ASU-57空挺自走砲が完成して間もない1950年代初めに、ソ連軍はより強力な空挺部隊支援用自走砲の開発をスタートさせた。 この新型空挺自走砲の開発は、ASU-57空挺自走砲と同じくアストロフ設計局(SKB-40)が担当することになった。 ソ連軍は当時、大きな輸送能力を持ち平坦な草原にも強行着陸が可能な新型の大型輸送機An-12の開発を進めており、これにより空挺作戦用の装甲車両として、パラシュート投下の条件を考慮しなくても良いより大型なものの空輸が可能となったと見なされたため、新型空挺自走砲はASU-57空挺自走砲よりも大型で武装、装甲共に優れたものとする要求が出された。 N.A.アストロフ技師たちはASU-57空挺自走砲の時と同じく、新型空挺自走砲の開発にあたっても堅実に既存車両で積み重ねた技術基盤の活用を図ることとし、当時成功していたPT-76水陸両用軽戦車のシャシーとパワーユニットを流用して新型車体を開発した。 主砲としては第9砲兵設計局で牽引式の85mm対戦車砲D-48を基に、強力な砲身長比67口径の85mm対戦車砲D-70を開発してもらった。 この85mm対戦車砲D-70はBR-372徹甲弾を用いた場合砲口初速1,000m/秒、射距離1,000mにおいて180mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能であった。 主砲は戦闘室前部に球状形態の砲架を設けて限定旋回式に搭載され、副武装として7.62mm機関銃PKTが主砲防盾に同軸装備された。 主砲の旋回角は左右各15度ずつで、俯仰角は−4.5〜+15度となっていた。 本車は戦闘室がオープントップとなっていたASU-57空挺自走砲とは異なり、車体上部に完全密閉式の固定戦闘室を備えており、装甲厚は前面45mm、側面15mm、後面7mmとASU-57空挺自走砲よりもかなり強化されていた。 また戦闘室前面装甲は大きく傾斜させられて優れた避弾経始を実現しており、当時まだワルシャワ条約機構諸国軍が主力戦車として使用していたT-34-85中戦車に匹敵する装甲防御力を有していた。 さらに、当時のソ連軍の最新鋭戦車であるT-55A中戦車で初めて導入された対放射線防御システム(PAZ)も装備された。 足周りはソ連軍戦車に共通するもので上部支持輪が無く、片側6個ずつの複列式大直径転輪で構成されていた。 エンジンはASU-57空挺自走砲の約4倍の240hpの出力を持つ、V-6 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジンを搭載していた。 本車は「ASU-85空挺自走砲」としてソ連軍に制式採用されたが、西側が初めて本車の存在を確認したのは1960年のことであった。 1960年代から生産に入ったASU-85空挺自走砲は、当初は1個空挺師団当たり18両、後には31両で編制された1個空挺対戦車自走砲大隊に配属された(8個空挺師団に所属)。 そしてパラシュート投下のできるASU-57空挺自走砲と2本立てで装備され(後にBMD空挺戦闘車シリーズが就役するとASU-57空挺自走砲は姿を消していった)、先行する降下部隊が確保した地帯を強化するための支援兵器として活用された。 ASU-85空挺自走砲の生産期間は比較的短く1966〜67年には生産が終了しているが、これは後継となるBMD空挺戦闘車シリーズの開発が進められたことによる。 ソ連軍空挺部隊では1980年代いっぱいまで使用されたが、その間に1968年8月のチェコ動乱や1979年12月のアフガニスタン侵攻作戦にも使用されるなど、数少ない実戦を経験している。 ソ連以外では、限られた数がポーランド軍空挺部隊(第7ポメラニア空挺師団)に供与された。 またASU-85空挺自走砲の車台はZSU-23-4シルカ対空自走砲や、2K12クーブ対空ミサイル・システムの自走発射機(2P25)等に活用されている。 |
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<ASU-85空挺対戦車自走砲> 全長: 8.435m 車体長: 6.24m 全幅: 2.97m 全高: 1.935m 全備重量: 15.5t 乗員: 4名 エンジン: V-6 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/1,800rpm 最大速度: 45km/h 航続距離: 360km 武装: 67口径85mmライフル砲D-70×1 (45発) 7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発) 装甲厚: 7〜45mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2001年5月号 ソ連・ロシア自走砲史(8) 空挺自走砲の実用化」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年10月号 ソ連空挺戦闘車輌の系譜」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年4月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(4)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 |
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