スウェーデンは武装中立国として各種装備の国産化を積極的に進めてきたが、「Sタンク」の通称で呼ばれるStrv.103戦車と並んで1960年代にスウェーデンが開発したユニークな自走砲が、このバンドカヌーン1 155mm自走榴弾砲である。 本車の開発に当たったのは世界的に有名な火砲メーカーであるボフォース社(現BAEシステムズ・ボフォース社)で、1950年代末に開発に着手し1960年に最初の試作車が完成した。 各種試験と改良作業の後1965年に「バンドカヌーン1A」として制式化が決定され、1966〜68年にかけて26両が生産された。 バンドカヌーン1自走榴弾砲はスウェーデン陸軍で使用されているだけで、外国には一切輸出されておらず派生型も存在しない。 バンドカヌーン1自走榴弾砲の車体と砲塔は、圧延防弾鋼板の溶接構造となっている。 車体は全く新規に設計された箱型車体で、非常に低姿勢に仕上がっている。 車内レイアウトは車体前部と中央部右側が機関室、車体中央部左側が操縦室、車体後部が砲塔を搭載した戦闘室となっている。 砲塔内には左側に車長と砲手、右側に装填手と通信手が搭乗する。 主砲の155mm榴弾砲には、当時としては画期的な50口径の長砲身砲(全長7.75m)が採用されている。 主砲は砲塔に外装式に搭載されており砲の俯仰は電動式で、俯仰角は電動の場合で−2〜+38度、手動の場合で−3〜+40度となっている。 砲塔の旋回は手動式で全周旋回式ではなく、旋回角は左右各15度ずつ(ただし仰角0度未満では右は4度までに制限される)となっている。 主砲の最大射程は重量48kgの榴弾を使用して25.6kmと、当時としては非常に優秀な値となっている。 砲口初速はチャージ3装薬を使用した場合で865m/秒、チャージ1装薬で600m/秒となっている。 特徴的なのはその給弾機構で、車体後部のホイストにより薬莢式弾薬14発を7発ずつ2段に保持したカートリッジを一気に吊り上げ、わずか2分間で弾倉への搭載を終了する。 弾薬カートリッジは装甲が施されており、装甲厚は側面20mm、上面10mm、下面15mmとなっている。 最初の1発のみ手動で装填され、後は砲の発射時の反動を利用して自動的に装填される。 最大発射速度は1クリップ17発で48秒となっており、この間の単位時間当たりの投射重量は非常に大きい。 しかし反面この給弾機構のために重量と製造コストが増大したため、結果としてバンドカヌーン1自走榴弾砲は少数生産に留まることになった。 副武装としては、砲塔上面に対空用として7.62mm機関銃Ksp.58が1挺装備されている。 バンドカヌーン1自走榴弾砲のパワートレインやサスペンションは、Sタンクと共通化されている。 エンジンはイギリスのロールズ・ロイス社製のK60 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力240hp)と、アメリカのボーイング社製の502/10MAガスタービン・エンジン(出力300hp)を組み合わせて搭載し、通常はディーゼル・エンジンのみ、路外ではガスタービン・エンジンを加えて走行する。 変速機はヴォルヴォ社製の自動変速機(前進2段/後進2段)で、1速は路上用、2速は路外用である。 操向機は、再生二重差動式の流体操向機が採用されている。 エンジンは変速・操向機や冷却装置と共にパワーパックとして一体化されており、野外での交換が可能となっている。 サスペンションは油気圧式で、射撃時にはロックして反動を吸収するようになっている。 起動輪は前方にあり、車体後部に砲塔の重量が掛かるため誘導輪は接地型となっている。 転輪は片側5個で、上部支持輪は無い。 バンドカヌーン1自走榴弾砲は戦闘重量53tとかなり重量級の自走砲であるが、エンジンの出力が低いため最大速度は路上で28km/h、路外では9km/hと機動性能がかなり低く、これが本車の最大の欠点となっている。 装甲厚は砲塔部が20mm、車体部が10〜15mmとなっている。 NBC防護装置、暗視装備は備えていない。 バンドカヌーン1自走榴弾砲には、その後各種の改良が施されている。 まず1988年にはエンジン関係の改良が行われ、K60ディーゼル・エンジンがアメリカのデトロイト・ディーゼル社製の6V-53T V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力290hp)に換装され、変速機もボフォース社製の自動変速機(前進3段/後進3段)に変更されており、改修後の車体は「バンドカヌーン1B」と呼ばれている。 この改良はSタンクにも実施されたもので、改修車は「Strv.103C」と呼ばれる。 1993年にはドイツのハネウェル社製の新型射撃統制システムを搭載することが決定され、全車が改造された。 しかし装軌式のバンドカヌーン1自走榴弾砲は運用コストが高い上すでに旧式化しているため、スウェーデン陸軍はボフォース社が「アーチャー」(Archer:射手)の名称で1995年から開発を進めていた新型の装輪式155mm自走榴弾砲を本車の後継車両として導入する方針を2003年に決定した。 アーチャー自走榴弾砲は2009年にスウェーデン陸軍とノルウェイ陸軍に24両ずつ採用される運びとなったが、スウェーデン陸軍はこれを待たず、2003年の時点でバンドカヌーン1自走榴弾砲を全て退役させている。 |
<バンドカヌーン1A 155mm自走榴弾砲> 全長: 11.00m 車体長: 6.55m 全幅: 3.37m 全高: 3.25m 全備重量: 53.0t 乗員: 5名 エンジン: ロールズ・ロイスK60 2ストローク直列6気筒液冷ディーゼル + ボーイング502/10MAガスタービン 最大出力: 240hp/3,750rpm + 300hp/38,000rpm 最大速度: 28km/h 航続距離: 230km 武装: 50口径155mm榴弾砲×1 (14発) 7.62mm機関銃Ksp.58×1 装甲厚: 10〜20mm |
<バンドカヌーン1B 155mm自走榴弾砲> 全長: 11.00m 車体長: 6.55m 全幅: 3.37m 全高: 3.25m 全備重量: 53.0t 乗員: 5名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル + ボーイング502/10MAガスタービン 最大出力: 290hp/2,800rpm + 300hp/38,000rpm 最大速度: 28km/h 航続距離: 230km 武装: 50口径155mm榴弾砲×1 (14発) 7.62mm機関銃Ksp.58×1 装甲厚: 10〜20mm |
<参考文献> ・「グランドパワー2019年12月号 スウェーデン戦車発達史(戦後編)」 斎木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「世界AFV年鑑 2002〜2003」 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |