ARL44重戦車
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+開発
1940年5月10日に開始されたドイツ軍の電撃侵攻を迎え撃った、フランス・イギリス連合軍は一方的に惨敗し、同年6月22日にフランスは降伏することとなった。
当時、フランス陸軍が保有していた戦車の大半はドイツ軍に接収され、フランスは新たな戦車を開発することを禁止されてしまった。
しかしそうした制約の中でも、フランスの戦車技術者たちの一部はドイツの占領下で、密かに戦車の開発を続けた。
これらの活動は、「CDM」(Camouflage du Materiel:物資の偽装)という名の組織に統制されており、トロリーバスや装軌式雪上車等の名目で、戦車を構成する各種コンポーネントの開発が密かに進められた。
そして、1944年6月に連合軍がフランスのノルマンディー海岸に上陸し、同年8月に首都パリが解放されると、新たに誕生したフランス臨時政府は自国の威信を取り戻すため、連合軍の一員として、可能な限り戦争に貢献する軍事的努力を確立しようと試みた。
そしてその一環として、FFL(Forces Françaises Libres:自由フランス軍)に配備する国産の新型戦車を開発することが決定された。
この新型戦車は当初、ドイツ陸軍のパンター戦車やティーガーI戦車に対抗できる、強力なものを開発することが構想されたが、当時のフランスは、一度戦車開発の歴史が途絶えてしまっている状態で、第2次世界大戦中に急速に進化した列強の戦車に、追随する技術力を持ち合わせてはいなかった。
このため、さすがにこれは過大な計画であると考え直したのか、後に、アメリカ陸軍のM4中戦車程度の新型戦車を開発することに計画を変更している。
こうして、新生フランス最初の主力戦車として開発されることになったのが、ARL44重戦車であった。
ちなみに「ARL」は、本車の開発にあたったリュエイユ工廠(Atelier de Construction de Rueil)の頭字語で、「44」は1944年に開発が開始されたことを示す。
ARL44重戦車は、M4中戦車に匹敵する戦車であることが求められたため、当初の要求仕様では主砲は新開発の長砲身75mm戦車砲、戦闘重量は30t級、最大装甲厚は60mmとされていた。
エンジンについては、シュレンヌのタルボ・ラーゴ社製の出力450hpもしくは、マロル・アン・ユルポワのパナール社製の出力400hpのガソリン・エンジンを搭載することになっていた。
ARL44重戦車は、ドイツ軍との戦闘に投入するために早急な実戦化が求められたため、一から新規開発する時間的余裕は無かった。
そこで本車の開発陣は、ARL社が戦前に構想していたARL40重戦車をベースに、これに改良を加えることでARL44重戦車の開発を進めることになった。
ARL40重戦車は、ブローニュ・ビヤンクールのルノー社が戦前に開発したB1重戦車の車体を流用し、長砲身の75mm戦車砲を備える全周旋回式砲塔を搭載するもので、計画された当時はドイツ陸軍の戦車を火力、防御力で上回る強力な戦車であった。
とはいえ、戦前に構想された戦車であるため、この頃にはすでに時代遅れの存在になってしまっていた。
ARL44重戦車は、開発ベースとなったARL40重戦車と同じく、B1重戦車の第1次大戦型戦車のような古臭い足周りを踏襲しており、車体周囲を取り巻く、多数の小直径転輪で構成されたムカデのような走行装置は、B1重戦車そのものといって良かった。
もっとも、それなりの洗練も加えられており、ARL44重戦車の車体と砲塔のデザインは、従来のフランス陸軍戦車と異なり、パンターやティーガーIIといったドイツ陸軍戦車を参考にして、避弾経始を考慮した傾斜装甲板で構成されていた。
1945年2月にARL44重戦車の開発陣と、FFLの当局者との間で会合が開かれたが、FFL側からはARL44重戦車は現行の仕様では、アメリカから無償で供与されるM4中戦車にも性能で劣っており、開発する意味が無いという厳しい意見が出された。
そこでARL44重戦車は大幅に仕様が変更されることになり、最大装甲厚は車体前面で120mm、主砲には長砲身の90mm戦車砲を採用することになった。
またARL44重戦車のエンジンについては、何とパンター戦車に搭載されていた、ドイツのマイバッハ発動機製作所製のHL230P30 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力575hp)を搭載することになった。
これは1945年夏に、ジョゼフ・モリニエ将軍率いる部隊がドイツ軍から接収したもので、当時は国産の戦車用高出力エンジンが存在しなかったため、国産エンジンが開発されるまでの一時的な繋ぎとして用いられたのである。
ARL44重戦車の当初の生産予定数は、このドイツ製エンジンの入手数を基に600両と決定され、ARL社の子会社である、サン・シャモンのFAMH社(Forges
et Aciéries de la Marine et d'Homécourt:ホームコート造船・製鉄所)と、ルノー社が生産を担当することになった。
ARL44重戦車の開発作業は急ピッチで進められたが、さすがに戦争中にFFL部隊に配備することは実現せず、ほとんどの作業が終わったのは、すでに大戦が終結した1945年終わりのことであった。
同年5月のドイツ降伏時には、ようやく木製モックアップの完成に漕ぎ着けた状態で、もうこの時点でARL44重戦車を開発する必要性は薄れていたが、フランス政府は、国威発揚のために引き続き本車の開発を続行させた。
ただし生産数については、当初予定された600両のわずか1/10の60両に大幅削減された。
ARL44重戦車の最初の試作車は1946年3月にようやく完成し、ABS社(Atelier de construction de Bourges:ブールジュ工廠)で公開展示された。
この試作車を用いて各種試験を行うのと並行して、ARL44重戦車の量産準備が進められたが、主砲を75mm戦車砲から90mm戦車砲に変更したことに伴う、砲塔の設計変更に時間が掛かったため、ARL44重戦車はとりあえず車体のみを先行して量産することになった。
1946年中にFAMH社で40両、ルノー社で20両の合計60両分の車体が生産され、そのまま倉庫に保管された。
一方、ARL44重戦車の砲塔の量産化は大幅に遅れ、1949年になってようやく車体と砲塔が組み合わされた。
60両が完成したARL44重戦車は、1950年より第503戦車連隊への配備が行われたが、元々、第2次大戦に間に合わせるために暫定的に製作された戦車であり、性能的にも優れているとはいい難かったことから、早々にフランス陸軍から退役することとなった。
1951年7月14日のフランス革命記念パレードに10両が参加したのが、本車の最後の晴れ舞台となった。
フランス陸軍は1950年代に入ると、アメリカからM47パットン戦車を導入して、M4中戦車やドイツ軍から接収したパンター戦車に代わる新たな主力戦車として運用するようになり、ARL44重戦車は1950年代半ばに退役させてしまった。
現在、ARL44重戦車は3両がフランス国内に展示保管されている他、個人のコレクターがスクラップで2両保有しており、レストア中だとのことである。
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+構造
ARL44重戦車の車体構造は、戦前にルノー社が開発したB1重戦車の設計を踏襲しており、車体長が7.15mと非常に長いのが特徴であった。
これは、幅の広い塹壕を乗り越えられるように考慮された結果であったが、このような設計思想は1930年代にはすでに時代遅れのもので、本車の機動性を低下させる一因となった。
また、ARL44重戦車はサスペンションの構造についても、B1重戦車と同様に小直径の転輪を多数配して、縦置きコイル・スプリング(螺旋ばね)で支える古臭い設計であったため、先進的なトーションバー(捩り棒)式サスペンションを備えるドイツ陸軍戦車に比べて、機動性が低くなってしまった。
しかしその反面、ARL44重戦車は装甲防御力に関しては当時としては強力なものを備えていた。
最大装甲厚は車体前面で120mmに達し、しかも従来のフランス陸軍戦車とは異なり、ドイツ陸軍のパンター戦車やティーガーII戦車を参考にして、全体的に避弾経始を考慮した、傾斜装甲板を多用したデザインに設計されていた。
車体前面の装甲板は45度傾斜していたため、実質的な装甲防御力は170mm厚の装甲板に匹敵し、パンター戦車が装備する、70口径7.5cm戦車砲KwK42から発射される徹甲弾に抗堪することが可能であった。
しかしARL44重戦車は、装甲を強化した結果戦闘重量が50tにも達し、古臭い設計のサスペンション構造と相まって、機動性をさらに悪化させる結果となった。
前述のようにARL44重戦車は、ドイツ軍から接収したパンター戦車用のエンジン(HL230P30 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン、出力575hp)を搭載したが、パンター戦車の路上最大速度が55km/hだったのに対し、同じエンジンを搭載するARL44重戦車の路上最大速度は37km/hに留まった。
一方ARL44重戦車の主砲には、65口径という長砲身の90mm戦車砲SA45が採用された。
この砲は、艦艇用の高射砲を戦車砲に改修したもので、砲口初速が1,000m/秒に達し、アメリカ陸軍が大戦末期に実用化したM26パーシング重戦車が装備する、50口径90mm戦車砲M3を上回る装甲貫徹力を備えており、パンター戦車やティーガー戦車を遠距離から撃破することが可能であった。
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<ARL44重戦車>
全長: 10.53m
車体長: 7.15m
全幅: 3.40m
全高: 3.20m
全備重量: 50.0t
乗員: 5名
エンジン: マイバッハHL230P30 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 575hp/2,500rpm
最大速度: 37km/h
航続距離: 300km
武装: 65口径90mmライフル砲SA45×1 (37発)
7.5mm機関銃M1931×2
装甲厚: 10~120mm
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<参考文献>
・「パンツァー2018年5月号 戦中生まれの戦後そだち フランスが育んだARL44戦車」 前河原雄太 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2020年8月号 AFV(アホデ・ファニーナ・ヴィークル)(18)」 M.WOLVERINE 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2018年6月号 世界の戦車博物館(1) ソミュール/フランス戦車編」 齋木伸生 著 ガリレオ
出版
・「グランドパワー2007年3月号 ドイツ軍で使用されたシャールB1bis」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年2月号 フランス軍重戦車 シャールB」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車 1915~1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「WWII イギリス・フランス・イタリア・フィンランド・ハンガリーの戦車」 イカロス出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版
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「写真集 ソミュールの仏戦車 ルノーFT ソミュアS35 ARL-44」 齋木伸生 著 伊太利堂 |