールのバイオニクス戦闘兵車」 柘植優介 著 アル ゴノート社 ・「パンツァー2003年3月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(2)」 小野山康弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年1月号 建国記念パレードに参加したシンガポール軍車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年12月号 新装備トピックス」 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年11月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年10月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年12月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |