アメリカ陸軍はそれまでの「装甲兵員輸送車」(Armored Personnel Carrier)と異なり、搭乗する兵員が車内から射撃を行うことができる「歩兵戦闘車」(Infantry Fighting Vehicle)という新しいカテゴリーの車両の開発を1965年に開始し、1967年にFMC社(現BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ社)に対して「XM765」の開発番号で試作車2両の製作を命じた。 完成したXM765歩兵戦闘車の試作車はアメリカ陸軍の手で様々な試験に供されたが、砲塔が1名用で車長の視界が悪いことや、将来のMBTと行動を共にするには機動力が不足している等の理由で結局採用は見送られた。 しかしFMC社は独自に歩兵戦闘車の開発を続け、当時アメリカ陸軍の主力APCとなっていたM113A1装甲兵員輸送車の車体を流用して、「AIFV」(Armoured Infantry Fighting Vehicle:装甲歩兵戦闘車)と呼ばれる試作車を1970年に完成させた。 AIFV歩兵戦闘車は旧式化したフランス製のAMX-VCI歩兵戦闘車の後継車両を求めるオランダ陸軍から注目され、1973年に試作車を用いた運用試験が行われた。 そして1975年4月にオランダ陸軍から「YPR765」の制式名称で880両の発注を受け、その生産型第1号車は1977年12月に引き渡されている。 このオランダ陸軍の採用を皮切りにAIFV歩兵戦闘車は各国で試験が行われ、現在その使用国はオランダに加えフィリピン、ベルギー、エジプト、トルコを数え、ベルギーとトルコではライセンス生産も行われている。 さらに韓国では独自に改良を加えた車両を「KIFV」(Korean Infantry Fighting Vehicle:韓国の歩兵戦闘車)として生産しており、AIFV歩兵戦闘車シリーズの総生産数は5,000両に近く、比較的低価格のIFVとしては隠れた傑作として高く評価されている。 AIFV歩兵戦闘車の車体はM113装甲兵員輸送車と同じく防弾アルミ板の全溶接構造となっているが、車体側面にはFMC社が特許を持つ「スペースド・ラミネイト・アーマー」と呼ばれる増加装甲がボルト止めされており、さらに車体前部の波切り板も同様の増加装甲を採用している。 この装甲は内部にポリウレタン・フォームを充填することで装甲の強化と浮力の確保を図ったものであり、AIFV歩兵戦闘車の特徴ともいえるものである。 車内レイアウトはベースとなったM113装甲兵員輸送車と大差無いが、車体上面中央部にはスイスのエリコン・コントラヴェス社(現ラインメタル・イタリア社)製の80口径25mm機関砲KBA-B02と、7.62mm機関銃を同軸装備する1名用砲塔が搭載されている。 車体後部の兵員室の左右側面上部は斜めに削ぎ落とされた形状となっており、それぞれ2基のガンポートとM27ペリスコープが備えられ車内からの射撃を可能としている。 またこのガンポートは、兵員室後面のランプドアにも1基設けられている。 M113A2装甲兵員輸送車と同じく燃料タンクは車体後部に外装式として装着されており、地雷による被害の減少を図っている。 機関系はM113A1装甲兵員輸送車と同様で足周りなども変化は無いが、サスペンションはチューブに収めたトーションバーを採用しておりM113A1装甲兵員輸送車よりも不整地走行性能が向上している。 |
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<YPR765歩兵戦闘車> 全長: 5.258m 全幅: 2.819m 全高: 2.794m 全備重量: 13.687t 乗員: 3名 兵員: 7名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 61.15km/h(浮航 6.28km/h) 航続距離: 491km 武装: 80口径25mm機関砲KBA-B02×1 (324発) 7.62mm機関銃FN-MAG×1 (1,840発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2006年5月号 AIFV戦闘兵車 かくれたベストセラーICV」 真光寺清彦 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年12月号 M113装甲兵車とそのバリエーション」 井坂重蔵 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年5月号 防禦力強化が進む最近の戦闘兵車」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年8月号 MICVからブラッドレイへ 初期のアメリカ戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年6月号 ICV化されたAPC」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年11月号 戦闘兵車のベストセラー AIFV」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2004年1月号 歩兵戦闘車 AIFV」 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2004年2月号 YPR765 PRAT」 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |
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