●開発 インド陸軍は1990年代半ばに、それまで使用していたカタパルト130mm自走加農砲の後継となる自走砲の調達を計画し、海外の兵器メーカーに対して提案を募った。 インド陸軍の次期自走砲選定試験にはスロヴァキアのZTS社製のズザナT-72M1 155mm自走榴弾砲、フランスのGIAT社製のGCT 155mm自走榴弾砲、イギリスのROディフェンス社製のAS-90 155mm自走榴弾砲、南アフリカのデネル社製のT6 155mm自走榴弾砲が参加した。 デネル社のT6 155mm自走榴弾砲は当初、インドがライセンス生産を行っていた旧ソ連製のT-72M1戦車の車体を用いた試作車が製作されたが、続いて当時開発が進められていた、インド陸軍の次期MBT「アージュン」(Arjun:古代インドの叙事詩マハーバーラタの登場人物Arjunaに因んだ名前)の車体を用いた試作車が製作され、これは「キングフィッシャー」(Kingfisher:カワセミ)と名付けられた。 試験の結果1998年に、デネル社のキングフィッシャーをインド陸軍の次期自走砲として採用することが決定し、マハーバーラタの登場人物「ビーマ」(Bhima)に因んで「ビーム」(Bhim)の制式名称が与えられた。 しかしその後、デネル社の兵器売買を巡る贈収賄スキャンダルが発覚し、インド政府がデネル社との兵器売買契約を破棄したため、一旦決まったビーム自走榴弾砲の採用も取り消されることになった。 |
●構造 ビーム自走榴弾砲に搭載されているT6砲塔システムは、デネル社の1部門であるLIW社が南アフリカ陸軍向けに開発したG6「ライノ」(Rhino:サイ)155mm自走榴弾砲の発展型として、主に輸出を狙ってプライヴェート・ヴェンチャーで開発した155mm自走榴弾砲の砲塔システムで、砲塔部だけで自走榴弾砲のシステムが完結しているため、様々な戦車の車体に簡単に搭載することができるのが売りとなっている。 G6自走榴弾砲の砲塔が左右各40度ずつの限定旋回式だったのに対し、T6砲塔は360度の全周旋回が可能となっている。 主砲はG6自走榴弾砲が45口径155mm榴弾砲を搭載していたのに対し、T6砲塔システムではより射程の長い改良型の52口径155mm榴弾砲を搭載している。 この砲は砲身寿命が非常に長く、最大装薬を使用して3,500発以上射撃可能といわれている。 砲塔の旋回と主砲の俯仰は電動モーターを用いた動力式で、主砲の俯仰角は−5〜+75度となっている。 また砲塔内には自動装填装置が備えられており、最大発射速度は6発/分、維持発射速度は2発/分とされている。 最大射程はベース・ブリード弾で41km、ロケット補助推進弾(VLAP)では52kmに達する。 また砲塔内にはAPU(Auxiliary Power Unit:補助動力装置)が搭載されており、車体からの動力が遮断された状態でも砲塔の旋回と主砲の俯仰を行うことが可能である。 砲塔内には、155mm砲弾40発と装薬40個を収納する弾薬庫が設けられている。 弾薬の補給については砲塔後部から装填コンベアを引き出して行うようになっており、弾薬車からであれば6分で、地上置きの場合でも10分で弾薬の補給ができる。 ビーム自走榴弾砲のパワーパックはアージュン戦車と同じドイツ製のもので、MTU社製のMB838Ka-501 V型10気筒多燃料液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,400hp)と、レンク社製のRK304自動変速機(前進4段/後進2段)の組み合わせとなっている。 サスペンションは、油圧で上下に伸縮させることが可能な油気圧式サスペンションが採用されている。 この足周りによって本車は路上最大速度60km/h、路上航続距離450kmの機動性能を発揮する。 |
<ビーム155mm自走榴弾砲> 全長: 12.40m 全幅: 4.70m 全高: 3.10m 全備重量: 52〜54t 乗員: 4名 エンジン: MTU MB838Ka-501 4ストロークV型10気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,400hp/2,500rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 450km 武装: 52口径155mm榴弾砲×1 (40〜50発) 7.62mm機関銃PKT×1 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2002年8月号 南アフリカのG6改良計画(2)」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年5月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2018〜2019」 アルゴノート社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |