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ADATS対空/対戦車ミサイル・システム





「ADATS」(Air-Defence Anti-Tank System:防空/対戦車システム)は、名前が示す通り対戦車能力も持った対空ミサイル・システムである。
本システムの開発は、1979年からスイスのエリコン・ビューレ社とアメリカのマーティン・マリエッタ社の手で始められた。

1981年には、アメリカ・ニューメキシコ州のホワイト・サンズ・ミサイル試験場でミサイルの最初の弾道飛行が行われ、1984年にはシステム全体の開発を完了している。
1986年にはカナダ陸軍が36両のADATSシステムの採用を決定し、生産を担当するエリコン・エアロスペース社がカナダ国内に設立され、1988年からシステムの引き渡しが開始されている。

ADATSは全周旋回が可能なターレットの両側に、4連装のミサイル発射機をそれぞれ1基ずつ計2基搭載している。
ミサイル発射機の俯仰角は−9〜+85度となっており、真上からの目標も迎撃可能となっている。
なお1発目のミサイル発射後、2発目のミサイル発射までに要する時間は2秒足らずである。
ターレットの後端部には、起倒式のパルス・ドップラー式全天候捜索レーダーが装備されている。

このレーダーは超低高度から高度7,000mまでの目標に対して25km以上の探知距離を持っており、走行中にも同時に20個までの目標に対する同時追跡能力と、その中から10個までの目標を選び出して攻撃の優先順位を決定する高度な能力を備えている。
レーダーの他にもターレット前面には電子・光学追跡装置、Nd-YAGレーザー測遠機、ミサイル誘導用炭酸ガス・レーザー等が装備されている。

電子・光学追跡装置はFLIR(Forward Looking Infrared:赤外線前方監視装置)、高解像度TVから構成され、捜索レーダーから引き渡された優先度の高い目標を追跡し、そのデータを発射されたミサイルにレーザー信号を通して伝送する。
ADATSのシステムは2名のオペレータによって運用されるが、その内の捜索レーダー・オペレータは車長の役割を持ち、電子・光学追跡オペレータが砲手の役割を兼ねて実際にミサイルを発射する。

システムは捜索レーダー・オペレータ用と電子・光学追跡オペレータ用の2つの操作コンソールを持ち、搭載車両の車体または固定式シェルター内に収容される。
カナダ陸軍の場合は、アメリカ製のM113装甲兵員輸送車の後部兵員室にADATSシステムを搭載した自走発射機を採用しており、「LLAD」(Low Level Air-Defence:低高度防空)システムと呼ばれている。

ADATS部隊(最大6両)の指揮車に指定された自走発射機では、車長が指揮官として部隊の動きを完全に把握することができ、車両間データ・リンクを通じて各自走発射機に行動上の指示を与え、目標の割り振りを行うことになる。
ADATSのミサイルは先の尖った全長2.05m、発射重量51.4kgの大型ミサイルで、誘導方式は炭酸ガス・レーザーによるビーム・ライディング方式である。

このため、通常のレーダー誘導のミサイルに比べると敵の妨害を受け難い。
信管は対航空機用のレーザー近接信管と対戦車用の触発型信管を持ち、弾頭も対航空機用の破片型と対戦車用の成形炸薬型(重量12.5kg)を内蔵している。
地上の装甲目標に対して使用された場合には、900mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能である。

発射されたミサイルは、燃焼時の白煙を抑えた固体ロケット・モーターによりマッハ3以上に加速され、60Gを超えるような高機動が可能である。
ブースターの燃焼時間は約3秒で、その後は慣性で飛行する。
高度7,000mまでの飛行目標に対する最大有効射程は10,000mで、最小有効射程は1,000mとなっている。
一方、地上目標に対する最大有効射程は8,000mで、最小有効射程は500mとなっている。

メーカーによれば1両のADATSの防空即応能力は、900km/hの速度で飛行する敵戦闘機編隊(8機)を70秒間で全滅可能なレベルだという。
カナダ陸軍はM113装甲兵員輸送車の車体にADATSを搭載しているが、この他にもアメリカのM2ブラッドリー歩兵戦闘車やスイスのシャーク装輪式装甲車、イギリスのウォーリア歩兵戦闘車、イタリアのチェンタウロ戦闘偵察車等にも搭載することができる。

もちろん地上設置の固定式シェルターに搭載し、拠点防空用として運用することもできる。
なお、アメリカ陸軍も「FAADS」(Forward Area Air-Defense System:前線防空システム)計画に際して、「LOS-F-H」(Line-of-Sight Forward-Heavy)要素として、M2歩兵戦闘車ベースのADATSシステムを1987年に一旦採用したものの、結局量産には移されずに終わっている。


<ブラッドリーADATS自走発射機>

全長:    6.55m
全幅:    3.61m
全高:    2.97m
全備重量: 22.94t
乗員:    3名
エンジン:  カミンズVTA903-T500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 500hp/2,600rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 483km
武装:    ADATS対空/対戦車ミサイル4連装発射機×2 (8発)
装甲厚:


<ADATS対空/対戦車ミサイル>

全長:       2.05m
直径:       0.152m
翼幅:
発射重量:    51.4kg
弾頭重量:    12.5kg
最大飛翔速度: マッハ3.0
誘導方式:    セミアクティブ・レーザー
最大有効射程: 10,000m
最大有効射高: 7,000m


<参考文献>

・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「パンツァー2001年11月号 野戦防空システム ADATS」  アルゴノート社
・「パンツァー2015年11月号 姿を消した対空車輌たち」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2018〜2019」  アルゴノート社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「新版 ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー

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