AB40/AB41装甲車
|
|
+概要
イタリア陸軍では1930年代に入っても、第1次世界大戦中の1915年に制式化されたトリノのランチア社製の、ランチアIZ装甲車が標準的な装輪式装甲車として使われていたが、第2次世界大戦直前の1938年8月になって新型装輪式装甲車の開発が計画された。
この新型装甲車の開発はトリノのフィアット社とジェノヴァのアンサルド社が担当し、ランチアIZ装甲車を1936年7月に勃発したスペイン内戦に投入して得られた戦訓をフィードバックして開発が進められ、1939年半ばに「Abm1」と呼ばれる試作車が完成した。
この車両は非常にユニークな操向およびサスペンション機構を持っており、4輪独立懸架並びに4輪ステアリングが可能である他、操縦装置が前後に用意されていたためバックでも全速で走行することが可能で、ランチアIZよりもはるかに近代的な装甲車であった。
車体左右側面の中央部には予備タイヤが装着されていたがこれは回転可能で、障害物を乗り越える際の補助輪の役目を兼ねていた。
武装は、砲塔防盾にミラノのブレーダ社製の8mmブレーダM38機関銃を連装で装備していた他、戦闘室の後部右側にも8mmブレーダM38機関銃をボールマウント式に1挺装備していた。
8mmブレーダM38機関銃は榴弾および徹甲弾の使用が可能で、有効射程500m、発射速度350発/分となっていた。
8mm機関銃弾は、4,080発が車内に携行された。
乗員は4名で戦闘室内の前部に操縦手、後部左側に副操縦手、後部右側に銃手が位置し、戦闘室上部に搭載された全周旋回式銃塔に車長兼銃手が位置した。
イタリア陸軍による試験の結果、本車は「AB39」(”AB”はAutoblinda:装甲車の略語)として制式化された。
その後AB39装甲車は若干の改良が加えられ、1940年の初めには呼称が「AB39/40」に変更された。
AB39/40装甲車の量産は1940年の中頃から開始されたが、生産型は単に「AB40」と呼ばれ、主として騎兵部隊や偵察部隊に配備された。
続いて1941年には、AB40装甲車の改良型であるAB41装甲車が登場した。
AB40装甲車からの最も大きな変更点は武装の強化で、従来の銃塔に替えて、20mmブレーダM35機関砲と8mmブレーダM38機関銃を防盾に同軸装備する、L6/40軽戦車と共通の砲塔が新たに搭載された。
20mmブレーダM35機関砲は対空機関砲を車載用に改造したもので、榴弾および徹甲弾の使用が可能で砲口初速850m/秒、有効射程2,500m、最大射程5,500m、発射速度60発/分と当時の水準を越える性能であった。
20mm機関砲弾は8発ごとのクリップで装填されるようになっており、携行弾数は456発であった。
AB41装甲車は、その他にも前照灯がリトラクタブル型式になるなど車体各部がリファインされており、AB40装甲車よりも近代的な外見となった。
またAB40装甲車では無線機は装備されていなかったが、AB41装甲車ではRF3M無線機が装備されるようになった。
AB40/AB41装甲車の総生産数は約550両で、1943年9月にイタリアが連合軍に降伏した後も、AB41装甲車はドイツ軍の管理下で生産が続けられた。
またイタリア降伏直前の1943年には、AB40/AB41装甲車の発展型であるAB43装甲車が開発されていたが、同年9月のイタリア降伏までに完成したのは極少数であった。
AB43装甲車は、シャシーはAB40/AB41装甲車と共通であったが、砲塔と車体が再設計されてかなり全高が低く抑えられていた。
新設計の砲塔にはM15/42中戦車と同じく、40口径47mm戦車砲と8mmブレーダM38機関銃を防盾に同軸装備していた。
また、AB40/AB41装甲車では戦闘室後部右側に8mmブレーダM38機関銃をボールマウント式に装備していたが、AB43装甲車では廃止されている。
主砲の40口径47mm戦車砲は、オーストリアのベーラー社が設計した47mm歩兵砲をアンサルド社でライセンス生産した32口径47mm戦車砲M35をベースに、対装甲威力を強化するため長砲身化を図ったものである。
50mmクラスの戦車砲としては長砲身高初速の優秀な砲であり、徹甲弾を用いた場合射距離1,000mで、垂直に立った46mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹する能力があった。
AB43装甲車ではエンジンも出力100hpの新型に換装されており、路上最大速度81.2km/h、路上航続距離460kmと機動性能が大幅に向上した。
AB40/AB41装甲車は北アフリカ、東部戦線を始めほぼ全戦線に投入され、第2次世界大戦末期まで使用が続けられた。
さらに大戦終了後も、イタリア警察で使用されたという。
|
<AB40装甲車>
全長: 5.20m
全幅: 1.92m
全高: 2.44m
全備重量: 6.85t
乗員: 4名
エンジン: フィアットSPA Abm1 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 80hp/2,700rpm
最大速度: 76km/h
航続距離: 400km
武装: 8mmブレーダM38機関銃×3 (4,080発)
装甲厚: 6〜18mm
|
<AB41装甲車>
全長: 5.20m
全幅: 1.92m
全高: 2.484m
全備重量: 7.4t
乗員: 4名
エンジン: フィアットSPA Abm1 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 88hp/3,000rpm
最大速度: 78km/h
航続距離: 400km
武装: 65口径20mmブレーダM35機関砲×1 (456発)
8mmブレーダM38機関銃×3 (1,992発)
装甲厚: 6〜18mm
|
<AB43装甲車 20mm機関砲装備型>
全長: 5.41m
全幅: 1.92m
全高: 2.48m
全備重量: 6.6t
乗員: 4名
エンジン: フィアットSPA Abm3 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 100hp
最大速度: 81.2km/h
航続距離: 460km
武装: 65口径20mmブレーダM35機関砲×1 (408発)
8mmブレーダM38機関銃×2 (1,704発)
装甲厚: 6〜22mm
|
<AB43装甲車 47mm戦車砲装備型>
全長: 5.41m
全幅: 1.92m
全高: 2.48m
全備重量: 7.97t
乗員: 4名
エンジン: フィアットSPA Abm3 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 100hp
最大速度: 81.2km/h
航続距離: 460km
武装: 40口径47mm戦車砲×1 (63発)
8mmブレーダM38機関銃×1 (648発)
装甲厚: 6〜22mm
|
兵器諸元(AB41装甲車)
|
<参考文献>
・「パンツァー2007年1月号 第二次大戦のイタリアの装甲車 フィアット・アンサルドABシリーズ」 深川孝之 著
アルゴノート社
・「パンツァー2002年12月号 AFV比較論 Sdkfz.222 & AB41装甲偵察車」 齋木伸生 著 アルゴノート社
・「パンツァー2024年5月号 イタリア軍写真集(26) 装輪装甲車(1)」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2000年4月号 イタリア陸軍(1) イタリア軍の軍用車輌」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「グランドパワー2000年6月号 イタリア陸軍(3)
イタリア軍の火砲」 稲田美秋 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版
・「グランドパワー2006年12月号 第2次大戦
イタリア軍装甲車」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イタリア軍用車輌」 嶋田魁 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
・「戦車名鑑
1939〜45」 コーエー
|
関連商品 |