LVTP7/AAV7水陸両用兵員輸送車
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LVTPX12水陸両用兵員輸送車
LVTP7水陸両用兵員輸送車
AAVP7A1水陸両用兵員輸送車
LVTC7水陸両用指揮車
LVTR7水陸両用回収車
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+LVTP7水陸両用兵員輸送車の開発
戦後初の制式LVTであるLVTP5ファミリーの実用化と調達を果たしたアメリカ海兵隊は、ヴェトナム戦争勃発直前の1964年3月になって、その後継となる新型LVTの要求仕様書を示し、その開発がペンシルヴェニア州フィラデルフィアのFMC社(以前はFood
Machinery and Chemical:食品・機械・化学企業が正式な社名でFMCはその略称だったが、1961年にFMCを正式社名に採用)に単独発注された。
これまでアメリカ海兵隊のLVTは競争発注されることが多かったが、今回FMC社の単独発注となった理由は、同社がLVTP5に対抗してLVTP6を開発し、制式採用を勝ち取りながら量産を中止されるという憂き目を見たことに対し、その穴埋め的な意味合いが含まれていたのではないかと推測されている。
また、FMC社の第2次世界大戦以来のLVT開発と量産の実績から見て、充分にノウハウを蓄積し他社に代え難い開発力を持つと評価された点も、事実上の随意契約を可能にした背景となったと思われる。
そうでなければ、厳しさで定評のあるアメリカ会計検査院の決算審査に通らなかったであろう。
この種の車両の運用寿命が平均10年間と見なされたことから、後継車両の開発着手はLVTP5ファミリーの運用寿命切れに合わせた、順当なタイミングといえた。
戦後、アメリカ軍の各種AFVの開発および量産化までの期間は6〜10年であり、このペースから見れば、1970年代前半期までに新型LVTの部隊引き渡しが可能になる見通しとなる。
併せて、かつての宗主国フランスの失地回復を目指した軍事介入が敗退し、かえってホー・チ・ミン率いる解放勢力により全土共産化の危険が生じたヴェトナム情勢が追い風となり(アメリカの軍事介入が必至と見られた)、海兵隊としても緊急投入戦力としての装備充実を図る好機が到来しているともいえた。
この度の新型LVT発注は従来のように海軍艦艇局を通すものでなく、海兵隊が主体となって直接なされている点に、彼らに対する期待度の高まりを背景とした発言権の増大が見て取れる。
新型LVTの要求仕様の特徴は、
(1)搭載人員・貨物量を減らしてでも全体形を小型化
(2)装甲防御力と搭乗兵員の生残性を現用APC(装甲兵員輸送車)並みとする
(3)固有の火力を強化する
(4)地上・水上での機動性能を大幅に向上させる
等の点にあった。
FMC社はこの要求仕様に基づき、1966年2月から「LVTPX12」の呼称で最初の試作車15両の製作を開始した。
LVTPX12は1969年9月までにメリーランド州のアバディーン試験場、アリゾナ州のユマ試験場、パナマ、さらにはカリフォルニア州のキャンプ・ペンドルトン等、様々な地形・気象条件下や海上での運用試験を受けた。
それらの試験でLVTPX12は基本的に高い完成度を示したため、1970年6月に「LVTP7」(Landing Vehicle, Tracked,
Personnel 7:装軌式兵員上陸用車両7号)として制式採用が決定され、FMC社に対して942両の生産が発注された。
そして1971年秋には、LVTP7の第1生産ロットがアメリカ海兵隊に引き渡された。
LVTP7の試作車と生産型の大きな変更点は固有武装で、試作車では、フランスのイスパノ・スイザ社製の100口径20mm機関砲M139と、イリノイ州のロックアイランド工廠製の7.62mm機関銃M73E1を上下に同軸装備する砲塔を搭載していたが、20mm機関砲は不具合があったため生産型では代わりに、M48戦車やM60戦車の銃塔型車長用キューポラの武装に採用されていた、メリーランド州ハントバレーのAAI社製の12.7mm重機関銃M85を装備する銃塔型キューポラに変更された。
それ以外は、細部を除いてLVTPX12の構造やデザインをそのまま引き継いでいた。
1972年には、LVTP7を装備する最初の水陸両用トラクター(アムトラック)大隊が編制されたが、すでにアメリカ軍はヴェトナムから本格的な撤兵を始めた時期で、LVTP5A1に代わってすぐに戦場に投入するには登場時期が遅過ぎた。
しかし、LVTP7とそのファミリー車両によるLVTP5ファミリーの置き換えは着実に進み、併せて、アメリカの同盟国・友好国に対する兵器供与スキーム「FMS」(Foreign
Military Sales:海外との軍事取引に関するアメリカ政府の取り決めを指す)に基づいて、LVTP7ファミリーの有償供与が始まった。
LVTP7ファミリーを導入したのはイタリア、スペイン、韓国、タイ等の同盟国の他、ブラジル、アルゼンチン、ヴェネズエラのような中南米諸国にまで渡った。
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+ファミリー車両の開発
前作のLVTP5と同様に、LVTP7も基本となる兵員・貨物輸送型と並行して各種の特殊用途型が開発され、ファミリーを構成している。
またヴェトナム戦争に投入されたLVTP5と異なり、戦場投入がされなかったために予想外に運用期間が長くなったLVTP7は、運用性能や防御力向上のための大幅改修が実施されると共に、アメリカの同盟諸国からの発注もあって、改修型の新規生産も1990年代まで継続されるに至った。
1966年からLVTPX12をベースとする指揮・通信型(LVTCX2)、回収型(LVTRX2)、戦闘工兵型(LVTEX3)、火力支援型(LVTHX5)の4タイプのファミリー車両の開発が企図されたが、この内、105mm榴弾砲を装備する全周旋回式砲塔を搭載することになっていたLVTHX5のみが設計段階で開発を中止され、試作車が製作されずに終わった。
これは、アメリカ海兵隊が上陸作戦における直接支援に戦車を迅速に上陸させることや、軽量型野砲を装備してこれらを充てさせることにしたこと、またAH-1Jシーコブラ地上攻撃ヘリコプターの採用もあって、第2次世界大戦以来のアムタンク(武装型LVT)型火力支援車両に決別したということである。
一方、指揮・通信型のLVTCX2の試作車は1969年に完成した。
この車両は兵員・貨物輸送型のLVTPX12に無線装備を増設したもので、外見上の違いは合計5本のアンテナが増えていることである。
兵員室内部には5つの無線手席が設置され、その他にスタッフ用の机と折り畳み椅子が備えられている。
無線機は兵員室内の左側に無線手席と共に設置されているが、これらは必要な場合全て撤去して、通常の兵員・貨物輸送にも用いることができるようになっている。
LVTCX2はLVTP7の制式採用と同時に、「LVTC7」(Landing Vehicle, Tracked, Command 7:装軌式上陸用指揮車両7号)として採用されたが、試作車では20mm機関砲M139と7.62mm機関銃M73E1を上下に同軸装備する砲塔を搭載していたのが、生産型では視察ブロック付きの車長用キューポラに換装される等、LVTP7と同様の変更が行われている。
FMC社は1972年に、85両のLVTC7の生産発注を受けた。
回収型のLVTRX2は、基本型LVTPX12に牽引用ウィンチおよびクレーンを追加したもので、兵員室内にはこれらの動力システムが内蔵されている。
また、基本型で車体前部右側に配置されていた銃塔型キューポラは、クレーン等の操作障害とならぬように撤去され、代わりに、操縦手席や部隊指揮官席のものと同様の視察用キューポラが取り付けられている。
ウィンチを使用しての牽引能力は13.6t、動力クレーンの吊り上げ能力は2.7tである。
その他に野戦修理での運用を考え、電気溶接セット(発電機を含む)が搭載されている。
LVTRX2は「LVTR7」(Landing Vehicle, Tracked, Recovery 7:装軌式上陸用回収車両7号)として制式採用後、58両の生産がFMC社に発注された。
一方、戦闘工兵型の試作車LVTEX3は、1970年になって2両が製作された。
LVTEX3は、基本型LVTPX12の車体前面に油圧操作式のドーザーを配置し、兵員室内に上面部から発射するロケット式の地雷原啓開システムを搭載した。
LVTEX3は、「LVTE7」(Landing Vehicle, Tracked, Engineering 7:装軌式上陸用工兵車両7号)の呼称で制式採用されるはずだったが、結局生産には入らなかった。
最前線でドーザーを使用する場合は、もっと重装甲の主力戦車を用いるべきことが明らかになっていたし、地雷処理システムは、着脱式のロケット弾発射機内蔵地雷原啓開装置「MICLIC」(Mine Cleaning Line Charge)が開発され、必要に応じて通常型のLVTP7に搭載するものとされたからである。
このMICLICシステムは、同時に3発のロケットで引き出される3組の連結爆薬を用いて幅20m、長さ300mに渡る啓開路を地雷原に90秒以内で作り出すことができる。
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+LVTP7水陸両用兵員輸送車の構造
LVTP7の車体は、FMC社がアメリカ陸軍向けに開発したM113 APCと同様に、5083防弾アルミ板の全溶接構造となっている。
その装甲厚は車体前/側面が31〜45mm、上/下面が30mm、後面が35mmで、車体後面に設けられたランプドアが外部25.4mm、内部12.7mmの二重装甲とされている。 なおLVTP7はファミリー車両や後の改修型を含め、NBC防護システムは備えていない。
ただし寒冷地用キットを装着することにより、外気温−54℃でも行動可能である。
またLVTP5がリア・エンジンだったのを改めて、フロント・エンジン構成にしたのもLVTP7の特徴で、パワープラントそのものが、後方に位置する乗員の生残性を高めるための防御力の一部となるように考慮されている。
機関室の左後方には操縦手席と搭乗部隊指揮官席が配置され、どちらも視察ブロック付きのキューポラで外部視察を行えるようになっている。
操縦手席の直後に位置する部隊指揮官席は、前方視界を背の高いM17Cペリスコープで得るよう配慮されており、また操縦手席の前方には、夜間用のM24赤外線暗視ペリスコープを取り付けることができる。
これらの座席の後方に副操縦手席が配置されるが、副操縦手は普段は無線機の操作を担当し、正操縦手が負傷して操縦ができなくなった場合などに、代わって操縦を行うようになっている。
機関室の右後方には車長席が配置され、併せて12.7mm重機関銃M85を1挺装備する、電動・油圧操作式の全周旋回式銃塔型キューポラが装備されている。
武装および銃塔の操作は、M47パットン戦車以降に用いられたものと同じようなグリップを用いるようになっており、銃塔には照準用を兼ねた前方視察用ペリスコープと、周囲に視察ブロックが6個取り付けられている。
LVTP7のパワープラントは、従来のLVTに用いられてきたガソリン・エンジンの採用を止め、被弾時に爆発的な火災を起こし難いディーゼル・エンジン(ミシガン州のジェネラル・モーターズ社デトロイト・エンジン部門製の8V-53T
2ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル、出力400hp/2,800rpm)と、FMC社製のHS-400-3自動変速・操向機(前進4段/後進2段)から成っている。
ディーゼル燃料タンクは兵員室部分の車体側面部に配置され、搭乗兵員を護る防御力の一端を担っている。
兵員室内には折り畳み式の8名掛けシートが3つ配置され、24名の完全武装兵員を搭乗させることができる(搭乗人員は固有の乗員3名と、部隊指揮官を含む搭乗歩兵25名の合計28名となる)。
また、兵員室の上面部に観音開き式の大型ハッチが配置されているのは、従来のLVTと同様である。
前述のように機関室を前方配置にしたのに伴い、LVTP5では車体前部に配置されていた乗降用ランプドアは車体後部に移され、そのおかげで車体前部を水上航行時の抵抗が少ない舟形形状にすることができた。
また足周り部側面の前半部分も、水上での抵抗を減らすことを企図してサイドスカートが取り付けられている。
履帯は幅525mmのシングルピン連結高マンガン鋳鋼製で、前方の起動輪と片側6個のアルミ製複列式転輪(トーションバー式サスペンション懸架)、後方の誘導輪から成る足周りを構成している。
本車は、LVT2以来の実用型LVTに特有だったトーシラスティック式サスペンション懸架の足周りを止め、地上用の装軌式車両と同様のサスペンション方式を採用することに踏み切ったのである。
ただし、水上航行時の抵抗を少しでも低減するため、上部支持輪を廃止して全体を小振りにまとめている。
なお水上航行時の推進力は基本的に、方向を指向させるディフレクターを付属させた、車体後部両側の履帯上部に配置されたウォーター・ジェットで得るようになっている。
これらが故障した場合でも、履帯駆動による推進力のみで水上を航行することも可能である。
LVTP7の自重は約22t、平坦な地面での最大速度は40マイル(64.37km)/h、航続距離は300マイル(483km)、水上航行時の最大速度はウォーター・ジェット使用時で8.4マイル(13.52km)/h、履帯駆動時で4.5マイル(7.24km)/h、航行時間は7時間となっている。
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+近代化改修と戦歴
LVTP7ファミリー(兵員・貨物輸送型LVTP7、指揮・通信型LVTC7、回収型LVTR7の3種)は1972年に就役以降、従来のLVTと同様に概ね運用期間10年で後継車両と交代することが見込まれていた。
しかしアメリカ軍はヴェトナム戦争での敗退の後、失われつつあった東側に対する軍事面での優位を取り返すために、主力戦車等の槍の切っ先にあたる正面装備の開発に重点を置くようになり、LVTP7ファミリーは引き続き運用寿命を延伸しながら使用が継続されることとなった。
LVTP7ファミリーの基本構造は、アメリカ海兵隊が運用してきた歴代のLVTに比べて大変に耐久性が向上しており、こうした寿命延ばしの措置で相当長期に渡る使用が可能と見られたのである。
またこれを機会に、海兵隊はスイスのモヴァーク社製の装輪式APCを導入することを決定し、これを「LAV」(Light Armored Vehicle)と名付けてLVTと混合装備させることに踏み切った。
いわば、整備・維持に手の掛かる装軌式車両と、お手軽な装輪式車両によるハイ・ロー・ミックス装備というわけである。
この基本方針に基づいて1980年代に入り、「SLEP」(Service Life Extension Program:運用寿命延伸計画)が実施されることとなり、LVTP7ファミリーの運用の中で発見された欠点の改善や、信頼性および安全性の向上のために最小限の改修が行われた。
まずエンジンが、インディアナ州コロンバスのカミンズ発動機製のVT400 4ストロークV型8気筒多燃料液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力400hp/2,800rpm)に換装された他、変速・操向機もFMC社製のHS-400-3A1自動変速・操向機に変更された。
また車体前部右側の銃塔型キューポラは、旋回作動のための油圧システムが火災の危険を孕むことを指摘されたため、完全電動式に改められている。
SLEPに基づく改修を受けたLVTP7ファミリーはそれぞれ、兵員・貨物輸送型がLVTP7A1、指揮・通信型がLVTC7A1、回収型がLVTR7A1と呼称された。
さらに、SLEP改修仕様のLVTP7A1が1983年より追加生産されることとなり、333両がFMC社で製作された。
既存車両では853両のLVTP7がLVTP7A1に、77両のLVTC7がLVTC7A1に、54両のLVTR7がLVTR7A1に改修された。
これら改修型は1984年に入って、一括して「AAV7」(Assault Amphibian Vehicle 7:水陸両用強襲車両7号)と改称されるに至り、兵員・貨物輸送型のLVTP7A1は、「AAVP7A1」(Assault
Amphibian Vehicle, Personnel 7A1:水陸両用強襲兵員車両7A1号)と呼ばれるようになった。
他の2車種についても指揮・通信型のLVTC7A1がAAVC7A1、回収型のLVTR7A1がAAVR7A1となった。
ファミリー全体については、AAV7A1または単にAAV7と一括呼称している。
なおLVTP7ファミリーを導入した一部の国では、SLEP仕様の改修を受けないまま運用を継続しているところもあり、それらとAAV7ファミリーを運用中の国とその実数は下表の通りである(2023年時点)。
LVTP7/AAV7ファミリーの採用国 |
国 名 |
台 数 |
アメリカ |
約1,300 |
イタリア |
25 |
スペイン |
19 |
日本 |
58 |
韓国 |
160 |
台湾 |
90 |
インドネシア |
10 |
フィリピン |
8 |
タイ |
33 |
ヴェネズエラ |
11 |
ブラジル |
52 |
アルゼンチン |
20 |
チリ |
12 |
これらのうち韓国軍のAAV7ファミリーは、1999年に韓国のサムスン航空産業と、ヴァージニア州アーリントンのUDI社(United Defense
Industries:合衆国防衛産業、1994年にFMC社の軍用車両部門が分離・独立してできた企業)との間で締結された共同生産契約に基づき、韓国国内でノックダウン生産された「KAAV7A1」(Korean
Assault Amphibian Vehicle 7A1:韓国の水陸両用強襲車両7A1号)と呼ばれるタイプであり、内部電装や細部のパーツは韓国製のものを使用している。
1980年代半ば以降、最前線に投入される歩兵用の装甲車両がAPCからIFV(歩兵戦闘車)に取って代わられていく趨勢がはっきりした上、既存APCも歩兵を火力支援するために武装を強化する傾向が強まったため、AAVP7A1についても12.7mm重機関銃M85を備える銃塔型キューポラに代えて、より強力な武装システムを導入して火力を強化することとなった。
新規の武装システム開発はルイジアナ州スライデルのキャディラック・ゲージ社が担当し、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2と、サコー防衛産業製の40mm自動擲弾発射機Mk.19を同軸装備する、「UGWS」(Up-Gunned
Weapon Station)と呼ばれる新型砲塔を完成させた。
このUGWS砲塔を搭載したタイプのAAVP7A1は、1987年度予算で100両のみ既存の車両から改修することが認められ、以後、長らく追加の改修は行われなかった。
軍備増強に積極的だったレーガン政権の後を継いだ歴代のアメリカ政権では、軍事予算が相当にシビアになってきたことが反映されているが、現在は全てのAAVP7A1がUGWS砲塔に換装されている模様である。
UGWS砲塔は後部に張り出しのある角張ったタイプで、防御力強化のために側面部に視察ブロックを配置するやり方を改め、周囲の視界は砲塔上に設置されたキューポラ・ハッチの視察ブロックから得るようにされた。
砲塔前面の防盾には右側に12.7mm重機関銃、左側に40mm自動擲弾発射機を備えている。
その後AAV7ファミリーは、イスラエルのラファエル社が開発した「EAAK」(Enhanced Applique Armour Kit:強化型増加装甲キット)や、P900メッシュ式増加装甲を取り付け、装甲防御力の強化を図ってきた。
EAAKは1991年から導入されたもので、波型に成形された増加装甲を車体周囲、後部の乗降用ランプドア等に追加するものである。
いわゆる空間装甲の一種で、HEAT(対戦車榴弾)や携帯式対戦車兵器の成形炸薬弾頭の斜射に効果を期待できる他、東側諸国で広く普及している14.5mm重機関銃KPVの射距離300mでの直射に対して、また15mの至近距離で炸裂した155mm榴弾の破片に対して、いずれの場合も95%の確率で貫徹を防げるものとされている。
P900は、1986年にM113 APCと共にAAVP7A1への導入が図られたもので、189セットが取り付けられた。
ちなみにEAAKは、P900を取り付けた以外のAAVP7A1に導入するものとされ、月80セットのペースで導入が続き、1993年までに1,137両分で調達が終了している。
さらに1997年からは、A1化改修に伴う重量増加で低下したAAV7ファミリーの運用性能を、改修前と同等に戻すことを目的とした「AAV RAM/RS(Reliability,
Availability, Maintainability/Rebuild to Standard:信頼性、有効性、整備性、標準復帰)計画」と呼ばれる2次改修が開始された。
RAM/RS改修の目玉は、M2ブラッドリーIFVで使用実績のあったカミンズ社製のVTA903-T525 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力525hp/2,600rpm)への換装で、これによりAAV7ファミリーは出力/重量比が大幅に改善され、路上最大速度が45マイル(72.42km)/hに向上した。
また転輪とサスペンションもM2 IFVと共通のものに換装され、上部支持輪も追加されている。
一方、水上航行能力の向上のため、車体前面には折り畳み式の波切り板が追加された。
なお、AAV7ファミリーの生産とアフターサービスを行っていたUDI社は、2005年にイギリスのBAEシステムズ社に吸収合併され、現在は同社がそれらの業務を引き継いでいるが、すでにAAV7ファミリーの生産ラインは閉鎖されているため、BAE社は本車の新規生産を行えない状態になっている。
このため新たにAAV7ファミリーの発注を受けた際には、アメリカ海兵隊が予備装備として保管している車両を新品同様にオーバーホールし、EAAKやUGWS砲塔を装備するRAM/RS仕様に改めた再生品を販売している。
UGWS砲塔装備タイプを含むアメリカ軍のAAVP7A1は、1991年の湾岸戦争地上戦、そして2003年のイラク戦争に投入されて実戦を経験した。
装甲防御力と火力の面ではM2ブラッドリーのようなIFVには及ばないものの、陸軍が使用する改修型APCと遜色の無い装備(図体はこれより大きく目標になり易いきらいはあるものの、搭載力はAPCより格段に優れていた)として海兵隊によって運用され、バグダッド侵攻時にも姿が見られた。
かつて、第2次世界大戦に登場した初期のLVTが原則として敵前上陸作戦支援時に、海岸線から約100mまでの範囲で戦闘行動するように運用が制約されていたのと比較すると、隔世の感がある。
アメリカ軍以外では、アルゼンチン軍が1982年のフォークランド紛争において、イギリス軍との戦いにLVTP7を投入し、少なくとも1両を戦闘で失った。
またイタリア海軍のサンマルコ海兵大隊が、1983年のイスラエル軍のレバノン侵攻(ガリラヤの平和作戦)の際、3両のLVTP7と共に派遣されている。
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+日本のAAV7ファミリー
日本政府は尖閣諸島を始め、南西諸島方面への野心を隠さない中国軍の脅威に対応すべく、2013年に策定した防衛大綱(25大綱)において水陸機動団の新編を明示した。
その手始めとして水陸両用準備隊が編制され、水陸両用車を始めとする各種検証を通じて戦力化に必要な技術の取得にあたり、早期戦力化を推進することとなった。
そして、2014年度予算でアメリカから参考品として6両のAAV7ファミリーを調達し、試験を行った結果が満足すべきものであったため、26中期防でさらに52両を追加調達する運びとなった。
中期防で定められた調達計画に沿って2015年度に30両、2016年度に11両、2017年度にも11両のAAV7ファミリーが調達されており、陸上自衛隊の装備するAAV7ファミリーの総数は58両となった。
その内訳は兵員・貨物輸送型のAAVP7A1が46両、指揮・通信型のAAVC7A1が6両、回収型のAAVR7A1が6両となっており、現在は、茨城県稲敷郡阿見町の陸上自衛隊武器学校で整備教育用に置かれている車両を除いて、全て長崎県佐世保市に本部を置く水陸機動団に配備されている。
水陸機動団の主任務は、南西諸島の日本の島々に上陸した敵性武装組織に対して同島に逆上陸を敢行し、これを武力で奪回するというものである。
なお、陸上自衛隊が装備するAAV7ファミリーは、前述のようにアメリカ海兵隊が保有していた中古品をBAE社の手でオーバーホールし、EAAKやUGWS砲塔を装備する最新のRAM/RS仕様に改めた再生品である。
しかし、最新型といっても開発から50年以上経っている旧型車両であり、水陸機動団の任務に使用するには性能的に不充分であるのは明白である。
そこで防衛装備庁は、AAV7に代わる次世代型水陸両用車の研究を続けており、その一環として三菱重工業の手で2015年から、「MAV」(Mitsubishi
Amphibious Vehicle:三菱の水陸両用車)と呼ばれる装軌式の水陸両用装甲車の開発が行われている。
このMAVはあくまで技術検証と蓄積を目的とした車両なので、この車両がそのまま陸上自衛隊に採用されるわけでは無いが、次世代型水陸両用車の開発ベースとなる可能性は高いと思われる。
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<LVTP7水陸両用兵員輸送車>
全長: 7.944m
全幅: 3.269m
全高: 3.264m
全備重量: 22.839t
乗員: 3名
兵員: 25名
エンジン: デトロイト・ディーゼル8V-53T 2ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 400hp/2,800rpm
最大速度: 64.37km/h(浮航 13.52km/h)
航続距離: 483km(浮航 90km)
武装: 12.7mm重機関銃M85×1 (400発)
装甲厚: 25.4〜44.45mm
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<LVTP7A1水陸両用兵員輸送車>
全長: 8.161m
全幅: 3.269m
全高: 3.315m
全備重量: 25.652t
乗員: 3名
兵員: 25名
エンジン: カミンズVT400 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 400hp/2,800rpm
最大速度: 72.42km/h(浮航 13.2km/h)
航続距離: 483km(浮航 90km)
武装: 40mm自動擲弾発射機Mk.19×1 (100発)
12.7mm重機関銃M2×1 (200発)
装甲厚: 25.4〜44.45mm
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<参考文献>
・「世界の戦車イラストレイテッド15 アムトラック 米軍水陸両用強襲車両」 スティーヴン・ザロガ 著 大日本絵
画
・「世界の戦車メカニカル大図鑑」 上田信 著 大日本絵画
・「グランドパワー2004年3月号 アメリカ軍の装軌式上陸車輌-LVTシリーズ(5)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2015年4月号 陸自のAAV-7水陸両用車」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版
・「パンツァー2009年3月号 アメリカ海兵隊の主力車輌 AAVP-7両用兵車」 島田夫美男 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 アメリカ海兵隊のLVT 上陸作戦と水陸両用車(終)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年10月号 AAV-7両用兵車は日本に必要か?」 竹内修/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年9月号 特集 水陸両用戦闘車輌」 宮永忠将 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年7月号 アメリカ海兵隊のAAV-7両用兵車」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
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