BA-64軽装甲車
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+概要
独ソ戦(大祖国戦争)中、ソ連では戦車・火砲・航空機の生産が優先されたため、トラック類の生産には力を入れられなかった。
装甲車も同様で、このBA-64軽装甲車だけが唯一新規開発されたのみである。
1941年、ゴーリキー自動車工場(GAZ)の主任技師V.A.グラチェフのチームは、当時開発中だったGAZ-64 4輪駆動多用途トラックをベースとした偵察用装甲車の開発を企図した。
GAZ-64トラックはアメリカ軍のジープを模倣した車両で、「ロシアン・ジープ」などと呼ばれることもあった。
このGAZ-64トラックをベースとした新型装甲車の試作開発の作業は独ソ開戦の時期に重なり、多くの新規自動車開発が凍結される中、本車と路外走行用4輪駆動車両の開発のみが継続を認められ、限られた条件の中で完成が急がれた。
1941年秋に完成した試作車(イズジェリェ64-125)は、GAZ-64トラックのシャシーにドイツ軍のSd.Kfz.222装甲偵察車に良く似た面構成の装甲ボディを載せ、7.62mm機関銃DT
1挺をオープントップ・マウントに搭載した重量わずか2.4t、乗員2名の軽便な装甲車だった。
Sd.Kfz.222装甲偵察車ではエンジンは車体後部に配置されていたが、イズジェリェ64-125は生産性を考慮して、ベースとなったGAZ-64トラックと同じくエンジンは車体前部に配置していた。
これは本車に限ったことではなく、1960年代後期にBRDM-2装甲偵察車が登場するまで、ソ連軍装甲車に共通の仕様であった。
イズジェリェ64-125はその軽便さ故に、路外機動性能もまずまずのものだったので「BA-64軽装甲車」としてソ連軍に制式採用され、機関銃の周囲に装甲を施して簡易砲塔式とした上で、1941年末から生産に入ることになった。
しかし、1941〜42年にかけて独ソ戦の戦況は苦しい状況で推移し、ヨーロッパ・ロシア部からの軍需工場移転と、移転先での操業再開が進行している最中で資材調達が上手くいかず、また本車のベースとなったGAZ-64トラックの不具合もあって、この間の生産数は上がらなかった。
やがて1943年に入ると戦況はソ連側に優位となり、戦車を始めとする兵器生産も再建と量産拡大が順調に進んでいった。
この頃、GAZ-64トラックのホイール・ベースを拡大して性能改善を図った、GAZ-67トラックをベースとした改良型のBA-64B軽装甲車が開発され、これを契機に本格的な大量生産に入ることとなった。
BA-64B軽装甲車は、ボディ・デザインはBA-64軽装甲車と共通だがトレッドが前後とも1.446mとなっており、BA-64軽装甲車より前輪で約17cm、後輪で約20cmも広くなった。
BA-64B軽装甲車は1943〜44年にかけて急速にソ連軍機甲部隊に普及し、指揮・連絡用として盛んに用いられるようになった。
いかにも急造車両のような泥臭い外観にも関わらず、優れた機動性能と信頼性が兵士たちに好評を博し、「ボビーク」(猟犬)のニックネームが与えられた。
BA-64B軽装甲車の生産は大戦終結後の1946年まで続けられており、総生産数は3,500両程度に上るものと思われる。
BA-64B軽装甲車は戦後、一部の車両が東欧諸国に供与された他、東ドイツでは別車両のシャシーを用いてコピー生産もされた(SK-1軽装甲車)。
ソ連本国では、1950年に登場した後継のBTR-40装甲兵員輸送車が配備されるのと共に退役している。
また、本車は各種の派生型が試作されている。
武装をトゥーラ武器工場製の12.7mm重機関銃DShKに強化したBA-64D軽装甲車、前輪をスキーに、後輪を履帯駆動としたBA-643軽雪上偵察車、鉄道軌道上を走行するために、折り畳み式の軌道用鉄輪を車体の前後に装備したBA-64ZhD軽鉄道偵察車、6名の兵員が搭乗可能な兵員輸送型(名称不詳)、兵員輸送型を改造して通信機その他の司令部指揮機材を搭載した司令部用車両BA-64K等であるが、いずれも他に代替できる車両が存在したり、生産する余力が無いこと等を理由に正式な採用は見送られた。
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<BA-64軽装甲車>
全長: 3.66m
全幅: 1.53m
全高: 1.90m
全備重量: 2.36t
乗員: 2名
エンジン: GAZ-64 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 50hp/2,800rpm
最大速度: 80km/h
航続距離: 540km
武装: 7.62mm機関銃DT×1 (1,260発)
装甲厚: 4〜15mm
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<BA-64B軽装甲車>
全長: 3.66m
全幅: 1.69m
全高: 1.85m
全備重量: 2.425t
乗員: 2名
エンジン: GAZ-64 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン
最大出力: 54hp/2,800rpm
最大速度: 80km/h
航続距離: 560km
武装: 7.62mm機関銃DT×1 (1,260発)
装甲厚: 6〜15mm
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<参考文献>
・「パンツァー2000年1月号 ソ連・ロシア装甲車史(6) 装甲車の黄金時代の終焉」 古是三春 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2002年10月号 ソ連軍車輌 インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2020年2月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(2)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年3月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(3)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2005年2月号 第2次大戦のソ連軍装甲自動車(2)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(上)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版
・「図解・ソ連戦車軍団」 齋木伸生 著 並木書房
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