アーチャー17ポンド対戦車自走砲
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+概要
アーチャーは、イギリス陸軍初の17ポンド対戦車砲を搭載した対戦車自走砲である。
17ポンド対戦車砲はドイツ軍の8.8cm高射砲に匹敵する高初速砲で、1941年秋に開発され1942年半ばから生産が開始された。
この砲は、ドイツ軍のティーガーI戦車やパンター戦車の前面装甲を打ち破ることができるため、早急に車載化することが要求され、生産開始と同時に旋回砲塔を持つ戦車と対戦車自走砲の戦力化が計画された。
だが、当時のイギリスには旋回砲塔に17ポンド対戦車砲を搭載できる戦車が無く、とりあえず既存の戦車車体を流用した自走砲の開発が進められた。
最初に流用が考えられたのはクルセイダー巡航戦車であったが、この戦車は17ポンド対戦車砲を搭載するには車体が小さ過ぎ、またエンジン出力が低過ぎたため断念され、すでにビショップ25ポンド自走榴弾砲のベースとして使用されていたヴァレンタイン歩兵戦車の車体が用いられることになった。
初期の案ではビショップ自走榴弾砲の戦闘室に、25ポンド榴弾砲に代えて17ポンド対戦車砲を搭載することが考えられていたが、容積的に収まりきらないこと、ビショップ自走榴弾砲の戦闘室が対戦車車両として用いるには高過ぎることなどから、新規に戦闘室が設計されることになった。
この作業はヴァレンタイン歩兵戦車の開発元である、ウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社によって1942年7月に開始され、1943年3月には試作車の実用試験が行われた。
この車両の戦闘室はオープントップで、17ポンド対戦車砲は後ろ向きに搭載され、砲の俯仰角は−7.5〜+15度、左右の旋回角は各11度ずつであった。
原型のヴァレンタイン歩兵戦車と同じ場所にある操縦手席は砲の直後に位置しており、戦闘室と一体となった厚さ20mmの装甲板で囲まれていて、操縦手は前方にあるハッチとペリスコープで視界を確保していた。
しかし、射撃時には17ポンド対戦車砲の砲尾が操縦手席まで後座してくるので、操縦手は座席から離れなければならず、戦闘中の迅速な移動ができないという欠点もあった。
このような配置になったのは、長大な17ポンド対戦車砲の砲身をコンパクトな車体に収め、全長と全高を抑えるためである。
主砲の17ポンド対戦車砲の性能は口径76.2mm、58.3口径長、APCBC Mk.VIII(風帽付被帽徹甲弾:重量17kg)を用いた場合砲口初速884m/秒、射距離500ヤード(457m)で140mm、1,000ヤードで130mm、SVDS(高速徹甲弾:重量12.9kg)を用いた場合砲口初速1,204m/秒、射距離500ヤードで208mm、1,000ヤードで192mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能であった。
17ポンド砲弾の搭載数は初期生産車では39発であったが、後期生産車では52発に増加している。
なお本車の制式呼称は「ヴァレンタイン17ポンド自走砲」で、「アーチャー」(Archer:射手)はこれを運用した砲兵部隊が付けた愛称である。
アーチャー対戦車自走砲の生産型第1号車は1944年3月に完成し、同年10月からイギリス陸軍機甲師団や歩兵師団の対戦車連隊に配備が開始され、北西部ヨーロッパ戦線において砲兵部隊が運用した。
生産は全てヴィッカーズ社で行われ、800両の発注数の内665両が完成したところで終戦を迎えたため、この時点で残りの発注はキャンセルされた。
アーチャー対戦車自走砲は、その奇妙な設計からイギリス陸軍でも間に合わせ兵器としか考えていなかったが、実際は信頼性も高く効果的な兵器となって、強力なドイツ軍戦車キラーとして活躍した。
第2次世界大戦終了後も、1950年代半ばまでイギリス陸軍で任務に就いていた。
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<アーチャーMk.I 17ポンド対戦車自走砲>
全長: 6.687m
車体長: 5.639m
全幅: 2.629m
全高: 2.248m
全備重量: 16.765t
乗員: 4名
エンジン: GM 6-71モデル6004 2ストローク直列6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 192hp/1,900rpm
最大速度: 24.14km/h
航続距離: 145km
武装: 58.3口径17ポンド対戦車砲Mk.II×1 (39発)
7.7mmブレン軽機関銃×1 (720発)
装甲厚: 8〜20mm
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<アーチャーMk.II 17ポンド対戦車自走砲>
全長: 6.687m
車体長: 5.639m
全幅: 2.629m
全高: 2.248m
全備重量: 16.765t
乗員: 4名
エンジン: GM 6-71モデル6004 2ストローク直列6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 192hp/1,900rpm
最大速度: 24.14km/h
航続距離: 145km
武装: 58.3口径17ポンド対戦車砲Mk.II×1 (52発)
7.7mmブレン軽機関銃×1 (720発)
装甲厚: 8〜20mm
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兵器諸元(アーチャーMk.I 17ポンド対戦車自走砲)
兵器諸元(アーチャーMk.II 17ポンド対戦車自走砲)
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<参考文献>
・「パンツァー2011年6月号 17ポンド砲を搭載した異形の対戦車自走砲 アーチャー」 遠藤慧 著 アルゴノート
社
・「パンツァー2014年11月号 歴代戦車砲ベストテン」 荒木雅也/久米幸雄/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年10月号 17ポンド対戦車自走砲アーチャー」 篠正人 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年3月号 バレンタイン戦車のファミリー」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年2月号 17ポンド砲とその搭載車輌」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年5月号 ラッチュ・ブムと17ポンド砲」 坂本雅之 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2004年2月号 シャーマン ファイアフライ 最強シャーマンのすべて」 後藤仁 著 ガリレオ出
版
・「グランドパワー2020年7月号 イギリス歩兵戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2017年6月号 バレンタインの開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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