●開発 第2次世界大戦中、ドイツによる長期占領を受け戦車開発が断絶してしまったフランスは、戦後の再軍備の過程でM47戦車、M48戦車といったアメリカ製の戦後第1世代MBTを装備した。 これらはフランスが戦時中装備した戦車に比べれば格段に進歩した優秀な戦車であったが、フランス陸軍の運用思想に合わなかった。 そこでフランス陸軍は1950年代後期に、より近代的で自軍の運用思想に合致した新型MBTを国産開発することを計画した。 ちょうど同じ頃、やはりアメリカ製の戦後第1世代MBTを運用していた西ドイツ陸軍も新型MBTを国産開発する計画をスタートさせていた。 戦車の開発には多大なコストが掛かるため、開発コストの低減のために両国は新型MBTを共同開発する方向で検討を重ね、1957年6月に「ヨーロッパ戦車」(Euro Panzer)あるいは「標準戦車」(Standard Panzer)と呼ばれる新型MBTの共同開発に関する協定が結ばれた。 1957年7月25日にまとめられた標準戦車の基本仕様は、以下のようなものだった。 ・戦闘重量30t級 ・出力/重量比30hp/t ・多燃料空冷エンジンの搭載 ・路上航続距離350km ・サスペンションはトーションバーか油気圧式 ・全幅3,150mm ・履帯接地圧9.8kg/cm2 ・2,000〜2,500mの射距離で傾斜角30度の150mm厚RHA(均質圧延装甲板)を貫徹する能力を持つ ・近接距離からの20mm機関砲弾の直撃に耐える ・NBC防護能力 ・24時間の連続戦闘行動が可能 これを見ると火力と機動力が優先され、装甲防御力はあまり考慮されていなかったことが分かる。 これは当時フランスが開発を進めていた対戦車誘導ミサイルの発達で、戦車の装甲防御力がほとんど無意味になるという発想に基づくものであった。 その代わりに機動力が重視されていたが、これは高い機動力によって対戦車ミサイルを回避しようというものである。 この仕様についてはさらに協議が進められて1958年4月1日に最終的な合意が両国国防省で合意されたが、そこでは全幅がフランス案で3,100mm、西ドイツ案で3,250mmに変更されていた。 さらに同年9月には、イタリアも標準戦車計画に加わることが決まった。 ただしイタリアは開発そのものには直接には参加せずに、完成した車両を採用することになっていた。 標準戦車は共同開発とされたものの実際は共通の仕様を定めただけで、試作車の開発は独仏双方が別個に行うこととされた。 1959年5月6日、独仏両国での試作車の製作が開始された。 フランス側の試作車の開発は、国営のAMX社(Atelier de Construction d'Issy-les-Moulineaux:イシー・レ・ムリノー工廠)が中心となって進められた。 主武装の105mmライフル砲の開発はEFAB社(Etablissement d'Etude et de Fabrication d'Armement de Bourges:ブルジュ兵器研究造兵廠)、エンジンの開発はイスパノ・スイザ社が担当した。 1960年9月に完成した第1次試作車2両は、1961年4月にサトリとブルジュで試験が始められている。 1961年7月には6両の増加試作車の製作が発注され、1962年には第2次試作車も発注された。 1962年10月からサトリとブルジュでフランス、西ドイツ、イタリア3カ国による共同試験が開始された。 この試験にはベルギー、オランダ、アメリカのオブザーバーも加わっていた。 なお全く同じ時期に西ドイツの試作車も、西ドイツのメッペンで3カ国共同試験に臨んでいる。 フランスが製作した7両の増加試作車は、1963年初頭にシャンパーニュ射撃場で一般に公開された。 増加試作車の順調な仕上がりに満足したフランス陸軍は1963年7月には本車に「AMX-30」(AMX社製の30t級戦車)と名付け、M47戦車を代替する新型MBTとして採用することを決定した。 一方西ドイツの方も1961年7月には早々と自国の試作車の0シリーズ(増加試作車)の開発を開始しており、1962年10月からすでに生産を開始していた。 こうして独仏両国とも自国が開発した試作車を新型MBTとして採用することを決めたため、すでに標準戦車計画はほとんど意味が無くなってしまったが、一応1963年8〜10月にかけてメッペン、ブルジュ、サトリでイタリアを監督官としてAMX-30戦車と西ドイツ製試作車の比較審査も行われている。 なおこの審査中の10月1日には、西ドイツ陸軍も自国の試作車を正式に「レオパルト」(Leopard:豹)と命名している(後にレオパルト2戦車が制式化された際、レオパルト戦車はレオパルト1に名称変更された)。 この審査でレオパルト戦車はAMX-30戦車より6tも重いにも関わらず10%も速度が速く、18%も加速性が良かった。 なお両国の開発したどちらかの戦車を採用する方針であったイタリア陸軍は、こうしたトラブルに嫌気が差したのかレオパルト、AMX-30のどちらも採用せず、無関係なアメリカからM60A1戦車を300両(100両は輸入、200両はライセンス生産)導入している。 しかし1970年になってイタリア陸軍はレオパルト戦車を導入する方針に転換し、1971年9月〜1972年7月にかけて200両のレオパルト戦車を西ドイツから購入した。 その後イタリアはレオパルト戦車のライセンス生産権も取得し、1974〜83年にかけて720両のレオパルト戦車がオート・メラーラ社でライセンス生産された。 フランス陸軍はAMX-30戦車の制式採用を決めたものの、すぐには生産に取り掛かれなかった。 それはフランスの国防政策の変更と財政難のためで、1965年までは戦車の購入予算が確保できなかったからである。 1965年より、ようやくAMX-30戦車の第2次増加試作車2両が製作された。 西ドイツ陸軍より遅れたものの、フランス陸軍では第2次増加試作車の車体をAMX-30戦車の生産型として1965〜70年度予算での量産が決定された。 AMX-30戦車の量産はARE社(Atelier de Construction Roanne:ロアンヌ工廠)で行われ最初の生産型は1966年に完成し、1967年からフランス陸軍への配備が開始された。 AMX-30戦車の生産は1974年まで続けられ、合計で1,046両(内フランス陸軍向けは387両)が完成している。 1973年にはAMX社、APX社、EFAB社、ARE社、ATS社などフランスの主要な陸上兵器メーカーで構成された合同企業体「GIAT」(Groupement Industriel des Armements Terrestres:陸上兵器企業連合)が設立され、これ以降フランス軍向けの陸上兵器の開発・生産はGIAT社が中心となって行われるようになった。 |
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●構造 AMX-30戦車は当初西ドイツとの共同開発という名目があったため、そのサイズやスタイルなどは西ドイツ陸軍のレオパルト1戦車と良く似ており、装甲防御力を犠牲にして機動力と火力の充実を図った点も同様だったが、レオパルト1戦車より小型軽量にまとめられコストの軽減も図られたのが大きな相違点であった。 主砲は同時期に開発されたレオパルト1戦車やM60戦車などと同じく105mmライフル砲を搭載していたが、NATO標準のL7系ではなく国産の56口径105mmライフル砲CN-105-F1(D1511)を採用していた。 EFAB社が開発したこの砲はL7とは弾薬の互換性が全く無く、「G弾」(OCC-105-F1)と呼ばれる特殊なHEAT(対戦車榴弾、成形炸薬を内蔵した化学エネルギー弾)を発射するために設計された。 当初は、AMX-30戦車は運動エネルギー弾を一切使用しない設計だった。 HEATをライフル砲から発射すると、命中時に発生する成形炸薬のジェットが砲弾の回転のために散乱して装甲穿孔力が大幅に低下するという問題点がある。 これを解消するためにG弾は弾殻が内外二重構造になっていて、外殻だけが主砲内壁のライフリングと噛み合って回転するようになっていた。 外殻の高速回転で弾道の安定は保たれるがベアリングで保持された内殻と成形炸薬は回転せず、命中すると成形炸薬のジェットが錐のように集中して装甲を穿孔する。 ただ同口径の一般的なライフル砲用HEAT(砲弾の外周にライフリングと噛み合って空回転するスリップリングを装着して砲弾が回転しないようにし、発射後は砲弾後部に装着された安定翼によって弾道の安定を保つ方式)と比べると、G弾は弾殻が二重構造になっている分炸薬量が少なく威力もやや落ちるのは致し方ない。 G弾は重量10.95kgで砲口初速1,000m/秒、垂直に命中した場合360mm厚のRHAを穿孔することが可能である。 ちなみにM60戦車の主砲であるL7系の51口径105mmライフル砲M68用に開発されたアメリカ製のM456 HEATは、同じ条件で432mmの装甲穿孔力を発揮する。 G弾はいかにも凝り過ぎで実用性にやや欠けフランス自身も実質的に失敗作と認めたのか、1970年代になってからAMX-30戦車用の105mm運動エネルギー弾を開発している。 「OFL-105-F1」と名付けられたこの運動エネルギー弾はタングステン合金の弾芯を持つAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)で、弾頭重量5.8kg、砲口初速1,525m/秒、射距離5,000mで150mm厚のRHA(傾斜角60度)を貫徹する威力を有していた。 AMX-30戦車の主砲である105mmライフル砲CN-105-F1には砲口制退機や排煙機は無く、圧縮空気を吹き込んで排煙する仕組みになっていた。 砲身には熱による歪みを補正するため、マグネシウム合金製のサーマル・ジャケットが装着されていた。 なおこの砲の短砲身ヴァージョンである44口径105mmライフル砲D1504が、イスラエル陸軍のM51スーパー・シャーマン戦車の主砲に採用されている。 AMX-30戦車は主砲に限らず副武装も個性的で、主砲の同軸火器として常識的な機関銃ではなくGIAT社製の100口径20mm機関砲F2(M693)を搭載していた(ただし前期生産車ではアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を装備しており、20mm機関砲F2への換装は1972年から)。 これは対戦車攻撃ヘリコプターなどへの対空射撃を念頭に置いたものらしく、20mm機関砲F2は主砲と連動して−8〜+20度に俯仰できるばかりではなく、主砲とは独立に+40度まで動かせるようになっていた。 20mm機関砲F2はAP(徹甲弾)およびHE(榴弾)を発射でき、発射速度は900発/分となっていた。 また車長用キューポラにも、対空用にGIAT社製の7.62mm機関銃F1を装備していた。 主砲の同軸火器が12.7mm重機関銃M2だったAMX-30戦車の前期生産車では、105mm砲弾の搭載数は50発で砲塔内に22発、車体前部右側に28発と分けて搭載していた。 同軸火器が20mm機関砲F2に変更された後期生産車では、105mm砲弾の搭載数は47発で砲塔内に19発、車体前部右側に28発搭載していた。 副武装の搭載弾薬数については20mm機関砲弾が480発(500発とも)、7.62mm機関銃弾が2,070発(2,050発とも)となっていた。 AMX-30戦車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、車内レイアウトは車体前部左側が操縦室、前部右側が主砲弾薬庫、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という常識的なものであった。 車体の装甲厚は前面79mm、側面前部57mm、側面後部/後面30mm、上/下面15mmとなっていた。 砲塔は防弾鋼の鋳造製で装甲厚は前面80.8mm、側面41.5mm、後面50mm、上面20mmとなっていた。 砲塔内には3名の乗員が搭乗し、主砲を挟んで右側に砲手と車長が前後に並び左側に装填手が位置した。 砲塔上面には中央右側に後ろ開き式のハッチを備えた車長用キューポラ、中央左側に後ろ開き式の円形の装填手用ハッチが設けられていた。 車長用キューポラはやや背の高いもので、周囲に10基のペリスコープが配置されていた。 車長用キューポラには7.62mm機関銃F1がマウントされ車内から遠隔射撃できる上に、車長用サイトに主砲同軸の20mm機関砲F2を追随させることも可能であった。 FCS(射撃統制装置)は光学式照準機と測遠機を組み合わせた単純なものが用いられ、コストを下げるために主砲安定装置は未装備とされた。 暗視システムは赤外線投光機を用いるアクティブ方式で、主砲防盾左側に赤外線/白色光切り替え式投光機が装備され有効距離は赤外線で1,000m、白色光で2,000mとなっていた。 また車長用キューポラにも赤外線投光機と赤外線ペリスコープが装備され、機関銃の照準に用いられた。 操縦手席のペリスコープは、赤外線暗視あるいは光量増幅式暗視ペリスコープと交換できた。 AMX-30戦車のパワープラントはイスパノ・スイザ社製のHS-110 水平対向12気筒多燃料液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンと、AMX社製の5-SD-200D手動変速機を組み合わせたものが採用されていた。 AMX-30戦車は砲塔上面までの高さが2.29mと、陸上自衛隊の74式戦車が開発されるまでは砲塔式の西側MBTとしては最低車高の車両であった。 この低車高を可能にした1つの要因は、同世代の他国のMBTのほとんどがV型エンジンを搭載していたのに対して平たい水平対向エンジンを採用したことで、これが機関室の高さを引き下げるのに貢献していた。 実際AMX-30戦車のHS-110 水平対向12気筒ディーゼル・エンジンの全高は、レオパルト1戦車のMB838 V型10気筒ディーゼル・エンジンよりも12cmも低かった。 HS-110ディーゼル・エンジンのボア・ストロークは145mm×145mmのスクウェアで排気量は28.73リッター、2基のスーパーチャージャーで過給されており最大出力は720hp/2,000rpmとなっていた。 排気量はMB838ディーゼル・エンジンの3/4ほどでストロークも短く、やや高回転型のエンジンであった。 AMX-30戦車のエンジンは変速機や冷却装置と共にパワーパックとして一体化されており、3名の人員で45分で着脱可能となっていた。 5-SD-200D手動変速機は自動遠心クラッチを持つ機械式変速機で前進5段/後進5段、操向機構は三重差動式であった。 トルク・コンヴァーター付きの自動変速機を採用したレオパルト1戦車と比べると、AMX-30戦車の変速機はかなり簡素なものだったがこれは性能よりコストの安さを優先したためであった。 AMX-30戦車の足周りは片側5個の複列式転輪と片側5個の上部支持輪の組み合わせとなっており、5個の転輪のうち奇数輪はリーディング・アーム、偶数輪はトレイリング・アームでトーションバー・スプリングに連結されていた。 ショック・アブソーバーは、最前輪と最後輪のみに装備されていた。 一方レオパルト1戦車は片側7個の転輪を持ちその内の5個にショック・アブソーバーを備えており、AMX-30戦車は足周りを簡素な構成にすることでコストを安く抑えることには成功したものの、このことがレオパルト1戦車に機動性能で大きく差を付けられる結果に繋がったのも事実である。 AMX-30戦車は事前の準備無しでは1.3mまで、準備の上では2mまでの深さの河川を渡ることが可能であった。 潜水渡渉のためのスノーケルは、太い訓練用と細い実戦用が用意されていた。 |
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●改良型とその他の派生型 AMX-30戦車のFCSは同時期に開発された西側各国のMBTと比べても決して進歩的ではなかったが、これを1980年代の水準に引き上げたのが改良型のAMX-30B2戦車である。 1979年6月に開発が発表され、1982年1月からフランス陸軍への引き渡しが開始された。 AMX-30B2戦車は166両が新規に生産されたのに加えて、既存のAMX-30戦車からも493両がB2仕様に改修された。 改良の中心はAMX-APX社(AMX社とAPX社(Atelier de Construction de Puteaux:ピュトー工廠)が合併してできた企業)と、ATS社(Atelier de Construction de Tarbes:タルブ工廠)が共同開発したCOTAC APX-M581 FCSの採用で、これは砲手用のM544望遠サイトとM550レーザー測遠機、弾道コンピューター、各種センサーなどから成っていた。 レーザー測遠機の最大測定距離は10,000mで、誤差は±5mであった。 暗視システムは従来のアクティブ式から相手の熱を探知して画像化するパッシブ式となり、主砲防盾右側に投光機に代えてカメラが装備された。 暗視画像は、車長席と砲手席の前のTVモニターに映し出すことができた。 装甲目標用の主砲弾薬は構造が複雑で命中精度に難があるG弾に代えて、OFL-105-F1 APFSDSが標準となった。 またAMX-30B2戦車では砲塔の防御力も強化されており、それに伴って戦闘重量が1t増加した。 パワープラントも改良され、HS-110ディーゼル・エンジンの改良型であるイスパノ・スイザ社製のHS-110-2 水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンが、SESM社製のENC200トルク・コンヴァーター付き自動変速機(前進5段/後進2段)と組み合わされていた。 HS-110-2ディーゼル・エンジンはより強力な圧縮機が装備されており、出力は700hpとなっていた。 原型のHS-110ディーゼル・エンジンに比べると出力が低下しているように思えるがトルクが向上しており、エンジンの運用寿命も増加していた。 ENC200自動変速機の操向方式は静油圧(ハイドロスタティック)方式で、ようやく超信地旋回や旋回中のギアシフトが可能となった。 これに伴い操縦も、旧来のレバーからステアリング・ホイールに変更された。 また、AMX-30B2戦車ではNBC防護能力も強化された。 AMX-30戦車にはB2の他にも改良型や輸出型、派生型が多く存在する。 AMX-30ファミリーの主な輸出先にはスペイン(ライセンス生産)、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、イラク、ギリシャ、キプロス、ベネズエラなどがあり、フランスと中東産油国との強い繋がりを示している。 中東の砂漠国向けとして1973年から開発された輸出仕様がAMX-30S戦車で、エンジンの出力を620hpに減格しギア比も変更して耐久性の向上を図ると共に、車体側面に装甲スカートを装着して防御力の向上を図っていた。 AMX-30S戦車はサウジアラビアとカタールが採用し、サウジアラビア向けの車両にはAMX-30B2戦車と同じレーザー測遠機が組み込まれた。 輸出用として1975年に計画されたAMX-30戦車の発展型がAMX-32戦車で、機関系や主砲は同一だが複合装甲を用いた装甲強化や機動性の向上、新型FCSの導入が図られており車体、砲塔共に新設計のものに変わった。 試作車は1979年に完成して売り込みが行われたものの結局採用されることは無く、試作車2両が製作されただけに終わった。 さらに1980年代初めには、ルクレール戦車と同じ52口径120mm滑腔砲を搭載した発展型AMX-40戦車の開発が開始され1985年までに4両の試作車が作られたが、結局どこからも発注が無いままに試作段階を出ること無く開発は終了した。 AMX-30戦車の車体を流用した派生型には15tまで吊り上げ可能なクレーンを備えたAMX-30D戦車回収車、スパン22mの鋏橋を搭載したAMX-30架橋戦車、操縦訓練戦車などがある。 またGIAT社(2006年にネクスター社に改組)は、大型の完全密閉式砲塔に39口径155mm榴弾砲を搭載した「GCT」(Grande Cadence de Tir:大発射速度)砲塔システムを1970年代に開発しており、このGCT砲塔システムをAMX-30戦車の車体に搭載したAU-F1 155mm自走榴弾砲がフランス陸軍に253両、サウジアラビア陸軍に51両、イラク陸軍に85両、クウェート陸軍に18両採用されている。 さらにAMX-30戦車の車体はアエロスパシアル社(2000年にEADS社に改組)が開発した「プリュトン」(Pluton:冥界の神)戦術核ミサイルの自走発射機にも流用されており、1974〜93年にかけてフランス陸軍で運用されていた。 AMX-30ファミリーには対空車両も多く、イスパノ・スイザ社製の30mm連装対空機関砲を装備するSAMM社製のS401A砲塔システムを搭載したAMX-30DCA対空自走砲、AMX-30Rローラン対空ミサイル・システム、シャヒネ対空ミサイル・システム(サウジアラビアへの輸出用)がある。 AMX-30DCAはフランス陸軍には採用されなかったが、サウジアラビア陸軍がシャヒネと行動を共にする対空車両として採用を決め、砲塔システムを新型のTG230Aに変更した車両が「AMX-30SA」の名称で53両輸出された。 AMX-30RローランとシャヒネはいずれもトムソンCSF社(2000年にタレス社に改組)が開発した対空ミサイル・システムで、AMX-30Rローランがフランス陸軍に181両、シャヒネは初期型のシャヒネ1が36両、改良型のシャヒネ2が37両サウジアラビア陸軍に採用された。 GIAT社ではAMX-30戦車の近代化改修プランを幾つか発表しているが、今のところ引き合いは無いようである。 その内「AMXスーパー30」と呼ばれる案ではドイツのMTU社あるいはユニディーゼル社のエンジンと換装し、ZF社製のLSG3000自動変速機と組み合わせる。 FCSや暗視システムは、AMX-30B2戦車に準じる。 混同しそうな名前だが「スーパーAMX-30」は、ドイツの合同企業体がサウジアラビア向けにAMX-30戦車の近代化改修プランとして提案しているもので、当然ドイツ製のパワーパック、FCSを組み込む。 これらとは別にGIAT社が提案している近代化改修プランには、パワーパックをドイツのMaK社製のE9-750ディーゼル・エンジンとENC200自動変速機の組み合わせに変更し、サスペンションを改良する案などがある。 すでにフランス陸軍に採用されたAMX-30戦車の近代化改修プランとしては、車体と砲塔へのERA(爆発反応装甲)の装備がある。 このERAは、GIAT社が1990年代に開発した「ブレンヌス」(Brennus:アッリアの戦いでローマを侵略したガリア人セノネス族の族長)と呼ばれるものでレンガのような形をしており、車体前面と砲塔の前/側面に合計112個が取り付けられる。 ブレンヌスERAの装着によってAMX-30戦車の重量は1.7t増加するが、GIAT社によればこのERAは傾斜角60度でHEATが弾着した場合、厚さ400mmのRHAと同じ装甲防御力を発揮するという。 現在フランス陸軍は緊急展開部隊の2個戦車連隊に所属するAMX-30戦車にのみ、ブレンヌスERAの装着を実施している。 |
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<AMX-30戦車 前期型> 全長: 9.48m 車体長: 6.59m 全幅: 3.10m 全高: 2.29m 全備重量: 36.0t 乗員: 4名 エンジン: イスパノ・スイザHS-110 4ストローク水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 720hp/2,000rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 500〜600km 武装: 56口径105mmライフル砲CN-105-F1×1 (50発) 12.7mm重機関銃M2×1 7.62mm機関銃F1×1 (2,070発) 装甲厚: 15〜80.8mm |
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<AMX-30戦車 後期型> 全長: 9.48m 車体長: 6.59m 全幅: 3.10m 全高: 2.29m 全備重量: 36.0t 乗員: 4名 エンジン: イスパノ・スイザHS-110 4ストローク水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 720hp/2,000rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 500〜600km 武装: 56口径105mmライフル砲CN-105-F1×1 (47発) 100口径20mm機関砲F2×1 (480発) 7.62mm機関銃F1×1 (2,070発) 装甲厚: 15〜80.8mm |
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<AMX-30B2戦車> 全長: 9.48m 車体長: 6.59m 全幅: 3.10m 全高: 2.29m 全備重量: 37.0t 乗員: 4名 エンジン: イスパノ・スイザHS-110-2 4ストローク水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 700hp/2,600rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 400〜450km 武装: 56口径105mmライフル砲CN-105-F1×1 (47発) 100口径20mm機関砲F2×1 (480発) 7.62mm機関銃F1×1 (2,070発) 装甲厚: 15〜80.8mm |
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<AMX-32戦車> 全長: 9.48m 車体長: 6.59m 全幅: 3.10m 全高: 2.29m 全備重量: 39.0t 乗員: 4名 エンジン: イスパノ・スイザHS-110-2 4ストローク水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 700hp/2,600rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 400〜500km 武装: 56口径105mmライフル砲CN-105-F1×1 (47発) 100口径20mm機関砲F2×1 (480発) 7.62mm機関銃F1×1 (2,070発) 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「パンツァー2003年10月号 80年代のフランス輸出戦車 AMX32/AMX40」 和田尚夫 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年6月号 フランスの輸出用戦車 AMX32/AMX40」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年7月号 レオパルト1の異母兄弟!? AMX-30」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年5月号 採用後半世紀を迎えるフランス軍MBT AMX-30」 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年12月号 フランス AMX30/32/40戦車」 中川未央 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年3月号 レオパルト1 vs AMX30戦車」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2019年11月号 フランス戦車発達史(戦後編)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2016年3月号 AMX-30の開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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「AMX-30 Family」(英語版) M. P. Robinson 著 KAGERO | |||||
「New Vanguard 308 Tanks at the Iron Curtain 1960-75」(英語版) Steven J. Zaloga 著 Osprey | |||||
「AMX-30 Main Battle Tank 1960-2019 (AMX-30B, AMX-30B2 and derivatives)」(英語版) Haynes | |||||
「Char AMX-30 (1960-2019) AMX-30B, AMX-30B2 et Derives」(フランス語版) ETAI |