●開発 AMV装甲車は、パトリア車両がXA-180、XA-200装甲車シリーズの後継として開発した装輪式装甲車のファミリーで、8×8、6×6の2タイプが開発されている。 パトリア車両は元々「SISU」という社名のトラックメーカーで、従来フィンランド陸軍が運用してきた旧ソ連製のBTR-60PB 8×8装甲兵員輸送車が旧式化してきたため、その後継として自社製のSA-150VK 4×4重トラックのコンポーネントを流用して、6×6タイプの装輪式装甲車XA-180を1980年代に開発した。 XA-180装甲車シリーズとその改良型であるXA-200装甲車シリーズは当初北欧三国で使用されていたが、コソボ等でのPKO活動のおかげでさらに使用国はヨーロッパ各国に広がり、合計で1,200両以上が販売されるベストセラーとなった。 1998年にSISU社はパトリア・グループの傘下に入り、社名を「パトリア車両」と改めたのを期に、XA装甲車シリーズをさらに発展させた新型装輪式装甲車「AMV」の開発に着手した。 ちなみに名称の「AMV」は「Armored Modular Vehicle」(装甲モジュール式車両)の略語であり、その名が物語るようにAMV装甲車は共通のシャシーに各種ミッション・モジュールを搭載する形でファミリー化を追及するコンセプトを採用している。 AMV装甲車の開発にはフィンランド陸軍が運用面と試験面で積極的に協力し、2001年に5両の試作車が誕生した。 本車の優れた性能に逸早く着目したのがポーランド陸軍で、早くも2002年には690両(後に997両に増加)という大量生産契約を結んでいる。 AMV装甲車の設計にはXA装甲車シリーズの技術的蓄積が多用されているが、車体のデザインは全くの新設計でXA装甲車シリーズのように車体前部に大きな操縦室を設けず、車体前部右側に機関室、前部左側に操縦室、車体後部に兵員室を配置するという装輪式APCの一般的なレイアウトに改められている。 8×8タイプの場合、兵員室内の容積は13m3と大きく最大ペイロードは10tで、兵員であれば最大12名を収容することができる。 6×6タイプの場合も最大ペイロードは6tと、車体の規模からすれば充分な搭載量を持つが、現在までにAMV装甲車を採用した国はほとんどが8×8タイプを選択しており、当初は6×6タイプの導入を予定していたクロアチアも後に8×8タイプに切り替えている。 また、車体を延長してペイロードを増大させた8×8Lタイプも開発されており、こちらはUAE向けの車両の一部に採用されたという話もある。 AMV装甲車は現時点で開発国であるフィンランド(86両)の他、ポーランド(997両)、南アフリカ(264両)、クロアチア(126両)、スロヴェニア(80両)、スウェーデン(113両)、マケドニア(不明)、UAE(15両)に採用されている。 |
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●防御力 AMV装甲車の車体はXA装甲車シリーズと同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造であるが、装甲防御力はXA装甲車シリーズに比べて大幅に強化されている。 AMV装甲車は全周に渡って14.5mm重機関銃弾、前面は30mm機関砲弾の直撃に堪える能力を持ち、また炸薬量10kgの地雷の爆風から乗員を守ることができる。 AMV装甲車の装甲防御力の高さは、実戦でも証明されている。 アフガニスタンに派遣されたポーランド陸軍のKTOロソマクM1歩兵戦闘車(増加装甲パッケージを装着したAMV装甲車のIFVヴァージョン)は、タリバン勢力から数度に渡りRPG携帯式無反動砲やIED、地雷などによる攻撃を受けたものの、1名の犠牲者を出しただけに留まっており、タリバン勢力から「緑の戦車」として恐れられたという。 |
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●機動力 前述のようにAMV装甲車は従来の装輪式APCに比べて装甲防御力が強化されているため、8×8タイプの最大戦闘重量は26tにも達するが、パワーパックはスウェーデンのスカニア社製のV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力543hpのDI12または出力480hpのDC12)と、ドイツのZFフリードリヒスハーフェン社製の7HP902自動変速機(前進7段/後進1段)の組み合わせを採用しており、路上最大速度は100km/hを超える。 また8×8、6×6の両タイプ共に全輪駆動、独立懸架式サスペンションを採用しており、CTIS(中央タイア空気圧調整システム)とランフラット・タイアを組み合わせたこともあって、極めて良好な不整地踏破能力を持つ。 またAMV装甲車は車体後部の左右にシュラウド・プロペラを装備しており、8~10km/hの速度で水上を航行することもできる。 ただし前述したKTOロソマクM1歩兵戦闘車などは、装甲の強化と引き換えに浮航能力を失っている。 |
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●派生型 86両のAMV装甲車を導入したフィンランドは、この内62両を基本型であるAPCヴァージョンの「XA-360」、24両を120mm自走迫撃砲ヴァージョンの「XA-361」としている。 APCヴァージョンは車体上部にコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社製のM151プロテクター遠隔操作式武装ステイションを搭載しており、アメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を装備している。 一方120mm自走迫撃砲ヴァージョンは、VAMMAS社とスウェーデンのBAEシステムズ・ヘグルンド社が共同開発した「AMOS」(Advanced Mortar System:先進型迫撃砲システム)と呼ばれるもので、120mm後装式迫撃砲を全周旋回式砲塔に連装で装備しているため発射速度が高く、また同時弾着射撃や直接照準射撃も可能で、最大射程が10kmを超える高い能力を持っている。 スロヴェニアとUAEもAMV装甲車の120mm自走迫撃砲ヴァージョンを導入しているが、これらの国が採用したのはAMOSの120mm迫撃砲を単装として砲塔を小型化した廉価版の「NEMO」(New Mortar:新型迫撃砲)と呼ばれるタイプである。 997両のAMV装甲車の導入を決定し現時点で最大のユーザーとなっているポーランドは、「KTOロソマク」(Kołowy Transporter Opancerzony Rosomak:クズリ装輪式装甲車)の名称でライセンス生産を行っている。 KTOロソマクには、イタリアのオート・メラーラ社製の30mm機関砲を備えたヒットフィスト砲塔を搭載したIFVヴァージョンのロソマクと、アフガニスタン派遣のために改修を加えたロソマクM1、APCヴァージョンのロソマクM3、装甲救急車ヴァージョンのロソマクWEM、イスラエルのラファエル社製のスパイクLR対戦車ミサイルを装備した戦車駆逐車ヴァージョンのロソマクS、指揮通信車ヴァージョンのロソマクWD、防空指揮車ヴァージョンのロソマクŁowczaなど多くの派生型が存在している。 264両のAMV装甲車の導入を決めた南アフリカも、ポーランドと同様にデネル・ランドシステムズ社の手で「バジャー」(Badger:アナグマ)の名称でライセンス生産を行っている。 バジャー装甲車には、これまで運用してきたラーテル20歩兵戦闘車を後継するLCT30砲塔を搭載したIFVヴァージョンの他、指揮通信車ヴァージョン、自走迫撃砲ヴァージョンなどの開発も予定されている。 初期評価用に15両のAMV装甲車を導入したUAEは、前述したように一部の車体にNEMO自走迫撃砲システムを搭載し、残りの車体にはロシア製のBMP-3歩兵戦闘車の砲塔を搭載して試験を行っている。 この他現時点で採用国は現れていないが、ベルギーのコッカリル社製の53口径105mm低反動ライフル砲を備えるCT-VT砲塔を搭載した、戦車駆逐車ヴァージョンのAMV装甲車なども開発されている。 またアメリカのロッキード・マーティン社はパトリア車両と共同で、アメリカ海兵隊が現在運用しているLAV装甲車シリーズ(スイスのモヴァーク社製のピラーニャ装甲車の改良型)の後継車両として提案するために、「ハヴォック」(Havoc:大破壊、大混乱)の名称でAMV装甲車の改良型を開発中である。 |
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<AMV装甲車 8×8型> 全長: 7.70m 全幅: 2.80m 全高: 2.30m 全備重量: 16.0~26.0t 乗員: 3名 兵員: 12名 エンジン: スカニアDI12またはDC12 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 543hpまたは480hp 最大速度: 100km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 600~850km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2022年3月号 AMVは次期装輪装甲車の本命となりうるか?」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年10月号 陸自 新装輪装甲車を想像する」 竹内修/藤井岳 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年7月号 フィンランドの多用途装輪戦闘車輌 AMV」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年9月号 輸出が好調な装輪式戦闘兵車 AMV」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年7月号 変化する世界情勢と最近のAFV」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2015年5月号 世界の現用装輪装甲車輌」 平田辰 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年5月号 パトリアAMV 8×8」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年2月号 フィンランド陸軍AFVの30年」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート55 世界の戦闘車輌 2017」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2011年8月号 アフガニスタンの各国軍 2010」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年10月号 フィンランド軍の戦闘車輌(1)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「世界の最新装輪装甲車カタログ」 三修社 |
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