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アルタイ戦車


アルタイ戦車



アルタイAHT戦車



●開発

トルコ陸軍はアメリカ製のM60戦車とドイツ製のレオパルト1戦車を主力MBTとして運用してきたが、これらは原型が1950~60年代に開発された戦車であるためすでに旧式化してしまっていた。
このためトルコ政府は1990年代末にこれらの後継となる新型MBTの導入を計画し、海外の兵器メーカーに対して広く提案を募った。

これに応じてドイツのKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社製のレオパルト2A5戦車、フランスのGIAT社(現ネクスター社)製のルクレール戦車、アメリカのGDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ)社製のM1A2エイブラムズ戦車、ウクライナのV.O.マールィシェウ工場製のT-84-120ヤタハーン戦車が提案されたが、これらの戦車はトルコ政府が想定していた調達価格よりはるかに高額だったため、トルコ政府は新型MBTの導入計画について再検討を余儀なくされた。

そして検討の結果トルコ政府は既存の外国製MBTを導入するのではなく、海外メーカーの技術支援を受けて新型MBTを国内開発することを2005年に決定し、開発パートナーとなる海外メーカーの選定が行われた。
そして最終的に韓国陸軍の次期MBTとして開発が進められていたK2「黒豹」(フクピョ)戦車をベースに、オトカー社を中心とする国内メーカーと、現代ロテム社を中心とする韓国メーカーとで「アルタイ」(Altay)の名称で新型MBTを共同開発することになった。

なお「アルタイ」の名称は、トルコ革命の最終段階で第5騎兵軍団を指揮したファーレッティン・アルタイ陸軍大将に因んで名付けられた。
ただし、ベースとなる車両がすでに存在するといっても新型MBTの開発には長い期間を要するため、トルコ政府はアルタイ戦車が実用化されるまでの繋ぎとしてドイツから中古のレオパルト2A4戦車を導入することを決定し、2005~11年にかけて325両を調達して陸軍の主力MBTとして運用している。

また保有する900両余りのM60戦車の内、170両をイスラエルの技術支援により2007~09年にかけて近代化改修し、「M60T」の名称でレオパルト2A4戦車と共に運用している。
アルタイ戦車の開発は2007年から開始され、当初は2015年から量産を開始することを予定していた。
本車はトルコ陸軍向けに1,000両の調達が計画され、生産は250両ずつ4回に分けて実施される予定になっていた。

2010年8月にはアルタイ戦車の3D画像が公表され、2011年8月にトルコのイスタンブールで開催された兵器展示会「IDEF2011」では実物大モックアップが展示された。
2012年11月からは、ダミー砲塔を搭載した試験車両2両を用いて走行試験が実施された。
アルタイ戦車は車体や砲塔の開発に関しては比較的順調に進んだが、問題となったのは戦車の心臓となるパワーパックの開発であった。

アルタイ戦車には、ベースとなったK2戦車用に韓国の斗山インフラコア社、S&T大宇社、ADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)が共同開発したパワーパックが搭載される予定だったが、このパワーパックは主に素材の強度不足が原因で予定された性能を発揮できていないらしく、このためにK2戦車は量産開始が予定より大幅に遅れる結果となった。

パワーパックの不具合は現在も解決されておらず、やむを得ず韓国政府はK2戦車の第1次生産分にドイツ製のユーロ・パワーパック(MTU社製のMT883Ka-501A V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,500hp)と、レンク社製のHSWL295自動変速機(前進5段/後進5段)を組み合わせたもの)を搭載して量産に踏み切ることになった。
このK2戦車用パワーパックの開発の難航により、アルタイ戦車は早期の実用化が困難な状況に陥ってしまった。

このためトルコ政府はアルタイ戦車に韓国製パワーパックを採用するのを取り止め、別のパワーパックを海外メーカーと共同開発するよう方針を変更した。
とりあえず、アルタイ戦車の4両の試作車にはK2戦車と同様にユーロ・パワーパックが搭載されたが、走行試験の結果が比較的良好だったため、1,000両の調達が予定されているアルタイ戦車の生産型の内、最初の500両はユーロ・パワーパックをトルコでライセンス生産したものを搭載することになった。

しかし、トルコ政府はアルタイ戦車を陸軍の次期MBTとして採用するだけでなく、外貨獲得の手段として海外に輸出することも目論んでいたため、MTU社の高額なライセンス料や、あまり良好とはいい難いドイツとの政治的な関係がネックとなった。
現エルドアン政権はトルコ国内に在住するクルド人を弾圧する政策を採っているため、それが原因となってドイツからのPz.H.2000 155mm自走榴弾砲の導入に失敗した経緯がある。

もし政治的な要因でドイツからの禁輸措置が実施された場合、アルタイ戦車はパワーパックのスペアパーツ等の調達が不可能になり、輸出に関してもドイツの政治判断が障害となる可能性がある。
そこでトルコ政府はパワーパックの完全国産化を目指して、数年間に渡り海外に新たな提携メーカーを探すことになった。

2013年には日本の三菱重工業も候補に挙がったが諸般の事情により交渉が合意に達せず、最終的にトルコのエンジンメーカーであるツモサン社が、オーストリアのAVLリスト社の技術支援を受けて国産パワーパックの開発を担当することになった。
しかし、2016年7月にトルコで起こったクーデター未遂事件後のエルドアン大統領の強権政治にオーストリア政府は態度を硬化させ、同年11月にトルコに対する禁輸措置を決定した。

このためAVLリスト社はツモサン社に対する技術支援を打ち切ることになり、国産パワーパックの開発は振り出しに戻ってしまった。
次にトルコ政府が提携メーカーとして選んだのが、ウクライナの国営企業であるハルキウ機械製造設計局(KhKBM)であった。

ウクライナとトルコの間にはすでに自走砲用パワーパックや航空機の製造に関する合意があり、戦車用パワーパックの話も順調に進み、2017年3月にはKhKBMが開発した最新型の戦車用エンジンである6TD-3 水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,500hp)の採用で合意が成った。
ウクライナ側は6TD-3エンジンの第三国での使用や輸出を一切制限しておらず、現在トルコのアセルサン社で6TD-3エンジンの国産化の作業が進められている。

国産パワーパックの実用化の目処が立ったアルタイ戦車は後は量産化の決定を待つばかりとなったが、トルコ政府はオトカー社が提示したアルタイ戦車の見積価格が高額だったことを理由に、2017年6月にオトカー社に対してアルタイ戦車の量産契約の交渉打ち切りと、競争入札の実施を伝えた。
これはエルドアン大統領が、自分がオーナーと懇意にしているトルコの車両メーカーBMC社に量産契約を与えるために企図したといわれており、BMC社が落札の最有力候補として挙げられている。

一方、アルタイ戦車の輸出に関しては南米のコロンビア、中東のパキスタン、またペルシャ湾岸産油国にも興味を示す国があり、そのうち数カ国は2016~17年にかけて実施されたアルタイ戦車の最終射撃試験を視察しているという。
アルタイ戦車の予想価格は2015年時点で約550万ドルといわれており、レオパルト2A7戦車やM1A2戦車など西側の最新鋭MBTに比較して割安である。

2017年5月にイスタンブールで開催された兵器展示会「IDEF2017」において、オトカー社はアルタイ戦車の不正規戦対応型であるアルタイAHT戦車を発表した。
ちなみに「AHT」は「Asimetrik Harp Tankı」の略であり、「非対称戦」を意味する。
2016年12月にトルコ軍部隊が国境を越えてシリアに侵入し、現地を支配していた過激派組織「イスラム国」の掃討戦に乗り出したが、先頭に立ったレオパルト2A4戦車が10両まとめて返り討ちに遭ってしまった。

これはトルコ陸軍の運用がまずかったことも原因であるが、トルコ陸軍上層部はレオパルト2A4戦車が歩兵やゲリラ相手の不正規戦における戦闘能力が不足しているという認識を持った。
このためトルコ陸軍はオトカー社に対してアルタイ戦車の不正規戦における戦闘能力を強化するよう要求し、これに応じて開発されたのがアルタイAHT戦車というわけである。

アルタイAHT戦車は携帯式の対戦車兵器に対抗するため、車体と砲塔の主要部分にモジュール式のERA(爆発反応装甲)を装着しており、サイドスカートもERAを装着した分厚いものに変化している。
また車体後部の機関室の周囲には格子装甲が装着され、砲塔の後部にも雑具収納スペースを兼ねた格子装甲が装着されている。
砲塔上面にはマスト型の昇降式視察装置が搭載され、車外の視察能力が強化されている。

またゲリラが多用する無線指示起爆のIED(即席爆発装置)に対抗するため、IEDの操作を妨害する対IEDジャマー装置が装備されている。
他にも対戦車ミサイルの誘導用レーザーや測距用レーザーを感知して警報を発し、自動的に発煙弾を発射して自車を防護するAPS(アクティブ防御システム)や、バリケードを除去するためのドーザー・ブレイドが装備されている。


●攻撃力

アルタイ戦車の主砲は、ドイツのレオパルト2A6/A7戦車や韓国のK2戦車に搭載されているラインメタル社製の55口径120mm滑腔砲Rh120-L55を、トルコのMKEK社でライセンス生産したものが採用されている。
アルタイ戦車の主砲はラインメタル社製のDM53 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用した場合、砲口初速1,750m/秒、射距離2,000mで810mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能で、西側MBTの戦車砲の中では最高の威力を備えている。

アルタイ戦車の開発ベースとなったK2戦車では自動装填装置を導入して装填手を省いているが、アルタイ戦車はコスト等を考慮して自動装填装置を採用しておらず、乗員は車長、砲手、装填手、操縦手の4名となっている。
アルタイ戦車のFCS(射撃統制システム)は、アセルサン社が韓国の技術支援を受けて開発した「ヴォルカンIII」と呼ばれる高度なものを搭載している。

車長用には、赤外線映像装置を内蔵したパノラマ式のサイトが装備されている。
砲手用には電子光学センサーとレーザー測遠機を備えたサイトが装備されており、捕捉した目標を自動追尾する機能も有している。
車長用と砲手用のサイトは連動しており、砲手が目標を攻撃している間に車長が次の目標を捜索・捕捉し、目標情報を砲手に渡すハンター・キラー的な運用が可能になっている。

またアルタイ戦車は、最近MBTにとって必須の機能となりつつあるC4I(Command(指揮),Control(統制),Communications(通信),Computers(コンピューター),and Intelligence(情報))機能も持っており、慣性航法装置とGPS航法装置を連動させた車両間情報伝達システムや、NATO規格のSTANAG4579戦場敵味方識別システムを備えている。

アルタイ戦車の副武装としては主砲と同軸に7.62mm機関銃FN-MAGを1挺装備している他、砲塔上面にアセルサン社製のスタンプ/II遠隔操作式武装ステイション(RWS)を搭載しており、12.7mmまたは7.62mm機関銃や40mm自動擲弾発射機が装備できる。
最近はMBTを本来の機甲戦ではなく歩兵やゲリラ相手の不正規戦に投入するケースが増えているため、車内から安全に射撃を行えるRWSはMBTに必須の装備となりつつある。


●防御力

アルタイ戦車の車体と砲塔はベースとなったK2戦車と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で、被弾確率の高い車体前面と砲塔の前/側面にはモジュール式の追加装甲が装着されている。
このモジュール装甲の下には、トルコのロケットサン社が韓国の技術支援を受けて開発したセラミック系の複合装甲が導入されている。

アルタイ戦車の具体的な装甲防御力については不明であるが、セラミック系の複合装甲を採用していることからHEAT弾や対戦車ミサイル等のCE(化学エネルギー)弾に対する防御力はかなり高いと推測される。
なお、アルタイ戦車の戦闘重量は65tとベースとなったK2戦車より約10t増加しており、この重量増加の大部分は装甲防御力の強化に伴うものだという。
従って、アルタイ戦車の装甲防御力は少なくともK2戦車よりかなり高いことは明らかである。

アルタイ戦車の車体デザインはベースとなったK2戦車とよく似ているが、砲塔デザインについてはK2戦車とはかなり異なっており、これが両者の最大の相違点となっている。
K2戦車の砲塔は避弾経始を考慮して砲塔上面の装甲板を大きく前傾させ、砲塔前面の装甲板の高さを極力抑えるようなデザインになっているが、アルタイ戦車の場合は砲塔上面装甲板の傾斜が小さく、砲塔前面装甲板の面積がK2戦車より大きくなっている。

どちらのデザインが良いのかは砲塔内の居住性とも絡んで一概には判断できないが、アルタイ戦車の砲塔デザインの方が一般的なMBTの砲塔デザインに近い。
オトカー社がアルタイ戦車の不正規戦対応型として開発したアルタイAHT戦車では、従来に比べてCE弾に対する防御力が大幅に強化されている。

車体と砲塔の主要部分にはモジュール式のERAがびっしりと装着され、サイドスカートもERAを装着した分厚いものに変化している。
また車体後部の機関室の周囲には格子装甲が装着され、砲塔の後部にも雑具収納スペースを兼ねた格子装甲が装着されている。

車体前面にはバリケードを除去するためのドーザー・ブレイドが装備されているが、これはCE弾体策の補助装甲の役目も兼ねている。
またアルタイAHT戦車では装甲防御力が強化されただけでなく、対戦車ミサイルの誘導用レーザーや測距用レーザーを感知して警報を発し、砲塔後部左右に8基ずつ装備されている発煙弾発射機から自動的に発煙弾を発射して自車を防護するAPSも装備されている。


●機動力

アルタイ戦車の足周りはベースとなったK2戦車と同様に前方の誘導輪、後方の起動輪と複列式転輪、上部支持輪で構成されているが、転輪数はK2戦車が片側6個なのに対して、アルタイ戦車はレオパルト2戦車等と同様に片側7個に増やされており、転輪の形状もK2戦車とは異なっている。
アルタイ戦車のサスペンションはK2戦車と同じく、油気圧式サスペンションで全軸が懸架されている。

これによりアルタイ戦車は、油気圧式サスペンションを伸縮させて車体の前後・左右方向の姿勢制御を行うことが可能になっている。
これはアルタイ戦車とK2戦車以外では、日本の74式戦車と10式戦車しか実装していない機能である。
しかし油気圧式サスペンションは製造コストが高いため、アルタイ戦車はコスト削減のために通常のトーションバー(捩り棒)式サスペンションに変更することが検討されているという。

前述のようにアルタイ戦車のパワーパックは、試作車ではドイツ製のユーロ・パワーパックが搭載され、生産型も最初の500両はこのパワーパックを搭載する予定であるが、それ以降はウクライナのKhKBM製の6TD-3 水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,500hp)をベースに、アセルサン社で新規開発されている国産ディーゼル・エンジン(出力1,800hpを予定)を搭載する計画である。

アルタイ戦車は戦闘重量65tと現用のMBTの中でもかなりの重量級であるが、ユーロ・パワーパックを搭載した場合路上最大速度65km/h、後進速度35km/h、0~32km/h加速6秒の機動性能を発揮するという。
また、ウクライナ製の6TD-3エンジンをベースに国産開発されている新型ディーゼル・エンジンを搭載した場合、路上最大速度は70km/hに向上するという。


<アルタイ戦車 初期型>

全長:    10.30m
車体長:   7.30m
全幅:    3.90m
全高:    2.60m
全備重量: 65.0t
乗員:    4名
エンジン:  MTU MT883Ka-501A 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp/2,700rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    55口径120mm滑腔砲Rh120-L55×1
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃FN-MAG×1
装甲:    複合装甲


<アルタイ戦車 後期型>

全長:    10.30m
車体長:   7.30m
全幅:    3.90m
全高:    2.60m
全備重量: 65.0t
乗員:    4名
エンジン:  6TD-3 2ストローク水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,800hp
最大速度: 70km/h
航続距離: 500km
武装:    55口径120mm滑腔砲Rh120-L55×1
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃FN-MAG×1
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2017年9月号 戦車空白期に狙いを定める”後出しの新鋭” アルタイ戦車」 家持晴夫 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2013年8月号 K1戦車シリーズと韓国MBTの今後」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 トルコが開発・改修を進めるAFV」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2022年1月号 トルコ兵器産業の展望」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年10月号 今月のトピックス」  アルゴノート社
・「パンツァー2013年4月号 今月のトピックス」  アルゴノート社
・「パンツァー2020年2月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年2月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年5月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2023年1月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2024年8月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート55 世界の戦闘車輌 2017」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」  アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版


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